CEDEC 2011レポート
スーパーアニメーター金田伊功氏のゲーム業界での軌跡を辿る
「半熟英雄」や「ファイナルファンタジー」に残された作品たち
遠藤雅伸氏 |
時田貴司氏 |
金田伊功氏の名前は、ゲーム業界ではあまり知られていないかもしれない。1970年代からアニメーターとして活躍した金田氏は、独自の表現技法を用いて高い評価を得ると同時に、後の多くのアニメーターに影響を与えた。スタジオジブリ作品でも「もののけ姫」までの数々の作品に携わっている。
その金田氏は、1998年にスクウェア(現スクウェア・エニックス)に入社し、フルCG映画「FINAL FANTASY」の制作に携わった。その後もスクウェアに在籍し、アニメーション制作だけに留まらず、さまざまなゲーム作品でジャンルやカテゴリを問わず映像表現に挑戦した。しかし2009年7月、心筋梗塞で57歳にしてこの世を去った。
「CEDEC 2011」の特別招待セッションとして開かれた「日本アニメの伝説、金田伊功氏がゲームに残した物」では、株式会社モバイル&ゲームスタジオの遠藤雅伸氏と、株式会社スクウェア・エニックスの時田貴司氏が登壇し、金田氏のゲーム業界での仕事を紹介していった。
遠藤氏は今回の講演について、「私がアニメのスーパーバイザーをやっていた時、その作品の監督から『金田さんに仕事をお願いしたいのだが、なぜかスクエニにいる』という話をされたことがある。金田さんのことをネットで調べると、アニメのことはいっぱい出るけれど、ゲームのことはほとんど出てこない。スクエニから公式にこんな仕事をしていたというのを出してもらいたいと思っていた」と説明。今回はそれに応じる形で、「かなり際どいところまで出している」と時田氏が答えた。
■ 「ゲーム業界の金田氏」の軌跡を追う
本講演では金田氏が携わったゲームでの仕事について、その映像や資料を交えながら紹介された。それらを見ながら遠藤氏と時田氏がコメントしていくという流れで、金田氏がこだわった部分や、金田氏らしさが見えるところは、特に丁寧な解説が加えられた。
まず最初は2002年の仕事から。プレイステーション 2向けのMMORPG「ファイナルファンタジー XI」で、キャラクターのデモシーンや、モーションキャプチャー、アニメーションシーンのディレクターを務めた。手付けによるモーション作成も担当しており、その一例としてキャラクターメイキング時に使われていたガルカのデモシーンが紹介された。
大型種族のガルカの重量を感じさせる歩き方や、迫力を与えるカメラワークが特徴的 |
続いては2003年の「半熟英雄 対 3D」。時田氏が開発プロデューサーを務めた作品で、「ちょうど金田氏の手が空いていて、一緒に仕事ができるかもしれない」という話から、それが本当に実現したのだそうだ。金田氏は2Dと3Dを組み合わせたムービーのディレクターを担当。2D部分をタツノコプロダクション、3D部分をD3Dが制作し、それを融合させるという特徴的なムービーが仕上がっている。このほか金田氏は「エッグモンスター」のアニメーション等も担当している。
2Dと3Dの絵のテイストが全く違うため、アニメーション制作側からテイストを近づけようかという提案があったものの、2D VS 3Dというゲームのコンセプトを踏まえて、あえて全く違ったままにしてある | ||
エッグモンスターのアニメーションも担当。一定のリズムでフレームを切り替えるのではなく、あえて緩急をつけて映像にメリハリを出している。これも金田氏の表現の特徴といえる |
次は2005年の「武蔵伝II ブレイドマスター」。こちらも時田氏がプロデューサーを務めた作品で、金田氏はオープニングムービーのコンテを描いている。ムービー制作はガイナックス、作画監督は金田氏の影響を受けたアニメーターの1人である今石洋之氏。
直線的なエフェクトや、斜めに入ったカットなど、金田氏ならではの表現がコンテにも入っている |
