福岡ゲーム産業振興機構(GFF)レポート

博多湾にゲームの島を浮かべたい……
福岡ゲーム産業における産官学の取り組みとは?



 「レイトン教授」シリーズを皮切りに快進撃を続けるレベルファイブ。バンダイナムコゲームスから発売された「NARUTO-ナルト- 疾風伝 ナルティメットストーム2」を開発し、全世界で100万本以上の出荷を記録したサイバーコネクトツー。アニメ「ワンピース」関連タイトルをはじめ、良質なキャラクターゲーム開発で知られるガンバリオン。

 この3社を筆頭に、福岡のゲーム産業が活性化している。しかし、そこには単なるゲーム会社の経営努力に留まらない、産官学連携の取り組みがある。

 「現在は毎月、13社と福岡市、福岡県、九州経済産業局、九州大学が一緒になって会合を持っています。目的は1つで、福岡をゲームのハリウッドにすることです」(サイバーコネクトツー松山洋氏)。

 「福岡を盛り上げるのは自分たちなんだという考え方が、ちょっとしびれるというか、福岡人らしいというか」(元「もじぴったん」プロデューサー・中村隆之氏)。

 先に掲載された「『“ゲーム業界を元気にする”方法とは?』対談、松山洋氏 & 中村隆之氏(後編)」でも、福岡出身の2名のクリエイターは、地元のゲーム産業の取り組みについて熱く語った。

 事実、関東でも福岡の取り組みについて、小耳に挟む機会が増えた。目につきやすいのはゲーム会社のヒットタイトルだが、2003年に「GAME FACTORY FUKUOKA」、2007年に「GAME FOR FUTURE 2007」と独自イベントを開催。東京ゲームショウだけでなく、昨年からは韓国のゲーム見本市G-Starでも、独自ブースを出展するまでに至った。

 「福岡をゲームのハリウッドにする」という謳い文句も、空虚な空手形ではなく、現実的な目標であるらしい。福岡市は2006年に「ゲーム都市宣言」を行なったが、地方自治体がこうした宣言を行なうのも、考えてみれば異例のことだ。

 産官学が1つになって、ゲーム産業を活性化しようとしている福岡地区。日本全体で景気が低迷している中、こうした取り組みは、なぜ生まれたのか。具体的に何が行なわれているのか。同様の取り組みは、他の都市でも可能なのか。その実態を取材した。




■ 九州大学でシリアスゲームを開発、市役所で体験展示


左から九州大学の学生で、シリアスゲームを開発・展示した安東遼一さん、佐藤聡栄さん、田代成美さんと、シリアスゲーム事業のプロジェクトリーダー松隈浩之氏(芸術工学研究院講師)

 福岡市の中心街・天神地区にある福岡市役所。2010年10月23日・24日、市が主催するイベント「環境フェスティバルふくおか2010」が開催された。大勢の親子連れで賑わう会場で、異彩を放ったのが環境をテーマにしたシリアスゲームの体験展示だ。小学校低学年の子どもたちがマウスを操ったり、iPadの画面をタッチして遊ぶ様に驚かされた。

 展示されたのは、九州大学の学生が開発した「ダーウィンの箱庭~みずうみクリエイチャー~」、「あいにいくけん」、「鉄屑のキリン」と、地元企業のエレメンツによる「エコろじっく」の4本。いずれも福岡市が九州大学芸術工学研究院の委託事業としてスタートした「シリアスゲームプロジェクト」によるものだ。

 シリアスゲームとは、エンターテイメント性もさることながら、現実の社会問題の解決などを目的としたゲームや、その取り組みのことだ。教育・福祉・政治・宣伝など、さまざまな領域で、今までにないゲームが世界中で誕生している。日本ではニンテンドーDSの知育ゲームなどを筆頭に、商業ベースでの開発が一般的だが、行政による開発は非常に珍しい。

 福岡市がシリアスゲーム開発に取り組んだのは、一昨年(平成21年度)からで、3年間の期間事業だ。国の助成金を元に福岡市が予算をつけ、環境というテーマを提示して、九州大学に事業を委託。エレメンツの開発サポートに加えて、福岡のゲーム会社13社からなる任意団体「GFF」(Game Factory's Friendship)が監修した。大学と地元企業が一緒になって、シリアスゲーム開発を行なった点が特徴だ。

