Game Developers Conference 2012レポート

【GDC 2012】「Social & Online Games Summit」レポート
アメリカ人も1,000ドル課金。ソーシャル市場の2011年を概観


3月5日~9日開催(現地時間)

会場:San Francisco Moscone Center


 


 「GDC 2012」で3年目を迎える「Social & Online Games Summit」。今年は3月5日、6日の両日で37のセッションが行なわれる。セッションの数が多いため、デザイン、ビジネス、ポストモーテム、プラットフォームの4つにジャンル分けされていた。

 昨年から今年にかけては、Google+やiOS向けへとソーシャルゲームの市場が大きく広がった時期だったため、クロスプラットフォームに関するセッションが多く見受けられたが、やはり主流はまだまだFacebookだと感じられる。ほんの2年前のGDCではまだ可能性を探るようなセッションが行なわれていたアイテム課金は、いまや主流派になり、フリー・トゥ・プレイに関するマネタイズやゲームシステムのセッションはどれも人気だった。

 このレポートでは、5日に行なわれたビジネスとプラットフォーム関連のセッションの中から、日本の読者が興味を引きそうな4つのセッションをハイライト的に紹介したい。




■ 10のゲームから見る、2011年のFacebookソーシャルゲーム市場

 「Social Game Design 2011:A Year in Review」では、ディズニーのソーシャルゲーム開発子会社PlaydomのSteve Meretzky氏とDavid Rohrl氏が2011年に注目した10のソーシャルゲームを、その注目点や現状などとともに紹介した。ラインナップは以下の通り。1から10までを概観する事で、現在のソーシャルゲームのトレンドがよくわかる。

カラフルなスロットゲームが楽しめる

1:Slotomania(Playtika)

 カジノ系ゲームの代表として紹介。カジノ系はカジュアルゲームの中でも、常にランキングに入っているポピュラーなジャンルで、今後も成長が期待できる。本作は、提携サイトに登録するとポイントがもらえるという広告モデルでマネタイズしている。ちなみにアメリカでは2006年にインターネットギャンブル禁止法という法律が成立しており、カジノゲームをアメリカ国内のサーバーで運営することはできない。州によってはプレイを禁止しているところもある。しかし、今後再び合法化する可能性もあるということだ。


アメリカではネットカジノの運営は禁止されているが、プレイするだけなら基本的に合法なので多くのユーザーがネットのギャンブルゲームを遊んでいる


徘徊するゾンビは結構リアル。音楽も短調で少し怖い感じだ

2:Zombie Lane(Digital Chocolate)

 「FrontierVille」の要素とゾンビを合体させたゲーム。周囲のゾンビを退治しつつ、ゾンビが入ってこないようにフェンスを修復し、家を大きくしていく。行動にエネルギーを消費することや、作物で回復できること、クエストでストーリーが進んでいくことなどメカニクスだけを見ると「FrontierVille」によく似ているが、ゾンビを登場させたことでゲームのフィーリングが全く違う作品になっている。平和な設定が多かったソーシャルゲームの中に、ブルーなテーマを組み合わせたことが斬新だと評価された。


「FrontierVille」と似たギミックを持っているが、雰囲気が全く違う。Digital Chocolateの「Army Attack」というストラテジーゲームは、Zyngaの「Empires & Allies」と同時期にローンチされたが、こちらはゲーム性が全く違う。


魔女が蛍光色のなにかを煮ている。トップページからはパズルゲームだとわからない

3:Bubble Witch Saga(King.com)

 色のついた泡をぶつけて消していくというパズルは「パズルボブル」をはじめコンソールでもPCゲームとしても非常にポピュラー。本作はそこにRPG的なマップや、友達との競争要素を入れて人気を博している。マネタイズはレベルのアンロックや、広告モデルで行なっている。


ファンタジー世界を舞台にRPG的な要素を追加することで、カジュアルゲームに新しい発展の余地を作った


ヒドゥン・オブジェクトというブームの先鞭を切ったヒット作

4:Gardens of Time(Playdom)

