Game Developers Conference 2012レポート

【GDC2012】ソニー、プレイステーション 3対応の3D立体視対応タイトルを振り返る

3D立体視ゲーミングの価値への考察


3月5日~9日開催(現地時間)

会場:San Francisco Moscone Center



実在のタイトルを挙げて、その3D立体視対応の取り組みを語ったSimon Benson氏(Project lead - 3D Gaming Team,SCE)

 プレイステーション 3(PS3)を有するソニー・コンピュータエンタテインメント(SCE)は、3つの家庭用ゲーム機のプラットフォーマーのなかで、唯一、3D立体視に力を注ぐメーカーだ。2011年末には、プレイステーションブランドの純正3Dモニターを発売し、3D立体視ゲーミングの公式サイトも設立。また、2011年末までに55タイトルもの3D立体視対応タイトルをPS3向けに用意した(サードパーティ製含む)。

 GDC2012では、2011年の1年間にSCEが取り組んできた3D立体視ゲーミング関しての取り組みについて、実在のタイトルを挙げて自ら考察するセッション「Stereoscopic Rendering and Design for Consoles」が行なわれた。




■ 3D立体視対応「アンチャーテッド 砂漠に眠るアトランティス」の場合


「アンチャーテッド3」の3D対応の目的

 セッションのはじめには、3D立体視の仕組みや方式についての解説と、3D立体視ゲーミングを製作する際のごく基本的な注意点が紹介されたが、これらについては、僚誌AV Watchなどでたびたび解説されているので本稿では省略し、2011年に発売された実在のタイトルの話題について焦点を絞ってお届けする。

 まず、ワールドワイド規模で2011年末、最大のPS3タイトルと言えば「Uncharted3-Drake's Deception」(邦題アンチャーテッド 砂漠に眠るアトランティス、以下『アンチャーテッド3』)だ。


実装手法

 「アンチャーテッド3」は、通常プレイでのキラータイトルでもあるが、同時に究極の3D立体視ゲーミングを提供するものとして製作が進められたという。

 3D立体仕向けのレンダリングシステムは、左右の眼用のフレームを個別にレンダリングする、いわゆる「Dual Render」システムを採用している。そのDual Render自体は、3D立体視のためにフルスクラッチで製作したのではなく、元々存在していた画面分割での2プレーヤー対戦用のレンダリングシステムをベースにして作られている。

 画面分割2Pレンダリングはあるゲーム内時間の映像を同時に2視点分にレンダリングするシステムだ。3D立体視も、言ってみれば視点位置の極めて近い2視点レンダリングなので、この仕組みを利用できるというわけだ。

 2視点レンダリングとはいえ、同一シーンなので、ジオメトリセットアップは1度で済む。しかし、異なる視点から2度レンダリングするのでジオメトリ処理量は単純に2倍になる。画面分割2Pレンダリングエンジンはこうした負荷を低減するために、専用のLODシステムを搭載したり、テクスチャもやや低解像度のものを利用したりする最適化(パフォーマンスチューニング?)が行なわれているため、ほぼ同様な負荷への対策しなければならない3D立体視向けレンダリングにも応用が利くというわけだ。


カットシーン

 「アンチャーテッド3」の3D立体視モードは720p/60Hzを採用。PS3の3D立体視は基本的にはフレームパッキングフォーマットが採用されるので、720p/60Hzの場合だと、1,280×720ドットのフレームを2枚連続させて送出するような形態となる。

 実際の3D立体視対応の開発自体はものの数日で完了したが、3D立体視で判明する不自然なアーティファクトなどが見られたため、こうした問題についてはアーティストが3D立体視専用の個別対策を施したという。

 また、問題はイベントシーン(カットシーン)でも起こった。「アンチャーテッド」シリーズは事前にインゲームエンジンレンダラーでカットシーンをレンダリングしてこれをムービーストリームとしてディスクに収録し、これを再生している。ある意味、リアルタイムグラフィックスと同クオリティのプリレンダームービー再生を行なっているわけなのだが、「アンチャーテッド3」の立体視対応にあたっては、このムービーは2D版と3D版のムービーを用意しなければならなかった。カットシーンは90分にも上ったため、BDの容量をだいぶカットシーンで消費したことになる。

 ただ、成果としては大きかったと振り返られている。その成果の1つが、権威のあるInternational 3D Society Awardでの家庭用ゲーム機部門において「ベスト3D立体視ゲーム賞」を受賞だ。一方で、一般のゲーム誌では、3D立体視対応には全く触れられていないこともあったりするなど、今後のPR戦略についての課題も浮き彫りになったとしている。

 開発コストとしては、2Dオンリー時の開発に対してわずか5~10%の負荷に留まっており、得られた効果に対しては十分見合うものだったようだ。


「アンチャーテッド3」の立体視対応の成果




■ 3D立体視対応「ラチェット&クランク オールフォーワン」の場合


「ラチェット&クランク オールフォーワン」の場合

 「ラチェット&クランク オールフォーワン」の場合は、3D立体視は疑似手法が採択されている。

 疑似手法とは、レンダリングエンジン自体は単眼時、2Dのレンダリングシステムを使い、単一フレームを生成し、そこから立体視用の左右のフレームを合成する方式だ。

 疑似とはいっても、テレビなどにある2D→3D変換機能よりはだいぶ正確なものになる。しかし、左右の眼用のフレームをそれぞれレンダリングするよりは立体視の精度が落ちてしまう(エラーが起こる)。