 プロジェクトリーダーとして開発を主導した、九州大学芸術工学研究院講師の松隈浩之氏は「福岡市とGFFの間に中立的な立場の大学が加わることで、事業がスムーズに進んだ」と、産官学スキームの効果を説明。1番大変だったのは進捗管理で、学生もゲーム開発は初めてだったが、よく頑張ったと振り返った。

 以下に、福岡市で昨年度開発された「シリアスゲームプロジェクト」で開発されたタイトルをご紹介しておく。公式サイトで無料配信中だ。


自分だけの水槽を作りあげ、外来種の繁殖を抑制することで、生態系について学ぶ「ダーウィンの箱庭~みずうみクリエイチャー~」犬の散歩をしながら、ゴミの分別回収を行なっていくデスクトップ・アプリケーション「あいにいくけん」
ガラクタを食べて成長するキリンの撃退を通して、ゴミのリサイクルが学べる「鉄屑のキリン」。唯一のiPhoneアプリだ家庭を舞台に、身近なCO2削減が学べるアドベンチャー「エコろじっく」。エレメンツ開発のシリアスゲームだ

 福岡市経済新興局の内藤玲子氏は「シリアスゲーム先進国のオランダの例も勉強しつつ、福岡からシリアスゲーム産業の可能性を追求したい」と語る。もっとも、1年目はゲームが完成した段階で息切れした感があった。そこで2年目となる平成22年度では、新産業の創出と効果測定を当初から意識して、大学と企業にテーマ選定を依頼。「ヘルスケア」、「観光ARG」の2本で開発がスタートしている。

 ヘルスケアゲームは九州大学を中心に、九州大学病院(同病院のリハビリテーション部は、ナムコと連携してリハビリマシンを開発したことでも知られる)と、デイケアサービスも行なう医療法人順和長尾病院の協力で開発が進んでいる。観光ARGを開発するのは、前回と同じくエレメンツだ。「凱歌の号砲」(コーエー)企画制作など、もともとSLG開発に強い同社だが、昨年「博多バスゲーム」、「天神ツイット・ハンティング」、「ソルトARG」という3本のARGを博多で実施した。

 ちなみにARGとは「Alternative Reality Game」の略で、日本語では「代替現実ゲーム」と呼ばれている。架空のウェブサイトにアクセスしたり、現実の街を探索しながらヒントを集めたりして、ストーリー体験ができるというものだ。エレメンツの開発する観光ARGは、iPhoneを片手に福岡の観光名所や史跡をたどりながら、その背後に隠されたストーリーが体験できるイメージ。今春には実証実験が始まる予定だ。

 エレメンツの石川淳一社長は「福岡は観光名所がないといわれがち。実際、観光客の7割がショッピングで訪れるなど、目的が偏っている。しかし歴史が長い分、切り口を変えれば思わぬ価値のあるコンテンツが多数眠っている。僕も開発を始めてから、会社のそばにある寺が幽霊で有名だと知って、驚いたほど」と語る。こうしたネタを集め、当時の歴史背景なども絡めて、うまくARGでストーリー性を付与すれば、歴史に関心のない人でも、観光しながら楽しんでもらえるのでは……というわけだ。

 もっとも「ARGで観光客アップ」などと言われても、ピンと来ない読者の方が大半ではないだろうか。そもそもARGという言葉すら、初めて耳にした人も多いだろう。iPhone+観光+ARGという組み合わせは、世界的にも珍しい。こうした最先端の分野についても福岡市が音頭を取って、大学や企業と協力しながら推進している様子には、改めて驚かされた。




■ ゲームで「街おこし」をねらう福岡市の展望

 さて、ここで改めて福岡の産学官連携の実情について、まとめてみよう。

 産学官連携とは、読んで字の通り「産業」(=企業)、「学問」(=大学など)、「官庁」(=行政)が互いに連携を取り、共通の目的に向かって邁進する取り組みのことだ。企業は業績アップや市場の活性化、大学は最先端の研究や人材育成、行政は地域活性化や企業誘致などが当面の目的となる。また、その潤滑油としてNPOなどの非営利団体が組みこまれることも多い。

 ゲーム業界で産学官連携の必要性が認識され始めたのは、現世代機の足音が聞こえてきた2000年代前半からだ。EAなどの大手パブリッシャーが大学や研究機関と連携を取り、教育研究資金の提供や研究施設・機材、データ提供、教員派遣、ゲームやカリキュラムの協同開発などを進めるようになった。これらは「産学」の連携で、アメリカには長い下地がある。その好例がSIGGRAPH(シーグラフ)を頂点とした、映画産業におけるハリウッドと学術界の結びつきだ。

