CESA Developers Conference 2010(CEDEC 2010)レポート

「ライトゲームなう」、遠藤雅伸氏氏が頭の固い“ゲームエリート”達へ開陳する新しいゲーム
「×じっくり→○あっさり」という方向性を求めるユーザー像とは?


8月31日~9月2日開催

会場:パシフィコ横浜



 「ライトゲームなう」。Twitterでの流行の言い回しを使った、いささか軽薄さを感じさせるタイトルで、「ライトゲーム」の魅力と特徴を語ってくれたのが、モバイル&ゲームスタジオ取締役会長の遠藤雅伸氏だ。

 遠藤氏は、「短時間で遊べるって言うか、ろくに遊べないって言うか、そんなゲームです」というような、独特の視点と言い回しでライトゲームの特徴と魅力を語り、現在人気を集めるゲームの傾向と、求められるゲームデザインを提示した。




■ ハードなゲームが大好きな“ゲームエリート達”へのライトゲーム講座。人気を集めるゲームとは?

モバイル&ゲームスタジオ取締役会長の遠藤雅伸氏
遠藤氏が指摘する、ライトゲーマーとゲームエリートの違い。「ゲーム好き」という人たちは、ゲームエリートの傾向が強いのではないだろうか

 遠藤氏は最初に「最近家庭用ゲーム機のソフトの売り上げが下がっているということで、“ゲーム人口が減少している”と考えたい人たちが多いようですが、プラットフォームが多様化していて、むしろゲーム人口は増加していると思っています。そして増加しているのが、ライトゲーマーなのです」と語った。

 次に遠藤氏が提示したのが、「ライトゲーム(ライトゲーマー)」の対となる、遠藤氏が名付けるところの「ゲームエリート」の定義だ。1980年代ゲームが原初体験で、ドット単位のコントロールが快感、業務用ゲームがゲームの頂点で、家庭用ゲーム機といえばXbox 360、携帯ゲーム機といえばPSP……挙げられていくゲームエリートの定義に心当たりがあるのか、苦笑いを浮かべる受講者が多かった。

 講演ではそんな「ゲームエリート」達に向けて、遠藤氏がライトゲームの魅力と、ライトゲーマー達が求めるゲームの方向性が語られた。ちなみに、この講演ではライトゲームと、ライトゲーマーは同じ意味を持つ。遠藤氏はライトゲーマーの誕生を「ゲームがコンビニ販売された、PSが出回った頃」だと定義した。そしてPS2の発売時期、ユーザーはゲームではなく、「マトリックス」のDVDを買い、ゲームではなく廉価版の映画DVDを買い求めた。そして携帯電話にJAVAが搭載され、カジュアルなゲームがプレイ可能になり、モニターの前に座らず、時間つぶしのためにゲームをプレイする人が増えた。

 この時期になると、ライトゲーマーと、ゲームエリートの間で乖離が見られ始めると遠藤氏は指摘した。ライトゲーマーは、攻略本や攻略情報を見ながらゲームをプレイし、1ゲームはきわめて短く、操作が難しければ、ロードが長ければ、時間がかかるようならばそのコンテンツは遊ばない。検索エンジンに「ゲーム 無料」と入れるような人たちで、人のプレイを見るだけでも満足してしまう。このような傾向を持つライトゲーマー達は、ゲームエリート達が遊ぶゲームとは違うゲームをプレイしているという。

 ここから、遠藤氏は人気を集めた携帯アプリなどのライトゲームを次々に紹介した。面白く感じたのは、ゲームを紹介するたびに、遠藤氏が「このゲームを知っているか?」と会場に聞くところだ。例えば自転車でひたすら道を進み、プレーヤーはジャンプするだけの「チャリ走」を遠藤氏は「市場調査」として渋谷のマクドナルドに行ったりしているのだが、そこで女子高生が話題にしていたゲームだという。しかし会場の受講者は「タイトルを聞いたこともない」という人が多かった。ライトゲームと、ゲームエリートの乖離という遠藤氏の言葉が会場で実感できた瞬間だった。

 遠藤氏はこの後、ヒットしたゲームを受講者に見せた。「糸通し」は強制横スクロールアクションで、スクロールしていく針の穴に糸を通すゲームだ。ボタンを押すと糸が上に向かい、話すと下降する。針の穴は大きいのだが、ボタンの応答性の低さも相まってなかなか穴を通すのが難しい。「チャリ走」と同じように、ワンアイデアのシンプルなゲームだが、見ただけで触ってみたくなる魅力を持っている。

 「GROW」は決められた順番にボタンを押すと次々と連鎖的に反応が起きる「成長パターン」を楽しむゲームだ。求められる順番を探してやり込むゲームだが、攻略サイトにはそのままずばりの正解が書いてあり、その通りにボタンを押すこでかわいらしいアニメーションや、成長の連鎖を楽しむ。遠藤氏は、ライトゲーマーにとって、ゲームはプレイするだけでなく、「見て楽しむ」という遊び方もありだという。

 この他、遠藤氏は、続編が出るごとに選択肢が少なくなるのに「楽しいゲームだった」とファンから評価を受けるビジュアルノベルの「ひぐらしのなく頃に」や、ゲーム性がなく、友人や有名人の名前を入れて楽しむ「脳内メーカー」、ゲームではないにもかかわらず自分の家を調べたり、名所巡りなどでゲームのように楽しんでしまう「Google Earth」などのコンテンツを次々と紹介した。


