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NVIDIA、最新モバイルSoC「Tegra K1」実機を国内初披露
DX11世代のゲームもグリグリ動く、新世代モバイルチップの実力を改めておさらいする
(2014/1/30 22:00)
1月30日、NVIDIAは都内の同社オフィスにて「Tegra K1 プレスブリーフィング」を開催した。この催しでは、ラスベガスで1月7日~10日に開催された家電イベントCES 2014にて初公開された「Tegra K1」搭載の実機が国内で初のお披露目となった。
Tegra K1は、NVIDIAが継続的に開発しているモバイルSoC(System On Chip)の最新モデル。昨年のTegra 4に続く世代となるが、説明を行なったNVIDIAジャパンのテクニカルマーケティング矢戸知得氏によれば、NVIDIAではTegra K1を従来製品の単なる後継とは考えていないという。
そのあたりの理由を含め、今回国内で始めて見ることのできた実機によるテクノロジーデモの模様をお伝えしよう。
アーキテクチャ刷新で一足飛びにデスクトップ向けに追いついたTegra K1
NVIDIAのモバイルSoCであるTegraシリーズのウリは、すべての世代においてその高いグラフィックス性能にある。その特徴は、今回発表されたTegra K1で特に顕著だ。
従来のTegraシリーズは、OpenGL ES対応とするGPU機能を搭載しており、モバイル向けとしては高速であっても、デスクトップ向けのGPUと比べれば数世代遅れたアーキテクチャを採用していた。それが、このTegra K1では一足飛びに最新世代のKeplerアーキテクチャをキャッチアップ。DirectX 11.1相当の機能やOpenGL をフルサポートするという、モバイルプロセッサとしては世界初の製品となる。
矢戸氏が「NVIDIAはTegra K1を従来製品の単なる後継とは捉えていない」と語るのはそれが理由だ。従来のTegraシリーズでは他のモバイルSoCと同様に、モバイル向けグラフィックスAPIであるOpenGL ESを前提としたゲームの開発が必要だった。もしゲーム機やPC向けの作品を移植しようと思えば、多くの機能・表現を削ったり、モバイルGPUならではの各種制限に合わせてプログラムを修正する必要があった。
それがTegra K1ではガラリと変わって、例えばPC上でDirectX 11.1相当の機能を使って開発されたプログラムが、ほぼそのまま動作する。もちろん、x86からARMへCPUアーキテクチャが変更となるため調整は必要だが、グラフィックス機能に関しては、デスクトップGPUで利用できる機能はすべて動作すると考えていいのだ。
これが近年のゲーム開発者を悩ませる、プラットフォーム増殖とゲーム開発費の高騰という問題への、NVIDIAならではの回答となる。
Tegra K1がデスクトップ向けGPUと同アーキテクチャとなったことは、特にUnreal Engineのようなマルチプラットフォーム対応のゲームエンジンを用いる際に大きなメリットとなる。この場合、CPUの違いやOSのAPIの違いなど、プラットフォーム特性の違いをゲームエンジンが大半吸収してくれるため、ほぼ追加の作業なしに移植や、マルチプラットフォーム開発が可能となるためだ。
Tegra K1におけるゲームエンジン活用にまつわる事情は、この日ゲストスピーカーとして招かれていたエピック・ゲームス・ジャパンの下田純也氏に詳しい。
従来、「Unreal Engine 3」はDirectX 9機能を前提とするデスクトップPC向けエンジンとして登場し、Xbox 360やプレイステーション 3といったシェーダーグラフィックス世代のゲームマシンで駆動するようになったのが2005年、スマートフォン版が登場したのは2010年だった。これはハイエンドPCグラフィックスのアーキテクチャを、家庭用機がキャッチアップするのに3年、モバイル端末がキャッチアップするのに8年かかったという事実を表している。