 昨今では、これに加えて行政が音頭を取って推進する例が増えてきた。Ubi Softなどのパブリッシャーの開発スタジオが軒を連ねるカナダのモントリオールは、外資企業に対する減税措置など、行政主導でゲーム関連企業の誘致が進み、産業クラスタが形成された好例だ。欧州でもオランダは国や自治体がシリアスゲーム開発に予算をつけており、成功を収めている。非常にざっくりまとめると、ゲーム産業を用いた「巨大な街おこし」が進んでいるのだ。

 アジアでは、これが「国おこし」のレベルにまで進んでいる。いわば「国策」としてのゲーム開発だ。先鞭を着けたのが韓国ゲーム産業の躍進で、中国も外資系企業の参入に高い障壁を設け、国内ゲーム産業の保護育成を強化。今では新興市場向けに、国産ゲームの輸出促進を進めるまでになった。ゲーム産業は製造業ではなく情報産業。自動車産業などと違い、産業開発が低コストで済み、付加価値が高く、輸出産業としても可能性がある。インターネットの普及で地域差も解消された。タイ、シンガポール、マレーシア、インドなど、各国で同様の動きが進んでいる。


Ubi Softを筆頭にゲーム企業の集積が進むカナダ・モントリオール政府の肝いりで開催される展示会「ChinaJoy」は中国ゲーム産業の象徴だ福岡市は東京ゲームショウに2008、2009年とブースを出展した
昨年、韓国の釜山で行なわれた「G-Star 2010」にも福岡ゲーム産業振興機構として出展。多くの来場者が興味を持ってブースを訪れていた

 一方で福岡では、産では前述のGFF、学では九州大学、官では福岡市が中心となり、「福岡ゲーム産業振興機構」を結成。「福岡をゲームのハリウッドにする」を合言葉に、活動が行なわれている。発端となったのが、2003年にレベルファイブ、サイバーコネクトツー、ガンバリオンの3社で行なわれたイベント「GAME FACTORY FUKUOKA」だ。翌年ゲーム制作会社7社でGFFが設立。2005年にはGFFと九州大学で産学連携を促進するための連携協定が結ばれた。こうした流れを受けて2006年に福岡市が参加。「福岡ゲーム都市宣言」と共に、福岡ゲーム産業振興機構が発足する。

 もっとも、行政とゲームの壁は厚い。一時の「ゲーム脳」バッシングは収まったが、それでも何かと社会的批判を受けやすいのも事実だ。行政側でゲーム好きの担当者の尽力があったのでは……と質問したところ、あっさりいなされた。福岡市経済振興局の土井裕幹氏によると「福岡市の地域産業の中で、今後成長領域として、市が投資する価値があるか否か。それを客観的に判断した結果」だという。

 福岡には高い技術力を持つ複数のゲーム企業があり、GFFという受け皿がある。九州大学などの学術機関もある。新世代機の投入で市場の成長も見込まれる。一方で優秀な人材が県外に流出し、企業集積も進まない。財政事情も決して明るくはない。ならば、ゲーム産業に市が投資して、保護育成するべきだ……。こうしたロジックで自治体が加わることになった。いわば、ここでも「巨大な街おこし」が目的となっているのだ。




■ インターンシップやコンテストなど、多彩なイベントを実施


福岡のゲーム産業に関する情報が集積する、福岡ゲーム産業機構の公式サイト

 では、産官学の具体的な取り組みとは何だろうか。主なものを紹介しよう。

 最も力を入れられているのが人材育成事業で、その中核が「FUKUOKAゲームインターンシップ」と「福岡ゲームコンテスト」だ。「FUKUOKAゲームインターンシップ」は、春休みと夏休みの年2回、1カ月間にわたって学生向けにインターンシップを行なうもの。応募窓口と事務手続きは福岡市が担当し、遠隔地からの応募者には、滞在費の補助も出る。過去9回開催しており、最近では県内より県外の応募者が上回るほどになった。

 システムソフト・アルファーの宮迫靖社長や、エレメンツの石川社長は異口同音に「一企業が実施しても限界がある。福岡市の冠がつくことで、全国から優秀な人材の募集が見込める」と、その成果を強調する。システムソフトアルファーでは、インターンシップが縁で入社した学生もいるとのこと。サイバーコネクトツーでも、インターンシップで作成したゲームを独自に改良して、入社試験に臨んだ学生も見られたという。