 ヒドゥンオブジェクトゲームのブームを作り出したヒット作。混乱した歴史を正すために、様々な時代を訪れて、画面下に名前が出てくるアイテムを発見していく。パズル要素に町づくりや個性的なキャラクター、ストーリーを追加してすべての要素を関連付けたことが人気につながった。同様のゲームにはZyngaの「Hidden Chronicles」や、Playdomから2月21日にローンチされたばかりの「Blackwood & Bell Mysteries」などがあり、今後もさらにタイトルが増えていきそうな気配だ。


簡単そうに見えるがなかなか見つからず、ついついハマってしまう。ストーリーと人物、箱庭という要素はその後のヒドゥン・オブジェクトゲームの基本スタイルになった


遊んだことはなくても、名前は誰でも知っている超有名ゲームのソーシャル版

5:Monopoly Millionaires(Playfish/Electronic Arts)

 有力なIPを使った悪い例として紹介された。世界的な人気ボードゲーム「モノポリー」のIPを使ったソーシャルゲーム。知名度の高さやさいころをまわすのにエネルギーを使うアイデアは素晴らしかったが、他のプレーヤーを破産に追い込むことが目的という本来のルールがぼやけてしまったことなどが理由になり、スタート直後のピーク時には800万人を超えていたデイリー・アクティブ・ユーザー(DAU)は100万まで減少した。有名なIPを使いながら苦戦している例として、Zyngaの「Indiana Jones Adventure World」や、Ubisoftの「Smurf & Co」などが紹介された


「モノポリー」が持っている本来のゲーム性が、ソーシャルゲームで表現しきれず、物足りなさを感じた年長のユーザーが離れていった


有名なUPを使ったソーシャルゲームとしては初の大ヒット作となった

6:The Sims Social(Playfish/Electronic Arts)

 こちらは有名IPが効果的に働いた好例として紹介された。Electronic Artsの大ヒットシミュレーション「The Sims」シリーズの要素を上手くソーシャルゲームに取り込んでいる。シムの状態がわかるパネルや家のデコレーション、遊びに来た友達との関係を深めていくといった原作の要素を踏襲しながら、エネルギーや経験値などソーシャルゲームらしいギミックも組み込まれている。また、スキルや潜在能力などは誰にでもわかりやすいよう、シンプルでグラフィカルなものに変えられている。


「The Sims」を遊んだことがあるユーザーなら、説明なしでも遊べるほど移植の出来がいい。しかし現在は少し客が離れつつある


ソーシャルゲームのハードルを一気に引き上げたZyngaの自信作。フルオーケストラでBGMを収録するなど、開発費を贅沢に投入している

7:CastleVille(Zynga)

 Zyngaの「CastleVille」は、ソーシャルゲーム開発のハードルを引き上げた作品として紹介された。「CastleVille」は2011年11月17日のローンチと同時に急激にDAUを伸ばし、12月13日には850万人を記録した。本作のすごさはその後も大きく人数を落とすことなく、3月1日の時点でも700万人を維持していることだ。同時期にスタートした「Empires & Allies」や「Indiana Jones Adventure World」のDAUは現時点では半分以下に減っている。市場が成熟してきて、ユーザーが求めるレベルが高くなってきており、それに合わせた開発が求められている。


これまでZyngaが培ってきたゲームメカニクスを総動員したようなゲーム性を持つ。その出来のよさゆえに、ほとんどプレーヤーが離れていない。近いゲームとして「Ravensky City」(6waveLolapps)が紹介された


コアゲーマー向けのリアルタイムストラテジータイプのゲームは、DAUは高くないがARPUが高いものが多い

8:Social Empire(Socialpoint)

 Blizzard EntertainmentのRTSゲーム「Warcraft II: Tides of Darkness」と、Zyngaの「CityVille」を合わせた、ストラテジックなソーシャルゲーム。資源を集めて兵士を訓練し、街を作りながら戦う。同様のジャンルでは「Kingdom of Camelot」(Kabam)や「Backyard Monsters」(KIXEYE)などが先行しているが、この2本が共にDAUを落としているなか、画面のカジュアルさやマネタイズやソーシャルメカニクスの巧みさからDAUを伸ばし続けている。その成功を見て、新しいデベロッパーによるゲームも登場してきており、このジャンルのユーザー数を増やしている。


PCゲームのヒット作「Warcraft II: Tides of Darkness」と似たシステムに、街づくりの要素を追加している。コアゲーマー向けのゲームは今後も続々と登場予定だ


