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【特別企画】思わず大人も欲しくなる魅惑の「トミカワールド」の世界!

開発者、遠藤氏・流石氏インタビュー。大人のこだわりに満ちた子供向け商品

 4つの作品の各ギミックを楽しみ、解説を受けてからさらに突っ込んだ質問や、開発者のこだわりを聞くため、タカラトミービークル事業部トミカグループトミカ開発チーム係長の遠藤優希氏と、トミカ開発チームエキスパート流石正氏話を聞いた。子供向け商品に活かされる大人のこだわり、そして「車が走る風景の描写」という“テーマ”に対し、両氏はどのようなアプローチを行なっているのだろうか。

タカラトミービークル事業部トミカグループトミカ開発チーム係長の遠藤優希氏
トミカ開発チームエキスパート流石正氏
「トミカ峠やまみちドライブ」のトンネル。ピカピカの新しさではなく、古そうなデザインがこだわりの部分
ステッカーには漢字も使われていて、子供では読めない場合も。大人に説得力をもたらす要素であり、子供も“リアルさ”を感じられる仕掛だ

――まず最初に遠藤さん、流石さんのトミカにおける担当分野を教えてください。

遠藤氏: 私はトミカの担当になって15年以上になります。トミカ(ミニカー)自体の企画開発から「トミカワールド」の様な大きな商品まで様々なものを手掛けています。様々な商品の企画から商品になるところまで全体的に関わっています。

 トミカは1970年に生まれてから、基本構造は変わっていませんが、車種ラインナップは常にアップデートされています。 現在トミカは140車種発売されていますが、例えば「No.2」と番号がつけられていても2代目、3代目の新しい車種に変わっているんです。

 そして、トミカはサイズが統一されていて、車体を支えるサスペンションの機能やドアなどの開閉ギミックなどのアクションを搭載していたりと、どのトミカにも魅力を持たせています。 現在までの歴史の中で、車種は800種類以上のモデル。累計販売台数が5億6,400万台以上となっています。縦列駐車をすると地球を1周してしまう計算です。

 「トミカワールド」に関しては、取り上げていただいた「高速道路にぎやかドライブ」、「トミカ峠やまみちドライブ」の両方を手掛けました。今回紹介していない他の商品もたくさん手掛けています。その年その年で色々な商品をやっていますね。

流石氏: 私はトミカの担当になってからは8年になります。「トミカワールド」の他、オリジナルメカが活躍する「トミカハイパーレスキュー」というシリーズも担当しています。

 「トミカハイパーレスキュー」は2006年から始まったシリーズで、通常のトミカとは異なるSF的な雰囲気のある様々なメカが登場し、大型の商品も展開しています。トミカは昔もSF的な商品を展開していたのですが、2006年ごろは東京消防庁で「ハイパーレスキュー隊」と呼ばれる消防救助機動部隊が登場し、話題を集めたんです。現実のハイパーレスキュー隊に憧れる子供達に向けて、トミカでもレスキューチームをテーマにしたシリーズを立ち上げました。

 トミカは対象年齢は3歳なのですが、「トミカハイパーレスキュー」シリーズはもう少し上の子供を対象にしたいという意図があります。キャラクター性を強調していて、大型の商品は合体変形や、電動ギミックなどを内蔵しています。トミカの通常サイズのものをレスキューチームのフィギュアとセットにした商品も販売しています。

――「トミカワールド」では「高速道路にぎやかドライブ」がその後のシリーズに大きな変化をもたらした、とのことですが。どのように変わったのですか。

遠藤氏: 「高速道路にぎやかドライブ」をきっかけにトミカの遊びが新しく広がった、というところがあります。それまでのトミカはごっこ遊びが中心でした。トミカを手で動かして、自分が運転しているつもりになったり、あるいは自分自身が車になった気分でおもちゃの街の中を走っていました。また、襖の敷居(レール部分)や畳の縁を道路に見立てて走らせたりもしていました。

 その中で「トミカを自動で動かせたい」というのは定期的に企画として上がっていました。これまでも車体にモーターを仕込んでみたり、別の動力を組み込んでみたのですが、どうしても専用の車が必要になってしまった。しかし、子供達が持っているトミカをそのまま動かしたいと考えたのです。トミカはお求め安いミニカーのですので、兄弟のお下がりや、ちょっとしたご褒美などでももらえる。是非子どもたちが持っているトミカで遊べるものを作りたかったんです。

 そして以前にもトミカをジオラマの道路上を走らせるということはやっていたのですが、「高速道路にぎやかドライブ」はトミカで初めて“走行し続ける”ということを可能にしました。スイッチを入れていればずっと車が走り続けます。

