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【特別企画】日韓通訳者が見た「WoT」国際大会「Pacific Rumble」
Caren Tiger勝利の裏で、まさかの敗北を喫した韓国代表KONGDOOの舞台裏に密着!
(2015/11/26 00:00)
「日本チームが念願の勝利を果たしました!」
日本初勝利という快挙の裏で、初の最下位という厳しい結果に悔しさをにじませた韓国代表チームKONGDOO。
これは11月7日にベルサール秋葉原で開催された「World of Tanks」の国際大会「Pacific Rumble」のときの話である。
筆者は普段eスポーツライターとして活動しているが、今回は彼らの引率および日韓通訳という立場でその一部始終を見守っていた。そのため取材をするつもりは毛頭なく、取材用のカメラも持参していなかったほどだが、ご縁あって特別企画としてGAME Watchで、その一部始終を日韓通訳者という立場から執筆させていただけることになった。
KONGDOOの選手たちの楽しくもあり辛くもあった日本での3日間を早速ご覧いただきたい。
韓国代表チームKONGDOOとの出会い
8月に韓国・ソウルで開催された「Wargaming.net League(WGL) APAC Season 1 Final」で準優勝を収めて今大会の出場権を獲得した韓国代表チームKONGDOO。
大会開催2日前、11月5日正午、彼らは初めて日本の地に降り立った。メンバーは全部で8名。マネージャーは空席で、7名のレギュラー選手と1名のリザーブ選手で構成されている。選手のほとんどは20代前半であるが、チームリーダーのRedBullが最年長の29歳、一番下のNEETはまだ19歳とかなり若い。年齢層はバラバラだが仲の良いチームだ。
成田空港からホテルまでの送迎と、事前に予約してあった夕食のレストランに案内することがこの日の私の引率通訳としての仕事だった。
ホテル到着から夕食まで4時間程度の空き時間があり、ラーメンが食べたいと言うので観光を兼ねて秋葉原へ。選手たちは私の連れて行ったラーメン店に満足してくれた様子。美味しい食事が私と選手たちの距離を少しばかり縮めてくれた気がした。
秋葉原の街をぶらぶらしていると偶然、日本代表チームCaren Tigerの選手と遭遇。KONGDOOの選手たちが片言の日本語で「センセイ!センセイ!」と親しみを込めて呼びかけているのを見て、私は初めてKONGDOOが日本チームとも交流があることを知った。
その後選手たちをレストランへ案内し、この日の私の引率通訳としての仕事は終了。翌日のスケジュールを口頭で伝えようとしたところ、忘れるといけないから文字に残してほしいと言ってコミュニケーションアプリのグループに私を招待してくれた。
このグループにはKONGDOOの選手たちはもちろん今回の大会のために来日していた韓国の大会運営やゲーム会社の担当者もメンバーに登録されており、このアプリがその後の連絡に大いに役立った。また、私と選手や関係者との結びつきを強くするのにも一役買ってくれたように思う。
KONGDOOの「仲間」になった日
翌11月6日、大会を運営する韓国のケーブルテレビOGNによるプロフィール撮影とインタビューの収録が行なわれた。今回の「Pacific Rumble」には韓国チームと日本チームのほかに中国チームと北米の2チーム、計5チームが参加していた。
「目標は優勝です」
インタビューを通じてKONGDOOリーダーのRedBullが力強く語った。前回大会では中国に負けて惜しくも準優勝だったとのことで、今回はリベンジを果たしたいのだそうだ。
撮影を終えた全チームの選手たちは、あらかじめ予約されていた近くのレストランで昼食を取った。午後は「World of Tanks」を開発したWargaming.netによるメディアインタビューが実施され、各チームから代表者2名が参加した。
この昼食のとき、各国語の通訳者らはお弁当が準備されており、引率後に別途食事を取るよう言われていた。それを知った選手たちは一緒に食べられない私を不憫に思ったのか、何とご飯を分けてくれたのである。
韓国人には俗に「ウリナム文化」と呼ばれる思考が根底にある。「ウリ=身内」、「ナム=他人」の意味だが、前日までは韓国代表チームKONGDOOが「ウリ」、引率通訳者の私が唯一の「ナム」だったのが、この日他国の代表チームやさまざまな関係者たちと会ったことでKONGDOOにとって私が「ウリ」に変わったのを明らかに肌で感じた。
