「2011 SF World Championship In Indonesia」予選レポート
日本代表クラン「UHS Athlete」、4度目の世界戦をいかに戦ったか?


11月2日~6日 開催

会場:Taman Anggrek



 

日本代表チーム「UHS Athlete」
これが優勝カップ

 インドネシアの首都ジャカルタにて「スペシャルフォース」の世界大会「Special Force World Championship 2011」が開幕した。11月5日には参戦8カ国を2グループに分けての予選リーグマッチが開催。各4チームが参加する2つのグループリーグで総当たり戦が行なわれ、各グループの上位2チームづつが決勝トーナメントへ進出する。

 Aグループには韓国「Annul」、台湾「WAYI-Spider」、タイ「Amotel」、インドネシア「PG TT」が入り、初参加のインドネシアを除けば強豪国ばかりという“死のグループ”に。Bグループには日本「UHS Athlete」、中国「CDC Games」、米国「Optimal」、シンガポール「ZEAK」と、過去実績で言えば中堅に位置する4チームが入った。

 日本代表として参加したクラン「UHS Athlete」は、前身のチーム「Racpy」時代を含めれば今回が4度目の「Special Force World Championship」への参加となる。これまでの最高位は2009年の台湾大会で達成した準優勝で、3度目の挑戦となる今回は優勝が悲願だ。

 そのためにはまずグループリーグを2位以上で通過する必要がある。同グループに属する中国は、韓国で10月7日より開催されたゲーム大会「IEF」にて日本チームを破っている経緯もあり強敵だ。シンガポールは実力的にワンランク落ちる模様だが、米国は昨年大会とは異なるチームが出場したということで実力の読めないダークホースとなった。

 果たして、日本代表の戦いぶりやいかに。本稿では各マッチを詳しくレポートしていきたい。


【会場の様子】
会場では大勢の人々が試合を観戦した。選手たちはステージ裏の防音ブースで試合をプレイ。歓声や実況音声と隔絶された環境で集中できていたようだ



■ 第1戦:日本 対 シンガポール

試合前の設定をする選手たち。この試合ではボイスチャットが使えないトラブルがあった
各ブースに国旗が配され、中央スクリーンに試合の模様が映し出される
脱出ポイントまで進めさせておいて撃退するなど、日本はシンガポールに対して余裕の試合運びを見せた

 この日、日本にとって最初のマッチとなったのが対シンガポール戦。国際大会であまり実績のないチームが相手となるだけに、日本代表の面々は「油断せずに全勝を狙います」と、自信にあふれた様子で試合に臨んだ。

 使用マップは「NERVE GAS」。日本代表が比較的苦手としているマップだ。サテライト、ミサイル、デザートキャンプといった国内大会での定番マップに比べると経験面で不足があるという。日本代表はこのマップで不利とされる攻撃側で前半をスタートした。

 ちなみにこの試合、セットアップタイム中に日本代表チーム側でボイスチャットがうまく使えないという問題が発生し、仕方なくボイスチャットなしで試合に望んでいる。そのせいか、時間のかかる慎重な展開となった際、連携にスムーズさを欠く結果になったようだ。

 そして試合開始。のっけからトラブルに見舞われたこともあってか、日本代表は慎重な入りとなったファーストラウンドを落とす。各個の撃ち合いは互角以上に進めながらも、次第に削られて最後は結局1on1になるケース。時間をかけるとどうも混戦に持ち込まれるようだ。

 対照的に第2ラウンドはラッシュをかけてパーフェクト勝利。第3ラウンドからはラッシュを止められる形も出てきて、やはり時間のかかる展開。最後の1on1で勝負が決まるラウンドが続く。その中で強さを見せたのがSpyGea選手。1度は4人抜きという大活躍を見せ、不利な展開からでもラウンドの勝ちを拾っていった。

 全体としては互角で推移した前半は4:3と日本がややリードして折り返し。シンガポールが意外に強いのか、と思わせるここまでの展開だったが、後半の展開は一転して圧倒的なものとなった。

 防衛側となった日本は、シンガポールの前進タイミングを読み切り、ルート上へのグレネード一斉投擲から始まるカウンターアタックで相手をことごとく倒していく。シンガポールのほうは撃ち合いが始まる前にグレネードで半分は削られてしまうのだからたまらない。

 こうして後半は日本チームが連続して4人生存、5人生存のパーフェクトラウンドも記録しつつ圧倒。リーチのかかった後半第5ラウンドでは、相手にターゲットを確保させ、脱出ルートに向かうところを全員で待ちかまえるなど余裕ある試合運びを見せて勝利した。

 結果としては8-4という大差で日本代表チームが勝利。予選リーグ上位進出への第1歩を踏み出した。ただ、当の選手本人たちは前半の展開に問題を感じていたようで、試合後、一部パフォーマンスが悪かった部分について確認。同じマップで行なわれる対中国戦に備え、対策を話し合った。