――ずっと走らせると言うことに当たり、道路のカーブやバンクの角度などはかなり試行錯誤をなさったと言うことですが。

遠藤氏: 試作品を作って、とにかくひたすら走行試験を繰り返して試しました。 手作りで、ひたすらアナログな調整を繰り返します。 トミカは様々なものがあります。バスやトラックを走らせる場合もあるし、もちろん新車ばかりではなく、何度も手で走らせて遊んでいたものを走らせることも想定しています。

 このため、様々な車種で試し、結果を見ながら例えば「高さは0.5mm、角度は0.2度変えよう」といった試作品の調整を繰り返しました。こうして蓄積した技術は、その後の商品に活かされました。それと共に、お客さまから「トミカを巡回させる」ということに関して好評価をいただけた、というのがその後の開発へと繋がっていきました。

流石氏: テストに関しては、実際に子供達に遊んでもらうモニタ試験も行なっています。「トミカ博」などのイベントで実際に遊んでもらうことに加え、社員の知り合い経由で子供を募集し、試作段階の製品を触ってもらい、子供達がどう遊ぶかを見ることもやっています。

 タカラトミー本社近くの保育園に実際に持って行って、子供達に遊んでもらうということもやっています。「トミカ シティパーキング」の車をせき止め、一気に流すギミックなどは子供達の遊び方からヒントを得て盛り込んだギミックです。

――そうやって試行錯誤を重ねて開発し、ヒットに繋がったトミカを循環走行させるというコンセプトが、「トミカ峠やまみちドライブ」に繋がっていくわけですね。

遠藤氏: そうです。「トミカ峠やまみちドライブ」では“高さ”を持たせ、アップダウンを激しくし、カーブも色々な曲がり方をさせています。“かっこよく、長く走っていられる”ということを目指しました。トミカを色々なカーブで走らせる、ということにこだわりました。トミカを手で押して離すと、まっすぐは走るけれども、ステアリングは切れない。だから自動でくねくねと曲がる動きをさせたかったんです。そのために山道を取り上げたという部分もあります。

 コース製作、オブジェクトの抽出は何度も実際に運転して取材に行ったり、助手席やリアシートから子供と同じ目線で見て行なっていきました。シートを倒してチャイルドシートに近い視点で見たりしています。

 そして「トミカが似合わない情景やイメージは取り入れない」ということも鉄則にしています。例えば、すごいスピードで射出して、空中をジャンプさせるとか、ジェットコースターのように速い速度で坂を下らせるとかは、子どもたちが体験する車やドライブの感覚からかけ離れてしまう。トミカを自動で走らせているときは子どもたちが車の中にいることをイメージしていますので、“リアルなドライブ感”を重視した作りにしています。

――流石さんは「トミカビル」のリニューアルを担当なさったわけですが。過去に大ヒットした作品をどう作っていくか、というのもハードルの高い課題だったのではないでしょうか。例えば、音声や発光などの方法もあったと思うのですが、“動き”にこだわった作品となっていますね。

流石氏: “定番商品”として、その時代、その時代で少しずつでも変えていかないと新鮮さは失われていきます。動きにこだわったのは、遊びの中心となるのはあくまでミニカーであるトミカだからです。ミニカーによる遊びの楽しさにフォーカスしていこうということでギミックを作っていきました。音声や発光も子供は好きですが、「スーパーオートトミカビル」に関しては、トミカの動きにフォーカスしました。

 1番のこだわりは螺旋の部品を使ったエレベーターです。様々な車がきちんと並んで、子供に側面を見せながら登っていく。一方ビル内を回っていくところは「トミカビル」のシルエットを踏襲しながら、ビルを走る速度や安定性をもたらすバンクの角度などでこちらも試行錯誤を行なっています。こちらも板を貼って色々な車を走らせ設計しました。過去のものに比べ、ここも進化している部分です。

――ステッカーの密度や情報量も増している印象を受けました。

流石氏: 「高速道路にぎやかドライブ」などはジオラマ系で、現実に目にするものを凝縮して作っていますが、「スーパーオートトミカビル」や「トミカ シティパーキング」はギミックそのものはあまり現実的でない部分も取り入れています。そこでステッカーでショッピングモール風にしたり、現実感を増すようにしています。

――これまでは循環走行させることにこだわった作品でしたが、「トミカ シティパーキング」はあえて“手で遊ぶ”ということにフォーカスしたとのことですが。

流石氏: 店頭で子供達が「トミカワールド」に触れるとき、他の子達と触るためか自動で動いているものを見るのではなく、それぞれが積極的に手で走らせるんです。それを見て「子供は自分で遊びたがる」ということを実感しました。もちろん技術的に1番のボタンを押すと、自動で1番の駐車場に車が入るといった事はできるのですが、あえて子供達の手でやれるようなギミックを盛り込みました。加えて、「トミカワールド」のシリーズに手で遊ぶ要素が必要だとも感じていました。