見た目は可愛いが、少々地味なゲーム

9:Triple Town(Spry Fox)

 イノベーションの失敗例として紹介された。庭に草を3つ並べると小さな木になり、木を3つ並べると大きな木になるといったように、画面上のオブジェクトを並べることで大きなアイテムに変えていくパズルゲーム。もともとはAmazon社の電子書籍リーダーKindle用の白黒のミニゲームだった。それをFacebook向けのソーシャルゲームとして作り直したものだが、DAUは低迷している。


元はマス目に木を並べていくゲームだったが、カラーにして画面を豪華にしたことで、逆に面白さがなくなってしまった


俳優のアレックス・ボールドウィンがハマりすぎて離陸直前の飛行機から降ろされてしまったニュースで一気に有名になった

10:Words with Friends(Zynga)

 ZyngaがiOS向けのFacebookソーシャルゲームとしてローンチし、その後PC向けにもサービスが始まった。マスの中にあるアルファベットを使って単語を組み立てていくというゲームで、西洋ではメジャーなボードゲーム「Scrabble」の進化系で、ルールは非常に簡単だがパズル性はとても高い。現在Facebookで最も人気があるゲームだ。


日本のジンガ・ジャパンからも、「Words with Friends」の日本語版「もじとも☆」がスマートフォン向けにサービス中だ




■ ヨーロッパのオンライン市場と、アジアのソーシャルゲーム市場を概観

主に西ヨーロッパの市場で流行しているオンラインゲームとブラウザゲームを紹介

 「Keys to the European Market」、「Observations from being in Keys Asian Market」という2つのセッションでは、それぞれ西ヨーロッパ諸国と東アジアのオンライン市場とソーシャルゲーム市場の現状が紹介された。

 ヨーロッパの市場概要では、イギリス、フランス、ドイツ、イタリア、スペイン、ポーランドで遊ばれているクライアント式のオンラインゲームとブラウザゲームをそれぞれ紹介した。Riot Gamesのハック&スラッシュゲーム「League of Legends」はすべての国で名前が上がる人気ぶり。Blizzard EntertainmentのMMORPG「World of Warcraft」もポーランド以外ではすべてMAUが数十~数万人を記録している。フランスでは、フランス産の2Dオンラインゲーム「Dofus」がMAU180万人と圧倒的な強さを誇った。ブラウザゲームでは現在急成長中のソーシャルゲームポータルBigpointの農場系ゲーム「Farmerama」や、日本でもすっかり同じになった「Travian」(Traviangames)、ホテルで遊ぶアバターコミュニティ「Haboo」(Sulake)などが人気を集めていた。

 マーケットの傾向としては、基本無料アイテム課金のビジネスモデルや、新しいジャンルの台頭、Facebook以外のソーシャルゲームの登場やポーランドやルーマニア、スペインなど新しいゲーム市場の成長が挙げられた。


データの数字は概算で、2011年の調査をもとにしてあるドイツフランス
イギリスイタリアスペイン
ポーランドメーカー別の市場シェアヨーロッパ市場の傾向



日本、中国、韓国のソーシャルゲーム市場を概観

 アジアのソーシャルゲーム市場概観では、Facebookがトップシェアをとれていない東アジアの3国、日本、中国、韓国の国内事情が紹介された。最初のスライドはガラパゴスゾウガメで、東アジア3国はそれ以外のマーケットと手法や傾向が全く違うためガラパゴスと呼ばれていると説明。

その後、最初に日本市場について、スマートフォンよりもフィーチャーフォンのゲームが主流で、ARPUは西洋諸国に比べて2倍から5倍と非常に高額。流行のジャンルはトレーディングカードゲーム、とグリーの「探検ドリランド」やモバゲーの「ワンピースグランドコレクション」が紹介された。


Taipei Game Showといえば即売コーナー。人気が高いの日本の市場で話題になるのはやはりグリーとモバゲー。それぞれのヒット作が紹介された

 中国の市場はPCのMMORPGが圧倒的なシェアを持つ。モバイル市場では最大企業のTencentが28.7%と大きなシェアを持っている。Tencentのサービスしている「QZone」というゲームポータルサイトには、AppStore風にゲームが並んでいる。中国の最大の特徴はFacebookとの近似で、レポートでもいかに中国国内でサービスされているゲームが、Facebookから要素を取り込んでいるかが様々な例で紹介された。

