セガネットワークス執行役員事業本部長岩城農氏インタビュー
開発者の挑戦心を満たす環境で生み出されるコンテンツ
G-STAR2012で、セガはBtoBスペースで「ファンタシースターオンライン2」と、セガネットワークスのコンテンツをアピールしていた。
セガネットワークスは、セガのネットワーク事業の収益力強化を目的に今年の7月に設立されたセガの100%子会社。スマートフォンやタブレットPCをはじめとしたスマートデバイス向けに、セガの開発のノウハウを活かしたコンテンツを、グローバルに展開している。
セガネットワークスは「キングダムコンクエスト」や「ミクフリック」など様々なコンテンツをスマートデバイス向けに展開している。さらにポケラボとソーシャルゲームの「運命のクランバトル」の開発を行なうなどこれまでのセガにはない動きも見せている。様々なメーカーがスマートデバイス向けコンテンツを出していく中で、独特の戦略を感じさせるメーカーである。
今回セガネットワークス執行役員事業本部長の岩城農氏に話を聞くことができた。セガネットワークスのこれからの展望、海外への展開はどのようなものだろうか。
■ ソーシャルゲーム、Free to Playなど、トレンドの手法を研究しながら、セガならではのゲームを
セガネットワークス執行役員事業本部長の岩城農氏 |
BtoCのSKテレコムのブースでは、セガネットワークスのタイトルが出展されていた |
ポケラボとの協業で開発した「運命のクランバトル」 |
――最初に岩城さんのセガネットワークスでの役割を教えてください。
岩城氏: セガネットワークスは事業、開発、経営の3部門制というシンプルな形で組織を編成しています。私はその中で事業のトップを担っています。グローバルにセガネットワークスの事業全体を見ていく立場で、マーケティング、編成、運営企画、また先の3つに開発も含めた各部隊を支援する各種システム開発を行なう部隊などが含まれます。セガネットワークスは運営の開発と企画をわけていて、量産できる体制を作り、海外展開なども含め、効率を意識した組織編成をしています。
世界市場に日本のタイトルを輸出する際も私の責任下で行なっており、ローカライズなどを見ています。セガネットワークスはグローバルにスマートデバイス市場を捉えて経営を行なう形をとっています。
――今回韓国での出展を行なったのは?
岩城氏: セガは昨年はBtoCでの出展を行なっています。今年もBtoBに出展したのは、韓国におけるプレゼンスを示していきたいと考えたからです。私達にとって韓国市場は欧米の市場と同等に大事だと考えています。
昨年ようやく韓国のApp Storeでゲームカテゴリーが登場し、市場が大きくなりました。韓国はFree to Play(基本プレイ無料)というビジネスモデルの本場だと考えています。また日本と同じワールドの中でユーザー同士が競い合うような運営が設計できる点も、韓国市場を重要視する理由の1つです。ここは「キングダムコンクエスト」の運営で実感を得ました。弊社にとってBtoB での出展は、デベロッパーとしてだけではなく、パブリッシャーとして、韓国市場での存在感を示していきたいと考えたからです。
――その中でセガネットワークスが韓国で現在展開しているタイトルはどのくらいですか。
岩城氏: 現在は「三国志コンクエスト」がメインで、韓国語にローカライズしています。
――セガネットワークスの公式ページで紹介しているタイトルは、ゲームクリエイターがゲーム性を追求したコンテンツを出している、という印象を持ちました。そういったゲーム性がしっかりしたタイトルをパブリッシングしていく上で気をつけているところはどこでしょうか。
岩城氏: 私達セガグループの強みは1,000名を越えるゲーム開発者による、ゲーム性のしっかりした作品を作ることができることだと思っています。サウンドエフェクト、グラフィックス、ストーリー性など、弊社が培ってきたノウハウをスマートデバイス向けゲームにも盛り込み、いかに多くの方に対してサービス利用していただけるかが重要だと考えています。
一方で、とことんまで手軽にすることで間口を広くしたソーシャルゲームが受け入れられている現状があり、私達はまだそこが足りない。このためポケラボさんとの「運命のクランバトル」、サイゲームスさんとの「サカつくS」などで協業を行ない、ノウハウを学んでいくということを積極的にやっています。
