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LenovoのゲーミングPC参入の狙いを聞く

ノートにGPUを追加できる? 夏に向けて新製品も展開

Lenovo本社にて収録

 レノボ・ジャパン(Lenovo)が昨年12月に発売したノートPC「IdeaPad Y500」は、同社として初のゲーミングPCとして登場した。さらに今年3月12日には、デスクトップPC「Erazer X700」を発売。ゲーミングPC業界に本格参入することを発表した。

 Lenovoと言えば、日本では「ThinkPad」ブランドで知られるメーカー。その質実剛健なデザインに長年のファンも多いが、ゲーミングモデルとなる「IdeaPad Y500」や「Erazer X700」は、それとは異なる系譜の製品ということになる。

 Lenovoはこれらの製品で何を狙っているのか。Lenovoでコンシューマーデスクトップ製品を担当する藤井宏明氏にお話を伺った。

グラフィックスの拡張性も備えたゲーミングノート「IdeaPad Y500」

レノボ・ジャパンでは初となるゲーミングPCを任されている藤井宏明氏

――まずは「IdeaPad Y500」の特徴を教えてください。

藤井宏明氏:弊社のコンシューマー向けのノートPCの中ではフラッグシップに位置するモデルです。弊社のノートPCには、エントリーモデルのGシリーズ、スクリーンが360度回る「IdeaPad Yoga」、UltrabookのUシリーズなど色々あるのですが、3万円台で購入できるGシリーズがボリュームゾーンになっています。そのイメージを覆すべく、ハイエンドなものに力を入れたのが、「IdeaPad Y500」です。

――具体的な構成はどのようなものですか?

藤井氏:CPUにCore i7を搭載し、NVIDIAさんのGeForce GT 650Mを搭載しました。ゲームだけの用途を想定しているわけではありません。ハイスペックなノートPCをお探しの方にこちらを提案していきたいと考えています。ゲーム向けのデザインとしては、ノートPCのキーボード部分が赤く光っています。またスピーカーはJBLのものを搭載し、今選べるものの中では1番のものを選んでいます。

――キーボードは光るとはいえ、ゲーミングPCとしては真面目なデザインですね。

藤井氏:過剰に凝ったデザインにはしていません。通常のゲーミングPCをお求めいただく方にもお求めいただける、幅広さを持った製品だと思います。

――発売から4カ月ほど経ちました。売れ行きはいかがですか?

藤井氏:良くも悪くも細々と売れています。もともと爆発的に売れることを見込んでいるわけではないので、こういうものを望まれているお客様に必要な数だけお届けできていると思っています。

――やはり今まで御社のノートPCを所有されていた方が、よりハイスペックな製品が欲しいということで購入されているのでしょうか?

藤井氏:そうですね。今までこういったものがありませんでしたので、そういった方にお届けしています。また弊社にはThinkPadの製品群もありますが、こちらはやや値段が高いので、2台目でスペックが高いものが欲しい方や、誰かにプレゼントされる方など、いろんな形が想定されます。

ブラックで統一された質実剛健なデザインはThinkPadに近いイメージがある

――ThinkPadには堅牢なイメージがありますが、これもそういう部分を受け継いでいるところはありますね。

藤井氏:設計は、ThinkPadは日本の大和にある研究所、IdeaPadは中国となります。基本的にはキーボードのデザインなどもThinkPadと共有する部分もありますので、DNAは受け継ぎつつ中国でデザイン・製品化しているという感じです。

――製品のアピールポイントはどの辺りでしょうか?

藤井氏:キャッシュ用の16GB SSDを搭載しています。HDDに読み込みに行く前に、SSDに情報をストックしたものを見に行くという形でスピードを上げています。ほかにはウルトラベイというものがあります。光学ドライブが取り外せるようになっており、追加でビデオカードを挿せるようなオプションもあります。海外では販売していますが、日本では初めてゲーミングに対応できるPCとして出していることもあり、まだ販売していません。今後はそういった付加価値の高いものを展開していくことも検討しております。

――ノートPCで後からグラフィックスを強化できるのは面白いですね。他にストレージの追加なども可能なのですか?

藤井氏:グラフィックスの強化や、HDDの追加など、自由に使えるものになっています。最近は光学ドライブより他のものがあったほうがいいと言うお客様も多いので、こういったものをご用意しています。日本ではまだ本体が少なく、オプションを陳列棚に載せるほどの規模ではないので、もう少し浸透して要望が大きくなれば検討したいと思います。

水冷やオーバークロックなどを備えたドイツ発ゲーミングPC「Erazer X700」

レノボ・ジャパン初のデスクトップ型ゲーミングPC「Erazer X700」

――「Erazer X700」については発表会も行なわれましたが、改めてご紹介いただけますか?