前半はほぼ互角に推移したものの、後半は日本側がパーフェクトラウンド達成など優勢に試合を進め、終わってみれば余裕ある勝利を収めた



■ 第2戦:日本 対 中国

10月の大会「IEF」からわずか1カ月での再戦。雪辱を果たせたのか!?
中国(青)は的を絞ったディフェンスで数的優位を作っていった

 決勝トーナメント進出本命国のひとつである中国チームは、近年の強化が著しいチームだ。先月開催された国際大会「IEF」では日本代表チームと対戦し、これを下している。そして奇しくも、今回の対戦は前回と同じマップ「NERVE GAS」で行なわれることとなった。そこで日本代表チームは先の敗北を教訓として新たな作戦を立ててきたという。

 前半は日本が攻撃側をプレイ。この対決でひとつのポイントとなったのが、入り組んだ地形となっている防衛側陣地付近の地下道だ。日本チームはここに人数をかけ、たびたび激しい攻勢に出たものの、中国の硬い守りをなかなか崩すことができない。

 やっかいな相手となったのは中国のスナイパー。後退しながら射撃し、日本チームが顔を出したところをひとりづつ仕留めていく。その間、横の通路からタイミングよく中国のアサルトが割り込んでくるという形で、日本の攻撃の形が崩されていく。このパターンにハマった日本チームは、アサルト同士の撃ち合いになんとか勝利しても最後はスナイパーに削られるという形で、連続してラウンドを落としてしまった。

 結果的に中国はかなり的を絞ったディフェンスに移行し、日本が固まって行動しているところを逆に囲い込んで一気に殲滅するという形を多く作った。前衛がうまく日本チームを引きずり込み、不利な地勢に差し掛かった瞬間、チーム全体で数的優位を作り、一気に叩く。この流れで終始した前半、日本チームは勝利ラウンド数わずか1と大苦戦を喫した。

 1-6で折り返した後半、日本側は防衛側をプレイ。すべてのルートをまんべんなく見る守備網を敷いた日本は、中国の攻めに対して各所で互角に対応。倒し倒されの展開が続いた後、最後に両チームのスナイパーが残る展開だ。SpyGea選手に期待がかかったが、惜しくも中国のLIKE選手との直接対決に敗北してしまった。

 こうして後半1ラウンドを落とし、2ラウンド目はなんとか勝利できたものの、3ラウンド目には3人で守っていたサイドを一気に突破され、早々に2人対4人の状況を作られてしまう。多勢に無勢となった状況をひっくり返す事はできず、ここでも敗北。これで取得ラウンド数2-8となり、大差で中国の勝利が決定した。

 先陣のアサルトを務めるYuti選手は敗因について、「個々のスキルで負けていました」という。一方、司令塔役のAkiRiss選手は「作戦がうまくいきませんでした」と、それぞれ自分の責任だと語っていた。少なくとも共通していたのは、先月の「IEF」以降、中国のほうがさらにレベルアップを果たしていたという認識だ。


個々の撃ち合いでは互角に渡り合う場面もあったものの、作戦面(それが実施可能かどうかという点も含めて)で中国が1枚上手だったという印象の試合だった



■ 第3戦:日本 対 米国

この日の最終試合となった日本対米国。日本と仲の良い台湾チームも皆で見入っていた
次々にルートを変える米国に対し、日本は守りの連携でうまく対応する
テンポを変えた米国の接近を許す。混戦に持ち込まれ、僅差で敗北

 中国に大敗を喫した日本だが、その中国も米国に敗れたため、日本は決勝トーナメント進出のためにこの試合で8-1以上の大差での勝利が必要となってしまった。日本がこの試合に勝てば中国・米国と共に2勝1敗で並ぶが、中国との間にラウンド取得数に差があるためだ。一方のダークホースである米国は、これまでの試合で全勝。中国に対しても勝利を収め、この試合で大差で敗北しなければ決勝トーナメント進出が確定する。

 こうして日本代表は背水の陣でこの日最後のマッチに臨んだ。マップは経験豊富な「サテライト」。先攻は米国だ。第1ラウンドは日本が堅実な守りで米国の先陣を潰し、無難に勝利することができた。しかし、米国も巧妙だ。日本の守りが各ルートをまんべんなく見る形であることを発見したのか、重点的に攻めるルートを次々に変えて挑んでくる。

 比較的分散した形でディフェンスに入っている日本は、各ポイントでの最初の撃ち合いで即撃ち負けると連絡が滞り、危ない形になる。第2ラウンドはまさにこの形になってしまい、撃ち負けて突破を許したサイドから崩されてしまった。痛い敗北を喫して決勝トーナメント進出への後がない。

 個々の射撃精度では同等にも見えるものの、仕掛けの速さでは米国が勝るようだ。その圧力に押されたか、第3ラウンド以降、日本の守りはあまり前進しない、慎重なものになっていく。このラウンドではYuti選手が2カ所で撃ちあいに勝って無難に勝利。望みをつなぐ。