こういった流れはこれまでのセガではなかったことです。協業は短期的に収益をもたらす効果があることに加え、ノウハウの吸収という長期的な利益をもたらしています。
――ソーシャルゲームのヒットは、これまでゲームにあまりふれなかったユーザーや、ゲーム性をあまり求めないユーザーを取り込めたところから大きなヒットとなった、という見方もあると思います。一方でゲームクリエイターにとって、「ゲームサウンドすらない、画面をタッチするだけで進んでしまうコンテンツは、本当にゲームなのか?」という葛藤も生まれている。この葛藤は開発者に限らず、ゲームをサービス・販売していく人達も同様で、日本のゲーム関係者全てが直面している課題だと思います。その中で、セガネットワークスが出すコンテンツはゲーム性にこだわっていきたい、という考え方なのでしょうか。
岩城氏: そうです。ただ、ソーシャルカードゲームが切り開いてくれた新しいゲーム市場、そして切れ味の良いゲームとビジネスモデルの形は認め、学んでいかなくてはいけない。非常に幅広いお客さまに利用していただけるようにできるハードルを下げた手法、続けて遊んでいただけるノウハウ……ここにセガならではのゲーム性を盛り込んでいきます。
例えば「運命のクランバトル」は、開発スタッフの多くはセガからポケラボさんに勤務地を一時的に移させていただいて作ったタイトルなんです。“プチ転職”といえる形になりました。「運命のクランバトル」は現在の勢いに乗っているソーシャルゲームの手法と、私達が培ってきたゲーム開発のノウハウが生み出した、1つのマイルストーンだと捉えています。もちろんポケラボさんとはこれからも協力していき、新しいマイルストーンを切り開く事を目指して行きます。
――「運命のクランバトル」は韓国でもサービスする予定のタイトルですね。
岩城氏: 今回は「運命のクランバトル」、「バーチャテニスチャレンジ」をSKテレコムさんのブースで出展しています。韓国はキャリアさんのショップも人気で、キャリアとの密接な繋がりも求められます。
またゲームに関しては、できるだけ同じ場所で遊んでもらいたいという考えのもと、同一サーバーで日本や韓国、欧米の市場の皆さんに遊んでもらいたいと思っており、「運命のクランバトル」でも日本と韓国のプレーヤーが場を共有できるようにしていきたいと考えています。
一方で、韓国市場は「これからだ」と感じさせる部分もある。それはまだ韓国のオンラインゲームメーカーさんで、大々的にスマホ市場に参入していないところもあるからです。Free to playのノウハウを持つメーカーさんならではのゲームが韓国のスマホ市場に投入されるという未来には脅威を感じています。韓国のオンラインゲーム市場は私達がリスペクトするところでもあり、学ぶところも多いです。
――韓国でのセガネットワークスさんの具体的な成績、というのはどうでしょうか。
岩城氏: 具体的な数字は出せませんが非常に好評です。「三国志コンクエスト」も多くの方に楽しんでいただき、現在の国内の手法は韓国ユーザーの皆さんにも評価されるんだという実感を得ています。ここから日本でしっかりサービスしているものを、数カ月でローカライズ・カルチャライズを行なって出していきます。日本で年末に投入されたタイトルが、年明けに韓国で遊べる、という形です。かなりいいペースで投入できるのではないかなと。
セガはいくつもの開発スタジオを持っています。その複数のスタジオがこれまで仕込んできたものが、これから具体的な形になっていきます。私達はソーシャルゲーム専用のスタッフを用意するのではなく、現在のセガのスタジオが市場に合うものを作るように働きかけています。他の会社さんとは違う取り組みですが、コンテンツ開発スピードという視点で負けていないし、ゲーム性の追求、新しい領域への開発者の挑戦心を満たす環境という点でリードしているという自負も持っています。
――一「運命のクランバトル」のように韓国の開発者と協業してのタイトル展開は考えていますか。
岩城氏: まだ予定にはありません。韓国市場に関しては、セガが良質なスマートフォン向けコンテンツを作る会社であるという認識を韓国にも持ってもらいたい。まずはそこからだと考えています。
――例えば韓国でライバルだとみているタイトルはありますか。
