E3 2011レポート

コーエーテクモ、「NINJA GAIDEN 3」プロデューサーインタビュー
新たなアプローチで世界に挑むジャパニーズ剣戟アクション!


6月7日~9日開催(現地時間)

会場:Los Angeles Convention Center



 今回のE3でコーエーテクモゲームスが最も力を入れていたのがTeam NINJAの最新作「NINJA GAIDEN 3」だ。現代に生きる忍者リュウ・ハヤブサの活躍を描く本シリーズは、日本のみならず海外にも多くのファンを持つアクションアドベンチャーゲーム。プレイアブルでの出展は今回が初めてだ。

 「NINJA GAIDEN」シリーズは現実離れした世界観でありながら、シリアスになりきれない独特のユーモアがあり、それでいて非常に難易度の高いゲームというイメージの作品だが、新作「NINJA GAIDEN 3」はそんな従来のイメージを一新して、リアリティのある世界観を背景に、よりダークでよりシリアスな物語と、この作品からの初心者でも直観的な操作が可能な、親切なUIを備えた現代的なアクションゲームになっていた。

 今作のシステムやストーリーについて、E3の会場でTeam NINJAの早矢仕洋介氏に話を聞くことができた。「NINJA GAIDEN 3」の見どころや、早矢仕氏が考える北米市場での日本デベロッパーの立ち位置などを話してもらった。「NINJA GAIDEN 3」の日本版は、プレイステーション 3とXbox 360向けに2012年初頭に発売予定。価格は未定。


【「NINJA GAIDEN 3」E3トレーラー】



■ ライバルキャラクター「仮面の導師」が物語の鍵を握る

Team NINJAの早矢仕洋介氏

―― 今作は前作までとはずいぶん雰囲気が違いますね。

早矢仕洋介氏: E3で日本のデベロッパーは年々存在感がなくなってきてます。その中で、主役ではなくても何か光るものを日本から発信していきます。今回の「NINJA GAIDEN 3」のテーマは“ジャパニーズダークヒーロー”です。忍者という存在を「日本を代表するダークヒーロー」として描きたい。そういうテーマを持って日本のデベロッパーが世界に向けてアピールして、世界中の人に熱狂してもらえるようなものをぜひ作りたいなと思っています。

 今までのファンはもちろん、新しい方にも触っていただけるものに仕上げます。「NINJA GAIDEN」は難しいゲームというイメージを持っている方も多いと思いますが、今回は今までクリアできなかった人でもクリアできるようにしています。初心者でも楽しめるし、スキルの高い人はさらに深く遊べるという、両方の方に満足していただけるものを目指しています。

―― 難易度の設定ができるという意味ですか?

早矢仕氏: イージーモード、ハードモードがあったとして、イージーモードでクリアできても悔しいですよね? そういう難易度設定を入れることが答えだとは思いません。難易度とは違う選択肢を用意します。シリーズを重ねていくと、ファンの方により満足して頂くために、だんだん難しくなっていくのは、いろんなシリーズものが抱えている問題だと思います。ゲーム自体は磨かれていてどんどん面白くなっているのに、タイトルがどんどん「ファン向け」になってしまう。本当はもっと多くの人に遊んでもらえるはずなんです。

―― 具体的にはどんなことをしているのですか?

早矢仕氏: ゲームの最中にボタンが出てきて、そのボタンを押せっていうものがあるじゃないですか。最近ゲームでよくQTE(クイックタイムイベント)と呼ばれるものです。今回の動画を見ていただくと斬っている時に「□」を連打しろというような指示が出ます。あれは一見QTEじゃないかと感じるかもしれませんが、ゲームを途切れさせないチュートリアルとして表示しているんですね。プレーヤーの方が実際にそれをマスターしていただいたころに自然に画面の表示を消して、プレーヤーの皆さんは出ていないことも気づかないくらいで、操作法を自然に覚えていただけるようにしています。


E3では、現代のロンドンというリアリティのある場所が舞台のステージが試遊台として出展されていた

―― あれはチュートリアルなのですか。

早矢仕氏: そうです。実はE3の試遊版も途中から出なくなっているのですが、結構皆さん気づかずに自然と身体で覚えてくれていると思います。プレーヤーが攻撃ボタンを押している時に、自然と手が届くボタンを表示しているだけなので、目押しをするだけのゲームとは違うんです。その先にある「刀で人や物を斬る感覚」を是非感じていただきたいなと思っています。

―― 試遊台の舞台がロンドンですが、なぜ現代のロンドンを舞台に選んだのですか?

