Game Developers Conference 2012レポート

【GDC 2012】「Social & Online Games Summit」ソーシャルゲームポストモーテム
Zynga「Adventure World」から「テトリスオンライン」まで。具体的な手法を紹介


3月5日~9日開催(現地時間)

会場:San Francisco Moscone Center


 


 「Social & Online Games Summit」の中には、既にサービスを開始したゲームを振り返って評価を下すポストモーテムというジャンルがある。その中身は、例えば成功したプロジェクトについて成功要因を分析するセッションや、失敗したプロジェクトの反省会、大きな変更を加えたプロジェクトについてその改革の過程を解説するセッションなど、実際の事例に基づきつつゲーム作りのヒントを探ろうというものだ。

 このレポートでは、「Indiana Jones Adventure World」(Zynga)、「A Sorority Life」(Playdom)、「Tetris Battle」(Tetris Online)の3本についてのポストモーテムセッションをまとめてお届けしたい。




■ 「Adventure World」のジャングルに潜む無数の改善点

映画「インディ・ジョーンズ」のIPを使ったアドベンチャーソーシャルゲーム
Zynga BostonのSeth Sivak氏

 「Indiana Jones Adventure World」はZynga Bostonが開発した、ソーシャルアドベンチャーゲーム。映画「インディ・ジョーンズ」シリーズのIPを使い、映画でおなじみの主題歌をBGMに使い、インディ・ジョーンズがプレーヤーとともに冒険するNPCとして登場する。プレーヤーは世界各地を冒険して宝物を見つけながら、ベースキャンプに建物を建てて町を発展させていく。

 講演者のSeth Sivak氏は、そのゲーム性を同じZyngaのゲームである「Treasure Isle」と「FrontierVille」を融合させたようなものだと語った。そもそもの出発地点は、ソーシャルゲームでコンソールのようなアクションゲームを作りたいというところだった。「トゥームレイダー」のようなアクション、そして敵とのバトルを楽しめるようなゲームをキーボードとマウスでどう表現するかが課題だった。

 最初に3つのミニゲームが作られた。1つめはナタでブッシュを刈りながら迷路を解いていく「Bush Maze」、2つめはツルハシで岩を砕いて黄金を探す「Metal Detector Minesweeper」、そしてあらかじめ提示された順番を記憶しておいて、その通りに装置を作動させる「Memory Puzzle」。 いずれもその後、ゲームの要素として使用されている。

 これらの要素を使って作られた最初のマップでユーザーテストが行なわれた。その後も、細かい改良とユーザーテストを毎日のように繰り返すことになる。今回は、チュートリアルを兼ねた最初のマップがどのように作られていったのかが解説された。最初のマップでは、プレーヤーにコイン、XP、視点移動の方法、ゲームのコア要素、エネルギーの使い方、マップ、ゲームのストーリーなどをわかりやすく説明する必要がある。


「Treasure Isle」と「FrontireVille」を融合させたようなゲーム「ゼルダの伝説」や「トゥームレイダー」のようなアクションゲームが目標主なゲームの要素は、クエスト、行動エネルギー、戦闘、パズル、冒険
ツルハシで岩を掘って金塊を探すパズルゲームナタでブッシュを刈りながら迷路を解いていくゲーム順番を覚えて、その通りに装置を作動させるゲーム

 最初のユーザーテストの結果、すべてをよりシンプルにする必要があることがわかった。ユーザーの導線をわかりやすくするために、仕掛けの位置を動かし、1カ所では1つのことだけを学習できるようにエリアをいくつかに分割した。キーとなる要素がわかりやすくなるよう、タイルの色を変えて、ユーザーの目につきやすい場所に設置した。マップ上にある不要な要素は排除して、3つあるトラップはユーザーが飽きないように最後の1つを趣向の違うものに置き換えた。こうした改良には「ゼルダの伝説」シリーズや「マリオ」シリーズで使われているチュートリアルの手法が応用されている。

