★DSゲームレビュー★
ピュアな少女・爽子の心を育むアドベンチャー 「君に届け ~育てる想い~」 |
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株式会社バンダイナムコゲームスから2009年10月15日に発売されたDS「君に届け ~育てる想い~」。本作は集英社別冊マーガレットで連載中の「君に届け」をゲーム化したアドベンチャーゲームで、日本テレビ系にてアニメも放映されている。漫画やアニメにはない、本作でしか楽しめないエピソードも収録されている。
開発は株式会社アクリア。「ぼくのなつやすみ」シリーズや「ときめきメモリアルGirl's side 1st Love」などの開発に携わっている。
アドベンチャーゲームにありがちな、ただ選択肢を選んでいくだけのアドベンチャーとは異なり、本作ならではのシステムを搭載している。
操作はタッチペン、十字ボタン+ボタン両対応。どちらかだけでも操作できるし、組み合わせても操作できる。
早速、本作の魅力を紹介していこう。
■ 当たり前とも思えることの大切さを改めて考えさせられるハートフルストーリー
黒沼爽子15歳。座右の銘は一日一善。あるとき間違えて呼ばれたことと、超陰気な容姿が元で誤解され、小学校以来のあだなは「貞子」。いつの間にか本名を知るものはほぼいなくなり、霊感キャラとして恐れられる毎日……。高校入学の、その日。きっかけは、道に迷う風早翔太に勇気を出して声をかけたこと。それまでになかった友情の輪がひろがり、爽子の毎日が少しずつ変化していく。 |
物語は黒沼爽子が高校入学の日に、風早翔太と出会うシーンから始まる。貞子と呼ばれ、実際には霊感などないにも関わらず、恐れられる彼女の毎日は、風早と出会ったことをきっかけに変わっていく。
本作は漫画のストーリーを元に作られている。続編ではないので「君に届け」を全く知らなくても楽しめる。むしろ、知らない方が新鮮にプレイできるため、楽しめるかもしれない。プレイすることで「君に届け」の世界にひかれていくだろう。
漫画を読んでいる人なら、同じ物語を追うだけなのか?と思うかもしれないが、プレーヤーが選んだ爽子の行動によっては、漫画とは異なる展開が繰り広げられるため、十分に楽しめるだろう。詳しくは言えないが、「このキャラクターがこのタイミングで登場!?」など、漫画を知っているからこそわかる違いを探しながらプレイするのもいい。
普通の人なら当たり前の出来事に幸せを感じる爽子を見て、あなたも何か感じるところがあるだろう。
本項の最後に、漫画の作者である椎名軽穂さんのコメントを紹介する。
「漫画で見た事のあるエピソードやゲームでしか見られないエピソード、漫画ではまだ見られないようなエピソードも見られるかも!?爽子も漫画ではしないような服装になれるかも!私も実際に遊んでみたら楽しかったです。さくさく進むので何周もしていろんなエピソードを楽しんで下さーい!」
■ 「こころがけ」を設定し、「きっかけ種」を栽培する独特なゲームシステム
本作では、1週間ごとに「目標」、「こころがけ」を決め、爽子の心を成長させながら1年を過ごしていく。特徴的なのが、どのイベントを起こすのかをプレーヤーが事前に決められることだろう。下記の1~4を繰り返してゲームは進んでいく。
1:イベント発生条件に合わせて選択する「こころがけ」の設定
1週間のはじまりには、今週の私の目標をヒントに「こころがけ」を設定する。
上画面にはその週に起きる可能性のあるイベントの情報が、下画面には行動と思考の「こころがけ」と爽子の心のパラメーターが表示される。
イベント情報は、イベントのきっかけとなるキャラクター、内容、発生条件、きっかけ種の状態の4項目で構成される。プレイする上で最も注目すべきは発生条件ときっかけ種の状態。発生条件は大きく分けて、「行動のこころがけ(緑色)」、「思考のこころがけ(赤色)」、「条件なし(灰色)」の3種類。ここに記された内容に合わせて、下画面の「こころがけ」を設定していく。発生条件を満たせば次のフェーズでイベントが発生する。また、「こころがけ」に応じて、パラメーターのアップダウンが決まる。
