「GREE Platform Conference 2012」セッションレポートその2

世界展開に向けて、キャリア、メーカー、開発者の視点


3月23日開催

会場:ザ・プリンスパークタワー東京

入場料:無料



 グリー株式会社が、3月23日開催したゲームカンファレンス「GREE Platform Conference 2012」。本稿ではNTTドコモ、KDDI、ソフトバンクモバイル、SKプラネットの各担当者が登壇し、ディスカッションを行なった「携帯キャリアのグローバル戦略」。バンダイナムコゲームス、コーエーテクモゲームス、コナミデジタルエンタテインメント、グリーの代表者が登壇した「経営者の視点から見るグローバルプラットフォーム」。そして、スクウェア・エニックス、セガ、カプコン、グリーの開発者が登壇する「開発者の視点から見るグローバルプラットフォーム」の3つのパネルディスカッションを取り上げていきたい。

 スマートフォンの普及により、キャリアを越えて展開する「グローバルプラットフォーム」が実現し、各携帯キャリア、ゲームメーカーにとって変化を求められる時代となった。この変化をそれぞれどのように捉えているのか、メーカー、担当者それぞれの視点を見ていきたい。




■ NTTドコモは今後もフィーチャーフォンに注力「携帯キャリアのグローバル戦略」

NTTドコモキャリア・ビジネス担当部長の山本睦男氏
KDDI戦略推進部部長の江幡智広氏
ソフトバンクモバイルサービスアライアンス部門ジェネラルマネージャーの加藤理啓氏
韓国SKプラネット SK planet T store事業本部Global COE Team部長の陣憲奎氏
モデレーターを務めたインフィニティ・ベンチャーズLLP共同代表パートナーの田中章雄氏

 「携帯キャリアのグローバル戦略」では、NTTドコモキャリア・ビジネス担当部長の山本睦男氏、KDDI戦略推進部部長の江幡智広氏、ソフトバンクモバイルサービスアライアンス部門ジェネラルマネージャーの加藤理啓氏、韓国SKプラネット SK planet T store事業本部Global COE Team部長の陣憲奎氏、の4名がパネリストとして登壇した。モデレーターを務めたのは、インフィニティ・ベンチャーズLLP 共同代表パートナーの田中章雄氏だ。

 田中氏はフィーチャーフォン(いわゆる“ガラケー”)からスマートフォンに変わる中で、「やりにくくなったのではないか」と問いかける。田中氏は、スマートフォンに変わっていく状況を、日本の鎖国状態がひっくり返った“黒船来港”に例え、各社がこの時代にどのように取り組んでいるのかを質問した。各担当者はこの質問に答えると言うより、あらかじめ用意した資料で自社の取り組みを紹介するという形となった。

 NTTドコモの山本氏はNTTドコモの海外への出資による世界への展開をアピールした。アジアの各地でパートナー企業を選定し、出資してキャリアとして提携し、各国でサービスを展開している。また、ドイツや中国、ベトナムなどは独自コンテンツを作りにも出資し、iモードや、3Gといったプラットフォームでコンテンツを展開している。

 NTTドコモはスマートフォンだけではなく、フィーチャーフォンでのコンテンツ展開にも積極的だ。コンテンツは、マンガや、ポータルサービス、ビデオやゲームなど日本にあるものを展開したり、海外の提携会社が作ったコンテンツを、「iチャンネル」という独自チャンネルで提供している。顧客管理や課金システムなども世界展開に活用しているという。

 KDDIの江幡氏は、国内外のインキュベーション的なファンドを設立し、北米、日本、アジアのコンテンツを各国で提供の準備をしていると語った。例としては「チャイナモバイル」と提携して、中国国内のコンテンツの提供を行なっているとのこと。さらに旧KDDの資産を利用し、データーセンターを世界各国で展開、さらにKDDでの拠点を活用することで、世界でビジネスを展開していることをアピールした。

 ソフトバンク加藤氏は、「アジアのNo1インターネットカンパニー」になることを目指すという会社の目標を大きくアピール。スマートフォン、フィーチャーフォンに限定せず、モバイルでインターネットにアクセスでき、そしてその上で様々なコンテンツをサービスしていくことを目指すとのこと。このために様々なインターネット企業と提携を行なっている。ソフトバンクはインターネット企業であり、プラスでネットワーク環境を提供するキャリアとしての役割を担っていくというのが会社の方針だと語った。