 ソーシャルゲームらしいギミックとして、友達のキャラクターをマップ上に配置して、冒険を手伝ってもらえるようにした。また、学習の報酬としてインタラクトするとエネルギーや経験値がもらえる宝物を用意した。グラフィックスはよりリアリティを感じられるよう、最初は背景の上に単純に乗っていただけのマップを、背景にとけ込ませるよう工夫し、何もなかったスペースを様々なオブジェや飾りで埋めることで、本当にジャングルを冒険しているような臨場感を生み出した。

 ソーシャルゲームは、画面の見た目に騙されて誰にでも作れると思いがちだが、実際に開発している話を聞くとプレイテストを繰り返してブラッシュアップしていくさまはコンソールと変わらない。出来のいいソーシャルゲームは触っているだけで楽しい。その楽しさは膨大なデータの収集と、試行錯誤から生まれている事実を垣間見ることができた。


試作のゲームの要素をユーザーの誘導に使ったマップ金塊掘りとブッシュメイズが融合した岩の迷路でユーザーを誘導最初の冒険マップの初期状態。ここから試行錯誤と改良を続けていく
ユーザーに学習してもらいたいことを4つのキーとして設置手前にあったキーをユーザーの導線に合わせて移動し、複雑だった道をシンプルにした1つのキーを1つの場所に分散させて、間に達成感を感じられるようなブレイクポイントを入れた
背景の木をマップにかぶせて、マップが背景から浮いて見えないように工夫した遺跡など雰囲気を盛り上げるオブジェを配置開いていた場所をオブジェで埋めて完成




■ 「Sorority Life」に見る女性向けゲームの正しい作り方

改良前と改良後を比べる形で、現在のゲームを紹介した
講演を行なったPlaydomのMartha Sapeta氏

 「Sorority Life」はPlaydomが作ったRPGの対人戦ゲーム。2008年11月にMySpaceへ、12月にFacebookにローンチされた。当時はFacebookのソーシャルゲームブームをけん引していたのが女性だったため、本作は女性向けに作られている。しかし、女性開発者の目から見ると、女性が喜ぶ要素があまり感じられなかった。

 リビルドのスタートは、女性向けとは言えないユーザーインターフェイスの改善から始まった。全く同じ要素でも見た目を変えるだけで、ユーザー層に影響を及ぼす。「A Sorority Life」では画面に女性が好むピンクを使っていなかった。さらに当初はかなりハードコアな本格的RPGだったが、カジュアル層を引き込むためにゲーム性も見直されることになった。

 改善後は以下のようになった。ゲームのインターフェイスを見直して、キャラクターをできるだけ大きく表示するようにした。ショッピングページは全く新しくデザインし直し、アバターには着せ替え要素があったが、常に上下がワンセットになっていたので、ここも見直して服を上下で別々に選べるようにした。アバターを着替える「My Style」を作った。

 服の種類を増やしてフォーマル、カクテル、カジュアル、仮装、スポーツといったジャンル分けをした。さらにブレスレットや首飾り、ペットや羽などアクセサリーも増やした。その結果、ゲームの方向性は戦闘からファッションへと変わっていった。プレーヤーは思い思いの服装を友達に見せあい、好みの服に投票する。

 よく売れる課金アイテムは、お姫様のようなドレスやセクシーな服、色は赤、ピンク、黒、白、青、紫など。ネックレスや靴が目立つ服や、デコレーションやテクスチャーが凝った服も人気がある。他にもブラウンの髪や、羽、ペットが人気だ。アバターを競わせるキャットウォークには、テーマ性のあるものを追加した。例えば昨年のハローウォンには、ユーザー主導のイベントでコスプレコンテストが行なわれたのだそうだ。


以前のユーザーインターフェイス。アバターが小さく、色もそっけないアバターをできるだけ大きくし、ピンクを使って派手にしたアイテムショップは1からデザインしなおした
アバターの着せ替えができる個人用のクローゼットを用意したキャットウォークで友達のアバターとファッション勝負ができるハロウィンのユーザーイベントで入賞したファッションリーダーたち