「こころがけ」は行動と思考の2種類があり、それぞれ1つずつ選択する。イベント発生やパラメーターに関わる | 上画面の条件に合わせて「こころがけ」を選択しないとイベントは発生しない。正しく選択すればきっかけ種がつぼみになる | 選択した「こころがけ」により、心のパラメータがどのように増減するのか事前にわかる |
初期状態では、自動的に「こころがけ」が発生条件に合わせて設定されているので設定が面倒であれば、そのまま進めてしまってもいい。ただし、手動で設定した方がパラメーターを効率よく上げられるケースもある。以下がイベント発生に必要な条件のパターンとなる。
イベント発生に必要な条件のパターン | |||
パターン | 行動 | 思考 | 条件なし |
A | ○ | ○ | ○ |
B | ○ | ○ | ― |
C | ○ | ― | ― |
D | ○ | ― | ○ |
E | ― | ○ | ○ |
F | ― | ○ | ― |
G | ― | ― | ○ |
パターンA、Bの場合、イベントを発生させたければ、上画面の発生条件に合わせて行動と思考の「こころがけ」を選択しなければならない。注意しなければならいのは、「行動のこころがけ」と「思考のこころがけ」は、それぞれ1つしか設定できないこと。例えば、イベントの発生条件に「行動のこころがけ」が2種類以上ある場合、どちらか一方しかイベントを発生させられない。
イベント発生条件を満たすと、上画面に表示されたきっかけの種がつぼみになる。満たしていなければ種のままとなり、イベントが発生せず、種が無駄になってしまう。イベントの設定はプレーヤーが任意で行なえるため、行動や思考の「こころがけ」を2種類以上にならないように設定すべきだ。
パターンC、Dの場合、「行動のこころがけ」さえイベントの発生条件に合わせればいいので、「思考のこころがけ」はどう設定しても構わない。パラメーター上昇を考えて設定するといいだろう。
パターンE、FならC、Dとは逆に「思考のこころがけ」だけをイベントの発生条件に合わせればいい。
パターンGなら何を設定してもイベントが発生する。どちらの「こころがけ」もパラメーターだけを考えて設定すればいいわけだ。
「がんばり」、「やさしさ」、「きくばり」、「まえむき」の4種類からなるパラメーター。これらのパラメーターもイベント発生条件に関わってくる。パラメーターが足りないのにイベントを設定しまうと、発生条件に合わせた「こころがけ」を設定しても、イベントは発生しない。
「こころがけ」の設定が終わったら実行ボタンを押して、「こころがけ」を実行する。
パターンAかつ5つのイベントを設定したケース。同色文字の「こころがけ」の内容が同じなら問題なくイベントが発生させられる | パターンCだが、同色文字の「こころがけ」が2種類ある。このケースだとどちらかのイベント発生を諦めざるをえない | イベント発生条件がないなら「こころがけ」はパラメーターのことだけを考えればいい。狙ったパラメーターが上がる組み合わせを探そう |
2:設定した「こころがけ」の結果を閲覧する「こころがけ」の実行
「こころがけ」の実行はパラメーターの変化などの結果を閲覧するフェーズ。発生条件を満たしていればイベントも発生する。
イベントでは選択肢が登場することがある。選択肢は通常選択肢と心の選択肢の2種類があり、心の選択肢が選べる場合はXボタン表示が出る。Xボタンを押すか、タッチすると、過去の思い出がフラッシュバックイベントとして流れ、選択肢の数や内容が変化する。なお、追加や変化した選択肢が必ず良い結果をもたらすわけではない。
イベント中には、関係の進展、新しい「こころがけ」、新しい服が取得できる。関係の進展は頻繁に起こるもので、ハートマーク(友好)、音符マーク(興味)の2種類がある。これらをどれけ取得したかで、登場人物との関係が変化していく。新しい服は、服を買いに行くイベントで入手できる。
爽子がどこかに出かけるイベントでは服装の選択に迫られる。季節、相手に合わせた服装が選べたかどうかで、関係の進展に影響を及ぼす。冬に夏服を着ていくようなことはしないように。服には「春色カーデをラブリーに着こなして」などコメントがついているので参考にするといいだろう。