その後ふたたび選手たちと合流して秋葉原をぶらぶらしていると、またもや日本チームに遭遇。行くところ行くところで良く会うものだ。このとき日本の選手たちがお菓子などさまざまなお土産を用意してくれていた。そして「通訳お願いしていいですか」と私に言いながら積極的にKONGDOOと交流を図ってくれた。同じ日本人としてとても嬉しく思ったのを覚えている。
夜は選手や関係者が集うパーティに参加。といってもすでに顔見知りが多いため、仲間内でワイワイ食事をするにとどまった。そして翌日の大会のために体力も温存したいし作戦会議もしたいと言って、足早にホテルへと戻っていった。
そして日本代表Caren Tigerとの決戦に挑むKONGDOO。朝から歯車に狂いが……
翌日、ついに大会の日がやってきた。午前9時に会場入りし、簡単なリハーサルを終えたあとは出番が来るまで控室で待機することに。
控え室では早速、作戦会議が始まった。初戦の相手は日本代表チームCaren Tiger。何度も対戦して1度も負けたことのない相手だが、Caren TigerもKONGDOOのプレイスタイルをよく把握している。要注意の相手だ。
しかも普段のKONGDOOの主な練習相手は北米チーム。アジアのチームを相手に戦う準備は十分ではなかったのである。彼らの議論は徐々にヒートアップし、口調は激しさを増していった。
「普段のプレイでは対策されてしまう、何か新しいことをすべきだ!」
「いや、練習どおりにやろう、慣れないことはやるべきじゃない!」
最終的にKONGDOOは、練習で1度もプレイしたことのない構成で試合に臨んだ。しかしその立ち上がりは散々なものだった。最初の一歩を踏み外したKONGDOOの歯車が狂い始めた。
「Caren Tigerの実力が以前より向上している……!」
皆が心の中でそう感じ、焦っていた。そして新しい戦術で挑むはずだったKONGDOOは、知らず知らずのうちに彼らが得意とする戦術で戦わざるを得ない状況まで追い込まれた。しかし、それはすでに相手に研究され尽くされており、通用しなかったのだ。
ここまでか……と思った矢先、最後に残った1台が見事なプレイで相手に競り勝ち、KONGDOOは何とかタイブレークに持ち込むことに成功した。
しかしタイブレークで使用されるマップは彼らが一番苦手とする「鉱山」。最終的に、勝利の女神がKONGDOOに微笑みかけることはなかった。会場は日本人ファンの大きな歓声に包まれた。喜び、抱き合うCaren Tigerの選手たちの隣で、茫然自失といった様子でただただPC画面を眺めるKONGDOOの選手たち。
「自分たちが下手くそだった」
控室に戻った選手たちは異口同音にそう語り、悔しさをにじませた。
日本で開催されたとはいえ、韓国の会社が運営の中心を担っている大会で初めての最下位である。屈辱的な結果に衝撃を受けたリーダーのRedBullは「チーム以外の関係者の皆さんに申し訳ないと思ったのは始めてだ」と語った。
そのうち選手たちが決勝を待たずにホテルに帰りたいと言いだし、次々と会場を後にした。翌日の帰国は別の方が引率することになっており、私の引率通訳としての仕事はこの日が最後。別れを惜しんでくれた選手たちと記念撮影をして、彼らを見送った。
国境を越えたKONGDOOへの思い
私は何の迷いもなくKONGDOOを応援したし、タイブレークが決まった瞬間は人目もはばからず周りにいた韓国人関係者たちとハイタッチをして喜んだ。念のため書いておくと、私は留学などで5年の韓国在住経験があるものの、生まれも育ちも日本、両親も生粋の日本人である。それだけKONGDOOに情が移ってしまったということだ。
私が彼らと仲良くなれた背景のひとつとして、「eスポーツファンである」という共通点が挙げられる。今の韓国のゲーマーたちは往年のRTSスタープレイヤーを見て育ち、プロゲーマーという職業に憧れを抱いてきた。これは20年近くかけて韓国が築き上げてきたeスポーツ文化のたまものと言える。
彼らにとってゲームは遊びではない。スポーツであり真剣勝負の世界なのである。KONGDOOというスポンサーがついてはいるものの、今のところデバイスの支援ぐらいしか受けられていないという彼ら。プロチームと誤解されることも多いようだが、昼間は仕事や学業をこなし、夜のプライベートな時間を練習に費やすアマチュアチームである。それでもKONGDOOは世界一を目標に掲げ、現在は日本での敗北を教訓に戦術戦略の多様化を目指し、練習に励んでいる。
そしてさらに新しいルール「ティア10」に向けてリビルディング会議中であるとのことだ。どんなメンバー構成になるかはまだ分からないが、KONGDOOファンとして彼らはきっと強くなって世界大会のステージに帰ってきてくれると信じている。そして次は絶対にCaren Tigerにリベンジしてくれることを願っている!