 ステッカーなどは時代によって変わっていきます。1時間200円という駐車料金なども時代での価値観です。給油所もセルフのものになっています。建物にヘリポートがあるのも今風です。トミカにはヘリコプターの商品もありますが、「トミカワールド」ではこれまでヘリコプターで遊べる要素がなかった。ヘリポートはラベル1個の工夫ではありますが、好評です。

 「トミカワールド」は建物にたくさんの駐車場や走るところがあると、トミカをコレクションしたくなる。ヘリポートがあると、ヘリコプターのトミカが欲しくなると言うところもあります。渋滞遊びもトミカがたくさんあるとできる楽しい遊びですね。

進化していくトミカワールド。子供達が重視するのは“リアルな世界観”

トミカのタイヤのホイールは共通したデザインとなっている。「このタイヤをはいてこそトミカだ」というこだわりを持つファンも多いという
流石氏が担当している「トミカハイパーレスキュー」。SF的な要素のあるキャラクター性を強めたブランドだ
サーキットを再現し、トミカが速いスピードでコースを巡回する「トミカびゅんびゅんサーキット」

――今後トミカでチャレンジしたいことは何ですか。

遠藤氏: トミカワールドの進化だけでなく、色々な車種をトミカにしていくことに挑戦していきたいと思います。究極の目的としては世の中にある車全てをトミカにしたいと思っています。 また、トミカ遊びの枠を広げるきっかけのひとつとして、「ドリームトミカ」シリーズが新登場します。「ポケットモンスター」、「マリオカート7」、「ハローキティ」などの人気コンテンツとコラボレーションした商品も展開し、子供だけでなくトミカに触れることが少ない大人や女性にも楽しんで欲しいと思っています。

――女性でも車に詳しい人は増えましたよね。

遠藤氏: トミカでも女性からこだわりの意見を寄せていただけることが多くなりました。「うちの車がトミカになっているのは嬉しいんだけどボディカラーが違って残念」とか、「グレードが同じだともっと嬉しい」とか細かい部分での声があって「もっとみなさんに喜んでもらうためには何ができるだろう」と改めて考えさせられることも多いです。

 42年前、トミカが誕生した時、日本の手のひらサイズのミニカーは外国産ばかりでした。トミカの原点は子供達が普段目にする、日本の街中で走っている車やあこがれの車で遊べるようにしたい。というところにあります。これを基本に、もっと楽しく、もっといろんな遊びを提案していきたいと思っています。それこそ、最初はキャラクターグッズのように買って頂き、トミカであることを意識されない、というきっかけでも良いと思うんです。その延長でトミカを知ってもらえれば良いなとも思っています。

流石氏: 去年は「カーズ」でトミカ製品も好評だったんです。男女問わず「カーズ」のトミカを購入していただきました。このことで、トミカとキャラクターのコラボレーションが持つ可能性が見えてきたな、ということもあって、「ドリームトミカ」に繋がったところもあります

――トミカの作りをチェックすると窓枠や、車体のスジ彫りの細かさなど、作りはかなり進化している印象があります。対象年齢3歳以上となると、ここまでこだわらなくても良いのかな、と思う部分もあるのですが。この“実車感”を追求し続けているのはどうしてですか。

遠藤氏: トミカは誰が見ても、そのモデルになったクルマと同じクルマに見えなければならないからです。 トミカを見たときに実車と違うイメージを与えてしまわないように、気づかないくらいの精密さでデザインをアレンジしたり、できる限り細部まで再現していることで、実車感を感じて頂けているのではと思います。

 ある自動車メーカーにいわれたんですが、自動車って2つの面があると言うんです。1つはどんどん動かしやすく燃費が良くなる“使いやすさ”の方向へと進化していく文明と言える側面。もう1つが“乗って楽しい、色々な思い出が増える”という文化の側面です。今の時代は文明が先に行ってしまって、文化が薄くなってしまっているのではないかと。自動車が憧れの乗り物から、道具の側面が強くなっている。我々としては憧れという方向がもう一度見えてくるきっかけがあって欲しい、と思っています。

 実車を生み出す現場の開発の方の中には「うちもトミカですぐ商品化されるような、カッコイイ車を作れ」と檄を飛ばす方もいるそうです。トミカを発売するときに、メーカー担当者から「本当に嬉しいです」と声を掛けられたこともありました。とても光栄だと感じました。

―― 流石さんは最近はどのようなことに取り組まれてますか。

流石氏: 最近は「トミカハイパーレスキュー」をメインで担当しているので、このシリーズをもっとメジャーにしていきたいと思っています。「トミカワールド」に関してはもっと色々な“動き”を見せる方向もあると思っているんです。現在もギミックの研究は重ねています。

