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レベルファイブ・日野晃博氏「経営者とクリエイターはなかよくしなさい!」

クリエイター兼経営者だからできる“帝王判断”とは?

岡村秀樹CESA会長
9月17日~20日 開催(17、18日 ビジネスデー)

会場:幕張メッセ

入場料:当日 1,200円(税込)

 「東京ゲームショウ 2015」が開幕し、冒頭の恒例イベントとして「cesaフォーラム基調講演」が行なわれた。今年は新たにCESA会長に就任した岡村秀樹氏による「日本ゲーム産業の現状と新生CESA」と題した講演と、レベルファイブの日野晃博代表取締役社長の「クリエイター兼経営者だからこそできたヒットコンテンツ創出」、そして第2部ではアマゾンジャパンのジョナサン・ナガオ氏による「ゲームマーケティング新時代~動画配信プラットフォーム活用の新しい可能性~」などの講演が行なわれた。

 ここでは第1部の講演をお届けする。

 岡村氏はまずは、今年、コンシューマーゲームを中心としたメーカーが集まった従来のCESAと、ソーシャルゲームを中心に手がけるメーカーが集まったJASGAが1つになることで新生CESAになった経緯を説明。コンテンツサプライヤーとしては「プラットフォームは関係なく、最も良い形で自分たちのコンテンツを提供できるソリューションが大切。本来あるべき形に(協会が)なった」と語り、プラットフォームが変わってもゲーム業界は変わらないと語った。

 ここで近年の傾向としてスマートフォンデバイス用のタイトルの増加を指摘。cesaの出展タイトルの実に40%がスマートフォン用タイトルで、一大勢力となっている。一方で家庭用据え置き機を中心としたコンシューマタイトルは減少しているのではなく、本数的には横ばいが続いており、根強い人気があると指摘。

 もう1つの傾向としてはcesaにおける海外メーカーの比率の増加を挙げた。これは日本のゲーム市場に良質なユーザーが多く、優れたゲームにはキチンとお金を払うユーザー傾向があることが一因と説明した。

 最後に日本ゲーム業界の世界的なプレゼンス低下については、強力なIPと漫画やアニメ、映画などの周辺業界と一体となり、コンテンツを総合的に強力に推進していくことが重要とし、CESAとしてもそういった案件を後押しする活動を行なっていくと語り、締めくくった。

【岡村秀樹氏「日本ゲーム産業の現状と新生CESA」】

日野氏「クリエイター兼経営者だからこそできたヒットコンテンツ創出」

レベルファイブの日野晃博代表取締役社長

 日野氏の今回の講演タイトルは「クリエイター兼経営者だからこそできたヒットコンテンツ創出」。代表取締役社長でありながらクリエイターでもあることが、ヒット作を生み出す要因の1つであるとことを、実例を通して示せてみせた。

 まずは近年のレベルファイブの販売本数などの数値を示し、好調な実績をアピール。また1タイトルの平均売上本数「93万6千本以上」という数値について「新しいタイトルを作りヒットさせてきた。ヒット率が高いことは、レベルファイブの誇り」とコメントした。

 ではレベルファイブは、なぜヒット作を連発できるのか? これについて日野氏は「帝王判断」という一言を挙げた。会社としての判断とクリエイターの感性はぶつかり合うことが多く連携することは難しいという。しかしレベルファイブの場合、経営者としての日野氏は同時にクリエイターでもあるので、強引なワンマン判断を即決することができる。これが大きいというのだ。「1人で決めることは良くないのかも……」と言いながらも、日野氏の中では多くの経営陣と話すことがあるのと同時に、多くのクリエイターとも話す機会があると言い、双方の意見を聞くことで、ノウハウがかなり貯まっているようだ。

 ここからは実際のゲームタイトルの制作現場の例を引き合いに出して、その「帝王判断」の重要性を示して見せた

・「レイトン教授」の場合

 「レイトン教授」の場合はパブリッシャー第1弾タイトルということで、かなり気を遣ったという。ここではクリエイティブな判断よりパブリッシャーとしての判断を優先。しかしクリエイター陣はこれに反発。会社の戦略タイトルとしてスタッフにやる気を出してもらえるよう説得するのに苦労したという。ここではしっかり話し合うことで理解してもらい、最終的にはやる気を持って作成を完成することができた。