基本的に読み進めていくフェーズなのでスムーズに進められるだろう。「君に届け」の物語をじっくりと楽しんでほしい。
3:イベント発生に関わる「きっかけ種」の栽培
「こころがけ」の実行結果により、爽子の心の力が水になってジョウロにたまる。心の力は、周囲の人の評価やウワサによって増減する。
たまった水をきっかけ花だんに与えて、イベントの設定に必要な「きっかけ種」を栽培していく。栽培できるのは、がんばり、やさしさ、きくばり、まえむきの4種類の「きっかけ種」。種を植えたりする必要はなく、ただ水を与えれば種が得られる。多くのイベントを発生させるために、最低でも4種類1つずつは持っておきたい。
1周目のプレイでは自動で水まきが行なわれるが、2周目からはプレーヤーが手動で水まきすることが可能になる。
2周目以降でも同種の「きっかけ種」を多く入手したいなどの特別な理由がなければおまかせで水まきしてもらっても問題ない。
爽子の心の力が水としてジョウロにたまっていく。周囲の人やウワサにより得られる水の量が変化する。きっかけ花だんに水を与えると花が咲き、きっかけ種が収穫できる。序盤では種が足りなくなるケースもあるだろうが、中盤以降は余裕が出てくるだろう |
4:どのイベントを発生させるかを決める「きっかけ種」のセット
がんばり、やさしさ、きくばり、まえむきの「きっかけ種」を渡して、発生させるイベントを決定していく。
上画面には次の週にイベントを発生させられる相手とパラメーターが表示される。また、上画面はヒント表示に切り替えることができる。ヒント表示にすると、イベント名や発生に必要な「こころがけ」などが閲覧できる。
下画面では4種類の「きっかけ種」から1つを選んでをキャラクターに渡す。渡して種から芽が出れば、イベントが発生させられるという証。時折、自動でグレーの「きっかけ種」が渡されていることがある。これは強制イベントであり、他の「きっかけ種」に変えることも取り除くこともできない。
ニコちゃんマークがついているイベントが出ることも。これは重要なストーリーに関わるもので、基本的に一定の期間内に特定の種を渡した場合にのみ発生する。
「きっかけ種」を渡せる相手は5人まで。つまり1週間に起こせるイベントは5つまでとなる。ただ、種から芽が出た状態を5人分揃えれば、5つイベントが起こせるとはいえない。イベント発生条件の「行動のこころがけ」、「思考のこころがけ」のどちらかが2種以上になってしまってはいけないからだ。
初期状態の上画面には「きっかけ種」を渡すことでイベント発生の可能性のあるキャラクターが並ぶ | ヒント表示にすると、イベント発生条件やイベント名などが表示される。活用して効率よくイベントを発生させよう | 爽子にグレーの「きっかけ種」が。これは強制イベントを示し、取り除くことはできない |
「きっかけ種」のセットは、他のフェーズと比べて見るべき所が多く、どのように進めればいいのか悩むことがあるかもしれない。どのようにきっかけ種を渡していくのか、筆者の例を紹介したい。
・イベントが発生する可能性のある人物を特定
・ヒント表示に変更し、発生条件を閲覧できるようにする
・特定した人物全員に種を渡し、どの種でどの条件が必要なのかを把握
・1週でなるべく多くのイベントが起こせるように渡す種を調整
これは誰でもいいからとにかくイベントを多く発生させたい場合の例である。友好値や興味値を上げたい相手が決まっている場合には、そちらを優先して種を渡すのもいいだろう。パラメーターアップだけを狙うなら、誰にも種を渡さなければいい。
上画面を見ると、風早以外は誰でもイベント発生の可能性があることがわかる | 色々と種の渡し方を試してみる。この状態だと芽が出ていないものがあるため、4つしかイベントが発生しない | 全てのイベントが起こせるように調整して種を渡した。後は「こころがけ」を条件に合わせて設定してあげればOKだ |
ここでは関係図画面に切り替えて、爽子とみんなの関係や爽子に関するウワサを確認することもできる。
