「GREE Platform Summer Conference 2012」パネルディスカッションレポート
海外市場は5兆円?! 海外事業展開とトップクリエーターが見据える“発明”
グリー株式会社は8月3日、GREE Platformに参入するゲームメーカーを対象にしたゲームカンファレンス「GREE Platform Summer Conference 2012」を開催した。この記事では、この中で行なわれた2つのパネルディスカッションの模様をお伝えする。
なお同日に開催された「GREE Platform Award - The first half of 2012 -」では、2012年上半期に優秀だったアプリ17タイトルが表彰された。殿堂入り以上のラインナップは以下の通りとなる。RPG最優秀賞を受賞したカプコンの「モンハン探検記 まぼろしの島」が新たに加わったほかは、最優秀賞以上は3月に発表された2011年のアワードと顔ぶれはほぼ変わっていない。
受賞アプリは全17タイトル |
・殿堂入り特別表彰(Master of GREE Partner's Game)
「ドラゴンコレクション」(コナミデジタルエンタテインメント)
・殿堂入り
「FIFAワールドクラスサッカー」(エレクトロニック・アーツ)
・総合大賞
「クローズxWORST~最強伝説~」(コナミデジタルエンタテインメント)
・恋愛ゲーム最優秀賞
「王子様のプロポーズforGREE」(ボルテージ)
・シミュレーションゲーム最優秀賞
「デジモンコレクターズ」(バンダイナムコオンライン)
・RPG最優秀賞
「モンハン探検記 まぼろしの島」(カプコン)
■ 巨大な市場進出も「王者として迎え撃つような気持ちで」
グリー マーケティング事業本部Creative & Consulting Groupシニアマネージャーの屋島新平氏 |
オルトプラス代表取締役の石井武氏 |
gumi代表取締役社長の國光宏尚氏 |
エイチーム取締役エンターテインメント事業本部長の中内之公氏 |
ドリコム取締役の長谷川敬起氏 |
まずご紹介するのは、「ソーシャルゲームのグローバル展開」と題されたパネルディスカッション。司会役にグリー マーケティング事業本部Creative & Consulting Groupシニアマネージャーの屋島新平氏、パネリストに株式会社オルトプラス代表取締役の石井武氏、株式会社gumi代表取締役社長の國光宏尚氏、株式会社エイチーム取締役エンターテインメント事業本部長の中内之公氏、そして株式会社ドリコム取締役の長谷川敬起氏が登壇し、これから海外へと進出するソーシャルゲームの戦略と可能性を探っていった。
ディスカッションに先立って、屋島氏から日本市場と海外市場の違いの現状が説明された。ここで述べられたのは、世界で2位の日本の市場規模に比べて、1位となる米国の市場規模は約4.5倍、英語圏全てを含めると約15倍と巨大な市場であること、日本では1タイトルあたりの課金率がほかの国の市場と比べても突出して大きく、日本型のモデルが米国の市場をさらに伸ばす可能性を秘めていること、その一方で、日本ではゲームジャンルはカードバトルが主流となっているが、米国ではジャンルのシェアにもバラつきがあり、そこにギャップがあることなどが挙げられた。
市場環境が述べられたあと、「近い将来のソーシャルゲームはどうなるのか?」という質問に口火を切ったのは、國光氏だった。國光氏は、「急激な成長期は緩やかになって、どこかがトップを取っていくのではないか。日本はカードバトル以外のジャンルを切り開いていけるかが大事で、このまま頭打ちになるか、もう1段階伸びるかが変わると思う」と話した。
さらに國光氏は今まで自らが掲げてきた「打倒Zynga」という目標に触れ、「Zyngaが落ちてきてなんか違うなと感じているので、そろそろ止めようかな(笑)」と話すと、「ゲームの利用時間がモバイルに移ってきている中で、Zyngaはモバイルに対応できていない。カジノに手を出してみたり、迷走しているなという感じ。私たちは激しかった市場を乗り越えてきているので、勝つ方法などは見えてきている。規模も我々の方が大きくなっているし、日本勢の方が一気に市場を作っていける。日本のコンシューマーゲームの市場規模は世界では10~15%だったので、ソーシャルゲームの日本の市場規模が4~5,000億円だとすると、世界では5兆円以上の規模になる。この5兆円をこれからの3年~4年で作っていく。シリコンバレーに挑戦、というよりは、王者として迎え撃つような気持ちで臨みたい」と口調を強めながら語った。
