【Gamescom 2012】グリーブースレポート
グリーのヨーロッパ戦略と「Moshi Monsters」、「ASSASSIN'S CREED UTOPIA」など独自タイトルについて聞く
ソーシャルゲーム大手のグリーはGamescomに初出展を果たした。同社は昨年から大規模ゲームイベントへ積極的に出展しており、これで東京ゲームショウ、E3、ChinaJoyに続いて4箇所目。世界の主要なゲームショウを一通り網羅したことになる。
Gamescom 2012では、ユーザー向けのBtoCと、商談向けのBtoBの両方にブースを出展し、BtoCブースでは「Driland(探検ドリランド)」や「Fishing Star(釣り★スタ)」など同社が誇るラインナップを10タイトル以上プレイアブル出展し、BtoBブースでは、各種商談やメディア対応に加えて、リクルーティングの面接の場となっていたのが印象的だった。今回は、各担当者にグリーのヨーロッパ戦略について話を伺ったのでまとめておきたい。
ヨーロッパはまだこれからの市場と言うことで具体的な数字は一切出てこなかったが、目安となる数字としてはかつて欧米のユーザー数として同社が提示していた2.3億人がある。ただ、これも子会社によってカウントの仕方がまちまちで現在より正しい数字を再計測中だという。売り上げ比率についてはヨーロッパ市場は全体の1割に満たず、まだまだこれからのようだ。
事業戦略については、日本、北米に続く第3極として、両拠点に依存しない独自開発に重点を置いた戦略がユニークだと感じられた。また、GREE Platformが今秋対応を予定している14カ国語対応の恩恵を最も受けるエリアだと思われたが、実はそこまで必要性を感じておらず、英語中心の展開となっていたのも印象的だった。
【グリーブース】 | ||
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Gamescomはユーザーショウということもあるので単純比較はできないが、E3はもちろんのこと、東京ゲームショウを上回る集客を見せていた。直近の新規タイトルとしては、8月17日にグローバルでリリースしたばかりの「MONPLA SMASH」。グリーブースにもプレイアブルで出展されていた |
■ 今期中にヨーロッパで10タイトルを提供予定。「ヨーロッパからグローバルで受け入れられるタイトルを」
グリー執行役員メディア事業本部長の吉田大成氏 |
ドイツ語に対応していた「Gang Domination」。現時点ではほとんど英語のみの対応となっている |
まず最初に話を伺ったのはグリー執行役員メディア事業本部長の吉田大成氏。取材日は一般公開日初日で、「多くの人が来てくれてホッとしている」と語ってくれた。
グリーのヨーロッパ事業を統括する法人GREE UKは、意外にも2011年9月に設立したばかりでまだ1年未満の若い会社だ。ヨーロッパには、ロンドンとアムステルダムに事務所があり、ロンドンは主に開発を行ない、アムステルダムは新規事業の拠点とするという。共に現在リクルーティングをかけていて、開発拠点となるロンドンオフィスは、現在の20名から100名程度まで増やすことを考えているという。
現在のヨーロッパでの事業内容は、今年5月にスタートしたばかりのGREE Platformのグローバル展開を受けて、GREE Platformを介して自社タイトルや今年5月に子会社化した米Funzioのソーシャルゲームタイトルを提供している。フリートゥプレイによるアイテム課金ビジネスが中心で、広告モデルの構築はこれからだという。
言語についてはGREE Platformがプラットフォームレベルで14カ国語に対応するのは今秋からということで、現時点では基本的に英語版のみの提供となっている。多言語対応はGameloftなどサードパーティー側で独自に対応しているタイトルに留まる。
ただ、吉田氏によれば、ここドイツを含め、ヨーロッパで英語でゲームを遊ぶということに関して抵抗感のないユーザーが増えているということで、SNS側の多言語対応はGREE Platformの14カ国語対応と共にキッチリ行なっていくものの、ゲームの多言語対応についてはマーケットの状況を見ながら随時考えていきたいという。
ヨーロッパでのシェアやユーザー数に「まだまだこれから」というところで、具体的な数字は明かしてくれなかったが、日本ではパートナーのElectronic ArtsやGameloftのほうが大きな存在だという。ARPU(客単価)に関しては日本よりも低いものの、継続率に関してはすでに同等の数字が出ており、日本でのノウハウが生きているようだ。
グリーは、ユーザー動向をデータマイニングして、それを開発や運営に役立てることを強みとしているが、ヨーロッパ市場に関しては、まさにこれからの部分だという。現時点で明らかなのは、デザイン性の部分で北米市場と好みが明確に異なるという点で、「海賊王国コロンブス」はデザインを変えた上でリリースしているという。
今後の事業計画については、ヨーロッパから独自のタイトルをグローバルに向けて提供していく。すでに発表しているものでは、英Mind Candyと業務提携し、同社の人気モバイルゲーム「Moshi Monsters」のソーシャルゲーム版を2タイトルを今秋提供していく。ほかにも8タイトルを計画しており、全10タイトルを今期中に提供していくという。
