東京ゲームショウ2010レポート
THQ、「Devil's Third」クリエイター板垣伴信氏インタビュー
近未来の戦争世界を描くメレーコンバット+シューター。3D立体視や大規模マルチにも対応
E3 2010でTHQの新たなブロックバスタータイトルとして発表された「Devil's Third」。「NINJA GAIDEN」シリーズや「DEAD OR ALIVE」シリーズのクリエイターとして知られる板垣伴信氏の最新作である。板垣氏は、テクモを退社後、ヴァルハラゲームスタジオを設立して代表取締役CTOに就任。「Devil's Third」は新会社第1弾タイトルとなる。
東京ゲームショウでは、残念ながら会場での出展は行なわれなかったものの、THQが9月17日に実施した「THQ Media Showcase 2010」においてインタビュールームが設けられ、板垣にインタビューに応じてくれた。E3から新規の素材は一切なかったが、この3カ月に一定の進展があったようで、ストーリーやキャラクターについて踏み込んだ話も聞くことができた。まずは衝撃のトレーラー映像をごらん頂きたい。
【「Devil's Third」トレーラー】 |
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●ここに動画を挿入GDC09_Japanese.avi |
■ 板垣氏「シューターというジャンルにこれまでメレーコンバットが充実したゲームが無い」
ヴァルハラゲームスタジオ代表取締役CTO板垣伴信氏 |
トレーラーより。メレーコンバットとシューティングアクション。「Devil's Third」の目指すところはこの両者の高度な融合だという |
編: 「Devil's Third」は、E3での発表されたトレーラーを何度も見させていただきましたが、海外市場を意識した非常にリッチなグラフィックスと、「NINJA GAIDEN」を彷彿とさせる自由度のアクションが印象的でした。
板垣氏: まあ同じ人間が作ればテイストが似るところはどうしたって出てきますが、「Devil's Third」は、「NINJA GAIDEN」とはまったく異なるゲームです。近接戦闘や、刀の扱ったゲームに関しては僕らはプロですから。戦闘の雰囲気やアクションのきめ細やかさという点で、似ていると感じる人がいるかもしれませんが。
「NINJA GAIDEN」はアクションゲームに飛び道具が付いているゲームですよね。これに対して「Devil's Third」はサードパーソンシューターに、極めてリアルで凄絶な近接戦闘とメレーコンバットを盛り込んだゲームです。アクションゲームに飛び道具をつける方向性では色々な限界が見えてしまったので。自分で作ったから知っているんですが、その方向性では、銃火器、刃物、肉体を使った戦闘のリアリズムを描き出すのに足かせが多すぎる。しかもオンラインでの多人数対戦も作れない。作ったとしても妥協しなきゃならない点のリストアップが、僕の頭の中で出来ちゃってる。だったらシューターの近接戦闘を充実させた方が、最終的には高いところに行けるんじゃないの?ということでシューターを選びました。
編: トレーラーを見る限りでは、確かにメレーコンバットのシーンがいくつがありますが、板垣さんの代表作である「DEAD OR ALIVE」的な駆け引きの要素もあるのでしょうか?
板垣氏: 格闘ゲームは相手が1人ですから、あれだけ緻密な駆け引きで遊んでもらうことができますが、「Devil's Third」は数十人での対戦ですから。格闘ゲームほどの駆け引きを入れたら頭がオーバーヒート……というか対応できないでしょう。とはいえ単なる殴り合いじゃ面白くないですからね。戦いの規模に合わせた、適正なレベルの読み合いを入れますよ。
編: ゲームエンジンは自社開発ですか?
板垣氏: 最初のテストビルドはすべて自社でやりましたが、製品にはどうだろう、10以上はミドルウェアや社外モジュールを使いますよ。
編: 根幹部分を自社で作って、いくつかの部分で他社のミドルウェアを組み合わせて使っているのですか?
