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【特別企画】フィギュアの革命、「ねんどろいど」その歴史と未来:後編
作り手の想いを活かした造形、ねんどろいど共に歩いて行く未来とは?
(2014/3/19 00:00)
前編では「ねんどろいど」の進化を紹介した。現在、シリーズは「ねんどろいど 初音ミク2.0」で提示した新たなスタンダートから、さらに様々なポイントを磨き上げながら進化している。
後編ではまず、最新作の「ねんどろいど 羽川翼」を取り上げ、これまでの技術の蓄積がどのように活かされているか、ポイントを聞いてみた。さらにねんどろいどを作るという開発者の“想い”にフォーカスを当て、印象に残った作品や、企画できて嬉しかった作品、苦労した作品など、各担当者それぞれの話を掘り下げてみた。
ねんどろいどはゲームキャラクターへもアプローチしている。「ソニック」は話題を集めたし、「艦これ」も注目されている。めすか氏はゲームキャラクターのねんどろいどは、アニメやコミックと違いがあると語った。その違いとはどんなものか、ゲームに関しては3Dモデルで作られているのも少なくなくフィギュア化しやすいのではないか? といった疑問など、後編では気になる様々な点を追ってみた。
最新作「羽川翼」に込めた想い。これまでで1番印象に残った作品は?
――ねんどろいど最新作「化物語」の「ねんどろいど 羽川翼」ですが、このねんどろいどの特徴を教えてください。
カホタン氏: 現在の最新作であり、3月後半から受注を開始し、発売は7月となります。お見せするのは専用の“座りパーツ”を使用し、イメージイラストのポーズを再現したもので、2匹の猫が付属しています。
めすか氏: メガネキャラクターなので、メガネにはこだわりました。取り外すギミックもありますが、基本はつけている状態がデフォルトです。企画者がイラストのポーズをどうしても、どうしても再現したいということで、立ちポーズとは全く違う座った姿を再現する様に設計しました。「もう、本当に無理難題言ってくるなあ」と思いました(笑)。
――ねんどろいどでは、このようにキャラクターの“再現したいポーズ”をチョイスしてパーツを構成していくのですか?
カホタン氏: 表情など企画書では印象的なシーンを切り取って提示していきます。今でこそ仕様書があり、ある程度フォーマットは決まっていますが昔は手探りだったり、仕様書がない商品もありました。今はスタッフも増え、クオリティの維持や統一感も必要なので、携わるスタッフがわかりやすいようにある程度仕様書を作って進めています。
めすか氏: それでもあまりシステム化しすぎると面白いものが出なくなってしまいます。企画が言ってるめちゃくちゃなこと、実現できそうにないこともがんばって応えよう、という気持でやってます。
カホタン氏: 企画の「これができたら絶対楽しいよ!」という想いと、制作側の「それ絶対無理だよ!」というところは常に葛藤です。キャラクターに対し、1番かわいらしいのはどこなのか、1番の魅力はどこにあるのか、そこを納得いくまで突き詰めていくのが、ねんどろいどの魅力になっているんだと思います。ねんどろいど1個1個にはそういう熱いストーリーがあります。
企画で実現できて楽しかったのは、「私がモテないのはどう考えてもお前らが悪い!」の「ねんどろいど黒木智子」を商品化したときです。ねんどろいどとしては、かなりチャレンジした顔パーツが付属しているんです。これはどうしても実現したいと“ゴリ押し”をしました。おかげさまでこの顔パーツ、社内ではとても人気です(笑)。
――この「ねんどろいど 羽川翼」で企画としてうまくいった、最新の技術が活かされている、という部分はどこでしょうか?
カホタン氏: 「化物語」は他のキャラクターをねんどろいどや、ねんどろいどぷちにしたり、1/8スケールフィギュアとして展開したり、かなり関わり合いの深い作品です。だからこそ企画担当の愛も大きく、そしてユーザーさんから「このキャラクターも出すよね?」という期待が強いですね。ユーザーさんからのプレッシャーも受けて、力を入れて立体化しています。
この「ねんどろいど羽川翼」に関しては、私を含め、先任の企画者達と考えた「ネコミミ」の再現も特徴です。カチューシャタイプになっていて、髪の毛パーツに挟むだけでネコミミになるんです。従来のねんどろいどだと、髪の毛パーツそのものを用意しなくては実現できなかった部分ですが、カチューシャ型を採用したことで、コストを抑えて最大の効果が発揮できました。
――このように進化していったねんどろいどシリーズですが、皆さんが特に印象に残っている作品は何ですか?
