PCゲーミングデバイスレビュー

チェリー製MXスイッチ青軸+マクロ機能
シンプルかつ機能充実のゲーミングキーボード

「Razer Blackwidow」

  • ジャンル:ゲーミングキーボード
  • 発売元:MSY
  • 開発元:Razer
  • 価格:8,480円
  • プラットフォーム:Windows XP/Vista/7
  • 発売日:11月26日


 ゲーミングマウスと並んでPCゲーマーのプレイ内容を左右するゲーミングキーボード。一頃のゲーミングキーボードといえば、BYOC(PC持ち込みによるPCゲームイベント)を意識した華美な装飾や扱いきれないほどの多機能といった印象が強いが、近年のトレンドはむしろシンプルで質実剛健さを打ちだした製品だ。

 今回、11月26日にMSYが国内発売を果たしたRazerの新型ゲーミングキーボード「Blackwidow」は、その流れに合致した、ある意味でとてもマジメなキーボードだ。チェリー製“MXスイッチ青軸”を採用したメカニカルキーボードである本製品は、ゲーム用途に特化した機能も備えつつあくまでシンプルなデザインだ。見た目の派手さよりも中身が重要というわけで、さっそくご紹介していこう。



■ これが必要十分というもの。洗練された機能性をもつゲーミングキーボード

オーソドックスな英語フルキーボードに、5つのマクロキーを付加したシンプルなレイアウト
左端には5つのマクロ専用キーを装備。キータッチは他のキーと同様だ
「Fn」キーとALT/マクロ記録キー。各キーに機能が多重化されている
現在の動作モードは右上のLEDで確認できる

 本製品、実はRazer初のメカニカルキーボードである。メンブレンスイッチの薄型キーボードのみをラインナップしてきたRazerにとっては新たなプロダクトラインのデビューということで、キースイッチの選定には相当神経を使ったようだ。そして本製品で採用されているキースイッチは、一般キーボードファンにも定評のあるチェリー製“MXスイッチ青軸”というもの。キーストロークは4mm、荷重は50gに統一されており、文字通り「カチッ」という、非常にクリアなクリック感が特徴だ。

 

 キーレイアウトはオーソドックスなフルピッチの英語配列をベースに、マクロ専用のスイッチを5個装備。サイズは475×171×30mm(幅×奥行き×高さ)と、一般的なフルピッチのキーボードとほぼかわりない。堅牢なチェリーMX青軸を採用していることと、本体重量が1.5kgもあることで、ハードなタイピングに向いたシリアスなキーボードという雰囲気だ。

 このように見た目、手触りとしては普通の高級キーボードそのもの。とはいえ、もちろんゲーミングキーボードとしてRazerらしい工夫が凝らされている。ノートパソコン等の省スペースキーボードでよく使われる「Fn」キーを右ALTキーの隣に装備し、ゲーミングキーボードとして便利な様々な機能を封じ込めることに成功しているのだ。

 「Fn」キーと他のキーとの同時押しで実現する機能は、大別して次の4種類となる。まず、右ALT兼用の「マクロキー」を同時押しすることで発動するオン・ザ・フライ・マクロ記録機能。F11キーを同時押しすることで発動する、Windowsキーを無効化する「ゲーミングモード」、数字キーを同時押しすることで発動する10種の「プロファイル切り替え」、そしてメディアキー機能および各種制御機能だ。

 特に使いでがあるのがオン・ザ・フライのマクロ記録機能だ。ドライバー等の設定なしに、ゲームの途中でも任意のマクロを記録・再生することができる。この機能があって、キーボード左側に装備された5つのマクロ専用キーのありがたみが増している。このあたりの使い勝手については次章で詳しく説明したい。

 PC接続のインターフェイスはUSBで、Razerの高速ポーリング技術である1,000Hz Ultrapollingももちろん採用している。USBを採用した仕様上、同時押し可能なキー数は6キー程度が上限となっているが、ゲームで同時に押すことの多いWSAD回り、SHIFT、CTRLあたりのキーでは、異なる組み合わせで同時押しを行なった限り、5キー以下で問題が出ることはなかった。

 なお、本製品の上位モデルとして「Blackwidow Ultimate」というバージョンが13,800円でリリースされているが、本質的な機能はこちらの「Blackwidow」とほぼ同等である。違いは「Ultimate」では、全キーにLEDが内蔵されており常時光ること、USBパススルー端子および音声出力・マイク入力ジャックがあるというところだ。それ以外の機能では同じ内容となっているので、質実剛健な製品を好む人はより安価な「Blackwidow」により魅力を感じるかもしれない。

 「Blackwidow」は、シンプルな外観の中に、必要十分のスペックを余分なボタン類を増やすことなく実現している点が特徴といえるだろう。これをベースに実際の使用感を次章でまとめてみたい。


マクロ専用キーを除けばいたって普通のキーボードに見える。それだけに、すぐに違和感なく使い始めることができる

チルト機構。5度ほどの傾斜をつけることができる

ファンクションキー列はメディア機能や「ゲームモード」のスイッチ、LEDのON/OFF、スリープモードスイッチといった、「Fn」キー併用で使用する機能が並べられている

青く光るLEDやロゴマークと、Razerらしいワンポイントのオシャレも忘れていない



■ スイッチ感触は明確で、高速操作向き。オンザフライのマクロ機能はゲームプレイの「生産性」を上げる

キーストロークは4mm。しっかりとしたクリック感がある
ドライバーソフトウェアのインターフェイス。全キーにマクロ割り当てが可能だ
「Fn」キーと右ALT/マクロキーの同時押しでオンザフライマクロ記録を開始