早矢仕氏: 今回はリュウ・ハヤブサをより実在感があるキャラクターとして描きたかったので、全くのファンタジーな世界ではなくて、我々が住んでいるこの地球に彼もいるように感じられるよう、特にゲームの冒頭は実在する場所でというコンセプトで選びました。それとトレーラーにも出ている仮面のキャラクターは「仮面の導師」というのですか、リュウ・ハヤブサのライバルとして登場します。このキャラクターは錬金術師なのですが、錬金術師という存在がなじみ深い場所が今回のゲームのスタートになっています。そこで必然的にイギリスで、ロンドンということになりました。

―― このライバルキャラクターはラスボスですか?

早矢仕氏: 彼はストーリーの中で、リュウ・ハヤブサと何度も対峙します。今回リュウ・ハヤブサの右腕が呪われたようなグラフィックスになっているのですが、人を斬り続けると「業(ごう)」が貯まって赤い光を纏います。これには「仮面の導師」が深く関わっているのです。リュウ・ハヤブサと仮面の導師との関係もぜひ注目していただきたいです。

―― 今までのストーリーとは違う感じなのですか?

早矢仕氏: 今まではアクションゲームとしてアクション部分にフォーカスを当ててきたので、リュウ・ハヤブサはとにかく出てきた敵を次から次へと倒していくという存在でした。もちろん忍者にはそういう一面もあると思いますが、今回は彼自身の人間としての一面によりフォーカスします。今までのリュウ・ハヤブサは任務として戦闘をクールにこなしていただけですが、今回はより彼の内面や彼自身の本当の想いを描こうと思っています。


ファーストステージでは、テロリストに占拠されたロンドンに潜入する



■ 刀で骨を断つ「断骨アクション」を感じてほしい

――今作から入る新しいフィーチャーについて教えてください。

早矢仕氏: 我々が皆さんに感じていただきたいのは「断骨アクション」です。今までも刀を振るうアクションゲームは色々とありましたけれど、人を斬った手ごたえをしっかりと感じられるゲームはありませんでした。今はFPSを中心にすごくリアルを描こうというものが増えています。「刀を使ったアクションゲームで今の時代を描いたリアリティってなんだろう」という問いに対して、我々が行きついたのが“刀の手ごたえ”だったのです。刀で空を斬る場合と人の身体を斬る場合は感覚が違うはずです。身体を斬る場合、肉や骨を感じるはずですよね。今まで通りの爽快なアクション性と、刀で人を斬る手ごたえとの融合が今回の「NINJA GAIDEN 3」が目指すところです。現在のゲームとしての「リアリティ」に、アクションゲームを近づけていくとどうなるのだろうという答えを1番のコンセプトにしています。

――E3のデモでは4本足の巨大ロボットの足を斬ってましたね。

早矢仕氏: ボスキャラクターは色々なパターンを用意しているのですが、その中でなぜ今回あれを最初のボスに選んだかというと、ジャパニーズダークヒーローは刀1本で金属すら斬れるんだよというところをみんなに感じてもらいたいと思って、たくさん金属を斬らせたいと思ったので、ああいういっぱい足のあるボスキャラクターが出来上がりました。

――途中で刀が止まって、そこからぐっと力を込めていくアクションには確かに迫力がありますね。

早矢仕氏: そこは我々が非常にこだわった部分です。金属を斬る時のボタン連打も、金属の身体を通る刀の感覚を主人公と一体になって皆さんにも感じていただきたいと思ってあえてそうしているのです。


リュウ・ハヤブサのライバルとして登場する錬金術師「仮面の導師」

――刀のリアリティというと、たとえばKinectで操作したりするようなゲームはどうなのだろうと思うのですが、そういう方向性は考えなかったのですか?

早矢仕氏: あれはそのリアリティというより、「ごっこ」遊びに近いと思います。もちろん、悪い意味ではなく、体感操作で「空を斬る」のはもちろんそれはそれで面白いと思いますが、ボタンで押すゲームというのはそれこそ30年以上の歴史があるわけです。それはそれでみなさんが価値というものを感じていると思うんです。よりコアゲーマーの方ほど、ボタンで操作するゲームの方が好きなんだという方が多いですね。ボタンを押すからこそ感じるリアリティもあると思うのです。FPSだってボタンで操作していてもリアルを感じるわけじゃないですか。それと同じことがアクションゲームにあってもいいよねと。

――では今後も「NINJA GAIDEN」はそういう方向にはいかないのですか?

早矢仕氏: そういう「NINJA GAIDEN」があってもいいと思いますけどね。

――Wii U版の「NINJA GAIDEN」も発表されましたが、どういったものになるのか構想だけでも教えていただけませんか?