 第4ラウンドでは米国は狙いを変えて中央のダクトから展開、日本側の連絡がスムーズに行き、爆弾部屋に誘導したところを一気に殲滅することに成功、次のラウンドでも米国はルートを変えて侵攻、日本はこれも冷静に対処することができ、3連続でラウンド勝利した。

 しかし第6ラウンドで米国は一転して慎重に進む展開。出ると思えば出ないという形で日本はリズムを狂わされたか、両軍がもつれて3on3の壮絶な撃ち合いになったところ、米国が撃ち勝って日本は敗北。決勝トーナメント進出への望みが立たれてしまった。米国の作戦変化に対応しきれなかった部分が惜しまれる。

 ここで日本代表は意気消沈したか、7ラウンド目もふるわず負けを喫した。結局、前半は4-3でリードして折り返したものの、この時点で決勝トーナメント進出が決まった米国は笑顔を見せる余裕、一方の日本は険しい表情で、明暗がはっきりと別れる状態になってしまった。

 そして後半、日本側が攻めのターンでは米国優位で試合が展開する。結局、後半1ラウンドしか勝利できなかった日本は、最終ラウンド取得数5-8で敗北。予選リーグを1勝2敗で終える結果となった。米国は3戦全勝で決勝トーナメント進出を確定させた。

 こうして日本はグループ3位で終わり、翌日の決勝大会では、Aグループで3位になった韓国と5位決定戦を争うことになった。ちなみに、6位以上であれば12月に韓国・釜山で開催される「World Cyber Games 2011」への参加権が得られるとのことで、既に6位以上は確定した日本・韓国にとって、5位決定戦にはプライド以外に賭けるものがない。とはいえ、せめて良い試合を展開して欲しいところだ。


前半のうちに決勝トーナメント進出が消えたためか、後半の日本は精彩を欠いた。米国の余裕ある守りをなかなか崩せず、トータル5-8で敗北。グループリーグの成績は1勝2敗となった



■ Aグループの台風の目はタイ代表!台湾と共に決勝T進出を決める

驚きだったタイの強さ。優勝候補の一角韓国を相手に大勝した
そのタイに対し、台湾は僅差で辛勝。三つ巴の戦いから取得ラウンド数差で韓国が脱落した
最終戦を待たず脱落が決定した韓国は、それまでストレート負けを続けていたインドネシアに初のラウンド勝利を謙譲。これに会場からは拍手喝采が沸き起こった

 “死のグループ”となったAグループでは、初参加のインドネシアがストレート負けを連発する一方、強豪の韓国、台湾、タイの3チームが凌ぎを削りあった。

 韓国代表はプロチームではないながら、アマチュアチーム最強ということで実力はプロ並み。台湾は優勝経験もあるトッププロチームが出場して今大会の大本命だ。タイもプロチームが参加し、どのチームが一歩抜け出すかは全く予想がつかなかった。

 その中で他を圧倒したのがタイだ。中でもタイのスナイパー役であるPAOZ選手が高い実力を見せた。遠距離での完璧なショットはもちろん、アサルトを相手に近距離戦に持ち込まれても大半を撃ち勝つという高い技術を見せて、ほとんどひとりで試合を決めていく。対韓国戦では特に爆発し、ラウンド取得数8-4で圧勝している。

 ちなみに韓国は他の代表と比較して“強すぎるから”プロチームを出さないともっぱらの噂だが、今回の予選リーグ敗退で完全に面目をつぶされた格好だ。WCGではトッププロチームが出場すると言われており、タイや台湾、そして中国といった強豪に文字通りの圧倒的な強さで勝てるのか注目されるところだ。

 一方の台湾は、韓国にやや圧倒され、5-8と敗れたものの、タイ相手には序盤リードされるもトッププロとしての粘りを見せて、攻撃側をプレイした後半に逆転して8-6で勝利している。こうして強豪3チームが2勝1敗で並び、ラウンド取得数の差でタイと台湾が決勝トーナメントに進出した。タイが韓国に圧勝したのがポイントとなっている。

 中でもタイのスナイパー、PAOZ選手については、日本代表の各選手も実力を絶賛。「前から凄い選手だったけど、今度はもっと凄くなっている」、「ハンパない」と口々に認めるほどだ。

 選手たちのこうした感想からもわかる通り、全体的として、昨年に比べて各国とも競技レベルが大幅に上がっているという印象だった。昨年とは異なるチームで参戦した米国の意外なほどの強さも、各国のレベルアップを象徴するひとつの現象であっただろう。その中で日本はやや伸び悩んだ感があり、その差が結果に現われてしまったようだ。

 こうして翌日の決勝トーナメントには、タイ、米国、台湾、中国が進出。優勝の座をかけて準決勝、そして決勝戦を戦う。日本は韓国とともに5位決定戦に臨む。弊誌ではその模様も詳しくお伝えする予定だ。




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(2011年 11月 6日)

[Reported by 佐藤カフジ]