【CEDEC 2012】グリーセッションレポート

今後はさらなる“UX”向上と海外ローカライズが鍵


8月20日~22日 開催

会場:パシフィコ横浜


 「CEDEC 2012」の最終日にあたる8月22日は、グリー株式会社によるセッションが1日を通して行なわれた。ソーシャルゲームも今では隆盛を極め、DeNAとグリーが他の企業を抑えて「CEDEC 2012」の2大スポンサーとなっていることからも、大きな産業になっていることが理解できるだろう。

 この記事では、グリーの考える今後のトレンドを予測した「グリーにおけるモバイルソーシャルゲームのUXの今とこれから」と、GREE Platformを利用して海外市場に進出する際のポイントを紹介した「10億人ユーザーへ。ソーシャルゲームで世界に感動を!」と題された2つのセッションの模様をお送りする。グリーが捉えるソーシャルゲームの行く先を、端末のスペック向上や海外の事情と合わせながら追っていくセッションとなった。



■ 新たな“ミッドコアユーザー”層の存在。鍵は「エモーショナルデザイン」

メディア事業本部クリエイティブセンター部長の樺澤俊介氏
メディア事業本部クリエイティブセンター プロダクトデザイングループの細川菜々恵氏
グリーの示すUX向上のための5つの指標

 まずご紹介するのは、「グリーにおけるモバイルソーシャルゲームのUXの今とこれから」から。登壇したのは、メディア事業本部クリエイティブセンター部長の樺澤俊介氏とメディア事業本部クリエイティブセンター プロダクトデザイングループの細川菜々恵氏。

 セッションタイトルにあるUXとは、グリーが志向する「GREEプロダクトのユーザーエクスペリエンス(=UX)」という概念のこと。グリーの考えるUXには5つの指標があり、それぞれ「迷わない」、「ミスしない」、「快適である」というグループと、「たのしさ」、「没入感」という2つのグループから成り立っている。

 この内「迷わない」、「ミスしない」、「快適である」の3つは「普通と言えば普通のこと」だが、GREEのタイトル全体で“UIのガイドライン”(GREE UI ガイドライン)を設定することで、普通であるがゆえにゲームの基礎となっている部分を共有し、一定の品質をしっかりと保とうという意味を持っている。

 そもそもGREE UI ガイドラインが設定される要因となったのは、「探検ドリランド」や「釣りスタ」などのグリーのタイトルがそれぞれUIの設定に頭を悩ませていたのを見た樺澤氏が、「それならば、成果の出ている点や課題の解決をガイドラインにまとめた方がいい」と考えて制作に乗り出したものだという。

 ガイドラインには、文字の大きさから押し間違いの少ないボタンの大きさや間隔、メニュー画面のデザインなどが記載されている。各プロダクトはこのガイドラインに沿ってUIのデザインを作れば、個別に検証するコストを省きながら一定の整合性や機能性、クオリティなどを保てる。

 懸念されるのは、タイトルがガイドラインに縛られて創造性が失われるという可能性だが、ガイドラインに記載するのはあくまで汎用的に利用できるもののみで、迷った場合はプロダクトの事情を優先することとしてこれを避けている。あくまで個別に検証する必要のない部分に注目したガイドラインとなっている。現在はグリー内部向けのガイドラインだが、将来的にはサードパーティーにも配布する予定だという。

 こうしてできあがった基礎の上に、「たのしさ」と「没入感」が加わることで、グリーの目指すUXが達成される。樺澤氏は「たのしさ」と「没入感」をまとめて「エモーショナルデザイン」と呼び、「なんだか気持ちいい」と感じたり、「なんだかワクワク」したりという感情を喚起させることがこれからは重要だと話した。

 ソーシャルゲームのプラットフォームはフィーチャーフォンからスマートフォンに変わり、スマートフォンでも3Dゲームが遊べるようになるといった変遷を辿っている。またユーザー側にも、本格的なコンソールゲームよりはあっさり、カジュアルゲームよりはがっつり遊びたい「ミッドコアユーザー」という層が登場してきており、ミッドコアユーザーのニーズを満たすためには、エモーショナルデザインが肝要になる。

 そのためには、今後はより一層「コンソールゲーム開発者の経験と感性が必要」だと感じているという。樺澤氏は、「まだWebアプリのシステムとコンソールゲーム開発が上手く融合していないのではないか」として、「融合した時に、ソーシャルゲームは進化するのでは」語った。


