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PS Vita「英雄伝説 零の軌跡 Evolution」インタビュー
フルボイス化によって発生した問題とは?
(2013/3/25 13:40)
フルボイス化によって発生した問題とは?
――少々話は戻りますが、キャラアニさんが考える今回の「ゲームの肝」はなんでしょう?
平賀氏:肝となる部分は“音楽”と“ドラマ性”だと思いました。そこはあえて手を入れる必要がない部分。そこに新たに“声”を入れることにより、今までテキストで追いかけていた物語を耳でつかんでいけることが(キャラアニにとって)肝になるんじゃないかと考えましたね。
――ピラミッドさんはいかがでしょうか?
中野氏:基本はPSPからPS Vitaへの移植がベースなので、細かいところですけど、ボイスを入れるときに“ちょっとしたズレ”がないよう最大限注意しました。声が入るとなると、口パクがある。口パクしないゲームもあるのですが、「口パクを入れましょう」と話あって決めてやりはじめました。しかし、始めて気づいたのですが、日本ファルコムさんのゲームはテキストメッセージがでているときに表情が変わることがあるんです。
そうすると口の形もかわるので、そのぶんまた別の口パクを入れなければいけない。ワンパターンではなく、各表情の差分を作ることになります。目はにやけてるのに口だけ別だとユーザー的には変に感じますよね。日本ファルコムさんのユーザーさんって、1回エンディングを見たら次のゲームにいくのではなく、2度、3度とやって(細かい部分まで)覚えている。その時々の表情も記憶されているので、口パクもそれで変えないとダメなんだろうなと……。
日本ファルコムさんのゲームは、平賀氏がおっしゃられたように音楽などもいいんですが、ぼくは特にシナリオが凄く読み応えがあると思っています。開発初期、移植でアップグレードするならボイスがベストチョイスじゃない? と。そう決まるまでは早かったです。もう既に完成されたゲームなので、RPG操作をタッチパネルに置き換えるといったことはナンセンス。タッチやフリックなど、PS Vitaの独自機能はメニュー周りの操作やミニゲームに振りました。
――表情にあわせて口パクを用意するとなると、膨大な量になったのでは……。
中野氏:結構、膨大な量ですね。実際はアウトソーシングしたんですが、たぶん2~3人で。解像度が変わるので、顔グラフィックはすべて描き直す必要がありました。
――元のデータをもらって、いちから全部起こしているのでしょうか?
中野氏:そうです。
――ほぼ、いちから作っているようなものなんですね。
中野氏:いただいた元データをトレースして描き直さないといけない。表情差分の口パクも書き起こしました。お願いしたのが腕のいい方なので、日本ファルコムさんも認めてくれて。ただ、物凄い量でした。
松岡氏:表情の変化は、当初の計画になかった部分なので余計に大変でした。
中野氏:口パクと目パチを入れるにしても、「表情変えのときにしゃべっているけど、どうする?」と急になって。「いや、それは外注スタッフにお願いするしかないよね」といって「今からできますか?」って話になりました。それで、「何パターンありますか?」ってきかれて「メインキャラはひとり6パターンくらいなんだけど脇役にも表情変えがあって、登場人物は150数名……むにゃむにゃ」みたいな(一同笑)。
――ユーザーさんは、そうした部分に気づいて評価していただけたんでしょうか?
