【CEDEC 2012】ディー・エヌ・エーが改めてソーシャルゲームを考える
ブラウザベースのゲームで海外市場を戦うための新ツール「PostExGame」も披露
当初は「CEDEC」にアウェー感が漂っていたソーシャルゲームも、家庭用大手デベロッパーの参入により、すっかり受け入れられた感がある。今年も多くのソーシャルゲーム関連のセッションが組まれているが、本稿ではその中から「CEDEC 2012」2日目に行なわれた2本のディー・エヌ・エーセッションをピックアップしてお届けしたい。
「そもそもソーシャルゲームとは何なのか?」はディー・エヌ・エーの取締役、小林賢治氏による講演。「スマートフォンソーシャルゲームの開発の今後」はディー・エヌ・エーのソーシャルゲーム事業部でデベロッパー向けのコンサルティングを行なっている水島壮太氏の講演。それぞれにソーシャルゲームの今後を占う上で興味深い話を聞くことができた。
■ コンプガチャ規制後だから考えられた、ソーシャルゲームブームの理由
ディー・エヌ・エーの取締役、小林賢治氏 |
ディー・エヌ・エーの取締役、小林賢治氏によるセッションは、今年の初夏にソーシャルゲームが物議をかもしたことをきっかけに、改めて「ソーシャルゲームとはなにか?」を問い直してみるというもの。ソーシャルゲーム市場は2008年には限りなく0に近かった。しかし、今年は3,400~3,500億円を超えそうな勢いで、家庭用ソフトの市場規模を超えることになる。
コンプガチャの規制でソーシャルゲームが批判の矢面に立ったにも関わらず、ディー・エヌ・エーが8月に発表した2012年4~6月期連結決算では、純利益が99億円と前四半期に比べて6%伸びた。ソーシャルゲームの売り上げはコンプガチャの廃止後も順調で、売上高は同11%増の475億円になった。
この結果を受けて、小林氏は「ソーシャルゲームは既存のゲーム市場を食っていると言われるが、そうは思わない。ユーザーのニーズには底堅いものを感じている。今回のことで、いったいソーシャルゲームがどのような形でユーザーに受け入れられているのか、改めて考えてみたいと思った」と語った。
小林氏はソーシャルゲームをまずは「ゲーム」と「ソーシャル」という言葉に分解して考えた。ゲームを「自身が介入することが可能なエンターテイメントで、介入に対して高速なフィードバックがある」ものと定義して、少ない時間で習熟度を上げることができるのがゲームの大きな要素だと語った。ソーシャルについてはまだ明確な定義がなく、現在ソーシャルサービスと言われているものと従来の掲示板やMMORPGなどとの境界は曖昧で、これはそう、これは違うと感覚的に分けられているにすぎない。
ゲームは「ソーシャル」性との親和性が高い。ファミコンやスーパーファミコンの時代には友達の家に集まってゲームを囲んでみんなで遊ぶという光景が一般的だった。ゲームにはコントローラーが2つついていて対戦や協力プレイをすることができた。その後ゲームセンターでは格闘ゲームブームが巻き起こり、全く見知らぬ他人と対戦をするという文化が生まれた。さらに任天堂の「ポケットモンスター」が収集、育成、対戦、交換というソーシャルカードゲームにも受け継がれている4つの要素を中心としたユーザ同士の交流を普及させた。
KONAMIの音ゲー「DanceDanceRevolution」は、魅せるプレイとギャラリーを生んだ。このプレイを見せるという考え方は、バンダイナムコゲームスの「戦場の絆」の筐体外についているギャラリー用のモニターにも受け継がれている。スクウェア・エニックスのMMORPG「ファイナルファンタジーXI」が大ヒットして、それまで敷居の高かったオンラインゲームを一般的にした。
既存のメーカーが家庭用やアーケード、オンラインで培ってきたこれらの文化が、今のソーシャルゲームを支える土台を作っていると小林氏は言う。それでは、家庭用ゲームの不振が続く中で、どうしてソーシャルゲームだけが躍進を続けているのか。それは時間概念の変化に原因があると指摘する。
Mobageのプレイデータによると、1日の平均的なログイン回数は5回で平均接続時間は約7分。この35分間は、朝の9~10時、昼の12~13時、そして夕方18時から24時の間に集中している。通勤、昼食、帰宅してからの家族サービスとそれぞれにやるべきことはあるが、そのちょっとした合間を縫ってログインしている。
もしこの35分間をまとめてとらなければ遊べないとしたら、テレビの時間か睡眠時間か、何らかの時間をトレードオフする必要が出てくる。それはユーザーへの負担が大きいと小林氏。トレードオフしなければならない場合、ユーザーはそこまでするべきものなのかと必ず考えてしまう。家庭用ゲームの場合は、ゲーム機のスイッチを入れてゲームを起動させ、セーブしていたデータを呼び出さなければならない。これでは、7分間では遊べない。
Mobageのユーザーには、昔はコアゲーマーだったが仕事をして家庭を持つと忙しくてゲームをする時間がなくなったという30代前後の“Exゲーマー”という層が多いそうだ。「彼らはゲームを憎んでやめた訳じゃないのです。そういう層のニーズにどう対応していくかが大きなテーマとしてあります」。