同じく2005年には、「半熟英雄」シリーズの低年齢開拓を狙った「エッグモンスターHERO」にも携わっている。こちらでは「エッグモンスター」のアニメーションに加え、エンディングでスタッフロール代わりに用意された、DSを縦持ちにして見るエンディングコミックを執筆している。
ゲームの内容に合わせて、子供向けのコミックをイメージしたエンディングコミック。金田氏のこういう仕事が見られるのは貴重な機会だ |
さらに同年には「半熟英雄4 ~7人の半熟英雄~」の制作にも参加。こちらではムービーディレクターの仕事に加え、イメージボードやエッグモンスターのデザインも担当している。
「半熟英雄4」では幅広いデザインを担当。エッグモンスターのキャラクター性にもこだわりが見える |
2006年には、「聖剣伝説4」の制作に参加。ここで金田氏は、「フェイシャル・セッティング」を担当している。リアルタイムCGを使った演出シーンで、キャラクターに表情を持たせるもので、NPCを含めて約20キャラクターに、多彩な表情が用意されている。
3DCGでキャラクターの豊かな表情を実現する「フェイシャル・セッティング」。口や眉の使い方が特徴的で、キャラクターが生き生きとしている |
2007年には、ニンテンドーDS向けにフルリメイクされた「ファイナルファンタジーIV」で、オープニングムービーとリアルタイムイベントの絵コンテを担当した。金田氏は元のスーパーファミコン版をプレイしており、2Dでシンプルだったシーンを3Dのリアルタイムイベントに仕立て直している。金田氏は実はゲーム好きで、ディスクシステムの「ゼルダの伝説」を早々に手に入れて没頭していたこともあるのだそうだ。
元は2Dの俯瞰視点で、ただ歩いていくだけだったオープニングシーン。これを金田氏が3Dのイベントシーンとして表現し直した |
そして2009年、シリーズ初のHD機での発売となった「ファイナルファンタジー XIII」に、ストーリーボードディレクターとして携わった。プリレンダームービーやリアルタイムカットシーン、イベントバトルでの召喚獣登場エフェクトシーンなど、あらゆるシーンでのコンテを担当した。
絵コンテの多くは枠をはみ出して描いてある。特に強調したいシーンでは枠をいくつも使って描かれていることもある |
その後、金田氏は2009年に亡くなったわけだが、2011年にもまだ金田氏の仕事が残っていた。12月発売予定の「ファイナルファンタジー XIII-2」において、オーディンがライトニングを抱きかかえて登場するシーンがあるのだが、これは金田氏が「ファイナルファンタジー XIII」の開発時に描いたもの。ディレクターの鳥山求氏は気に入っていたものの、ゲームには入れられなかった。それが「ファイナルファンタジー XIII-2」で復活採用されることになった。
「ファイナルファンタジー XIII」で使えなかったシーンが「ファイナルファンタジー XIII-2」で採用された。金田氏と鳥山氏の想いが詰まったこのシーンが公開されたのは今回が初めて |
金田氏の軌跡を追い終えてから、遠藤氏と時田氏がコメントを残した。遠藤氏は、「金田さんがやってきた特殊な演出やエフェクトが、インタラクティブの中の技術として取り組める時代がもうすぐ来る。欧米ではリアルさを求められるが、日本には歌舞伎の見得のような、誇張された演出のお約束がある。その辺りを継承していきたい」と述べた。時田氏は「金田さんが残された仕事はとても楽しい。金田さんのいいところを作品にフィードバックさせていただきたい」と語った。
序文で書いたとおり、この講演は金田氏のゲーム業界における活動や貢献を世に知ってもらうことが最大の目的となっている。お伝えできたのはおそらくほんの一端に過ぎないが、アニメ業界からゲーム業界に渡り、それぞれに多大な影響を与えた人物がいたということに、まずは興味を持っていただければ幸いだ。
(2011年 9月 8日)