早矢仕氏: かつてニンテンドーDS向けに「NINJA GAIDEN Dragon Sword」というタッチペンアクションを制作しました。その時は「タッチペンアクション」としてどこまで本格的なアクションゲームが作れるかという挑戦だったのです。今回Wii U版ではぜひそれをこのナンバリングの最新作で実現するという挑戦を考えています。先ほどの「人を斬る感覚」というものをタッチペンでどう感じていただけるか実験をしているところです。

1度斬り付けた刀を、力を込めて引き抜く様がアクションに再現されている



■ ストーリーとリンクした新フィーチャー「業」と「介錯」

今作で早矢仕氏はシステムとストーリーが融合したアクションゲームを目指している

――戦っていると、右腕に赤いモヤモヤのようなものがまとわりついてきますが、あれはどういったものなのですか?

早矢仕氏: 人を斬った「業」を表現しているものです。人をたくさん斬っていると右手が光ります。その状態になると「絶技」という必殺技が出せます。人を斬って「業」を貯めるので、人を斬らなければ光りません。人を斬るという「業」をあの右腕で表現しようとしています。アクション部分だけでなく、ストーリー部分にももちろん絡んできますので、実際にはアクションとストーリーの両面で、あの右腕を通じて「業」をプレーヤーに感じてもらうようなゲームデザインを施しています。

――禍々しい感じですよね。

早矢仕氏: 決して強い右腕を手に入れたということではないということです。

――体全体がぱっと白く光ることがあるのはなんですか?

早矢仕氏: 日本で「介錯」という表現があるじゃないですか。切腹をしたあとにその人が苦しまないように打ち首をしますよね。それと一緒で、今回の敵キャラクターは苦しんで痛みを表現する状態になるのですが、それをリュウ・ハヤブサが介錯する。止めを刺すことでそれがプレーヤーへのリターンとして体力が回復します。

――敵が血を吹き出しながらウロウロしていましたね。

早矢仕氏: そういう人に対して攻撃ボタンを押すと、自動的に介錯攻撃を出せるようになっています。

――設定がゲームシステムがリンクしている感じなのですね。

早矢仕氏: アクションゲームでプレーヤーが主人公を操作する時に、より感情移入していただくために「何とかシステム」というゲームライクなものではなく、プレーヤーにその感情までしっかりと感じていただけるようなものにチャレンジして行きたいなと思っています。そのためにゲームデザイン1つ1つに「感情としての意味」と「ゲームとしての意味」を両方もたせようとしています。

――海外のゲームにはそういう思想のものがけっこうありますね。システムがストーリーに直結しているようなものが。

早矢仕氏: 海外のゲームには直感的なシステムが多いという気はします。「Uncharted 3」には、なんとかシステムってあまり聞きません。たぶんゲームの中身にはシステム的なこともいろいろ作られていると思いますが、それがプレーヤーにあまりわからないというか、直感的に経験ができる。「NINJA GAIDEN 3」でも「NINJA GAIDEN」シリーズを遊んだことがない人でもボタンを押せば勝手に「断骨アクション」が出たり、とどめを刺したりします。プレーヤーはシンプルにプレイして、アクションの出し分けをあまり意識せずとも我々が導いてあげるのが大事なのかなと思います。


ファーストステージのボスは巨大な多足ロボット。1本ずつ斬り落としていくと、途中で攻撃方法が変化する

――このシステムはこのボタンというわけではないということですか。

早矢仕氏: もちろんそれを理解してもらえるとより深く遊べるのですが、理解してなくても遊べるというのが大事なのかと。

――理解してない人でも、ゲームの中で経験を積んでいけば、最後までクリアまでたどり着ける?

早矢仕氏: そうですね。意識はしていないけれど、なんとなく直感で「人を斬ってしまった」と人を斬る手応えを体で感じて、しかもその人たちが痛がっているのを見て、返り血をあびているリュウ・ハヤブサから何を感じているのかをプレーヤーにもリンクして感じてもらいたいなと思います。

――海外では2012年アーリーということでしが、日本ではいつごろですか?

早矢仕氏: 日本でもだいたい同時期に発売したいとおもっています。2012年の早い時期にお届けしたいなとおもっています。



■ 日本の文化を世界に届けることがTeam NINJAの使命

E3コーエーテクモブースに飾られた鯉のぼり。昨年は五月飾りと毎回日本をアピールした飾り付けになっている

――E3で海外市場をご覧になって、どう思われましたか?