岩城氏: 韓国のスマートデバイス向けコンテンツには、デバイスの特性を生かした面白いコンテンツがあるな、と感じていますが、「キングダムコンクエスト」のようなゲーム性を持ったタイトルは多くなく、パズルゲームのような手軽なタイトルが主流なように見受けます。これからより豊かなゲーム性をもったタイトルがたくさん出るのではないかと考えています。現在カードゲームに関して韓国国内でも好評ですが、純韓国産タイトルというのは出ていない。この点についてもこれからだという印象です。
上はBtoBコーナーで出展されていたタイトル。下はSKテレコム内で、右下は「運命のクランバトル」をイメージしたコンパニオン |
■ 開発者それぞれが、取り組んできたテーマに沿った形で、新しいゲームの形を生みだす
岩城氏は積極的にセガネットワークスの強みを語った |
ミクらしさを競う「初音ミク ライブステージ プロデューサー」 |
片手でできるMMORPG「クエプラ」 |
――次にセガネットワークスさんの日本での展開を聞いていきたいと思います。セガネットワークスの今後のラインナップを見ると、本気でスマートデバイス向けに取り組んでいるなと感じます。ソーシャルゲーム、セガならではのコンテンツ、キャラクターの魅力にフォーカスしたもの、新しい試みを感じさせるものまで、実に多彩ですね。
岩城氏: セガネットワークスはまさにスマートデバイス向けコンテンツに“本気で取り組むため”に設立されました。私は1年前から会社設立の準備を進めていましたが、「セガらしいFree to playのコンテンツを出す」というのはその時から提示され、セガ全体がその強みの源泉であるセガの開発に期待するという形でこれまで進めてきました。
例えばセガの大きな強みとして「アーケードゲーム」があります。アーケード分野が持つIPが実はスマートデバイス向けの素材として、非常に魅力があるのです。そしてアーケードゲームを支えてくださっているお客さまがいるというところも当社の大きな強みです。そのお客さまにどこでも楽しめるコンテンツを提供していこう、というのがスマートデバイス向けのコンテンツラインナップにおいて、大きな柱となっています。
――確かに、一瞬でコンセプトを提示し、まず触ってもらって面白さを実感してもらうという間口の広さ、プレーヤーのハードルを低くする、という意味ではアーケードゲームのノウハウの蓄積は大きいですね。アーケードゲームとスマートデバイスの親和性というのは、納得できる部分があります。
岩城氏: セガネットワークスのコンテンツ開発の強みは、セガの開発者がそれぞれの部署、スタジオから離れることなくスマートデバイス向けコンテンツ開発に取り組める点にあります。IPが生み出された環境そのままで、新しい試みを行なっているのです。もちろんセガネットワークスでは「キングダムコンクエスト」のようにスマートデバイスに特化した新しい形の組織作りも行なっていますが、既存のセガの資産を活用する場合に、無理にスタッフを従来の組織から引きはがし、スマートデバイス向けのコンテンツを作る、ということはさせていません。
素晴らしいな、と私が思うのは、開発陣がスマートデバイスコンテンツへの取り組みを嫌々やっているのではなく、それぞれがこれまで取り組んできたテーマに沿った形で、新しいゲームの形を生みだそうとしているところです。自分たちが手塩に掛けて育ててきたIPをより幅広いユーザーに提供するためにどんな方法があるかを模索する事ができている、という現状があります。
そして一方で、Free to playで重要なものとして“運営”があります。お客さまの声を聞きながら、ゲームをサービスしていくというのは多くの開発者がこれまで体験していないことでもあり、こちらのフォローは運営側でしっかりしていく。新しいゲーム提供の形ができつつあると感じています。
私はグループ内の開発者に優秀な人材が揃っていると確信しています。彼等優秀なゲーム開発者がFree to playという新しい形に対して見識を蓄える時間、取り組む時間を得られた場合、面白いゲームを作ることができないわけがない、と思っています。そして実際に出てくるタイトルもとても面白いものが揃っています。
――そういった体制の上で生み出される、最新作はどういったものでしょうか。