 「Blackwidow」を使ってみてまず印象に残ったのは、非常に明確なクリックを感じる打鍵感。キー荷重は50gとなっているが、キーの押下をはじめて最初の1mm程度はほぼ抵抗がなく、2mm程度に差し掛かると急激に抵抗が現れ始め、次の瞬間、「カチッ」というクリック音と共に一気にキーが底をつく。本製品に採用されているチェリーMXスイッチ青軸ならではの特性だ。

 

 キーストロークは4mmと、しっかりとした打鍵感を得られつつ、スイッチそのものは2mm程度のクリック音が出る瞬間に入力されるようになっているため、反応性も高く感じられる。FPS系ゲームはもとより、RTS、MMORPGなど大抵のゲームで違和感なくプレイできる特性と言えそう。

 ただし弱点もある。特に筆者が感じたのは、クリックと底打ちの感触が非常にクリアであるため、指への負荷が高いように体感される点。力いっぱい操作していると、長時間のプレイで指先が痛くなりやすい。短期集中で遊ぶのでなければ、少しリラックス気味にタッチするほうがよさそうだ。また、キー方式のためわりと大きな打鍵音がするため、夜間など音をあまり出せない環境でゲームをプレイしている人は注意が必要だ。

 その上で、「Blackwidow」の特徴のひとつとなっているのは、ほぼ全てのキーがマクロボタンとして扱えるところだ。右側に5つのマクロ専用キーも装備しているが、必要とあれば文字キー部分からテンキー部分まで、全部のボタンにマクロを割り当てて使用することができる。この設定はドライバーソフトを通じて行なうことも、オンザフライマクロボタンを使用してゲーム中などに行なうことも可能だ。

 オンザフライマクロ記録の機能を利用するには決まった手順があって、以下のように操作する。

・「Fn」+「マクロキー」を同時押し。記録開始
・任意のキーストロークを入力する
・「Fn」+「マクロキー」を同時押し。記録終了
・割当先のキーを押す。割り当て終了

 最初は複雑に思われるが、2度3度と試すうち、すぐに慣れることができた。注意点としては、マクロ記録中のキーストローク操作のタイミングまで忠実に記録されてしまうこと。このため、最初のキーを押してからスムーズにストロークを入力していかなければ、たどたどしい操作がそのまま再生されてしまう。まあ、このあたりは慣れ次第で解決できるし、記録したマクロを別途ドライバー側で読み込み、タイミングを編集してもよい。

 この機能が効果を発揮するのが、アクションゲームやコマンドの多いMMOPRGなどをプレイしている最中に、即興でマクロが欲しくなった瞬間だ。ゲームの展開や使用キャラの変更によって以前設定したマクロが用無しになるのはよくあること。しかしこのオンザフライマクロなら、必要と思われたその時点でマクロを作り、「使い捨て」にすることができる。いちいちゲームを止めないで済むので、ゲームプレイの効率というべきか、「生産性」の向上に寄与してくれるのだ。

 もちろん、この手の機能はゲーム以外の、オフィス系ソフト等の使用時にも便利に使える。特定の操作をよく繰り返すが、CTRLやALTやSHIFTにいちいち小指や薬指を伸ばして操作するよりは、マクロにしてワンボタンで操作したほうが効率が高まることは多い。ヘビーなPCユーザーほど重宝する機能と言えるだろう。

 そのほかWindowsキーを無効化する「ゲームモード」の存在など、限られたレイアウトの中にしっかりとゲーマー向けの機能を実装している点、まさに質実剛健タイプのゲーミングキーボードと言える。筆者の個人的な希望としては、表面加工をツヤ出しタイプではなく、ツヤ消しタイプにして欲しかった、というくらいである。ちょっと指紋汚れが目立つのが気になるだけの話だが……。

マクロ編集画面では、オンザフライで記録したもの、ドライバーソフトウェア上で記録したものを問わず細かい調整ができる最大10個のプロファイルを記録可能。キーボード側で「Fn」+数字キーを押すことでいつでも切り替え可能だ



■ 「マジメ」なゲーミングキーボードとして、ラインナップの拡充を期待したいシリーズ

 本製品「Blackwidow」は、実際に使用してみて個人的にも好感触だった。なにより、デスクトップ環境をそれほど圧迫しないシンプルなデザインであるということが、長く使う上ではポイントになってきそうである。

 

 好みが分かれるとすれば、スイッチ機構の性格からくる強いクリック感、指への刺激の大きさ、打鍵音の大きさといったところ。感触的にはマウスコンピューターの「G-Tune」ブランドのゲーミングキーボード「Realforce 108B-MP」のような東プレ「Realforce」系とは対極に位置する製品となるので、導入前にいちどは店頭などで実際に触ってみることをオススメする。

 筆者が本製品に期待するのは、これがRazerのメカニカルキーボードシリーズの華々しいスタートとなることだ。実績のあるスイッチを採用したことで作りは良く、幅広いシーンで活用できることは間違いない。だからこそ、さらにその可能性を広げるために、テンキーレスタイプや、マクロキーの数やレイアウトを変えたもの、その他Razerらしいフィーチャーを閉じ込めた製品バリエーションに広がっていってほしい。

 という願いも込めつつ、8000円台というゲーミングキーボードとしては割合手の届きやすい価格帯で発売された本製品「Blackwidow」の門出を祝福したい。まあ、筆者自身が個人的にストロークの深いキーボードが好きという事情もあるのだが、コストと性能、双方のパフォーマンスに優れたキーボードとして強くおすすめしておきたい。



(2010年12月2日)

[Reported by 佐藤カフジ ]