疑似3D立体視の手法。CRYTEKが行なったSIGGRAPH2011時のセッション資料より

 具体的なメカニズムとしてはこんな感じになる。

 まず、普通に2Dフレームをレンダリングする。レンダリングが終わるとZバッファにはそのシーンの深度値が入っているので、この情報を用いて、そのシーンの3D構造を逆算して左右の眼用の映像を再構築するのだ。

 2Dフレームの映像は、左右の目の中央位置からレンダリングされたものと仮定し、ある箇所の2Dフレームの画素に着目したとき、その画素に対応した深度値を読みだし、その値から「この画素が左右のそれぞれの目から、どのくらいズレて見えることになるのか」を計算する。求めたこのズレ量に基づき、あとは元ネタとなる2Dフレームをサンプルして、左右の目用の映像を合成していく。


実装

 この手法では、レンダリング自体は1回で済み、3D映像は、単なるポストプロセスとして実装できるので負荷が軽いメリットがある。ただ、ポストプロセス的手法なので、欠点も多い。

 1つは、遮蔽関係が正確に再現できないために、輪郭付近になんとも怪しい間延びした描画(エラー)が発生する問題だ。これは解決する手法がない。

 もう1つは、半透明オブジェクトの3D立体視がうまく再現できなくなってしまう問題だ。この問題に関しては「ラチェット&クランク オールフォーワン」では、半透明オブジェクトについては、合成した左右の眼用のフレームに対して、マジメに後から描画するという手法で対策している。


3D立体表現

 こうした疑似3D手法を採択した「ラチェット&クランク オールフォーワン」だったが、合成フレームとリアル立体視対応描画とのマッチングには苦労したものの、元々3人称視点のゲームで、カメラ位置も遠くにある設計のため、表現にそれほど大きな違和感を出さずに済んだという。


カットシーンの取り扱い

 カットシーンについては、プリレンダームービーのものについては、オフラインで3D化して収録している。

 3D立体視化に掛かった追加開発コストは、全体に対して0.5%程度で、ほとんど無視できるものだったと振り返られている。

 大きな問題は特になかったとのことだが、あえて1つ挙げるとすれば、明暗の激しいエフェクト表現で、とてもクロストークが目立つという点。当初はこれを映像の調整で改善しようとしたが、クロストーク自体は3Dテレビの性能向上で改善できる問題であると結論づけ、あえて特にアグレッシブな対策は講じていない。


3D立体視対応の成果と課題




■ 3D立体視対応「レジスタンス3」の場合

 「レジスタンス3」では、結論から言えば「アンチャーテッド3」と同じ手法を採択した。

 しかし、開発当初は、「ラチェット&クランク オールフォーワン」と同じ疑似3D手法を実装してテストを繰り返しており、実際、90%のシーンでうまく動いていたという。

 ところが、本作が1人称視点のゲームで、カメラとオブジェクトの距離が近く、複雑な地形を自由に動き回るゲーム性のため、疑似3D特有のエラーが目立ちやすい局面が気になったために、この手法を断念したという。

 カットシーンのムービーは、オフラインで2D→3D変換したものを用意して対応。

 追加開発ストは+0.5%程度。かかったコストの低さの割には、3D対応と言うことで脚光を浴び、マーケティング効果はあったと振り返られている。


「レジスタンス3」における3D立体視対応。開発元のINSOMNIAC GAMESは、次回作の3D対応にも前向きな姿勢を示しているようだ




■ 3D立体視対応「ゴッド・オブ・ウォー 落日の悲愴曲&降誕の刻印 HDコレクション」の場合

 SCEでは、PS2作品やPSP作品をPS3向けにハイデフ対応化して移植する際に、あわせて3D立体視化することに力を入れている。

 「ゴッド・オブ・ウォー 落日の悲愴曲&降誕の刻印 HDコレクション」もそんなタイトルの1つで、3D立体視対応化プロジェクトの実験的作品として対応が進められた。

 もともと本作は、PSPのゲームであったために、GPUパフォーマンス的には余裕がある。そこで必然の流れとして妥協なしの「Dual Render」システムが採用される。

 PSPは振動機能がないために、衝撃表現をカメラを細かく振動させる表現を多用していたのだが、これは立体視になると不快な表現となることがわかったために排除。あるいはその揺れ自体を低減させる調整を行なった。

 カットシーンは、コスト的な理由などで、2Dのまま。3D対応化は今回は見送っている。

 「ゴッド・オブ・ウォー 落日の悲愴曲&降誕の刻印 HDコレクション」は、固定カメラのゲームであったこともあり、3D立体視特有の表現の搭載がなかなか難しかったとのことだが、それでも一定の効果はあったと振り返られている。


「ゴッド・オブ・ウォー 落日の悲愴曲&降誕の刻印 HDコレクション」の3D立体視対応のための開発コストは2人月程度だった




■ おわりに


3D立体視対応は技術的には簡単だが、魅力的な3Dコンテンツとするのは簡単ではない…とBenson氏

 Benson氏は、3D立体視対応は、開発コストの低さの割にはゲームの価値を高めることに繋がるために、積極的に対応すべきであると主張。

 しかし、一方で、3D立体視を、「効果的な表現」として活用することは意外に難しく、今後は、ゲームの設計自体を最初から3D立体視前提に行う事などを検討すべきかもしれないと結んでいた。

 コンテンツ不足の3Dテレビにとっては、3D立体視ゲーミングは、ほんとうに貴重なコンテンツとなってきている。今後も、SCEには、こうした3D立体視ゲーミングへのサポートを期待したいものだ。


(2012年 3月 10日)

[Reported by トライゼット西川善司]