板垣氏: そうです。というかゲームエンジンというとみんなよくわからなくなってしまうと思うんですよね。ミドルウェアとかモジュールとか、そのアルゴリズムやデータが置かれるレイヤーや、配置される場所に応じて適切な言葉を使った方がいい。ゲームエンジンという言葉は、本当にあいまいに使われているなあと思います。まあゲームのことを良く知らない上司を煙に巻いて、お金を出してもらうには非常に便利な言葉なのかもしれませんが(笑)。
ここではモジュールという言葉を使おうかな。ゲーム性を規定するアルゴリズムや、それを支えるモジュールはすべてヴァルハラゲームスタジオで作っています。同じくゲーム性を支えるデータもすべて内製ですね。ただしそれ以外の部分については、自分たちで作ってもいいし、人様にやってもらった方が良い場合にはそうしていますね。
編: トレーラーで印象的だったのは、切断した際の切断面の表現であったり、物理的な演出の部分です。
板垣氏: 物理演算については色々な物をテストして、「Devil’s Third」にもっとも適合する社外品を選びました。切断に関しては、ゲームの内部アルゴリズムですし、ゲーム性にも関わりますから、すべて自社で作っています。
編: 開発は完全に日本のみなのでしょうか。
板垣氏: それは今どき無理だし、もっと言えば無駄ですね。ヴァルハラゲームスタジオのオフィスは3つありまして、メインは僕が常駐しているところです。他にはニューヨーク、バンクーバー、サンフランシスコ、上海、香港…とまあ、世界中の技術スタッフと技術交流をしながら作っています。以前は何から何まで自分たちでやってましたが、こっちの方が良いものができますね。THQとの間に、非常に強いパートナーシップを築くことができたのが本当に大きい。だからゲーム作りに集中することができています。楽しいですよ。
THQの開発のトップはダニーさんという方なんですが、とてもクリエイティブでゲームのことをよく知っている。僕らはTHQの子会社ではないけれども、THQグループの一員として扱ってくれるのが本当に助かります。いつでもTHQのリソースを使ってくれと言ってくれて。例えば、E3トレーラーにも出ていたAFV(装甲戦闘車両)ですけど、AFVを作るの大変でしょう? だから、THQに電話して「AFVの●●●●みたいなのありますか?」と聞くと「Homefront」で使ってるから、いくらでも持っていっていいよと言われました(笑)。そういう関係ですね。それを自分で作っていたらやっぱり1週間とかかかってしまいますよね。
逆にあちらから聞かれることもあります。彼らはプロレスのゲームを作っているので、「格闘ゲームを作ってきた開発者として、この操作系どう思う?」といったような会話とか。歴史のあるゲームですから、そう簡単に操作系は変えられないんでしょうけど、より良くするためにいつも考えているんだなと。やっぱり自分たちと一緒だねと思いました。 ともあれ、僕は今までいろんなジャンルにゼロから挑戦し、それなりの物を作ってきました。だから今回もそれと同じ気持ちで、新鮮な気持ちでやれてますし、作っていて楽しいですね。
編: トータルの開発規模というのはどれぐらいになるのですか?
板垣氏: 従属的に関わる人は最終的には300人~400人くらいになるのではないですか。そうじゃない人も含めたら1,000人は超えるでしょう。
編: 日本ではなかなか実現が難しいような規模感ですね。
板垣氏: 僕が独立した理由の1つはそれですね。あまりゲームのことを知らない経営者が不思議な舵取りをして、悲惨なゲームの出来上がりとか、そういうことが多くなってきてますね。株主も大事でしょうが、同じくらいプレイヤーのことも大事にしようよと。もちろん健全な会社もたくさんありますが、そういった事象が目立ち始めている。
編: 板垣さんの中で今回あえてTHQという海外のメーカーと組んだということは、日本のメーカーに対して一種の絶望や限界のようなものを感じたということですか?
板垣氏: 絶望はしないですよ。別に明日絶滅するわけではないからね。日本のHDゲーム市場はゆるやかな死へと向かっているとは思うけれど、どこかで風向きが変わるかもしれないし。もしかしたら伝説の勇者が現れるかもしれませんよ(笑)。
編: それはつまりご自身だと?