それがTegra K1の登場により、「Unreal Engine 4」は発表からわずか2年でモバイル端末で動作するようになった。これについては Epic Gamesの創業者であるティム・スウィーニー氏による「もう3~4年かかると思っていました」というコメントが紹介されているが、それだけ速く、モバイルチップによるハイエンドPCグラフィックスアーキテクチャのキャッチアップが完了したというわけである。
構造的には、Tegra K1は、デスクトップ向けGPUであるGeForce 700番台のGPUコア単位であるSMX(Streaming Multiprocessor Extreme)を最小単位で構成したものだ。同じものがハイエンドカードのGeforce GTX TITANには15個搭載されているが、処理速度が異なるだけで、できることは同じだ。
下田氏は「Unreal Engine 3」でのモバイル向け開発について「PC版からシェーダーやテクスチャーなど多くのものを削る必要があった」というが、Tegra K1では全く違い、PC版とほぼ同じものが動作するという。これは従来、GPU機能の違いのために他と隔絶されていたモバイルゲーム開発における重大なパラダイムチェンジと言える。このあたりは実際のデモで見ることができたので次節でご紹介しよう。
解像度を絞れば PS3やXbox 360と同等以上? 高品質映像がグリグリ動いていた
さてこの日、会場にはTegra K1の実機が用意されており、実際のデモを見ることができた。このマシンは現在Tegra4を搭載して発売中の「Tegra Note 7」にフルHD液晶とTegra K1を搭載したもので、なんと世界でも数台しかないという超レアモノ。この日のデモを終えたらすぐに他の国に回さないといけないということで、矢戸氏がおっかなびっくり色々なデモを見せてくれた。
まず、「Unreal Engine 4」の実証デモとして示された一連の室内シーン。このデモでは物理ベースの万能シェーダーに基づくグラフィックスが表示されており、ポストエフェクト式のアンビエントオクルージョンや、事前計算式のGI、相互反射、リアルタイムの映り込み処理などまさに次世代機水準の映像が描画されている。
動作パフォーマンスはシーンによってまちまちだが、低いところで10fps程度、おおむね20~30fps程度で動作していた。解像度はフルHDで負荷が高いようだが、瞬発的な入力が伴わない非アクションゲーム向けであれば十分に実用圏内という印象だ。
NVIDIA謹製の「FACE WORKS」デモでは、最新シェーダー技術のデモでおなじみのおじさんの顔がリアルすぎるほどに描写。これはハイエンドPC向けのバージョンをほぼそのまま持ってきたものだということだが、人間の皮膚が持つ半透明層の質感を再現する表面下散乱のシェーディングが実装されており、OpenGL ES 3.0相当のレンダリングと切り替えると質感の違いが歴然としている。
具体的なゲームのデモとして紹介されたのは、フィンランドのデベロッパーFrozenbyteによる横スクロールパズルアクション「TRINE 2」のTegra K1版。PC向けバージョンをわずか6週間で移植完了したものとのことだが、デスクトップPCでプレイするのとかわらない高品質の映像が動作していた。
ゲームを進行していく際、フレームレートがたまに不安定になるシーンがあったが、そうでないシーンではおおむね30fps程度は確保している印象。描画解像度は1,280×720ドットとのことだが、Xbox 360やPS3などではこれよりも実効解像度が低いゲームも少なくなく、同様に解像度を絞り、さらに最適化をかければ据え置き機水準かそれ以上の品質・パフォーマンスで動作してもおかしくない。
Tegra K1はすでに量産が開始されており、今年前半のうちには具体的な搭載デバイスがお目見えしそうだとのこと。昨年登場して話題をさらったNVIDIA謹製のゲームマシン「SHIELD」についても、NVIDIAとしては「新たなTegraには、新たなSHIELDを用意する」というスタンスを崩していないとのことで、今年中にTegra K1版の登場を期待してよさそうだ。
据え置きゲームマシンに匹敵するパフォーマンスと、次世代機に匹敵する映像品質を持ち、アプリ開発も容易となるTegra K1。モバイル端末の基準を引き上げるにとどまらず、Androidベースのゲームマシン「OUYA」や「M.O.J.O」のような小型据え置きマシン、またその他のゲームハードへの展開が期待できそうだ。