 「福岡ゲームコンテスト」では、「ゲームソフト」、「ゲームムービー」、「ゲームポスター」の3部門があり、過去3回開催。応募総数は380点を数え、こちらも地元より全国からの応募者の方が上回るまでになった。入賞者も県外からの応募が多いとのことで、痛し痒しだという。もっとも、両事業を通じて福岡ゲーム産業の存在を全国にアピールでき、優秀な人材の雇用に繋がった例もあり、今後も力を入れたいとのことだ。

 続いての事業がイベント事業で、主なものに毎年3月に福岡市が開催する「ゲームフロンティア in 福岡」がある。GFFの有名クリエイターによるトークセッションや、福岡ゲームコンテストの表彰式などだ。これ以外に福岡県が主催するコンテンツ見本市があり、GFFとしてブースが出展される。同イベントは本年1月「福岡アジアコンテンツマーケット2011」として、アジア市場も視野に入れたイベントに進化し、開催された。


学生の生の声がわかる「インターンシップblog」は人気コンテンツの1つだポッドキャストも専門学校の協力により、同校のスタジオで収録されている

 開発者向けのセミナーも行なわれている。福岡県が主催する「福岡コンテンツ産業振興会議」では、デジタルコンテンツ応用セミナーとして、年に3~4回の技術セミナーを開催。昨年11月にはコーエーテクモゲームスの技術支援部から講師を招き、ゲームエンジンなどの講演が行なわれた。九州経済局ではゲームに特化した内容の知的財産セミナーを年3回開催。このほか、東京ゲームショウやG-Starへのブース出展などのPR事業、冒頭で紹介したように、平成21年度から始まったシリアスゲーム事業などが行なわれている。

 また「学」についても拡充が図られている。これまでは九州大学との関係が中心だったが、今年から福岡・九州の大学や専門学校と連携作りの取り組みが始まった。これまで3回にわたってミーティングが行なわれ、「ゲームフロンティア in 福岡」でも、共同企画などが予定されているという。

 本年1月にはさらにユニークな取り組みも加わった。IGDA(国際ゲーム開発者協会)が主催し、48時間でゲームを作る「Global Game Jam」(GGJ)の福岡会場として、九州大学が参加したのだ。日本時間で1月28日から30日まで開催された本イベントには、学生を中心に世界44カ国で約6,500人のインディゲームクリエイターが参加し、1,500本以上のゲームを開発。日本でも他に東京工科大学、北海道大学が参加している。

 福岡会場で特筆すべきは、九州大大学院生の金子晃介氏を中心に草の根で準備が進み、大学、GFF、福岡市などがバックアップして開催された経緯と、その支援体制だ。冒頭では元「もじぴったん」プロデューサーの中村隆之氏が基調講演を行ない、九大芸術工学部の学生やゲーム専門学校生、ゲーム制作会社のグラフィックデザイナー、プログラマーら68名が参加。エレメンツの石川淳一社長も学生に混じってゲーム作りを行なった。新聞報道を見た福岡市長から突然の会場訪問を受ける一幕もあり、高い宣伝・波及効果が見られた。

 もっとも、イベントやセミナーの数で言えば、CEDECを筆頭に、首都圏の方がはるかに多い。福岡の特徴は、これらが毎月開催されている定例会の場で議論され、内容がより実践的になっている点だ。定例会ではGFF加盟各社、福岡市、福岡県、九州経済局、九州大学から代表が集まり、30数名で議論が行なわれる。この場でイベントやセミナーの企画が提案され、企業のニーズに即した物になるよう、調整されるのだ。過去にも県と経済局で似たようなイベントが行なわれていたが、企業側のニーズも踏まえて、経済局側で知的財産セミナーに内容が変更された、などの例がある。

 一方、GFF側では専門部会制が取られており、大きく分けてイベント担当がレベルファイブ、セミナーなどの人材育成がサイバーコネクトツー、プロモーションがガンバリオン、ウェブがエレメンツ、ガンバリオンという役割となっている。行政からの企画提案を受けて専門部会で内容を詰め、定例会で承認を得るという流れだ。このほかシステムソフト・アルファーが行政との相談窓口的な役割を担っているが、これも「弊社はパブリッシャーなので、クライアントに気兼ねすることなく率直に話ができます。先方としても相談がしやすいのでは」(宮迫社長談)という。

