CEDEC 2011レポート

基本無料ゲームのマネタイズに挑んだ3者がディスカッション

オンゲー、コンシューマー、WEBの3業界からの進出者は何を考えた?


9月6~8日 開催

会場:パシフィコ横浜



 今年のCEDECは、時代の流れどおりにソーシャルゲーム関連のセッションが増えている。それらのセッションでは、スマートフォン対応など技術的な話題もあるにはあるが、基本的にはビジネス的な成功のための方法を模索する――有り体に言えば「よりお金になるゲームはどう作ればいいか」という方向性ありきの話題だ。旧来のCEDECやゲーム業界とは空気が異なるものの、それらを求めている人が多いのも事実だ。

 そんな今年のCEDECで、マネタイズを真正面から語るセッション「『基本無料』時代のマネタイズと事業戦略 ~ウェブ×オンラインゲーム×ゲーム、プロの頭の中にあるものは~」が開かれた。当然ながら来場者の注目度は高く、セッション開始20分前には数百人が行列を作り、満員御礼での開演となった。

 講演者は、株式会社Aiming代表取締役社長の椎葉忠志氏、株式会社ゆめみ President 代表取締役社長の深田浩嗣氏、株式会社DropWave代表取締役社長の本城嘉太郎氏。3氏はいずれもソーシャルプラットフォームでゲームを提供した経験を持つが、椎葉氏はオンラインゲーム業界、深田氏はWEB業界、本城氏はコンシューマーゲーム業界と、過去の経歴は三者三様だ。講演はパネルディスカッション形式で、それぞれの立場からコンテンツ制作やマネタイズのコツが語られた。モデレーターはCEDEC 2011運営委員を務めるポリゴンマジック株式会社の鶴谷武親氏が担当した。




■ 3つの業界から各々参入したことでの成功・失敗談


オンラインゲーム業界代表のAiming代表取締役社長、椎葉忠志氏
WEB業界代表のゆめみ President 代表取締役社長、深田浩嗣氏
コンシューマーゲーム業界代表のDropWave代表取締役社長、本城嘉太郎氏

 椎葉氏は以前、株式会社ゲームオンでMMORPG「RED STONE」を、ONE-UP株式会社で「ブラウザ三国志」を成功させた経験を持つ。「RED STONE」については、「月商最高4.2億円、年間33億円、契約金は500万円」と数字を出しつつ笑いを誘った。「ブラウザ三国志」でも月商3億円を超えており、PCブラウザゲームとしては異例のヒット作となった。

 「ブラウザ三国志」の成功要因について椎葉氏は、「99%運」としながら、「誰よりも早く準備した。誰もが当たると思っている時にやっても遅い。ソーシャルゲームがどうと考えず、PCの前にいる隙間の時間をもらおうと思っただけ。それが当たるマーケットになった時にたまたまゲームが完成して、たまたまmixiアプリのローンチに間に合った」とその意味を語った。

 深田氏はモバイルソリューションを提供する企業を10年間経営。マクドナルドのクーポンの仕組みや、モバイル向けメールマガジン「Sweetマガジン」などを手がけてきた。「Sweetマガジン」は昨年事業譲渡しているが、その後始めたのがソーシャルゲーム。しかしそちらは順調にはいかず、「流れに乗ってやろうと、勘所なく始めたのでうまくいかなかった。近々サービスを閉じる」という。

 WEB業界においては、ゲームに限らず「ソーシャル」が盛り上がっているものの、ゲーム以外ではあまりうまくいっていないという。深田氏はそれらを俯瞰して、「ゲームでは、こう使うとユーザーが盛り上がるという仕掛けがいっぱいある。それをエンタープライズ向けに使えば面白いのではと思っている。そういう領域では我々の強みが活かせるのでは」と、新たな分野での活用に目を向けている。なお、ゆめみは位置情報連動ゲーム「MyTown」の日本ローカライズ版を提供することを発表している。

 本城氏は、ゲーム開発会社のトーセでコンシューマーゲームのプログラマーを務めた後、オンラインゲームの開発をするためDropwaveを6年前に設立。当初からオンラインゲームの企画を各所に提案したものの通らず、コンシューマーゲームを開発してきた。

 その後、自社でペット育成アプリ「わんこのお部屋」を提供。当初はマネタイズがうまくできなかったが、現在はモバイル版が数十万会員を獲得し、月商数千万円規模になってきたという。本城氏は「コンシューマーゲーム業界から来て、1からマネタイズを学ぶのは難しい。その視点からどうマネタイズしてきたかを語りたい」と語った。

 ディスカッションで展開された話題は、各々のソーシャルゲームの成功・失敗談が中心。それぞれの立場から、自らの取り組みが語られた。

 椎葉氏の成功例は先述のとおり。そこで椎葉氏には「開発中のタイトルのどこをチェックするか」という質問が投げられた。椎葉氏は「年単位で遊べること。長く遊べるゲームを作れば、マネタイズポイントはいくらでもある」と答えた。それに必要な要素となるのは、何千回と繰り返し遊べる要素の存在。「典型例は昔からMMORPGにある合成要素。合成して強い武器を作っても、さらにベースが強いものがあればまた強化する。永遠に強化するものがある。そこを課金ポイントにすれば儲かる」と語った。

