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襟川陽一氏「ゲームの未来」について「FOST」講演会で語る
SCEJA盛田厚プレジデント、プレイステーションの目指すこととは?
(2014/12/4 21:03)
公益財団法人 科学技術融合振興財団(FOST)は12月4日、明治記念館で「FOST設立20周年記念講演会」を開催した。
「FOST」は聞き慣れない団体かもしれないが、コーエーテクモホールディングスの代表取締役社長を務める襟川陽一氏が20年前に、私財10億円を設立基金とし、社会貢献のために起ち上げた公益財団法人。襟川氏が理事長を務め、現在の活動の中心は「シミュレーション&ゲーミングの研究助成」と、研究成果に対して「FOST賞」を贈呈している。ちなみに20年間の研究助成件数は529件で、総助成金額は3億3,600万円。
今回は設立20周年を記念し、各界著名人を招いて「ゲームの未来」をテーマに講演会が行なわれた。登壇したのはコーエーテクモホールディングスの代表取締役社長として襟川陽一氏、ソニー・コンピュータエンタテインメントジャパンアジアの盛田 厚プレジデント、ディー・エヌ・エー取締役ファウンダーを務める南場智子氏、東京大学大学院の馬場章教授、KADOKAWA・DWANGOの浜村弘一氏。
ここでは一般ユーザーにとっても興味深い話題となる襟川陽一氏、盛田 厚氏、南場智子氏の講演をお届けする。
シブサワコウとして興味深いのはクラウドゲーム
冒頭、FOSTの現況について語った後、襟川陽一氏はコーエーテクモホールディングスの代表取締役社長としてゲームについて語った。
コーエーテクモゲームスの歴史を振り返るとともに、戦略としてゲームタイトルのブランド価値を高め、他に展開するという同社の掲げる「IP創造と展開」を説明。「無双」ブランドを創造し、マルチプラットフォーム展開を図るのはもちろん、「北斗の拳」とのコラボレーションとして「北斗無双」を制作したことや、開発担当タイトルとして「ドラゴンクエストヒーローズ 闘竜と世界樹の城」の開発など、そのゲーム性を他のIPと絡めることで新たな創造を行なっていく展開などを例に挙げた。
また、同社はスマートフォンタイトルなどの強化を進めていたが、このデジタルビジネスが昨年で20%、今年に至っては30%を占めるにまで成長しているという。
今後の展開として「信長の野望」に続き「三國志」が来年30周年を迎えることから最新作の展開を考えているとともに、シブサワコウとして「クラウドコンピューティング」に興味があると語った。ここで言うクラウドはライブストリーミングで配信されるクラウドゲーミングではなく、コンピューターがクラウドで繋がることでスーパーコンピューター並みの機能を果たすことで、こういった圧倒的な処理能力と、どこでも楽しめるスマートフォンのようなデバイスなどの融合により新しいゲームが提供できるのではないかと考えているという。
また、Project Morpheusに関しては「自分が武将となり戦場を駆け抜けることもできる」とアイディアの1つを披露し興味を示した。このほかにもシニアを満足させることができるような社会性を持ったタイトルの制作、そして「ゲームはシステムのおもしろさで決まる」として斬新なゲームシステムの創出を挙げた。そしてラストに画面上に映し出されたのはアクションRPG「Ni-OH 仁王」だった。
プレイステーションはネットワークサービスを含めユーザーの拡大を図る
続いて登壇したのがソニー・コンピュータエンタテインメントジャパンアジアの盛田 厚プレジデント。
9月にプレイステーション 4が全世界で1,350万台出荷を突破したことについて「家庭用ゲーム機がシュリンクするという話の中、プレイステーションプラットフォームで1番早く普及している」と語り、デジタル化することでゲームの楽しみ方も変化していると説明。いわゆる本編を発売しその後にダウンロードコンテンツを販売することや、体験版でプレイして本編を購入するといったスタイル、そしてそもそも無料からスタートするFree to Playといったビジネスモデルなど、多様化している現状を示した。
これまでハードの進化によりゲームは変化してきたが、これからはプレイステーションプラットフォームが進めていくのは、ハードの普及台数の増加のみにとどまらない、ネットワークサービスを含めたプレイステーションユーザーの増加だ。
もちろんその中には「PS4それ自体の進化」も含まれる。ここで挙げられたのが同社が力を注いでいる「Project Morpheus」だ。盛田氏は「プレイステーションの初期の驚きに近い」と語り、「一段上の“未来”としてどうやってリリースしていくか。大事に育てていきたい」とかなりの期待度があると語った。
また、引き続きPS4のSHARE機能で体験の共有化をより拡充していきたいとした。SHARE機能でブロードキャスティングを推進していきたいとし、魅せるプレイに繋がることから「コントローラーを使っているからこそできるプレイがある。コントローラーの復権を目指したい」とも語った。
プレイステーションに限らず任天堂なども据置型ゲーム機を家庭用エンターテイメントのハブとなるよう目指してきたが、盛田氏は「ノンゲームサービスを拡充し家庭用エンターテイメントのハブを目指せるところまで来た」とハードの性能向上とサービスの拡充で、PCでもないタブレットPCなどとも違った立ち位置を確立できる戦略を推進していくとした。
盛田氏は最後に「ユーザーの想像を超えたものを提供していきたい。エンターテイメントの垣根を無くし、人と人を繋げ、プレイステーションプラットフォームをより拡充させていく」と20周年を越えた今、決意を新たに方向性を示した。
南場智子氏「3年後のゲームを明確に答える人は信じない」
ディー・エヌ・エー取締役ファウンダーを務める南場智子氏は、「この会場で1番ゲームの知識が乏しい私は経営者の観点からゲームについて語ろうと思います」と切り出し、同社のこれまでの展開を説明。好調なときだけでなく、JAVAアプリでの失敗や、スマートフォンのネイティブアプリの隆盛期を迎えた時、その流れに乗り遅れた同社の現状に「地獄を見た。やっと脱しつつある」と振り返った。
そんな中、現在好調な「FINAL FANTASY Record Keeper」の成功要因に触れ、「エグゼクティブプロデューサーに成功要因を聞くと、『剣を振って気持ちいいキャラクターの動きへのこだわり』と言うのです。信じられますか? プレーヤーが昔に体験した気持ちよさをスマートフォンでも提供するということなんです。それを実現するには技術の積み上げが必要でした」と語った。
同社では4~5人で開発し莫大な利益を生み出してきた成功体験があり、それが足かせになったという。南場氏はこのエグゼクティブプロデューサーを「取締役会にも出てこなくなったが、こういった闘うプロデューサーが必要なんです」と語ったのが印象深かった。
同社が行なってきたプラットフォーム戦略については「プラットフォームは、自分たちに開発力が無くても、サードパーティが色々とアイディアのあるタイトルを投入してくれる」と初めは考えていたが、現在ではそれだけでは無いと考えるようになったという。
現在、Google PlayとApp Storeの2つのプラットフォームが隆盛を極めているが、南場氏は「配信と課金決済しか行なっていない。プラットフォームはマーケットメークの観点から“値決め”を行なわなければならないと思う。なぜなら、投資家がビジネスの規模を計算できるから。これにより参入障壁が下がる」と語り、より多くのゲームが登場できるようなプラットフォーム作りに「踏ん張りたい」と残した。
最後に同社の経緯を振り返った上で、「3年後にヒットするゲームを語る人がいたら信用しない。わからない」と締めくくった。