 このほか人材育成で注目したいのがサイバーコネクトツーの活動だ。GDCやCEDECの報告会をGFF内で主催し、企業横断的な技術交流会も開催。同社の大会議室が使われ、大規模なものだと300名近くの参加者があるという。その他、ゲーム専門学校のカリキュラム作成担当者と意見交流会を開催した際には、十数校から約30名が参加した。「学生に頑張れと言うだけでなく、具体的に何をどれくらい頑張るのか、教えるのが学校の役目。そのための協力を惜しまない」(松山社長談)というから、驚かされる。




■ 福岡から全国に波及する産官学の取り組み


GFFの人材育成部会を担当するサイバーコネクトツーの松山社長
システムソフトアルファーの宮迫社長は行政の良き相談窓口だ
エレメンツ石川社長はウェブ部会を担当し、情報発信を行なっている

 ところで、こうした産官学連携の取り組みは、企業側にとって、どのようなメリットがあるのだろうか。一口にGFFといっても、大はレベルファイブでは200人以上、サイバーコネクトツーでは130人以上のスタッフを抱える企業から、小は10名以下の企業まで、会員各社の規模はまちまちだ。そもそも、こうした企業横断的な取り組みは、総論賛成・各論反対という状態になりやすい。

 システムソフト・アルファーの宮迫社長は、共通の目標を掲げて行動を起こすことで、間接的な恩恵が受けられると説明した。インターンシップやイベントなどは、1社で行なうにも限界がある。それが産学官の冠をつけることで、全国から優秀な人材が集まり、宣伝の機会も増える。カナダやオランダをはじめ、海外の国や自治体や業界団体、企業からも、GFF事務局を通して、ひっきりなしに問い合わせが来るという。

 エレメンツの石川社長も、福岡での仕事が増加したと語った。以前であれば東京・関西地区の仕事がほとんどだったが、GFFで福岡にゲームやIT関係の会社が集まりつつあり、その効果が出ているという。2010年11月2日にはオランダ大使館主催のシリアスゲームセミナー、11月9日にはJETRO(日本貿易振興機構)主催のゲームセミナーが福岡市で開催されたが、こうした情報が優先的に入るようになったのも、大きなメリットだと語る。

 また両者から「レベルファイブやサイバーコネクトツーがある、福岡のゲーム会社」という地域イメージアップの効果も、かなり高いという声が聞かれた。パブリッシャーがデベロッパーに案件を発注する際、それだけでも他の企業より優位に立てるというわけだ。

 このほかサイバーコネクトツーの松山社長は、パブリッシャーやプラットフォームホルダーにとっても、GFFに声をかければ、まとめてプレゼンテーションができる点も大きいのではないかと説明した。直近でもマイクロソフトからKinectのプレゼンテーションをGFF全体で受けたという。最近ではゲーム以外の行政関係者や、街の人からも「福岡でゲーム産業が盛り上がっていますね」と声をかけられるようにもなった。こうした街のブランド力やイメージアップは、目に見える数字を超えた波及効果があると語る。

 一方でGFF事務局としては、加盟会社全体でGFFを盛り上げている点を強調する。イベント時も企業間でブースの大きさを共通にしたり、各社の代表者を横並びで紹介したりと、露出度を共通にする配慮も行なっているという。

 こうした福岡での取り組みは、他の地方にも影響を与えつつある。昨年のCEDECでもパネルディスカッション「地方都市から世界へ ~東京だけが日本じゃない~」が開催され、札幌と大阪の事例が紹介された。札幌ではスマイルブームの小林貴樹社長が「SGC」(札幌ゲームクリエータ会)の取り組みを紹介。行政面でも北海道経済産業局の主導で北海道モバイルコンテンツ推進協議会が発足、IT企業ネットワーク形成事業も推進中だ。

 大阪ではヘキサドライブの松下正和社長が取り組みを紹介。「関西ゲームデベロッパー交流会」を前身に、GIPWest(Game Innovators Portal West)という企業間での協力体制構築が進んでいる。立命館大学映像学部を中心に、KRP(京都リサーチパーク)との交流や、ゲーム学会のDiGRA Kを介した学生との交流なども行なわれている。CEDECで両者は「GFFの存在、中でもサイバーコネクトツー松山社長に刺激を受けた」と口を揃えた。