仕事の合間にちょっと遊ぶといえば、これまではテトリスやソリティアなど、1人で遊ぶゲームが大半だった。しかし子供の頃から対戦や協力プレイで友達と遊ぶという体験をしてきた人たちには、ちょっとした時間に誰かと遊びたいという別のニーズがあった。これまでニーズを満たすものがなかった場所にソーシャルゲームがすっぽりと収まったことが、わずか数年の間に数千億の市場を形成するほどの急成長の原動力になったのではないかと小林氏は分析した。
市場が大きくなるにつれてユーザーの目も肥えていき、ゲームに対する要求はどんどん厳しくなっていく。起動時間が少しだけ長いとか、表示に少しだけ時間がかかるとか、1つ1つは些細なことに思えても積み重ねていくことで結果に大きな差が出る。ユーザーの期待に応えるための作業をしんどいと思っていてば、ソーシャルゲーム事業は難しい。楽しみながら続けられるかどうかが、この事業で挑むべき1番の要素だと思う、とセッションを締めくくった。
■ 次世代ウェブソーシャルゲーム開発ツール「PostExGame」が作り出す新しいインタラクション
ディー・エヌ・エーのソーシャルゲーム事業部の水島壮太氏 |
「スマートフォンソーシャルゲーム開発の今後」というセッションでは、ディー・エヌ・エーソーシャルゲーム事業部の水島壮太氏が新しいスマートフォン向けの次世代開発ツール「PostExGame」の紹介を行なうとともに、ディー・エヌ・エーの今後の戦略について発表した。「PostExGame」は今年の5月に開催された「Mobage オープンプラットフォーム Forum-国内外、成長の方程式-」で発表されたもので、今回は初公開というムービーで処理の早さを実感することができた。
Mobageには現在ブラウザベースとネイティブアプリという2つの形式のゲームが混在している。ブラウザベースのゲームはフィーチャーフォン方式を踏襲したもので、プラットフォームの都合を気にせずに自由にイベントが打てる自由度の高さや、ダウンロードが必要ないお手軽さなどのメリットがある。また、ブラウザの違いはOSやキャリアの違いほどにはタイトではないので、クロスプラットフォームの展開がやりやすいという側面もある。しかし通信量に限界があるため、グラフィックスのクオリティに限界があり、ユーザーインターフェイスもどうしても単調になりがちだ。
他方、ネイティブアプリはリッチなデザインやユーザーエクスペリエンスを提供できるが、ダウンロードが必要だったり、アップデートのタイミングをコントロールしづらいなど、ブラウザベースに比べて敷居が高い。これまで、水島氏が相談してきた外国人は、ブラウザベースのソーシャルゲームは日本独自のもので海外では受け入れられないと口を揃えてきた。しかし、「神撃のバハムート」の海外ローカライズバージョン「Rage of Bahamut」が北米のApp Storeで1位を取るなど好成績をあげたことで、海外でもブラウザベースのソーシャルゲームが通用するという道筋が開けた。そのための武器になるのがJavaScript上で動くFlash Player「ExGame」だ。
Mobageのブラウザベースのゲームは、iOSなどFlashが仕えない環境では「ExGame」で動いている。もともとはFlashで作られたフィーチャーフォンゲームをiOSで動かすためのものだったが、8月15日にAdobeがAndroid向けのFlash Playerの配布を終了したため、Android向けにも使われるようになった。
ソースコードに3行追加するだけで動くというお手軽さが売りだが、フィーチャーフォンからの変換を優先しているためパフォーマンスを犠牲にしている部分があった。新しいFlash Player「PostExGame」は高速化を達成して、「ExGame」では露骨にFPSが落ちていたようなシーンでもストレスなく軽快な描画を可能にしている。デモムービーでは同じ戦闘シーンが倍以上のスピードで動くところや、複数のswfファイルを1つの画面で同時に動かしているところが紹介された。「PostExGame」には他にも起動時間が短いことや、JavaScriptから操作するためのAPIが豊富、複数のAPIを組み合わせる機能など「ExGame」にはなかった様々なメリットがある。「PostExGame」を使えば、swfとJavaScriptを組み合わせることで、動的なUIを持つスマートフォンらしいゲームを作ることができる。
現在はまだフィーチャーフォンとスマートフォンのユーザー数は半々で、フィーチャーフォンで使うFlash Light 1.1の再現率が非常に高い「ExGame」にも優位性がある。しかしフィーチャーフォンからスマートフォンへの移行は既定路線で、やがて完全にスマートフォンに移行する時期が来る。それまでの移行期間には「PostExGame」は「ExGame」の高速版という位置づけで少しずつ移行していき、最終的には「PostExGame」に完全移行していくというのが水島氏らが考えるロードマップだ。
そして、Flashは今後も使用していくが、これまでのようなプラットフォーム的な使い方ではなく、HTML5上のアニメーションの部品というポジションになっていくだろう、と言う。デモムービーでは、HYML5で動く3マッチパズルゲームのコマが、Flashでアニメーションしている様子を見ることができた。すでにサードパーティーには「PostExGame」が配布され、新しいゲームのアイデアを考えている。「ウェブでこんなことができるのかよ! というものを見せて欲しい」と水島氏は未来に期待を寄せた。
(2012年 8月 22日)