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【GDC 2014】何度も遊べるナラティブ「Narrative Legos」をKen Levine氏が提案
19年のキャリアから方針転換。数多のNPCと関係性を紡ぐ新しいゲームプレイの形
(2014/3/24 00:00)
「バイオショック」、「バイオショック インフィニット」のクリエイティブディレクターでありシナリオライターを務めてきたKen Levine氏が、新たなナラティブの可能性「Narrative Legos」を提唱した。
Levine氏といえば、上記に挙げた「バイオショック」や「バイオショック インフィニット」に加え、「Thief」や「System Shock 2」など19年に渡ってリニア(直線的な)ナラティブを書いてきた第1人者だ。ゲーム開始から終わりまで一直線の物語が「リニア」であるのに対し、「Narrative Legos」は小さな物語の欠片を集めてきて、それらをレゴブロックのように組み合わせてプレーヤー独自の自由なナラティブを形作ることを示している。
19年のキャリアを考えれば全くの方針転換であるが(「バイオショック インフィニット」については沈黙)、とにかくリニアナラティブゲームの制作に嫌気が差したようで、「Witcher」などリニアナラティブにも良いゲームがあるとしながらも、制作にお金がかかること、コンテンツ同士は干渉しないこと、分岐は存在するが状態やインタラクションには限りがあること、プレーヤー主導でないこと、拡張できないことなど、リニアナラティブに対する悪口をこれでもかと並べていった。
ではどのようなことがやりたいかというと、賢い人物たちが「ナラティブな要素がお互いに作用すること」、「すべてのナラティブ要素はプレーヤーのアクションによって引き起こされること」、「それらのトリガーは大体プレーヤーには隠されていること」を挙げ、“何度でも遊べる”ものを目指したいという。
これらの前提を話した上で、Levine氏は「Narrative Legos」で目指すべきゲームのデモンストレーションを話していった。なおこのデモは単なる思考ゲームであり、「新作の話ではない」と釘を差した上で、多くの人が「プレーヤー主導による何度でも遊べるナラティブなゲームプレイ」を考えるきっかけにしたいとした。
例えば、オークの村とエルフの村があったとする。オークの村には「パッション」のステータスを持った「スター」たちがいて、その中のFrankは「エルフが嫌い」というパッションを持っていたとする。プレーヤーがエルフを殺すなど害を与えた場合はFrankからの評価が上がる。逆もまた同じで、エルフを助けるとFrankからの評価は下がる。
Frankをはじめとしたスターには評価基準が様々にあって、それらが総合されて「プレーヤーへの評価」として表出する。Frankからの評価が上がっていけば、プレーヤーと一緒に戦ってくれたり、商品を割引で売ってくれるなどのメリットが与えられる。
これらの評価がオークやエルフ、また他の種族のスターたちすべてにあって、各評価が複雑に入り組んで1つの状況となっていく。プレーヤーは誰かから評価を得れば、同時に必ず誰かの評価を失う。この評価状況は、損得の総計が0になる「ゼロサムゲーム」という考え方が元になっているという。
説明として面白いものがあったので1つ紹介しておくと、Levine氏が「The Triangle」と呼んだ状況では、エルフの娘とドワーフの娘がいて、双方が「結婚相手を探す」というパッションを持っている。プレーヤーがエルフの娘と仲良くなろうとするとドワーフの娘の評価はその分下がる。
ちなみにドワーフの娘は賢くてとてもいい娘だが、エルフの娘はお城住まいで冒険に役立つ道具をふんだんにくれる。最終的に結婚まで到達すれば、相応の結婚の報酬と、もう1人の娘との絶縁に近いペナルティが待っている。なんだか聞いてて「ドラゴンクエストV 天空の花嫁」のビアンカとフローラを思い出すが、まさにそんな状況が複雑にシステマティックに行なわれるというのだ。Levine氏いわく、「いいライティングは、物理的報酬と感情の充実の戦いの中でプレーヤーに決断を迫る」という。
また何度でも遊べるという点については、プレーヤーの行動次第で幾重にも状況が変わるほか、拡張要素によって新たなパッションが導入され、そこでもまた違うプレイを体験できる。これはマルチプレイにも応用され、誰かがエルフから嫌われすぎて襲撃を受け、他の誰かに助けを求めたとしても、「あいつとはリアルでは仲良いけど、今はエルフとの関係性が大事」と思って無視もできるという、NPCとの関係性がこれまでとは一味違ったプレイ感になる。
しかしこれらの世界が実現する前提として「無限に近い関係性の網を構築すること」、「専門的に状況の変化の作成を可能にすること」がある。実現への道は遠そうだが、少しでも状況を前に進めるためなのか、この講演は「オープンソース」であるとしてどんどん周りに広めていってほしいことをLevine氏は聴講者に伝えていた。
リニアナラティブを諦め、新たなナラティブに向かうLevine氏の次のステップはどこにあるのか。「バイオショック」の再来がないと思うと少し寂しい気もするが、再出発の今後に期待といったところだ。今回はコンセプトの紹介のみでなんとなくやりたいことがわかった段階なので、Levine氏からの続報を待ちたいと思う。