UIガイドラインの具体例は細川氏から語られた。押し間違いの少ないボタンの大きさや間隔など、ソーシャルゲーム制作で1度は壁にぶつかる問題を、創造性に影響のない範囲で制作されている
樺澤氏はソーシャルゲームの変遷を自転車からスポーツカーに例えて話した。ではこの先戦車や飛行機になって、コンソールゲームと同じ様にコストの問題が出てくるのではないか? ということについては、「それはまた別の機会に」と話した
Adobe Airを使ってリッチなアニメーションをする「MONPLA SMASH」の実機プレイも紹介された


■ まるで「自国で作ったかのような」ローカライズを推奨

メディア事業本部Japan第1スタジオマネージャーのエミリオ・ガジェゴ サンブラノ氏
開発本部 Japan Studio統括部 第1プロダクション部マネージャーの松倉友樹氏

 もう1つのセッション、「10億人ユーザーへ。ソーシャルゲームで世界に感動を!」には、メディア事業本部Japan第1スタジオマネージャーのエミリオ・ガジェゴ サンブラノ氏と開発本部 Japan Studio統括部 第1プロダクション部マネージャーの松倉友樹氏が登壇した。

 サンブラノ氏は、初めに市場予測として2015年には携帯電話の販売数が12億台を突破し、市場も35億ドルから40億ドルに拡大するだろうと話した。また世界の地域で見ればスマートフォンによるインターネット接続はラテンアメリカで約4倍、北米で約2倍になると述べ、今後の世界市場はさらに成長することを改めて確認した。

 このセッションでの本題は、世界市場を分析した結果、グリーが実際に行なった施策や留意すべき点などを紹介することにある。売上規模で主要な市場となっているのはアメリカで、続いて日本、ドイツ、中国、イギリスなどとなっている。言語もそれだけ拡大しているが、ランキングに食い込むアプリの場合、ローカライズされているアプリはスペインで93%、イタリアで80%、フランスで73%、ドイツで67%と、ローカライズ版のリリースは一般的となっているため、グローバル展開を目指すにはローカライズが不可欠だとサンブラノ氏は分析した。

 ただし、単純に言語を直すだけでは留まらないのがローカライズの難点で、中国語でも簡体文字にするのか繁体文字にするのか、ポルトガル語はブラジルとポルトガル地域のどちらにするのか、スペイン語はラテンアメリカ/米国とスペインのどちらに合わせるのかなどといった問題がある。「コンソールゲームでは分けるケースが多いようだが、費用対効果で考えるべき。例えば、テクスチャーで作ったテキストを減らす、性や数を必要とする仕様を避けるようにするといった対策が挙げられる」とサンブラノ氏は話した。

 またリリースフローについても注意が必要で、日本では法務のチェックなどをこなせばすぐにリリースできるが、グローバル版ではリリースまでに倫理の観点からのチェック、法務チェック、市場に合わせたプラットフォームの選定、多言語化システムの構築、通信距離を決めるデータセンターの置き場所の考慮などの対応が必要となる。

 ゲームのデザインについては、「Limbo」などのスクリーンショットや海外のインディーズゲーム事情などを例に挙げながら、「海外ではゲームにアート性が求められているのでは?」と、海外が意識する“ゲーム”を考えることも促した。

 実際にローカライズを行なった例として、アニメ調からリアルなものへと大きくビジュアルを変更し、海外がイメージする“海賊”に変更したた「海賊王国コロンブス」や、ガチャ部分に神社とおみくじのモチーフが登場する「釣りスタ」では、“泉にコインを投げ込む”というモチーフに変更した、などが挙げられた。

 サンブラノ氏は最後に、海外で成功する鍵として、「ゲームが自分の国で作られたかのように遊べることが大事」と述べ、ローカルユーザーへの配慮が重要であることを強調した。


大きくビジュアルを変更した「海賊王国コロンブス」をはじめ、グリーではローカライズについても率先して実践している
松倉氏からは、「フィーチャーフォン文化がないため、そもそも縦にスクロールするという概念がなかった」などといったE3での経験談から、世界規模での通信時間の遅延状態などが紹介された

(2012年 8月 22日)

[Reported by 安田俊亮]