岩城氏: 「キングダムコンクエストII」ですね、前作にあたる「キングダムコンクエスト」は日本、欧米で多くの支持をいただいたタイトルで、セガネットワークスの方向性を決めたタイトルの1つです。カードコレクションゲームという側面に加え、深いゲーム性も盛り込んだデザインが多くの方に評価いただけました。私達のタイトルはゲーム性も重視したものになっており、その方法論の正しさを信じさせてくれたのが、「キングダムコンクエスト」だと思っています。
「キングダムコンクエストII」は、前作から全ての点をパワーアップした作品となります。また、「初音ミク ライブステージ プロデューサー」、「クエプラ」といったタイトルがあります。「クエプラ」は片手でプレイできるMMORPGとして注目してもらいたいタイトルです。それら以外にも「デーモントライブ」など複数のジャンルで深いゲーム性をもつものを提供していく予定です。2013年1月~2月までに5本ほどのタイトルを投入していきます。
――これらのタイトルのグローバル展開はどういったものになりますか。
岩城氏: 韓国、欧米を中心に展開していきます。ゲームそのものはもちろんのこと、運営も非常に大事なのです。したがって、まずは1つの地域で展開し、そのタイトルにあった運営のノウハウをつかんだ上で、他の地域に合わせたサービスを行なっていくという形になります。タイトルの傾向としても、日本向けのタイトル、海外で人気を得られるタイトルは変わってくるでしょうし、マーケティング戦略も大きく変わってきます。
――このインタビューでセガネットワークスさんに興味を持ったユーザーに触れてもらいたいタイトルとしては、どういったものがあるでしょう。
岩城氏: 8月に「ダービーオーナーズクラブ」のサービス提供を開始しています。セガのオンライン事業としては強い思い入れを持ったタイトルである一方“重い”という部分もある。とはいえ、その重さ、本格的なところこそがセールスポイントです。スマートデバイスで本格的な育成シミュレーションが楽しめます。「三国志コンクエスト」は9月にアップデートを行ない「三国志コンクエスト 群雄争覇」となりました。武将カードの増加や遊び方を増やすといったパワーアップを遂げています。
そして先ほども上げたこれからのタイトルにも期待してください。年末から年始にかけて、様々なコンテンツを投入していきます。「初音ミク ライブステージ プロデューサー」のAndroid版は現在オープンβテストを行なっています。テストではフルパッケージが体験でき、ライブのコンテスト部分では、服装や振り付け、曲の選択からバックグランドまで、「初音ミクらしさ」を追求していく内容になっています。テストを行なうことで、発売時には更に良い作品になると考えています。
また、「クエプラ」も片手で遊ぶことができる育成型RPGの決定版として大きな期待を寄せていますし、とにかく多くの良質なタイトルをすぐお客様の手元に届けるができる予定です 。
――初音ミクというか、ボーカロイドというのは本当にユニークな存在で、これがミクである、と厳密に設定されていない部分がある。打ち込むことによってどんな歌もどのようにも歌えるのがボーカロイドなのに、「ミクらしさを競う」というコンセプトはとても面白いですね。
岩城氏: 対戦ではミクらしさを追求していきます。プレイヤーそれぞれが求める初音ミク、というものを追求したカスタマイズも可能です。
――では最後に、セガネットワークスさんから、日本のユーザーに向けてのメッセージをお願いします。
岩城氏: 皆さんが時間を惜しまずに夢中になってもらえるコンテンツをしっかり作っていきます。そしてスマートデバイス向けのコンテンツですから、どの場所で遊んでも連続性を持って楽しめるものにしていきます。これから続々と出していきますので、ご期待ください。
【キングダムコンクエストII】 | ||
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前作から全ての要素をパワーアップするという「キングダムコンクエストII」。今冬サービス予定 |
【初音ミク ライブステージ プロデューサー】 | ||
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初音ミクをカスタマイズしていく「初音ミク ライブステージ プロデューサー」。2012年秋サービス予定 |
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(2012年 11月 12日)