吉田氏のタスクとしては、現在、全体におけるヨーロッパ市場の売り上げを、数パーセントから数十パーセントまで高めていくことだという。そのためには、自社タイトルを成功させることと、独自タイトルの展開によって、プラットフォームを拡大していくことが重要だという。
吉田氏は最後に「『Moshi Monsters』などのヨーロッパ独自のタイトルはグローバルでも受け入れられるように作っているので、欧州ならではのゲームデザインを多くの人に楽しんで貰えれば」とコメントしてくれた。
■ GREE UKの開発トップは元「モンハン」プロデューサーの田中剛氏
グリー メディア事業本部エグゼクティブディレクターの田中剛氏 |
続いて話を伺ったのは、メディア事業本部エグゼクティブディレクターの田中剛氏。コンシューマーゲームファンなら記憶している方もいるかもしれないが、田中氏は「モンスターハンター」シリーズや「デビルメイクライ」シリーズのプロデューサーを務めた生粋のゲームクリエイターだ。現在はロンドンオフィスの実質的な開発トップとして、吉田氏のいう10タイトルの開発指揮を執っている。
田中氏にはグリーブースを案内して貰いながら、中小の国家で構成されているヨーロッパ市場の複雑さについて話して貰った。
日本のユーザーとの好みの違いについては、日本や欧米よりレース系を好むという大まかな傾向は掴んでいるものの、細かい嗜好については国毎にまちまちで、今まさにデータをとっているところだという。感覚的にはこのGamescomがGREE UKとしてのローンチだと捉えており、このイベントでグリーを認知して貰えればということだった。
田中氏が携わっている新規タイトルについては、「Moshi Monsters」の2タイトル以外は話せないということだった。「Moshi Monsters」については、可愛らしいキャラクター性を活かしたシミュレーションゲーム「Moshi Monsters Village」と、カードバトルとパズル要素をミックスさせたカードゲーム「Moshi Monsters: Lost Islands」の2タイプを現在開発している。その他の新規タイトルについて、新たなゲームジャンルも積極的に試していきたいという。
田中氏が追い風に感じているのは、ヨーロッパの若いゲームファンに、スマートフォンでゲームを遊ぶことに抵抗感がないユーザーが多いことだという。ヨーロッパ市場はいまだに伝統的にPCゲームが強く、ゲームは自宅のデスクでやるものという保守的な考え方が根強い。そのあたりの感覚がここ数年で大きく替わってきていることを感じているという。
先述したとおり、GREE UKでは現在積極的に採用活動を進めており、その多くは開発スタッフになるという。田中氏はこれまでビザの関係から日本と英国を定期的に往復していたということだが、秋からは完全にロンドンに駐在し、ヨーロッパ独自の新規タイトルの開発に専念するという。日本で高い実績を残した田中氏の新作ソーシャルゲームに期待したいところだ。
【Moshi Monsters】 | |
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「Moshi Monsters」は映像出展のみだった。今秋に英語版のみでサービスを開始する予定 |
■ Ubisoftとの共同プロジェクト「ASSASSIN'S CREED UTOPIA」は、最新作「3」を補足する外伝的タイトルに
グリー マーケティング事業本部の溝手亘氏 |
グリーブースで参考出展していた「ASSASSIN'S CREED UTOPIA」 |
最後に話を伺ったのは、「ASSASSIN'S CREED UTOPIA」マーケティング担当の溝手亘氏。
「ASSASSIN'S CREED UTOPIA(アサシンクリード ユートピア)」は、現在グリーとUbisoftが共同で開発を進めているスマートフォン向けのソーシャルゲーム。グリーブースでは、同作が参考出展され、「ASSASSIN'S CREED」シリーズのトレーラーが繰り返し流されていた。残念ながら「ASSASSIN'S CREED UTOPIA」関連の素材はタイトルロゴだけで、ゲームジャンルについても未定のままだったが、リリース時期は12月と明記されていた。
このゲームで気になるのはやはりどういうゲームになるかというところだろう。溝手氏は、「グリーが得意とするソーシャルゲームの要素と、Ubisoftさんのオープンワールドアクションの要素をミックスさせた、皆さんが期待しているアサシンクリードになると思います」と自信たっぷりに語ってくれた。
ゲームの舞台となるのは現在開発中のシリーズ最新作「ASSASSIN'S CREED 3」と同じ18世紀後半、開拓時代の米国。しかし、時代設定は「3」より前で、直接的な関わりはなく、外伝的なエピソードに留まるようだ。また、PS3版やPS Vita版のような特定の主人公はおらず、プレーヤー自身が主人公と言うことだ。
ビジネスモデルは、フリートゥプレイのアイテム課金制で、永続的なサービスを前提に、カードコレクション要素や対戦要素、レイド、協力型のシステムを搭載する。と書くと,一般的なカードバトルゲームを想起させるが、しっかりアクション性のある3Dゲームになるという。
リリース時期は2012年12月を予定し、iOS/Android向けに世界同時リリースを予定。対応言語は日本語と英語を予定。日本で9月に開催される東京ゲームショウではプレイアブルデモの出展を予定しているという。溝手氏は、「このゲームを通じて新しいソーシャルゲームの形をお見せできるのではないか」と謎かけしてくれた。こちらも完成が楽しみなタイトルだ。
(2012年 8月 18日)