 農園系も人気で、「QQ Farm」というゲームは中国でも最大のソーシャルゲームであり、ユーザーはピーク時のDAUで1億人もいた。さらにもう1つのトレンドが「三国志」だ。三国志をテーマにしたゲームは中国に非常に多く、PCゲームからスマートフォン向けまで多種多様なものが存在している。セッションではこれをまとめて「三国志スタイル」と表現していた。


中国市場では最大の通信会社Tencentの影響力が大きい。ゲームジャンルとしては、三国志と農場系が挙げられていた

 韓国の市場については、時間の関係で割愛気味の紹介になってしまった。韓国では「NAVER」や「DAUM」、「Cyworld」など国産のポータルサイトが力を持っており、FacebookやGoogleのシェアが低い。また、メーカ―がハードコアなMMORPGに注力しており、モバイル機器の普及率が94%、ネットの普及率が77%とネットワーク先進国であるにも関わらずソーシャルゲームはそれほど盛り上がっていない。ネットワークゲームはコアゲームに偏っていたが、近年はスマートフォン向けを中心に、西洋的なソーシャルゲームも流行しつつある。


韓国ではオンラインゲームはコアなゲーマー向けのものが人気。だが、近年はスマートフォン向けでカジュアルなゲームも人気が出てきている




■ アメリカ人も意外と重課金。競争要素が課金チャンスを生み出す

アメリカのコアゲーマー向け、ブラウザゲームのポータルサービスをしている

 「Core Games, Real Numbers: Comparative Stats for MMOs & Social Games」というセッションでは、KongregateのEmily Greer氏とAnthony Pecorella氏が自社でサービスしている基本無料のブラウザゲームの具体的なデータを比較しつつ紹介した。Kongregateは1,500万のマンスリー・ユニークユーザーを抱えるオープンプラットフォームのゲームポータル。

 ゲームは基本無料で、アイテム課金や広告モデルで運営を行なっている。ユーザーは85%が男性で、平均年齢は21歳。普段からコンソールやPCのゲームを遊ぶコアゲーマーが中心だ。ARPUはFacebookよりも60~100%も高い。

 そんなKongregateで成功しているジャンルは、RPG、カードコレクションゲーム、ストラテジー、タワーディフェンス、PvP、マネジメントと、いかにも男性コアゲーマーが好みそうなジャンルばかりだ。

 最初に見た目が良く似た2つのゲームで、ARPPU(課金ユーザー1人あたりの課金率)が高いゲームと低いゲームを比較した。課金率が高いゲームは全収益の40%を2%のユーザーが支払っている。課金額は1,000ドルを超える。課金ユーザーの平均課金額は100ドルで、6,700ドルも使ったユーザーもいる。課金率が低いゲームでは、全収益の54%を支払い額が100ドル程度のユーザー5%がまかなっている(ただしそのうち13%は500ドル以上払うユーザーによる)。課金者のうち65%は課金額が10ドル以下で、全体の9%に過ぎない。課金最高額は1,300ドルだった。

 この2つの比較から導き出された、ARPUを上げるための手法として以下の4つが紹介された。

・ゲームが面白ければ、ユーザーは1,000ドルでも支払う。
・ゲームの初めに課金コインを使う機会を作っておけば、その後の支払いの習慣を作りやすい。
・課金率が高いのは、競争要素の強いコアユーザー向けのゲーム。
・ギルド、ギルド戦、対人戦、キャラクター成長要素などのフィーチャーが一般的

 ほかにもいくつかのゲームを例にして、ゲームシステムとARPUを比較した。その中でも競争要素があることで、課金額が跳ね上がっているのを見ることができる。負けたくないという気持ちが、お金を投入する強い動機になっているのがよくうかがえた。


ARPPUの差から、ゲームの傾向を分析。競技性が高いゲームほど収益性が高くなる
4つのタワーディフェンスゲームのゲーム性を、収益やプレーヤーの離脱率などで比較


Facebook (c) 2012

(2012年 3月 6日)

[Reported by 石井聡]