 SKプラネットの陣氏は、全国民の40%がスマートフォンを使っているという韓国の状況を紹介し、「スマートフォン特化」のサービスを行なっていることをアピールした。利益を上げているコンテンツは韓国が中心だが、海外のコンテンツも直接参入できるようになり、売り上げを出し始めている。「qiip」という総合サービスをAndroid向けに行なっており、世界に展開しているという。

 次に田中氏が各担当者に質問をしたのは、「注目のビジネス・アプリ」。ソフトバンク加藤氏はCES(米国で行なわれた家電ショウ)で賞を取った「マジスト」という動画撮影アプリが、スマートフォン内で編集し、アップロードをしてくれるところで、「キャリアのことを考えているな」と感心したという。

 KDDI江幡氏は、子供向けSNSとミニゲームの動きが、世界的に動き始めてるというところに、新しいビジネスの流れを感じてるとのこと。NTTドコモ山本氏は、ユーザーは2層に分かれる。スマートフォンが普及していく中でも、全世界の6割から7割はフィーチャーフォンを使い続けるだろうと語り、ここでも、フィーチャーフォン向けのビジネスを強調した。一方ハイエンドは、基地局を活かしたサービスを開拓したいとのことだ。

 SKプラネット陣氏は、日本のソーシャルゲームの緻密なストーリーや、協力要素を評価した上で、これを世界に広げたいと語った。韓国では「15日以内」というアプリが人気だという。韓国では、家電などは15日以内に不具合が見つかれば、交換可能という法律があって、「15日以内」は、この法律に対応したタイマーとして、不具合のチェックリストなどが用意されている。陣氏は日本でもこういった生活密着型のアプリを作っていきたいという。

 最後に、田中氏は各担当者に、会場の受講者への自社のアピールを求めた。NTTドコモ山本氏は「海外で受けるには工夫が必要」と語り、キャリアの顧客ベース、課金システムを持つNTTドコモの優位性を強調した。KDDI江幡氏は、「世界に展開していくんだという、強い意志を持った人と、やっていきたいです」と強い調子で語り、会場を見渡した。ソフトバンク加藤氏は、インドにインキュベーションを作っている事を紹介し、インドというこれからの市場で、ビジネスを進めるという人を募りたい、と語った。


【各キャリアの取り組み】
NTTドコモは各国のキャリアと連携しつつ、フィーチャーフォン向けのサービスも積極的に行なう
KDDIはコンテンツ開発を行ないつつ、旧KDDの資産を活用していく
ソフトバンクモバイルはインターネットカンパニーとして、アジアにコンテンツ提供を行なっていく
SKプラネットは韓国内のシェアの強みを活かし、世界にサービスを提供




■ 各社それぞれのソーシャルゲームへの取り組み、「経営者の視点から見るグローバルプラットフォーム」

コーエーテクモゲームス専務取締役ネットワーク事業部長の小林伸太郎氏
バンダイナムコオンライン代表取締役社長の浅沼誠氏
コナミデジタルエンタテインメント 執行役員の早川英樹氏
グリー代表取締役社長の田中良和氏
モデレーターを務めたエンターブレイン代表取締役社長の浜村弘一氏

 「経営者の視点から見るグローバルプラットフォーム」に登壇したのは、コーエーテクモゲームス専務取締役ネットワーク事業部長の小林伸太郎氏、バンダイナムコオンライン代表取締役社長の浅沼誠氏、コナミデジタルエンタテインメント 執行役員の早川英樹氏、グリー代表取締役社長の田中良和氏の4名、モデレーターは、エンターブレイン代表取締役社長の浜村弘一氏。

 浜村氏が最初に提示したのは、「コンソールゲームからソーシャルゲームへ」。浜村氏は、各社のソーシャルゲームへの取り組みを質問した。小林氏は、コーエーテクモゲームスは、以前からオンラインゲームには積極的だったが、2009年前後から「100万人の信長」を展開し、月額課金制から基本プレイ無料のビジネスモデルへシフトしたと語った。浅沼氏は、バンダイナムコオンラインでは、モバイル向けにビジネスを進めていたが、現在のようにソーシャルゲームに積極的になったのは、現場の若手の声が大きかったという。

 早川氏は、コナミは会社としては半信半疑のところがあったが、「ドラゴンコレクション(ドラコレ)」のヒットで大きく変わったと現在までの変化を説明した。田中氏は、早川氏の言葉を受けて、「ドラコレ」の成功が、グリーの魅力を増したと語った。浜村氏は特に「ドラコレ」の成功がゲーム業界全体を大きかったのではないかと分析した。「ドラコレ」の成功が、各社をソーシャルゲームに積極的にさせたのではないかと語った。