 また、声優を使うことについてもチャレンジだったっと言う。携帯用ゲーム機は外でプレイすることも多く、音量を絞られることも多い。それなのに声優を使うべきかという議論はあったと言うが、日野氏は「ユーザーとして面白いと思ってチャレンジした」と説明した。

 「レイトン教授」は「頭の体操」が企画のスタート地点となっているが、制作時点で商標の関係で「頭の体操」を使えないことが判明。企画会議の時点で即決で路線変更し、ストーリーを楽しみながらパズルを解くスタイルに変更。多胡輝氏に納得してもらい制作を進めたという。このように早い決断が重要だと語った。

・「イナズマイレブン」の場合

 「イナズマイレブン」ではアニメーションの制作が決定。ここではアニメの制作現場との衝突があったという。同作ではレベルファイブが徹底的にテレビアニメのコントロールを行なったという。しかし、ゲームを原作とし、ゲームの都合で登場キャラクターが出たり消したりすることに、アニメのクリエイター陣が反発。ここでもきちんと膝詰めで語り合うことで乗り切ったという。このとき強みになったのは「原作者であり出資者であったことが強みとなった」と語った。

 このことがきっかけでアニメーションのクリエイターとの繋がりも出来、後々「妖怪ウォッチ」などでも役立つことになる。

・「二ノ国」の場合

 「二ノ国」ではジブリの説得について語られた。ジブリと言えば当時はゲームを嫌っていることでも知られ、ジブリの説得はダメ元の空気が漂っていたという。これについては徹底的にいろいろなパターンを考え、柔軟に路線変更することができるようにシミュレート。その場で相手に即決してもらえるよう策を練ったという。「イナズマイレブン」でアニメーションを手がけたことから、アニメーションに理解があることをアピールしつつも路線変更を行ないながらジブリを納得させたという。

 一方で予算管理がずさんで、売れても売れても利益に結びつかなかったことも反省点としてあげた(最終的にはプラスになったという)。

・「妖怪ウォッチ」の場合

 そして大ヒット中の「妖怪ウォッチ」だが、日野氏によれば他社連携が前提であったことから、かなり優等生コンテンツだったといい「楽しい記憶しかない」のだという。他社の理解があるところからスタートし、自分たちの好きにできたところが大きく、遊びのコンセプトがぶれることなくアニメや映画などに展開していった。

 ここでのチャレンジとしては「アニメ番組の構造への介入」を挙げた。アニメスタッフの選定から関わり番組制作をスタート。番組構成については「ストーリーを紡いでいく楽しさはあるが、そこには限界がある。テレビで1番人気が高いのはバラエティ番組。であれば、子供向けバラエティ番組を作れば良い」ということで今回のような展開になったのだという。ちなみにパロディ要素が多いことでも知られるが、今では様々な原作者から「コラボして欲しい」というオファーもあると言い、「ぱくりではなく、ご理解の上でやっていることもある」のだという。

 日野氏は最後に「どうすればヒットコンテンツを生み出せるのか真剣に考え、1本1本大事に作品を作っている」と前置きし、教訓として、経営者とクリエイターが理解し合うことが大切とした。

 その上で経営者に対するアドバイスは「クリエイターを過保護にするな」と言う点。これは経営陣として路線変更もやむ無しという判断を下さなければならない時、面倒くさがらずきちんとコミュニケーションを取り、納得してもらうことが重要と言うことだ。「好きに作ってもらって売れなかったら切れば良い」というのではなく、しっかりクリエイターを使っていくことが重要だと語った。

 ではクリエイター陣に対するアドバイスは? 日野氏は「クリエイターはあきらめている人が多い。『ウチはこういう方針だから』ではなく、本当に変えることはできないのか?」と理解してもらえる努力が必要だとしている。

 経営者とクリエイターはお互いつきあいにくい存在であり、離れやすい。日野氏は最後のスライドで「なかよくしなさい!」と示して講演を終えた。

(船津稔)