めすか氏: 2012年に発売された「ねんどろいど ぷち 魔法少女まどか☆マギカ」です。魔法少女としての姿と普段の格好がそれぞれ5体ずつ、シークレットを含む全12体なのですが、これの原型を全て手がけました。
「ねんどろいど ぷち」はねんどろいどの小型版シリーズで、数が多くて大変でした。作業を始めたときはまだアニメ放映前で、設定資料だけで原型を作っていたので、キャラクター表現にも苦労しました。アニメが放送されてからは、それぞれのキャラクターが理解できたのもあって、作りはじめた当初よりかなり手を入れましたし、テンションも上がりました。
最初は魔法少女姿の5体のみの予定だったんです。だけどアニメが放送されてから「絶対に制服姿のフィギュアも作ろう!」と企画の方から強いプッシュがありまして。さらに私の作業量が倍になりました(笑)。制服姿と魔法少女姿の違いとして、髪の毛の質感を変えたり、造形、彩色にもこだわって作りました。
カホタン氏: 私は「ねんどろいどりん&うーさー+メカウーサー」です。これは私がはじめて企画を担当したもので、大型のロボが付属しています。メインは「りん」なので、この「メカウーサー」はあくまで付属物です。上半身を外して、「メカウーサー」の中に乗せられます。
「メカウーサー」の設計に関しては3Dモデルの技術をフルに使っています。手で1つずつ機構を考えるより、3Dモデルで大きさを検討し、過去の技術を参考にして作りました。初めての企画だったので勝手がわからず、自分の好きなものを思いっきり盛り込みました。コクピットのモニターやレバーは原作にはないのですが、「ロボといったらこうだろう」みたいな感じで。「目はクリアパーツじゃなければ」、「ここは墨入れで重厚感を」、「自爆ボタンは押しやすく、目立つ場所に」などなど、原型の方や他の企画もノリノリで作りました。
――月山さんは工場と話していく上で大変だったものはあるでしょうか? 例えばパーツが多かったとか。
月山氏: 「ねんどろいど初音ミク・アペンド」は、ねんどろいどの中でもディテールが特に繊細でかなり苦労した記憶があります。髪の毛も半透明で、こちらの表現をするための素材をどうするかとか、色々試行錯誤しました。
小物で大変だった、という意味では「けいおん!」の「ねんどろいど田井中律」のドラムセットがなかなかのボリュームです。これはかなりねんどろいどでがんばっちゃったなあという感じでしたね。ただ他の「けいおん!」の子達も楽器とセットですし、律っちゃんならばドラムじゃないと、というのがありました。
――めすかさんは企画からの要望で大変だったなあ、というものはありますか?
めすか氏: 企画からというより、「ねんどろいど雪ミク」は毎回制作するのがとても楽しいですが、大変です。「雪ミク」というのは、「真っ白い『初音ミク』の雪像」をモチーフにデザインされた、冬の北海道を応援するキャラクター仕様の「初音ミク」のことです。2010年に「さっぽろ雪祭り」で雪像となる「雪ミク」を記念して、弊社が発売したフィギュア「ねんどろいど 雪ミク」が始まりです。
それから毎年フィギュアの企画・発売で協力させていただいてまして、2012年からはクリプトン・フューチャー・メディアさんのコンテンツ投稿サイト「ピアプロ」で、「雪ミク」の衣装デザインを、一般公募するようになりました。だから作り手さんの想いがすごくて、これをどこまで実現できるかにとても気を使います。
「雪ミク」の衣装に選ばれた絵を描く人の思い入れは強くて、だからこそだと思うのですが、社長のチェックがとても厳しいんです(笑)。2014年の雪ミク「ねんどろいど雪ミク Magical Snow Ver.」は、原型を4~5回は見せました。いつもは多くて3回くらいなんです。彩色したデコレーションマスターも5回くらい作り直しています。社長の思い入れも強い作品です。やっているときはとても大変なのですが、完成させると「かわいくなったなあ」と実感する出来になりますね(笑)。
必ずしもプロのイラストレーターさんではない、デザイナーさんでないからこそかもしれないのですが、私達が改めてはっと気づかされるような要素があるんです。だからこそ、そこを立体で再現するというのは大変なんですが、何とか実現できたときの達成感はかなりのものがあります。新しいノウハウを得ることもあります。