板垣氏: そんなおこがましいことは1ミリも考えていません(笑)。ただ先日ゲームクリエイターの三上真司さんと話したのは、僕らが良いゲームを作れなかったら、ここから先の未来に、自分で独立して頑張ろうという人が出てこなくなっちゃうかもしれない、ってことです。若い人には野望を持ってもらわないと。その野望にガソリンを注ぐという意味では、責任重大ですね。結局、日本のゲーム業界は、パブリッシャーとデベロッパーの関係があまり健全ではないのだろうと思います。ゲーム業界に限らないことだろうと思いますが。だからお互いの権利と責任を明確にして、健全化しましょうと。そうしないと疲弊に繋がりますよということを僕は言いたい。
■ 「Devil's Third」は「現実の未来を舞台にしたゲーム」。マルチプレイも重視
イメージイラストのひとつ。ワシントンDCの国会議事堂が炎に包まれている |
火器の取り扱いに優れるワイルドな男と、剣術、体術に優れる美女。板垣氏によれば操作するのは男だけということだが…… |
編: 「Devil's Third」に関しては、世界観やストーリーがまだほとんど伝わっていませんが、どういった設定になっているのでしょうか。現代なのか未来なのか過去なのか、世界はまだ続いているのかといったことをトレーラーを見ながら色々想像を掻き立てられました。
板垣氏: 極めて忠実な歴史考証に基づいたゲームです。ジオポリティクスも含めて極めて現実に根ざしています。その現実を踏まえた、近い未来のお話。
編: ワシントンD.C.は崩壊していましたよね。
板垣氏: 崩壊していましたね。今回お話して伝わったかもしれませんが、僕は「言葉」にうるさい方なんです。だからこのゲームは、広義で言えば「戦争」です。戦争のゲームと言っておくのが正しいでしょう。
編: 主人公と思しき気になるキャラクターが2人いましたが、彼らは何者でしょうか。
板垣氏: 主人公でしょうね(笑)。立場は話せないけれども、あの男は銃器の扱いには並外れて長けている。マーシャルアーツも相当得意だし、剣術も備えている。
編: 女性も居ましたね。
板垣氏: 主人公ではなくヒロインでしょう。
編: ということはプレーヤーが操作するのは男性のみですか。
板垣氏: そう考えています。
編: 女性とツーマンセルで行動する感じでしょうか?
板垣氏: そういうわけではないです。CO-OPを想定した質問だと思うのですが、CO-OPも色々考えましたが、最終的にはやめました。
編: マルチプレイはいかがですか。
板垣氏: できるだけたくさんのプレーヤー数で遊べるようにしたいと思っています。
編: だいたいどれくらいの人数で遊べるようにしたいですか。
板垣氏: ミニマム16人で、32人なのか48人なのか。「Homefront」だって、32人で遊べますよね。多いに越したことは無いですよ。256人で遊べるゲームも出ていて、256人というから、そこにフォーカスしたゲームなのかなと思っていましたが、遊んでみたら何のことはない。結構しっかり作っていて、参ったなと思いました。
編: 板垣さんは実はテクモ時代から、大人数でのマルチプレイを作ってみたいと考えていたのでしょうか。
板垣氏: そうですね。僕は、最終的には過去の戦争を題材にしたゲームを作ろうと思ってますから。必然的にそうなります。
編: 今回表現が激しいゲームになっていますが、どういった意図がありますか。
板垣氏: 表現が激しいというより、これが“戦争というもの”でしょう?
編: しかし、この手の激しい表現は、なかなか日本では受け入れられない現状がありますが、日本展開はどのように考えていますか。
板垣氏: 規制の話ですよね? 僕はどのリージョンでもこのゲームの表現を変えるつもりはないです。そこまで見たくないというお客さんへの配慮として、表現をオンオフするオプション設定を用意するなどはやるかもしれません。でも、売り物の内容をリージョンによって変えるつもりは全くありません。日本においても全く同じゲームをリリースします。万が一、この約束を守れなかったときは、その原因をきちんと皆さんに説明しますよ。これが原因だと。
【イメージイラスト】 | ||
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■ 3D立体視にも対応予定。発売時期は「まだ大分掛かる」
THQの強力な新IPとなりそうな「Devil's Third」。完成はまだしばらく先になりそうだが、発売が楽しみなタイトルだ |
編: TGS2010では、SCEさんはPlaystation Moveや、MSさんはKinectといった新しいインターフェイスが出展されていますが、これらに関する興味はいかがですか。
板垣氏: 今一番興味を持っているのは3Dの立体テレビかな。映像ソースはまだ大した物が無いんですが。普及してから作ろうというのでは遅いので、既に念頭に置いています。PS3が対応できるのは分かっていますが、Xbox 360もサイドバイサイドにすれば対応できますから。
編: つまり、「Devil Third」も3D立体視に対応しますか?