藤井氏:こちらはLenovoで独自に開発したわけではなく、2年前に買収したドイツのMEDIONという会社が持っていたラインナップの1つです。それを日本向けにカスタマイズして、製品化しました。MEDIONは欧州でシェアが高く、ドイツではナンバーワンです。しかしアジアや北米も含め、欧州以外では全く認知されていませんので、日本展開もテストマーケティングに近いような形です。日本はゲーム大国ですので、そこでどのように売れていくのかを見るため、実験的に商品化したものです。

――スペックはどうなっていますか?

藤井氏:無難にいろんなゲームが楽しめて、価格が高くなり過ぎないというところで、1番ボリュームが出るこなれたゾーンのスペックを選んでいます。CPUはCore i7-3820、ビデオカードはGeForce GTX 660で、ゲームをやるには必要十分なものを選択しています。1番大きな特徴は、内部に水冷ユニットを搭載しているところで、かなり静かな音でゲームを楽しめます。水冷を使うとものすごくCPUが冷えるというイメージを持たれるのですが、どちらかと言えば静音性に重きを置いてユニットを選択しています。

――こちらはドイツのMEDIONがデザインしたものを、中身を日本向けにカスタマイズした商品ということでしょうか?

藤井氏:はい。MEDIONでデザインされた筐体は、中世の騎士をモチーフにしたもので、LEDのライティングを施して近未来なアレンジにしています。内部構成については、中国にもデスクトップのチームがあるので、日本と中国、ドイツのメンバーで決めています。

――パーツの選び方が面白いですね。CPUは最新世代ではなく、1つ前のものをあえて使っているようですが、これは何かこだわりがあるのですか?

藤井氏:日本で初めてゲーミングPCを発売するに当たり、何か不具合があるものを出してしまって、LenovoのゲーミングPCの印象を悪くしてしまうというのは、あってはいけないことです。安定して実績のあるものを選択するという形で、1世代前のCPUを使っています。

「Erazer X700」の最大の特徴とも言える水冷ユニット。CPUを静かに冷却する

――構成においては水冷ユニットも目立ちます。こちらはErazerブランドで、長く水冷を使ってきたという実績があるそうですね。

藤井氏:Erazerには空冷のものもありますが、「X700」というモデルではずっと水冷を使ってきました。ここも実績があるところで選択しています。

――CPU周りでは、オーバークロックボタンがありますね。これはとてもユニークな機能だと思いますが、本来はCPUの保証外の動作になるものです。それをメーカーとしてサポートするというのはチャレンジングなことですが、どういう判断でこれを決めたのですか?

藤井氏:これもErazerブランドでは実績のある機能だというのが1つです。ゲーミングPCは他のメーカーさんでも発売されていますが、デザインが過激なものはあっても、機能で差別化が図れるものはあまり見かけません。このオーバークロックの機能はLenovo、MEDIONのオリジナルということで、機能的な差別化をさせるという狙いで、こだわって選択しました。オーバークロックもテストをしていまして、過度なオーバークロックで寿命が早く来てしまうというものではなく、あくまで無難に使える範囲での設定にしています。

――それも欧州での実績を踏まえてということですね。

藤井氏:はい。先程の1世代前のCPUを搭載したというところもこれに絡んでいます。オーバークロックを搭載して動作保証をするとなると、十分にテストされたモデルを選ばざるを得ないというのが背景の1つとしてあります。

――そういった事情を踏まえて、オーバークロック機能を実現したわけですね。

藤井氏:ゲーミングPCを発売するに当たり、PCのゲームはとても綺麗で、今まで体験したことがないようなものが味わえるということを、Lenovoのブランドを通じて発信したいということを大きな目標として持っています。今までPCでゲームを遊んでいなかった方が、Lenovoのカタログを見た時、「これで『バイオハザード6』が遊べるのか」ということからこちらを選択いただけるというケースも考えています。そういった方に、オーバークロック機能を使うのにBIOS画面を開いて、どこを設定してと説明するのは、あまりに難しすぎます。オーバークロックボタンは、再起動は必要になるとはいえ、ボタンを押すとソフトウェアが起動し、倍率を選ぶだけでいいというのは、初めてゲーミングPCを購入される方でも使いやすいものになっていると思います。