また「ローカライズはどこまでやるか?」という質問については、石井氏は「制作中の海外向け『バハムートブレイブ』では、言語以外のローカライズはしていない」と話した。「Webベースのアプリは色々なフィードバックをもらってどんどん直していける」ところが特徴であることから、日本で最適化したゲームバランスを、テストマーケティングとしてカナダとオーストラリアで出すことで、結果を見てからチューニングを考えたいという。
一方で、ダークファンタジーを主題にしたカードバトル「ダークサマナー」を海外と日本の両方でリリースしたエイチームの中内氏は、「日本も北米も両方捨てきれないほど市場が大きい」こと挙げ、どちらに対しても自らが判断でき、また戦えるクオリティを保つために、ダークファンタジーというモチーフを選んだという。「ダークサマナー」については、中内氏自身「上手くハマった」と話した。
ドリコムは、カードバトル「陰陽師~平安妖奇譚~」を、海外市場向けに「SpiritForce」としてアメリカのApp Storeに配信している。長谷川氏によれば、最初のテストとして「思いっきり日本向けのまま海外にそのまま出してみた」そうで、結果として集客が難しいこと、しかし継続率などの数値的な面では日本とそんなに遜色ないことがわかり、「いい面と悪い面の両方学べた」という。
最後に、海外市場への進出に向けてそれぞれの抱負が語られた。石井氏は、「より多くのフィードバックをアプリに還元させることで、海外と日本の両方、1対1のウェイトでやっていきたい」と語った。中内氏は、「日本の運営力が海外に通用するはず。みなさんと切磋琢磨しながら、海外市場を席巻できればと思う」と述べた。
國光氏は、「日本は輸出産業が総壊滅状態になっている中で、日本の未来を考えると、海外で外貨を稼ぐにはここしかないのではと思う。どこか1社でも大きく名前を売ると、一気に景気づくのではないか。日本の内部で足の引っ張り合いをしていないで、5兆円の市場を狙って、日本を元気に、明るくできれば」語った。
長谷川氏は、「何十億人という人々にサービスを届けられるのは夢のある話だと思う。買い切りのソフトでは買えない人も出てくるが、フリーミアムなら世界の子どもに届けられるというよさがある。支援もいただきながら、自分たちのコンテンツをヒットさせるように取り組んでいきたい」と話した。
パネルディスカッションに先立って、海外市場の環境がおさらいとして述べられた |
■ 驚かせなくてはエンタメではない。「革新」が使命のクリエーター談義
グリー執行役員メディア事業本部長の吉田大成氏 |
コナミデジタルエンタテインメントエグゼクティブプロデューサーの兼吉完聡氏 |
gumi執行役員企画制作部長兼プロデューサーの今泉潤氏 |
スクウェア・エニックス特モバイル二部ジェネラルマネージャー兼プロデューサーの安藤武博氏 |
続いては、「業界を動かすトッププロデューサーの思考」と題したパネルディスカッション。ここではヒット作を世に送り出したプロデューサーを招き、それぞれの考え方からヒット作の成功の鍵を探る内容が議論された。
壇上では、モデレーターをグリー執行役員メディア事業本部長の吉田大成氏が務め、パネリストに株式会社スクウェア・エニックス特モバイル二部ジェネラルマネージャー兼プロデューサーの安藤武博氏、gumi執行役員企画政策部長兼プロデューサーの今泉潤氏、コナミデジタルエンタテインメントエグゼクティブプロデューサーの兼吉完聡氏が登壇した。
兼吉氏はカードバトルのはしりとなった「ドラゴンコレクション」を立ち上げ、今泉氏は「任侠道」をヒットさせ、安藤氏はネイティブアプリタイトルの「ケイオスリングス」シリーズや、「拡散性ミリオンアーサー」などでスクウェア・エニックスらしいスマートフォン用タイトルで好成績を上げている。