松岡氏:2012年2月の発表会で上映したPVはセリフと口パクが全然あっていませんでしたが、後日、口パクのタイミングがあったPVを発表したところ、お客様から「ばっちりしゃべってる!」という反応をいただけました。そこは凄く良かったなと思います。
平賀氏:比較するものがあったから、ということかもしれませんけどね。
――PSPだとわかりづらいかもしれませんが、PS Vitaの高解像度だからこそ伝わった部分でもあるかもしれません。そこはだいぶ苦労されたところですよね。
中野氏:逆に苦労してよかったな、というポイントでもありますよね。途中「……(無言シーン)」をどうするかという話はありました。プログラムで制御しているので、間があいちゃうと口があきっぱなしになるのを見つけて「これは良くないよね」、「どうやって直すんだ?」と。
松岡氏:役者さんは「……」の部分にため息や息を呑むなどの芝居をしているので、個別のチェックをどうするか。
中野氏:プログラムで制御するのか、手つけでやるのか。結局は両方でやるしかありませんでした。
――そこは、何度もプレイされるファンの方々には伝わるところですよね。
平賀氏:日本ファルコムさんとお話をして「凄いよね」ってお言葉をいただけました。ファンの方々にもよろこんでいただけた部分ではないかと思います。
――先ほどお話に出たミニゲームは、新要素のひとつです。そこで苦労されたことなどはありますか?
中野氏:そこに関してはPS Vitaの機能が先行してあって、それにあわせたゲームを作らなければいけない。それをどう世界観に落とし込むか。入れ方もあって、1度終わったらボーナスとしてミニゲームが遊べるようになるのか、ゲーム内にミニゲームを埋め込むのか。「零」で、街で買ったものを各キャラの部屋に飾れるというのがあったので、「ゲームを部屋に埋め込むのはどうだろう?」、「どういうものがあるかね」と考えました。
モーションセンサーと背面タッチは“玉転がし”がすぐ出たんです。最初は鞠みたいなのを転がしていたんですけど「これ別に『零の軌跡』じゃなくていいじゃん!」って。どうやったら『零の軌跡』らしくなるか悩んでいたとき、日本ファルコムさんとキャラアニさん、どっちがいったか覚えてないんですけど「ミッシーを入れればいいじゃん!」みたいな感じになって。グラフィックスを起こして作った、という感じですね。
――新機能をあえて使わないという手もあるかと思うのですが。
中野氏:でもやっぱり、ユーザーさんが初めてPS Vitaを触るとなったとき「あっ、このハードウェアはこんなことができるんだ!」というのも喜びにつながるんじゃないかと思いました。でも「ゲーム本編をPS Vitaのインターフェイスでやってくれ」といわれたら、うちは断るくらいの勢いでした。
――移植に際してはPS3という選択肢もあったかと思いますが、なぜ携帯機を選ばれたのでしょうか?
平賀氏:日本ファルコムのお客様がPSPについていらっしゃったんです。既に何十万人ものお客様が遊んでおられるので、それであれば携帯ゲーム機で作ったほうが“なじんでもらいやすい”んじゃないかと。据置機でも良かったのかもしれませんが、さすがにちょっと怖かった。タイミング的にPS Vitaになりましたが、まずは携帯ゲーム機と考えました。
――PSPでは2枚組でも入らなかった?
中野氏:入らないですね。たぶん入りません。
平賀氏:PSP「空の軌跡」が2枚組なんですよね。PSPでは初だったかな? 日本ファルコムさんからは「『空の軌跡』よりも膨大な容量です」とお話をうかがっていたので、ボイスを入れたら絶対に入らないなと最初からとらえていましたね。
――シリーズのファンに、あらたにPS Vitaを購入してもらわなければならない。そのあたり葛藤があったと思うのですが?
平賀氏:「軌跡」シリーズのお客様は、若い方々が多いんです。中高生には負担かなぁと思いつつ、PSPでは入りきらない。そこは葛藤がありました。
――完成後「ここはもう少し入れたかったな」といったことはありましたか?
平賀氏:「碧の軌跡」にあった機能を「零の軌跡」に、というのもちょっと考えたんです。でも、そうするとプログラムを大幅に変えなければいけなくなるので、それは次回に……。あとは「ここもしゃべらせたかったな」とか。音楽も新曲を入れて74曲なんですけど、アレンジ以外にもオリジナルを入れて聞き比べができたらよかったな、とかあとで思いましたね。
――単純に容量が倍になってしまいますが。
平賀氏:そこはちょっとまぁ……やってみたかったな、という感じくらいですかね。