 らせん状のパーツを回転させて平坦なコースを走らせる「すいすいロード」や、高速で打ち出してサーキットを巡回させる「トミカびゅんびゅんサーキット」なども出ていますが、まだ「高速道路にぎやかドライブ」のような“ターニングポイント”といえる大きな変化は起こせていない。何らかのターニングポイントを生み出したいと思っています。

――個人的には「すいすいロード」を見てとても感心したんです。トミカを平坦な道路で動かそうというアイデアはこれまでのトミカの常識を打ち破るものだと思ったんです。しかしクリスマスでの売り場を見ると、今回紹介されているものの方が大きく紹介されていたり、ユーザーのニーズというのは改めて難しいなと感じました。改めて子供達がトミカに求めているものって何だと思いますか。

遠藤氏: 子どもたちの遊びの中心になるのはトミカ(ミニカー)そのものです、「トミカワールド」で電動で走らせたり手で転がしたりしてもいいし、自分が主役になって「ごっこ遊び」をしてもいい、たくさんのトミカを集めてカッコよく並べて眺めても良い、とにかく、自分の想像に合わせてあらゆる遊びができることが人気を集めているのではないかと思っています。

 また、親御さんから見た“安心感”も大事なポイントではないかとも思っています。「スーパーオートトミカビル」、「トミカ シティパーキング」は親御さんが子どもだった頃にその先代商品を持っていて、それで遊んだ時の楽しさを知っているから子供に与えて頂ける、ということもあると思います。 男の子はホビーを趣味にしない場合、徐々におもちゃ屋さんから足が遠のいていくものの、自分の子供ができて再び訪れる場合も多い。その時に子供時代に遊んだおもちゃと同じもの、リニューアルされたものがあると嬉しいですよね。親御さんの楽しかった思い出を呼び覚ませるというのも大事な魅力だと思っています。

――シンプルなパーツ構成などは伝統も感じさせます。一方で、このジオラマなどは現在のトミカのようにリアルな方向性で作るのもありなんじゃないかと思うんですよ。「大人向けトミカジオラマ」という商品もありでは?

遠藤氏: その方向性だと、ちょっとマニアックなものになってしまうかもしれません。トミカはあくまでも「おもちゃのミニカー」です。 ガラスケースに入れて綺麗にコレクションしていただくというのも嬉しいのですが、やはり塗装がはげ、ボロボロになるくらい一生懸命子供達に遊んで欲しいという想いを持っています。子供達にいかに楽しい思い出を持ってもらうか、ここにこだわっていきたいと思っています。トミカの存在意義は「子供達が安心していつでも楽しめる身近な商品」にあると思っています。

 その中で、おもちゃではあるものの、こだわりというか、親御さんにも注目して頂きたいという要素も入れています。トミカ自体のリアルさはもちろんですが、「トミカワールド」の看板デザインや、パーキングでの料金表示、交通標識など「こんなところまで再現しているのか」と親御さんがうなってしまう要素も必ず入れています。 昔のトミカを知っている親御さんがご覧になった時、その進歩に驚いて頂ける要素もたくさんあります。

流石氏: トミカの対象年齢は3歳ですが、私は個人的にもう少し対象年齢を引き上げた楽しさを提供したいと取り組んでいます。キャラクター性、ストーリー性を持たせた「トミカハイパーレスキュー」や、レース場を再現した「トミカびゅんびゅんサーキット」などで、小学校低学年くらいまで、「ミニカーからの卒業」をできるだけ遅らせたいというテーマには取り組み続けています。年齢の幅を広げていきたいなと思っています。

 また一方で、子供向けでも「現実感」というのはすごく大事なんですよね。無機質なパーツを組み合わせ、からくりじかけのように色々な動きをトミカがする商品を作ったことがあるのですが、これはうまくいかなかったんです。子供心にも「現実にはない要素」というのは受け入れてもらえないんだな、ということがわかりました。世界観というのはだからこそ注意を払っています。「トミカワールド」はパーツ構成はシンプルで、おもちゃ的な外見ですが、きちんとリアルを感じさせる要素を込めているんです。

――では最後にトミカファンへのメッセージをお願いします。

遠藤氏: この記事をご覧の読者の方は、一度はトミカで遊んで頂いたことがあると思います。その後いろんな趣味をお持ちになって楽しんでいらっしゃると思いますが、ぜひ機会があれば、もう一度トミカを見て欲しいです。今のトミカはこんなに凄いんだ、と思っていただけると思います。

流石氏: トミカはアナログな遊びですが、だからこそ触ったり、実際に転がせるという楽しさがあります。その楽しさを何歳になっても忘れずに、遊んでいただきたいなと思います。

――ありがとうございました。

(勝田哲也)