上画面に表示されるのが各キャラクターの関係とクラスの評価。各キャラクターとの関係は顔アイコンの位置で表され、顔アイコンが右に寄るほど仲が良いことを示す。クラスの評価は上に行くほどクラスから理解されていることを示す。理解されるほど、各キャラクターからの興味と友好に補正がかかる。また、イベント数をこなすことで理解は深まっていく。
下画面では爽子に対するウワサが聞ける。キャラクターを選べば、そのキャラクターからのウワサを知ることができる。
関係図画面では、キャラクターとの関係やクラスの評価がグラフィカルに表示される | 顔をタッチすればウワサが聞ける。1つの仲の良さに対して3つのウワサが用意されているとのこと。どんなウワサが飛び出すのか楽しみだ |
■ 1回クリアしただけでは終わらない。2周目以降専用のイベントも
プレイスタイル次第でクリアタイムは異なるとは思うが、筆者の場合は1周クリアするのにかかった時間は5~10時間程度だった。本作はマルチエンディングなので、全エンディングを見るまでプレイするとなると、かなりの時間遊べる。また、体験したイベントはアルバムとして保存される。こちらのコンプリートを狙うとなると、さらに遊べる。
クリア後には多くの特典がある。各種データが引き継がれるため、楽にイベントを発生させられたり、パラメーターをアップさせられる。また、2周目以降限定イベントもあるので新鮮にプレイできるだろう。
クリア特典 | |
項目 | 備考 |
「こころがけ」の引継ぎ | 前回までのプレイで取得した「こころがけ」を全て引き継げる |
服の引継ぎ | 前回までのプレイで取得した服を全て引き継げる |
2周目以降限定イベントの追加 | 1周目にはないイベントが追加される |
プレイ済みイベントの表示 | 前回までのプレイで起きたイベントには「再」マークが表示される |
選択済み選択肢の表示 | 1度でも選んだ選択肢には済マークがつく |
タイトルデモ追加 | タイトルデモが4種類になる |
きせかえの開放 | 好きな服を着て、おでかけイベントがプレイできる |
システムボイスが選択可能に | システムボイスを爽子か風早か選択できる |
おまけメニューでは、体験したイベントシーンを閲覧できるアルバム、プレイ中に見たムービーを再生できるムービー、取得した服を着て専用のおでかけイベントが楽しめるきせかえ、システムボイス変更が可能なシステムボイスが楽しめる。
きせかえでは、爽子のおでかけイベントが楽しめる。出かける場所、服、相手を選択してイベントを進める。お出かけできる相手はエンディングを見たキャラクターのみ。全てのおでかけイベントを見たければ、全キャラクター分のエンディングを見る必要があるわけだ。
キャラクターとのお出かけが楽しめるおでかけイベント。場所、服、相手を選んでおでかけする。エンディングを見たキャラクターとだけお出かけできるので、全キャラクターとお出かけするには最低でも8回はクリアしなければならないようだ | ||
体験したシーンが登録されていくアルバム。コンプリートするには相当のやり込みが必要。もし、収集率100%を達成できたら、本作をやり尽くしたといえるだろう |
■ 最後に
ストーリーのベースは「君に届け」を元にしているため、ストーリーは秀逸。これほどクオリティを持つものにはそうそう出会うことはないのではないだろうか? 普通の人なら当たり前とも思えることに感動、感謝する爽子を見て色々と考えさせられた。泣きどころや心温まるシーンも満載。筆者はボロボロ涙を流しながらプレイしました。
何周も楽しめるように作ってあるのは嬉しいが、昨今のアドベンチャーゲームにあるような既読スキップなどの機能がないのが残念なところ。ぜひとも搭載して欲しかった。
タッチパネル、十字ボタン+ボタン、どちらでも操作できるのは好印象。読み物として、通勤、通学にプレイするのもいいだろう。
年齢、性別問わず、漫画を読んでいる人も読んでいない人にもオススメできるタイトルだ。
(C) 椎名軽穂・集英社/「君に届け」製作委員会
2009 NBGI
http://www.bandainamcogames.co.jp/
□君に届け ~育てる想い~のホームページ
http://www.banpresto-game.com/kimitodo/
(2010年3月3日)