 ゲーム性をファッション中心に変えたことで、ハードな戦闘はなくなり代わりにミニゲームがたくさん追加された。キャラクターはパリや東京など世界中の都市を訪れて、そこに用意されたミニゲームをプレイする。ゲームは都市によって違っており、ヒドゥン・オブジェクトだったり、文字パズルだったりと昨今の流行を取り入れてある。

 メッセージのフィードの仕方や、意見を聞くためのフォーラムなどでソーシャル性を高めた結果、3年間ずっとプレイし続けるユーザーも現われたのだそうだ。フォーラムには様々な意見が書き込まれるが、意見を書き込むほどに熱心なプレーヤーは課金プレーヤーであることが多いため、絶対数は多くなくても書き込まれる内容を重視しているそうだ。その中には東京マップに出てくるケーキのキャラクターがかわいいという話もあり。その後、多くのバリエーションが作られることになったそうだ。


RPG的な戦闘のかわりに様々なミニゲームを追加世界各地で趣向の違うゲームが遊べる流行りの文字パズルもある
街にはクエストがあり、クリアするとアイテムが手に入る東京ロールケーキから生まれた派生キャラたちファンが作った食べられる東京ロールケーキ




■ いつでも対戦が楽しめる「Tetris Battle」を支えるギミック

Facebook用の対戦型ソーシャルゲーム「Tetris Battle」
講演を行なったTetris OnlineのEui-Jooo Youm氏のプロフィール 

 Tetris OnlineはNintendo of Americaの元代表取締役である荒川實氏がハワイに設立した会社だ。現在はiOS用ゲームの開発や、日本のモバイルアプリタイトルの北米でのパブリッシングを行なっている。

 PC向けのFacebookソーシャルゲーム「Tetris Battle」は、その名の通りテトリスで対戦ができるゲーム。ゲームを始めると同じランクのユーザーと自動的にマッチングされる。対戦はそのユーザーのプレイ記録と競い合う。2010年月にリリースされ、ピーク時には410万人のデイリーアクティブユーザー(DAU)を記録した。現在も20万人が遊んでいる。

 開発スタジオはハワイだが、スタッフはかなりインターナショナル。4人のチームでスタートし、約2カ月半で正式サービスにこぎつけた。ビジネスモデルは基本無料でアイテム課金と広告収入を両立している。

 ユーザー同士の対戦を実現するために、ユーザーのプレイをゲームサーバーに記録して、そのデータと対戦する。実際にユーザーがプレイしたままのデータなので、ミスをしたりためらったりと、人間らしい予想の付かない動きをするのがAI対戦との大きな違いだ。

 セーブデータをインタラクティブな対戦相手にするため、上から落ちてくるブロックのほかに、連続でブロックを消した時には下から自動的に生成されたブロックがせりあがってくるような仕組みを作っている。せりあがってきたブロックには逆転要素となる爆弾が組み込まれている。

 プレーヤーのデータと、システムがハイブリッドに組み合わされていることで、リアルタイムではないのに、まるでリアルタイムに対戦しているような臨場感を生み出す。最終的に目指しているのは、プレーヤーのアナログなデータと、システムのどちらが操作しているのか見分けがつかないような、質の高い対戦環境をユーザーに提供することだ。対戦相手の事情を気にすることなく「リアルタイムではないけれど、リアル」な対戦を楽しめるのが本作の最大の特徴だ。

 対戦型のテトリスをソーシャルゲームにするうえで、リアルタイム対戦はネットワークレイテンシ、マッチングの問題、対戦相手に負けたプレーヤーがゲームを止めてしまうことなど多くの問題を抱えていた。文化や生活時間の違うプレーヤーを誰もが満足するようマッチングするためには、非同期の対戦はとても有効な手段といえる。


Tetris Onlineの手掛けるゲームFacebook用のソーシャルゲーム「Tetris Battle」現在も20万人のデイリーアクティブユーザーが遊んでいる
「Tetris Battle」の紹介「Tetris Battle」のビジネスモデルハイブリッド非同期対戦の仕組み
ランダム要素として盛り込まれたボムソーシャル性を維持するための工夫テトリスで遊ぼう!


(2012年 3月 9日)

[Reported by 石井聡]