早矢仕氏: 率直に言うと悔しいですね。たぶん日本の開発の人はみなさんそう思っているのではないでしょうか。正直、誰がどうみても日本のデベロッパーは負けてるわけです。その中で闇雲にナンバーワンになれというのは非現実的な話だと思っています。だけどエンターテイメントは幅があるものだし、同じものばかりじゃ飽きてしまいます。バラエティ豊かにあるからこそ楽しいものです。

 日本のデベロッパーの中で私たちTeam NINJAがやるべきことは、私自身すごく明確に位置付けています。Team NINJAという名前に「忍者」という日本を象徴する題材が入っている通り、「日本の文化」を題材としたゲームを世界へ届けることです。「NINJA GAIDEN」は忍者が主人公ですし、武器は「日本刀」です。そういう日本に根差したものは外国の方には深く理解されていないはずです。日本人である我々にしかわからないものなのだから、我々にしかできない表現で世界のみなさんに届けようと。それがジャパニーズデベロッパーとして、我々がなすべき使命ではないかと感じています。

 海外で、特にこういう場所を回っていて思うのが、シューターばっかりだということです。その中で我々が単純にシューターを作っても、僕らはべつに子供の頃から銃を撃っているわけじゃないし、身近に銃があるわけじゃない。少なくともアメリカ人にとっては、銃は刀よりは身近な存在なのです。そういう人たちと競っても仕方ないのかなと。そうではなくて、日本で生まれて、日本に育ったからこそ描けるものもあるはずじゃないですか。その中には世界の人にもちゃんとわかってもらえるものがあります。そこで勝負をして世界のみなさんに届けたいと思います。


政府の人間がリュウ・ハヤブサに仕事の依頼に来る冒頭のシーン。純日本風と現代が融合したシーンになっている

――コーエーテクモゲームスは日本ではシミュレーション、オンライン、そして「真・三國無双」とバリエーション豊かですが、海外ではアクションゲーム一辺倒のメーカーとして捉えられそうですよね。

早矢仕氏: コーエーテクモゲームスになった時に、コーエーとテクモのIPをずらっと並べてみると、旧コーエーは「三國無双」だったり「戦国無双」だったり「信長の野望」だったり、テクモでいえばこの「NINJA GAIDEN」だったり、「零~zero~」というジャパニーズホラーがあったり、よく見るとアジアの文化に根ざしたIPだけというか、そればかりなんですね。今回のブースにも鯉のぼりがありますが、日本やアジアの文化を世界に届けるゲームカンパニーになれればいいかなと思っています。そこはコーエーとテクモの共通点かなと考えています。このTeam NINJAという名前も日本のもので、だからすごく「運命ってあるのかな」と勝手に思っているのです(笑)。オリエンタルな文化で世界に届ける勝負をしたいと、すごく感じています。

――いま日本のデベロッパーさんはみんな試行錯誤で苦しんでいる感じですね

早矢仕氏: そうですね。オリジナルな世界観のゲームをドーンとぶつけて勝負をされているところも多いと思います。でも「オリジナルな世界」と「第3次世界大戦を舞台にしたFPS」があったとして、どっちが多くの人に共感してもらえるかというと、やはりまったく見たことがない世界よりも第3次世界大戦の方が、きっとこうだよねと感じていただける部分が多いと思うのです。そこが日本のデベロッパーがついていけていない部分で、多くの方に受け入れていただけない理由なのかなと感じます。

――設定が独自路線すぎるということですか?

早矢仕氏: その世界独自の常識みたいなものでゲームを構築していくと、その常識ってプレーヤーの皆さんからすると非日常なので、まずはそれを理解するまでにひと手間あるし、理解できない方もいるのではないかと思います。

――海外のゲームは現実にある風景を切りとっているものがおおいですね

早矢仕氏: 海外のゲームはリアリティをゲームにするのがすごくうまいなと感じますね。ですから先ほど言った「刀で人を斬る」表現でというのは、いまゲーム業界が向いているリアリティに対して、我々からこういうリアリティもありじゃないかという提案です。見たこともない世界でオリジナルのアクションをするのではなくて、人を斬ったらこんな感触を感じるんだろうなというのを共感できてもらえたら嬉しいなと思います。

――そういう、ゲームの背後にあるコンセプトがわかった上でプレイすると、感じるところも違いそうですね。

早矢仕氏: このインタビューを最後まで読まれた方はぜひこのE3で出展した「NINJA GAIDEN 3」の動画を見て欲しいですね。我々の想いや狙いを感じていただけるかと思います。

――最後に日本のファンへのメッセージをお願いします

早矢仕氏: 日本のみなさんが「NINJA GAIDEN 3」に直接触れる機会がまだなくて、こうやって取材記事や動画などを見ていただいていると思いますが、斬った手ごたえはぜひご自身で触って感じていただきたいです。たぶん日本で触っていただける機会は東京ゲームショウになると思いますので、ぜひ直接プレイをして手ごたえを感じていただきたいと思います。

――ありがとうございました!


ロンドンの空にハヤブサが飛翔する!

(C) コーエーテクモゲームス / Team NINJA All rights reserved.

(2011年 6月 17日)

[Reported by 石井聡]