 次に浜村氏が質問したのが、各社の「スマートフォンへの対応」。小林氏はコーエーテクモゲームスは最初からコンソールのリソースを活かせるハードとして注目していたという。「真・三國無双」も展開するために準備中だと語った。浅沼氏はゲームメーカーと親和性が高く、バンダイナムコオンラインが持っているIPの「ガンダム」なども展開しやすく、期待していると語った。一方で、コンテンツをどこまでコンシューマーに近づけるのか、それとも違うものを目指すのか、SNSをより活かすためにはなど議論を重ねているという。

 早川氏は、「ソーシャルゲームの設計やノウハウの方が重要ではないか」とスマートフォンのゲームならではの点をあえて強調した。しかし、一方で「ドラコレ」のコンシューマーへの展開の要望も多いと語った。田中氏は、スマートフォン向けのコンテンツは、フィーチャーフォンのものとは違い、グラフィックスと世界観を活かせるところに利点がアリ、社内でも積極的に「見ただけで遊びたくなるゲーム」を目指して開発している。

 次の質問は、「海外対応、グローバル化」について。小林氏はコンソールゲームソフトを販売できる場所以外での、スマートフォン向けのゲームの展開に期待しているという。カルチャライズも行なっており、中国では「100万人の三國志」を、「1億人の三國志」として、展開しているとのこと。しかし現在のところ、海外ではフィーチャーフォン向けが中心。アジアではアジア向けの、北米では北米で人気の高いIPで展開していく予定だという。

 浅沼氏は、スマートフォンなら、ハードの縛りが少なくなるので、様々なタイトルが展開できるという。「鉄拳」のほか、「ナルト」や、「ドラゴンボール」といったゲームを展開したいとのこと。特に「鉄拳」のゲームの売り上げは、現在は日本は全体で10%程度というほど、グローバル化が進行しており、海外展開の柱としていくという。早川氏は、「Dance Dance Revolution」をグリーで展開しており、海外でも好評だという。現地の意見を聞きながら、展開していきたいという。「メタルギア・ソリッド」や、「ウイニングイレブン」といったIPに関しては、まだ答えられないとのことだ。田中氏は、「Zombie Jombie」が北米で人気を得たこと、中国でもカードバトルのゲームが好評であることを紹介し、日本で好評なビジネスモデルが、全世界でも通用すると期待していると語った。

 田中氏の言葉を受けて浜村氏が次に質問したのは、「ガチャは通用するか」というもの。小林氏はアメリカではうまくいってるという。日本のサービスの成功例を、世界がコピーしはじめている。法規制や社会が許容できるのなら、日本の成功例がそのまま持ち込めるのではないかと、小林氏は語る。

 そこから、浅沼氏の、「ゲーム文化、キャラクター文化は、アジアの方が展開しやすい」という指摘をきっかけに、「カルチャライズ」に話題が移る。小林氏は「基本プレイ無料」の場合は、特に国民性を気にしていくという。ゲーム内イベントも、旧暦にするなど変えるなど、現地との親和性を重視していくという。ただし、ゲームの本質は変えないことに最大限に気を配っているという。浅沼氏はその言葉を受けて、コンシューマーゲームの、パッケージソフトではできない、「変更」こそ、海外の趣味嗜好に合わせられる“強み”であると語った。

 早川氏は、ユーザーの“社会”を作っていくというところにも注目していくことが必要だと語った。田中氏は、フェイスブックの成功例を例に挙げ、世界共通のサービスというのは作れるのではないかと指摘する。「面白い、面白くない」は、感情だが、「売れる、売れない」は厳密な結果として出ることであり、ここから、また新しい価値観が生まれていくのではないかと語った。

 さらに早川氏は、現在1ユーザーとして、検索にはグーグル、ショッピングにはアマゾン、コミュニティはツイッターと、全てが海外製のツールを使っている現状に対し、「せめてゲームは日本のものを、世界に広げていきたい」という自身の想いを語った。10年後、20年後、現在やっているグリーというビジネスを、日本に残っていく産業にしたい。そのために、日本のメーカーに残っていって欲しいと語った。

 最後はこれからの各社の展開に関して。小林氏は、グリーとも、それだけではない方法でも、コーエーテクモゲームスのコンテンツを世界にサービスしていきたいと語った。浅沼氏は、世界で受けているバンダイナムコゲームスのキャラクターに、グリーと組んで世界に最新コンテンツを展開していきたいという。