吉田氏がそれぞれに「ヒットタイトルを出すための3カ条」を問うと、安藤氏は「時代を切り取れるか」、「面白さをユーザーに1点でも届かせるためにどうするか」、「心の底から世界でナンバーワンになると言い切れること」を挙げた。時代を切り取る、というのは、どの人を起用し、どのような企画で、どのプラットフォームを使うか、という包括的な部分を指したもの。またゲームは「次に誰がどういう発明をするか」が面白さであり、その新しく面白いものを1点でもユーザーに届かせる仕掛けを何か用意することも重要になる。そして結局は、「世界で1番だ」という自信が最後にはヒットに繋がる。
「拡散性ミリオンアーサー」においては、ターゲットをアニメかライトノベルの好きな人、いわゆる「中二病」層に据えて、その人たちがカードを手に入れる楽しさが最高になるように狙ったのだという。例えば、「モードレット」は“強い”という認識を印象を与えるためにストーリーを盛り込み、イラストも「ライトノベル界のスーパースター」のBUNBUN氏に依頼したという。そのため、現在もターゲットにとって「最もカードを集めるのが楽しいゲーム」になっていると安藤氏は話した。
今泉氏は、前職はドラマ制作だったという変わった経歴の持ち主で、その時の感覚が活かされているという。3カ条は、「コンセプト」、「パッケージ感」、「情熱」だという。まずコンセプトがあり、そこにどういう要素を詰めていけば「パッケージ」として美しくなるかを考える。そして「情熱」を持ってコンテンツを愛せば愛すほど、「変な魔法がかかって」面白くなるのだそうだ。
兼吉氏は、「ゲームクリエイターとして大事にしていた所を変えること」、「スピード感」、「面白いものを作れるかどうか」だと話した。ゲームクリエイターのきっちりとした作り込みは逆に足かせになり、求められてないところにこだわったりしてしまうのに注意すべきだという。「スピード感」については予算の関係上、制作の仕組みを工夫しないと厳しかったという兼吉氏の実体験によるものだ。
3点目の「面白いものを作れるかどうか」について、吉田氏から「面白いものとは?」と追撃を受けた兼吉氏は、「人に伝えるのは難しいが……」としながらも、「ドラゴンコレクション」を例に挙げ、「今だとモンスターでカードゲームというのは当たり前のようだが、それまで誰もやっていなかった。そこに上手く目を付けられるかどうか」だと話した。
話が「今後作っていくゲームジャンルは?」という話題になると、安藤氏は「スクエニはドラマのあるものが要求されている」と話し、どんなジャンルにしても、ドラマを入れることになるだろうと話した。特に8月8日に配信される「乙女ぶれいく!」は、ギャルゲーなのにスクエニらしいドラマ要素が詰まっており、“っぽさ”を感じられるという。そのため、「あえてジャンルは絞りたくない」とも語った。
またライトなものは求めていない一方で、重厚長大になりすぎると予算も大きく抱え込むことになるので、何を諦めるか、「リッチだけどライトなもの」を目指したいという。ただし、そういったことを度外視して、「いかつい」ものを1本制作中だという。それは、「RPGだけど、ヒットしたらRPGの概念が変わっちゃうもの」だそうだ。
兼吉氏は、「イノベイティブなものにチャレンジしていきたい。形にとらわれず、新しいフィールドで、あっと驚かせるものを作りたい。新しいデバイスやスマートフォンの進化の特性を捉えて、どう発明するかだと思う。新しいことを作るのがクリエイターの使命だと思う」と語った。
兼吉氏の話に反応して、「それをやらないと本当にやばい」と危機感を述べた安藤氏は、全員が一斉にカードバトルを制作し、それしか作っていない現状に警鐘を鳴らした。「でないと、共倒れになる。『ドラゴンコレクション』も、『ビートマニア』も、出たときにはみんな驚いた。驚かせないとエンターテイメントじゃない。新しい遊びを考えていかないと、飽きられた瞬間に悲しい末路を辿ることになる」と厳しい言葉を放った。
安藤氏は、「カードやガチャで儲かった人達がいっぱいいると思いますが、今後どういったゲームを作ったらいいかわからないと思うので、僕に連絡をください(笑)。そうすることでシナジーが生まれると思います。儲けたお金をどこに投資するかというのが重要になると思いますが、面白いゲームを発明したいとなったらスクエニやKONAMIさんのノウハウが生きると思います。せっかく若い優秀なクリエイターがいっぱい出てきたので、そういうこともやっていきたいと考えています」と語った。
(2012年 8月 3日)