板垣氏: それ前提のゲームではありませんが、あくまでオプションとして対応したいと思っていますよ。
編: 3D立体視に対して、魅力的だと感じるところはどのあたりですか。
板垣氏: 魅力的よりは「新し物」好きですよね(笑)。具体的にどこが魅力かといえば、良い点、悪い点を簡単に言いましょう。良い点は迫力がある、表現の幅が広がる、うまくすれば新しいゲーム性に繋がる。悪い点は、立体で見えるスイートスポットが狭い、メガネをかけるのがうっとうしいと感じる人がいる。裸眼式のものが東芝から出ますが、果たして実効解像度が十分かどうかは今のところ分からない。
編: このタイトルを離れて、3D立体視の本格的なタイトルを作る可能性がありますか。
板垣氏: 一番ぴったりなのは奥に向って進んでいくベルトスクロールアクションのようなものがぴったりでしょうね。カメラを決めうちできるゲームですね。
編: グローバルな発売時期はいつごろを考えていますか。
板垣氏: まだまだ大分かかりますよ。
編: 来年ですか。
板垣氏: ないです。ありません(笑)。
編: 発売プラットフォームはPS3とXbox 360ですか。
板垣氏: そうです。ただ、増える可能性はあります。
編: といいますと?
板垣氏: 未知のハードがありますよね。未知のハードに対応できるような開発は進めていますよ。具体的にいえば、各種の技術はスケーラブルな設計をしています。
編: それはニンテンドー3DSや次世代のPSPといったものも視野に入っているのでしょうか。
板垣氏: というより、僕は情報を全く持っていないので気楽に言えますけれど、例えば任天堂さんがよりハイエンドな据え置き機を出すことがあるかもしれませんよね。そういったことです。
編: 現在の開発状況はどの程度でしょうか。
板垣氏: 11%くらいでしょうか。
編: 妙な端数ですね。
板垣氏: E3で10%て言ったから(笑)。
編: あまり進んでいないのではないですか。
板垣氏: いやいやいや大きな前進ですよ。いや、3か月で1%だから、残りの89%をクリアするのに89×3か月かかるとか、そんなことは無いですよ(笑)。一番悪い開発というのはロクな計画もなく進めてしまうことです。事前のプリプロダクションや戦闘準備、各種リソースのパイプラインをきっちり練ることこそが大事なんです。みんな派手なドンパチにばかり目が行ってしまいがちですが、銃後の備えの方がよほど大事なんですよ。闇雲に進んでもうまくいかないです。
編: 開発はあくまで順調なのでしょうか。
板垣氏: 順調です。まったく新しい会社ですから、技術や人のつながり、組織のデザインといった体制を含めてのゲームの完成度として考えたら、この3か月で相当進んでいますよ。従業員もだいぶ増えましたしね。
編: 「Devil's Third」を開発するにあたり、影響を受けたゲームは何かありますか?
板垣氏: 代表的なシューターはほとんど遊びました。良いところは素直に取り入れます。あと個人的に遊んで面白いなと思うゲームはいっぱいありますよ。例えば「ドラゴンクエスト」の最新作は最高でした。400時間くらい遊びましたよ。
編: 意外ですね。
板垣氏: 「アサシンクリード II」は実績が970までいきました。「コール オブ デューティ モダン・ウォーフェア2」も非常に面白かったな。同じジャンルのゲームを遊ぶ時は、なかなかゲーマー視点で遊べない物なんですけど、あれは自分をゲーマーにしてくれましたね。すごく面白かった。シングルプレイが面白くて9.5時間でクリアしました。ただ、クリア時間をカウントしているようじゃ、やっぱり開発者視点が抜けてないですね(笑)。
編: 日本のユーザーさんに向けてメッセージをお願いします。
板垣氏: とにかく良いゲームを作ります。ホームページでも色々話していますので、見てみてください。ずっと待ってくれている人がいるのを知ってます。だからその期待に応えるために頑張ります。そこはもう、ヴァルハラゲームスタジオの社員だけでなく、THQさんも、色んなパートナーの方々も、みんな同じ気持ちです。
編: 期待しています。ありがとうございました。
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□東京ゲームショウ2010のホームページ
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□ヴァルハラゲームスタジオのホームページ
http://www.valhallagamestudios.com/jp/
(2010年 9月 19日)