 早川氏は、日本の産業として、デジタルエンターテイメントを世界に広げていくのは、コナミの使命だと考えていると語った。田中氏は「子供の頃から触れていたゲーム文化、そして日本のキャリアとの繋がりで得たノウハウという“2つの親”をもつグリーだからこそ、成功していくために努力したい」と語った。

 今回がグリー主催のカンファレンスということもあってか、浜村氏は「ドラコレ」の成功を強調していたが、様々なタイトルの成功が、ゲームメーカーのソーシャルゲームへの参入を加速させている。新しいビジネスチャンスへの取り組みを聞くことができた。しかし一方で昨今では「ガチャに対して規制が必要ではないか」という問題も議論されており、こちらに関しての各代表者の見解も聞きたかったところだ。





■ 海外ユーザーにどうアピールしていくか。「開発者の視点から見るグローバルプラットフォーム」

スクウェア・エニックスモバイル事業部プロデューサーの安藤武博氏
セガオンラインエンタテインメント研究開発部戦略企画セクションセクションマネージャーの椎野真光氏
カプコン東京制作部ソーシャル事業室長兼開発運営室長杉浦一徳氏
グリー執行役員メディア事業本部長兼開発本部副本部長吉田大成氏
モデレーターを務めた芸者東京エンターテインメントCEOファンタジスタの田中泰生氏

 「開発者の視点から見るグローバルプラットフォーム」では、開発者達のコンテンツ制作への想い、実際のサービス展開で学んだノウハウなどが語られた。登壇者は、スクウェア・エニックスモバイル事業部プロデューサーの安藤武博氏、セガオンラインエンタテインメント研究開発部戦略企画セクションセクションマネージャーの椎野真光氏、カプコン東京制作部ソーシャル事業室長兼開発運営室長杉浦一徳氏、グリー執行役員メディア事業本部長兼開発本部副本部長吉田大成氏。モデレーターは芸者東京エンターテインメントCEOファンタジスタの田中泰生氏が務めた。

 最初は各開発者が手掛けたゲームを紹介した。安藤氏は、RPG「ケイオスリングスII」、カードバトルRPG「拡散性ミリオンアーサー」といったタイトルを手掛ける。日本のRPGの手法を活かし、アニメーション要素などもふんだんに盛りこんでいるという。椎野氏はオンラインRPG「Kingdom Conquest」、カードバトルゲーム「龍が如く 絆」といったタイトルを担当している。杉浦氏は「モンスターハンターオンラインフロンティア」等のオンラインゲームの他、ブラウザゲーム「鬼武者Soul」といったソーシャルゲームも手掛けている。吉田氏は海外のデベロッパーを周り、グリーでサービスするゲームを管理している。日本の開発のノウハウと、海外の良さを活かす開発を行なっているという。

 各担当者は、グローバルにゲームを展開していく上での経験を語った。安藤氏はあえて「日本人でしか作れない面白さ」にこだわっているという。世界向けのカスタマイズとしては、「小さな女の子が派手な活躍をする」というところに理解が得られなかったことや、「肌の色が同じ人が争う」というところに拒否感をもたれたところなどを挙げ、こう言った点に気をつけて開発を行なっていった。こういった理解が得られない部分に関しての調整は行なうものの、自分たちだからこそわかる面白さに関しては、こだわりを持って開発したという。

 椎野氏は特に「Kingdom Conquest」は海外展開を視野に入れたため、欧米の担当者の意見を取り入れたが、これが全部外してしまい、ユーザーの評価を得られなかった。ただし、現地法人とのビジネスにおいては彼らをいかに巻き込んでいくことは大事だと語った。現在は様々な反省と努力で欧米での評価は好転している。杉浦氏は「モンスターハンター」は欧米では受けが良くないところがあり、北米向け、アジア向けでIPを切り分けて展開している。海外展開に関してはカルチャライズと言うよりも、IPの分担で対応しているということだ。

 吉田氏は、海外で展開するカルチャライズにはパターンがあると指摘する。カジュアルなものはキャラクターの頭身を下げ、コアなものは上げる。国に合わせてキャラクターや絵柄を大きく変えるものもあるという。安藤氏は「海外の方が、JRPGを作ろうとしたら、矢っ張り変になると思うんです。欧米の人ならばTPSやFPSで良いものを作る。日本でゲームを作るときも同じだと思っています」と語った。

 次の質問は、ゲームシステムについて。特に日本のソーシャルゲームで人気な、カードゲームのシステムは海外で受けるかが話し合われた。吉田氏は「結果として受け入れられている」と指摘した。Zyngaのゲームと比べるとARPU(客単価)は高めであり、アップデートに合わせて売り上げが上がるなど、日本と同じようなビジネスモデルとして成立しはじめている手応えがある。ただし、全てがこのカードゲームの形でビジネスが行なわれるのではなく、あくまで1つのケースだという。