 このほか沖縄でも2009年に「GION」(Game Industry of Okinawa's Network)=沖縄ゲーム産業振興ネットワークが発足した。昨今、急成長しているソーシャルアプリ業界では、ブロードバンド環境とPCがあれば少人数でも開発ができるため、地方在住のメリットが大きい。今後も同様の取り組みが進むことが期待される。




■ 「ゲーム特区」申請にも手を挙げた福岡市


「福岡をゲームのハリウッドにする」そのための組織がGFFだ
2010年11月2日に福岡市で開催された、オランダ大使館主催のシリアスゲームセミナー。海外の最新情報が東京を超えて、福岡に集積し始めている

 もっとも、なぜ福岡で先鞭をつけることができたのか。これも関係者から異口同音に語られたのが「福岡の県民性・地域性」だ。システムソフト・アルファーの宮迫社長は、福岡人のDNAには、東京への強烈な対抗意識があり、企業間で暗黙の連帯感があるという。これに加えて「空港が日本一都市に近い」、「適切な規模の都市サイズ」、「家賃の安さ、豊かな自然環境」などをあげ、福岡にこだわる明確な理由があると説明。一言でいえば「いごこちがいい」と語った。事実、福岡は「サラリーマンが1番転勤したい地方都市」で有名だ。

 一方、他の都市で産官学連携をとるには、何から始めればいいのか。福岡市経済振興局の土井氏は「1社だけを優遇することはできない。GFFのような地域企業の連携という受け皿がなければ、大学や行政も働きかけるすべがない」と説明する。そのうえで、行政がゲーム産業の可能性をどのように捉えるかが重要だが、地方都市の財政はどこも厳しく、危機意識は高いのではないかという。また市や県単位で行政がまとまっている方がのぞましく、自治体をまたがると余計なエネルギーが必要になると助言した。

 また、これは筆者の見解だが「ゲーム会社は優秀な人材の確保、行政は地域の雇用促進と産業の活性化」という、共通の問題意識でつながった点が、成功の要因であるように感じる。一方で学の側は、一歩引いている印象を受けた。それだけにシリアスゲーム事業や、GGJに注目したい。前述のように今年度は九州大学を中心にヘルスケア関連のシリアスゲーム開発が進んでいる。九州大学ではシリアスゲーム先進国として知られるオランダとネットワークも構築中で、高い成果を期待したいところだ。

 では、今後福岡ゲーム産業振興機構は、どこに向かって進んでいくのか。サイバーコネクトツー松山社長は、課題として「ネクストステップの目標設定」をあげる。

 もともとGFFは「福岡にゲーム会社がある」ことを、地域に知らしめることから始まった。この段階はクリアしたというわけだ。一方で最終目標は「福岡をゲームのハリウッドにする」こと。そのために、ゲーム関連企業の集積を進めて、GFFを拡大させていきたいが、加盟各社で目的意識が曖昧になる恐れもある。そのためにも、わかりやすい「次の目標」が必要というわけだ。これをGFFで議論し、福岡ゲーム産業振興機構全体の目標として、共有化する必要があるという。

 「これはレベルファイブの日野さんとも、GFF発足時から、よく話をしていることなんですが」と松山社長は語った。「博多湾の埋め立て地にビルを建てて、福岡のゲーム会社やIT関連企業などを、一堂に集めたいんですよ。収録スタジオなども作って、各社で共有化する。取材なんかも、1日そのビルにいれば、全部済んじゃう。ビルの周りには住居施設を作って、社員が住めるようにする。夢はゲームの島を作ること。そうなれば、福岡がゲームのハリウッドになったと、胸を張れるんじゃないか」

 今は「僕らが勝手に言っていること」と松山社長は笑うが、この構想は福岡ゲーム産業振興機構の関係者にとって、耳慣れないものではないようだ。関連性はさておき、福岡市では新規進出企業に対する交付金支給など、さまざまなビジネスサポートを行なっている。これを一歩進めて、外資企業も対象に、法人税の減税措置なども視野に入れて、より一層のゲーム関連企業の誘致を進める、いわゆる「特区」申請に手を挙げたという。認可の可能性は不明だが、「島」構想にも前向きであることは伝わってくる。

 さまざまな立場の人が、さまざまな場所で、共通の目的に向かって進んでいる。一連の取材で、産官学の理想とも言える姿が感じられた。いつの日になるかわからないが、博多湾にゲームアイランドが浮かぶ日を期待したい。

(2011年 2月 15日)

[Reported by 小野憲史]