 本城氏は「わんこのお部屋」について説明。オンラインゲームの仕事はなかったものの、ネットワーク・サーバーの研究は続けており、「ソーシャルゲームの波が来た時にすぐに乗れた」と述べた。マネタイズ部分では、初月の売り上げは150万円にとどまったが、4~カヶ月で日商100万円を突破した。他のゲームを研究して大幅にゲーム内容を変えたのが功を奏したという。「ゲーム屋なので、ソーシャルゲームをゲーマー向けにしてしまう。要素をそぎ落として、ボタンクリックで散歩しかできないゲームにした上、競争するイベントでギャンブル性を高くした」と本城氏は説明した。

 深田氏はソーシャルゲームの失敗について、「始めたのが遅かったのが最大の要因。mixiアプリが始まる前から仕込みするくらいのスピード感でないとそもそもダメだった。マーケットのスピード感を見誤った」と述べた。ただ「MyTown」を獲得したように、海外との仕事には可能性があるという。「日本では携帯電話利用者の7割はインターネットを使っているが、米国のスマートフォン利用者でインターネットをしているのは10~20%程度。日本で普通に行なわれているサービスは、やりようによっては海外で強くアピールできる可能性がある。それをわかっている日本人も多くはない」と深田氏は語った。




■ マネタイズを成功させるには何が必要なのか?

 3氏にはさらに、「マネタイズを成功させるのに重要なことは何か」という直接的な質問もぶつけられた。椎葉氏は、「ソーシャルゲームを作っているという意識はない。オンラインで遊べるゲームを提供しているだけ」と述べた上で、「友達付き合いにお金払ってもらっている。彼女に飽きることはあっても友達に飽きることはない。ゲームで知らない人同士をどうやって仲良くさせるかを考える。ユーザー同士で友達を作ってもらえれば年単位で持つ」と答えた。

 またランダムにアイテムを入手できる、いわゆる「ガチャ」について2つの特徴を言及。「アイテム販売のビジネスのいいところは、価格競争がないこと。現実世界のように代替になる商品がない」、「無料で利用するユーザーを無碍にしてはいけない。彼らを大事にするには、ガチャの値段を高くすること。すると回数を回せないので、差がつきにくくなる」と説明した。

 深田氏は、心理学における欲求を知ることが重要だという。「欲求は心理学的には16に分けられるらしい。これはソーシャルゲームのマネタイズのポイントが書かれているようなもの。『保存』というのは基本的な欲求だそうで、だからソーシャルゲームでコンプリートしたくなるのかと考えられる。お金を使うポイントはそういう欲求に沿っているので、どの欲求を押さえに行くのか、そのアイテムはどの欲求を指しているのか考える」と述べた。

 本城氏は、よいオンラインゲームの条件として、「ゲームとして面白いこと」、「その1番面白い部分に課金があること」、「また明日も遊びたくなること」の3点を挙げた。1点目は当然で、面白くなければゲームをやめてしまう。2点目は感情が1番高ぶっているときに、後1歩のために課金があるのが重要だという。3点目は、無料で遊んでいるユーザーは、何か心残りになるフックがなければ、1度離れたら戻ってこないためだ。

 講演のまとめとして、3氏には「この先1年でどこに注力するか」が尋ねられた。椎葉氏は「最も持たれる端末はスマートフォンになるが、ネット端末でゲームすることは変わらない。その中で年単位で遊べるゲームらしいゲームをしっかり作るだけ」と語った。ただし開発ラインは既に10本あり、そのいずれもが「2千万円、3千万円という規模ではない、もっと大きなもの。今そこまでやれるのは大手でも他にないはず」と、自ら主張したとおりの展開の早さを見せた。

 深田氏は「MyTown」を意識しながら、「オンラインtoオフラインが伸びる。PC以外でネットが使えるようになり、今まではネットに入っていなかった店や移動中など、あらゆる瞬間がオンラインになる。世界的視点ではPCの視点からやろうというのがほとんどだが、日本が持つモバイルの価値を使ってやるべきだし、世界で勝てるマーケットはそういうところ」と語った。またゲーム開発者に向けて、「ゲームのノウハウはゲーム以外の領域で急速に求められるようになる」とも述べた。

 本城氏はスマートフォン時代の到来を歓迎。「全ての人がオンラインゲームをプレイできる夢の世界が来た。スマートフォンのオンラインゲームにほぼ特化していく。世界のマーケットに向けても出していく。リアルタイム同期通信サーバーも持っているので、ソーシャルを使ったコアユーザー向けスマートフォンオンラインゲームを広く展開したい」と語った。


(2011年 9月 7日)

[Reported by 石田賀津男]