 杉浦氏は「グリーのゾンビが受けてるのにカプコンはなにをやっているんだ」と上司に言われ、現在企画を練っているとのこと。カードゲームのビジネスが成立する土壌はあり、見込みも持っているとのこと。椎野氏もガチャや、アイテム合成への課金など、1つのゲームに大量にお金をつぎ込むという日本と同じビジネスが成功する可能性を挙げた。ただし平均するとそういった大量にお金をつぎ込むユーザーはまだ少ない。こういったビジネスは1ジャンルに過ぎない、ということを考えていくべきだと語った。

 その一方で安藤氏は、カードゲームのビジネスは“流行”であり、自身は違うビジネスモデル、ゲーム性を模索していると語った。「タワーディフェンス」や「DotA(Defense of the Ancient)」といった、海外では人気があって、日本ではあまり受けていないゲームにもヒントがあるのではないかと語った。また、安藤氏は最近3DS「新・光神話 パルテナの鏡」に強く感銘を受け、新しいゲームのヒントを得たという。

 次に田中氏が提示した設問は、「国の垣根を越え、同じゲームを通じて、対戦で盛り上がれるか」というもの。椎野氏は「Kingdom Conquest」は、人種を壁にした同盟戦争が起きていると語った。貪欲に勝ちを求める戦い方にこだわるなど、国によっての違いが明確になっており、セガでは国ごとに戦場を分けるか、それともより戦いを煽っていくかで意見が割れている。吉田氏は世界で共通のゲームで戦うというタイトル開発は挑戦していきたいが、コンテンツで分けていきたいと語った。しかし、この対戦を実現するには、アイテムの価格を国ごとでどうするかなど、考える事がたくさんあるという。椎野氏はさらに、「Kingdom Conquest」ではアジア圏のユーザーは同盟を組み積極的に協力する人が多かったが、欧米のユーザーは同盟を嫌い勝手にプレイするユーザーが多かったとのことだ。

 他のパネリストとは異なり、「同一のゲームで世界中の人が遊ぶ」というコンセプトに、疑問を提示したのが杉浦氏だ。杉浦氏は、「ユーザーは価値観と同じ人とゲームをプレイしたいんだ」と主張し、同一の戦場で世界中の人が戦うという場を作るのは、メーカーのエゴに過ぎないのではないか、と真っ向から反論した。農耕民族と狩猟民族での価値観の違い、法律の違い、オンラインゲームに対する習慣など、そういった国ごとの違いがあり、1つのゲームで世界中の人が遊ぶというコンセプトは、成功事例よりも失敗事例の方が多いという点を指摘した。

 最後に田中氏が質問をしたのが、「グローバル向けのタイトルの付け方について」。安藤氏はまず、欧米の担当者に見せるという。安藤氏のスタッフには“カッコイイ英語を考える人”がいて、彼に信頼を置き、まかせているとのこと。椎野氏もストレートであればあるほど良いと考えているが、商標で取られている場合が多いので調査が重要だと語った。カプコンの場合は、IPに関連したタイトルが多いが、杉浦氏はコンセプトと、ゲームに対する思い入れを伝えて、ネイティブの担当者に英語を考えてもらってるという。

 吉田氏は、単語は2つか、多くて3つというこだわりを持っており、前半がモチーフや世界観、後半は遊び方を1言で表現したいという。言葉としておかしくないかは、ネイティブの人がチェックしている。また、「ドリランド」は世界に通じる名前にしたいと考えており、この名前は変えずに世界にサービスしていきたいとのこと。

 日本のゲームをどう海外で展開させていくかは現在、開発者が直面している問題である。今回のディスカッションでは、各開発者の想いが聞けて興味深かった。また、杉浦氏の「ユーザーは価値観と同じ人とゲームをプレイしたいんだ」という意見に関しては、オンラインゲームユーザーとして、頷かされるものがあり、特に印象に残った。改めて、グローバル展開という言葉の中に込められた可能性の多彩さを感じた。


安藤氏は、JRPGの手法を活かしたゲームを手掛ける。左はスマートフォン向けの新レーベル「SiSiLaLa OVERDRIVE」
椎野氏は、スマートフォン向けのタイトルを多数手掛けている。杉浦氏はオンラインゲームを幅広く手掛ける

(2012年 3月 24日)

[Reported by 勝田哲也]