遠藤氏は次々と人気を博したライトゲームを紹介する。同時に実際に遠藤氏自身がプレイした動画も紹介される。「他の人がやっていたらやりたくなる」と感じさせられ、ライトゲームの魅力に気づかされる
決められた順番にボタンを押すと次々と連鎖的に反応が起きる「GROW」。どう動くかの試行錯誤も楽しいが、正解を調べてしまって、アニメーションの連鎖を見ているだけでも楽しい
名前を入れるだけでゲーム性のない「脳内メーカー」、ゲームでない「Google Earth」。「サンシャイン牧場」もゲーム性は少ない



■ 腕よりも運、満足感よりなんとなく。それでも、「作る人がつまらなければ、遊ぶ人もつまらない」。

遠藤氏が指摘するライトゲームの特徴。いくつかのタイトルを見れたことが前知識となり、納得しやすく感じた
ゲーム開発者が目指す「作りたいゲーム」から乖離する可能性もあるライトゲーマーの嗜好どのようにライトゲーマーに近づいていくべきだろうか

 次に遠藤氏は、各タイトルの特徴、魅力を受講者に認識させた上で、ライトゲームの傾向を分析していった。ライトゲーマーは女性が多く、携帯電話の電池を消耗させるほどにゲームにはのめり込まない。PCのメールアドレスは持っていなかったりするし、インストールするタイプのゲームはいやがるという。

 “あっさり”というのが彼らライトゲーマーのプレイスタイルだと遠藤氏は語る。長時間のゲームや、コンテンツボリュームの豊富なゲームは面倒で、やらされている感がある。小さな課題だけでゲームを時間つぶしとして楽しみ、「もう1度プレイする」ためのハードルを下げて、繰り返しプレイをするようにする。シリーズ化する場合は、ゲームシステムは変えない。またキャラクターは減らさないように注意する。遠藤氏は矢継ぎ早にライトゲームの特徴を分析していった。

 ゲームを作る際の世界観やストーリー、設定などは「お手軽」にする。邪魔にならない世界観、お約束のキャラクター、説明を必要としないゲームイメージをアピールし、「私にもできそう」とプレーヤーに思わせる演出が必要だ。遠藤氏はこのように次々とライトゲームに求められる要素を紹介していった。

 「×高いゲーム性→○かんたん」と提示した上で、初心者でも迷わない操作感、ビギナーズラックでも勝てる可能性の必要性を遠藤氏は強調する。「『私ってこのゲームうまいかも』と思わせる。実際はそんなこと全然なくても、ユーザーに勘違いさせることで、『見て見て! 私このゲームうまいんだー』という口コミで、ゲームのユーザー層は広がります」と遠藤氏は語った。

 ライトゲーマーは豊富な選択肢はいやがるという。その代わり二択を繰り返し、「あなたはこのタイプです」などと定義されるクイズや占いは大好きだという。ライトゲーマーに向けてのゲームを作るには、説明書を必要とさせず、文字を減らし、チュートリアルはゲームに組み込む。複雑な操作を自動化したワンボタンの操作性と、シビアではないタイミングを心がける必要があると遠藤氏は主張する。制限時間で追い立てるゲームもだめだ。そしてキャラクターのデザインや服装、動きをかわいらしく、マップをオシャレに。「いい感じです!」というようなおおらかな評価が好きだという。

 勝敗をもたらすゲームは「負けるといやで、勝っても気まずい」とライトゲーマーは考える。それよりもみんながプラスになるようなゲームが好きだ。「運、不運」を強調することで、ミスの原因をプレーヤースキルに求めない……既存の「ゲーム」という概念が崩れていきそうな、しかし現在のソーシャルゲームやウェブゲームが兼ね備えている要素を、1つ1つ取り出して遠藤氏は提案する。

 最後に遠藤氏は、「今後のゲームデザインは、オンライン前提というのが必ず必要となります。その中で非同期型システムを考えなくてはなりません。ゲームはコンテンツではなく、サービスだという意識は凄く必要です。ビジネスモデル込みのゲームデザインは必須になってきます。何よりも『作る人が楽しくないものは、遊ぶ人もつまらない』。だからこそ、皆さんもぜひ、ライトゲームで楽しく遊べるようになってください」と語った。

 遠藤氏の講演は、歯に衣着せない論調と鋭い視点を、独特の軽い口調で語り聞く者を引き込む。コアなゲームを好み、そのためのゲームを作る「ゲームエリート」の傾向がある受講者に対して、まず人気のゲームを見せ、魅力に気がつかせた上で、各要素を分析する。遠藤氏のゲーム作りへの絶えることのない情熱と、分析能力、そして何よりも時代を読み切れない後輩に現在を気づかせようとする積極的な姿勢が印象に残る講演だった。


遠藤氏は次々とライトゲーマーの傾向を分析し、求められるゲーム性を提示した
ライトゲーマーを取り込むための手法と、「ゲームだからこれは必要だ」という開発者の常識のせめぎ合い。それでも「自分が楽しいと思うものを人に作れ」と遠藤氏は語る

(2010年 9月 2日)

[Reported by 勝田哲也 ]