自分で増設してくださいと言わんばかりの高い拡張性を持つケース

――私が実物を見て感じたのは、ケースの拡張性の高さです。メーカー製のPCは、買って壊れるまで使って終わりというイメージでしたが、こちらは前面や内部にドライブベイがいくつも用意されていたのが意外でした。

藤井氏:PCを自作されるような方でも、これがメーカー保証付きで買えるなら、さらにカスタマイズしてもいいと思っていただけるのではないかと感じています。あえて1番上のスペックを選ばなかったのは、既に何かパーツをお持ちで、こちらをカスタマイズのベースに使っていただけるならいいかなという思いもあり、真ん中あたりの層を製品化したというのも狙いとしてあります。

――拡張性という点では、上部に拡張ベイがありますね。

藤井氏:USBと電源のポートが用意されています。「IdeaPad Y500」でビデオカードを増設するオプションがあったのと同様、ここにHDDなど外付けのオプションを付けられます。欧州ではオプション販売していますが、それを日本に持ってきて売るかどうかを検討しているところです。

――中を開けなくてもストレージを増設できる、という感じでしょうか。

藤井氏:ただ前面にもポートがありますので、果たしてこれ以上必要なのかという気持ちもあります。もう少し台数が出るようであれば、こういったオプションも展開したいと考えています。

――そういった特徴が色々ある反面、発表時には値段が高いという声がありました。現在は実売で約15万円になっていますが、価格についてはどう考えていますか?

藤井氏:価格が高いというのは我々も認識しています。これには為替が円安に向かっているのを考慮しています。販売開始前に、せっかく出すのだから売れないものを出しても仕方ないということで、2万円ほど価格を下げさせていただきましたが、それでもショップブランドのものと比べると数万円高いと思います。そういった他のメーカーさんは、為替が今のような円安水準になるずいぶん前に価格付けをされていて、今になって値上げもできないという苦しいところではないかと思います。

――それでも付加価値で押していける、という見通しもあると。

藤井氏:はい。弊社にとって利益が出せる正しい金額で、買っていただけるユーザー様を大切にしようということです。で、無理をしないでやっています。

発表会ではマッドキャッツとアイ・オー・データのデバイスが参考展示されていた

――あと発表会ではデバイスメーカーのマッドキャッツさん、アイ・オー・データさんと組んで展開されていましたが、キーボードやマウスが付属しないというのも特徴ですね。

藤井氏:ゲームを遊ばれる方が、キーボードやマウスまでLenovoのもので所有感が増すものなのかというのは疑問があります。やはり「バイオハザード6」を1番遊びやすいゲームパッドで楽しくやれるのがいいだろうというところから、このような形にしました。マッドキャッツさんの商品はユーザーから圧倒的な支持を得ていますので、1番いいものをコラボレーションする形で展開し、ユーザー様にもいい提案をしてもらえたと思ってもらえる形であれば、周辺機器をLenovoのブランドで売らなくても問題ないだろうと判断しました。

――しかしその2社の製品が、PCの販売と直結していないのが気になります。

藤井氏:弊社はいろいろな店舗様とお付き合いがありますが、その店舗様でマッドキャッツさんやアイ・オー・データさんの製品を取り扱っていないケースもあり得ます。そういう中で、各店舗のおすすめのものがあれば、それとErazerをセットにすることで、半ショップオリジナルモデルのようにしていただくことにしました。この組み合わせで「バイオハザード6」を遊べます、という売り方を各店舗で自由にできるんです、というところを営業に説明させています。

――あえてそういう風にして、ショップの自由にお任せしているわけですね。

藤井氏:実際にLenovoのキーボードをショップに持っていって、「これを付けて売れますか」と聞いてみたのですが、いくつかの店舗様では首を傾げられ、そのフィードバックを受けた上で決めています。店舗様が「Lenovoはキーボードもマウスもない変なものを出したな」と感じられることはないよう、事前にお話しさせていただいた中でやっています。

――オンラインでも販売されていますが、こちらはPC本体だけが届いてしまうわけですよね?

藤井氏:そうですね。そこは本体だけになってしまうので、オンライン上でアイ・オー・データさんやマッドキャッツさんの製品を一緒に売れるようにすることも、今後検討したいと思います。しかし弊社のストアにラインナップとして並べるのはシステム的な都合もあって難しいので、例えばバナーを並べるなどの方法で対応できないか、発表会の後から話し合いをさせていただいています。

(石田賀津男)