CESA Developers Conference 2010(CEDEC 2010)レポート

メディアクリエイト代表取締役の細川氏が語る「次なる高みへ。ゲームビジネスの近未来像」
“劇場型”から“公園・座敷型”コンテンツへ、求められるものは“創造性”


8月31日~9月2日開催

会場:パシフィコ横浜



 「次なる高みへ。ゲームビジネスの近未来像」というタイトルで講演を行なったのは、メディアクリエイト代表取締役の細川敦氏。メディアクリエイトはゲームビジネスを中心とするデジタルエンタテイメント産業にフォーカスし、出版、データ配信、リサーチ、コンサルティングなどを手がけるシンクタンクだ。

 今回の講演では、メディアクリエイトのデーターからユーザー像を分析、長期的な視野から今後求められていくゲームコンテンツを提示した。さらに、ユーザーの「期待度」、「満足度」はどういった要素から生まれてくるかを、主にコンシューマーゲーム側の視点で語った。




■ 悲観しすぎず、嗜好の変化を把握し、期待を集める創造性を発揮して欲しい! 細川氏からのプロとしてのメッセージ

メディアクリエイト代表取締役の細川敦氏
家庭用のゲームのブームは10年に1度という、細川氏の大胆な分析結果

 最初に細川氏が提示したのが、「3つのブーム」。細川氏の分析によれば、1984年のファミリーコンピューター誕生から、「ファミリーコンピューター」、「プレイステーション」、「ニンテンドーDS」という3つの大きなゲームブームがあったという。細川氏のブームの定義は「普段ゲームをプレイしないユーザーがゲームに注目した時期」だという。このブームは2年ほどで大きな盛り上がりを見せ、やがて下がっていき「谷」を迎える。

 谷の時には、ユーザーが別なものに目を奪われているときだ。アニメーション、Jリーグ、レンタルビデオ、携帯電話やインターネット……最近ではソーシャルゲームなどに注目が移っている。「現在、コンシューマーゲームは人気を失っていると言われるが、ブームは大体10年に1度現われる。危機感を持つことは大事だが、あまり悲観すぎてはいけないと思います」と細川氏は語る。

 ファミコンはゲームそのものが新しかった。プレイステーションは、その前に流行った要素、音ゲーなどのアーケードゲームの流行、アニメや、CD、DVDといったユーザーが目を向けていた要素を取り込んでユーザーをつかんだ。DSは年配のユーザーや、若年層のユーザー、今まで以上に幅広いユーザーを取り込んで、ゲーム人口を増加させた。細川氏は、次の10年で来るブームの鍵はやはり「新ハード」にあるのではないかと思っているという。

 その上で細川氏が注目しているのが、ソーシャルゲームへと向かうユーザーの嗜好だ。大作志向、スケールとコンテンツ量の大きなものから、より手軽なゲームが受け容れられている。狭い範囲を扱ったカジュアルなタイトルが人気を集めるようになった。「記録(スコア)」を求める傾向から「記憶」へ。1人の記録から、協力や助け合い、マルチプレイなど思い出が持てるゲームへ。多くのプレーヤーが観客であった“劇場型”から、小さな場所に数人が集まり、話ながら仲間で楽しさを見つけていく“座敷・公園型”にシフトしている。

 ソーシャルゲームが人気と一言で言っても、ユーザー像を分析することも必要だ。細川氏が次に注目したのが、家庭用ゲーム機ユーザーと、ソーシャルゲームユーザーの“重なり”だ。調査モニターはインターネット上で使える共通ポイントサービス「ネットマイル」のユーザーから、インターネットアンケートで集計した。第1回目は1万人、そして2回目は1回目のユーザーから600人を抽出して行なった。

 その結果から日本の人口に当てはめ、推定で全国のユーザーを割り出す。そこから導き出すと、家庭用ゲームユーザーが現在2,500万人、ソーシャルゲームユーザーが900万人。その内、430万人ほどが両方遊んでいるいう調査結果となった。金額に対しては、家庭用ゲームユーザーは1年で平均1万5千円コンシューマーゲームを買うのに比べ、ソーシャルゲームユーザーはおよそ20パーセントが課金しており、ソーシャルゲームでは1年に5万円近く使うという。

 ここからさらにユーザーを分析すると、ソーシャルゲームに課金するユーザーは家庭用ゲームのプレーヤーだったり、元プレーヤーがほとんどで、理由としては「ゲームにお金を払うという考え方に抵抗がないから」だという。ここからさらに現在も変わらず、「ゲーム」ユーザーの中心は、1970年代生まれの「団塊ジュニア」と呼ばれる世代で、彼らが家庭を持ち、時間的制約が厳しくなったため、よりカジュアルで、短時間にプレイできるソーシャルゲームにシフトしたからではないか、と細川氏は分析した。

メディアクリエイトがリサーチする要素は多岐にわたる。中央はリサーチデータから、変化するユーザーの嗜好を分析したもの。右はアンケートから導き出した日本のゲームユーザーの推定人口



■ ユーザーの期待を促す「創造性」と、不満を食い止める「商品性」。需要に応えるゲーム制作とは?

創造性と商品性がユーザーにもたらす意味。創造性がなければユーザーに期待を持ってもらえない一方で、商品性が低ければユーザーの不満度は大きく増してしまう

 ユーザー像の次に細川氏が提示したのが「期待度」、「満足度」についてだ。細川氏はユーザーがゲームに“偏差値”を付けたアンケート結果を提示した。発売前の期待度が高いタイトルは満足度の得点も高いものが多く、次回作も買おう、という数値も高くなる。期待度が低いものは伸び悩んでしまう。

 この期待度、満足度は、コンテンツの何から生まれるものか、細川氏がアンケートから導き出した分析結果は、期待度はゲームの「アイディア(創造性)」に、満足度は「市場性(商品価値)」につながっているということだ。アイデアとはユーザーに期待を持たせる要素であり、これは“足し算”となる。よいアイディアが込められるほど、ユーザーの期待値は高まる。対して、商品価値は“引き算”だ、商品価値を高めてもユーザーの評価はプラスにならないが、なければどんどん評価を下げてしまう。

 ゲームを作る上で、ユーザーの期待をもたらす要素の多くは創造性、アイディア、そして提示されるプレイスタイルにユーザーは期待する。そしてユーザーの不満を減らすために求められるのは、スタッフの経験値と、技術だ。満足をもたらす要素と、不満を防止する要素は別なものだと細川氏は強調する。

 ユーザーの需要は不安定なもので、時と時間で変化する。「家庭用ゲームに未来がない」などと悲観する必要はなく、ユーザーの注目を集めるには新ハードの登場と、クリエイターのアイディアだ。そして現在のユーザーの嗜好は劇場型から、公園・座敷型に変わっている。このユーザーの関心の推移が今後の鍵ではないかと細川氏は会場へ問いかける。

 「今回僕の分析を持ち帰って、今後のゲーム開発に活かしてください。現在、アマチュアもたくさんゲーム開発に参入してくる時代ですが、プロフェッショナルとは、『ユーザーの満足度に責任を持つ人』です。私もプロとして皆さんにリサーチデータを提供したいと思います。悲観せず、プロの自負心を持ってがんばってください」と細川氏は言葉を結んだ。


ソーシャルゲームユーザーの分析と、家庭用ゲームユーザーと、ソーシャルゲームユーザーの関係性。右は減少が予想されるソーシャルゲームユーザーへの対応策
今年の4月からアンケートを取り始めた購入ユーザーを対象とした期待度・満足度。中央が今回の講演のまとめ、そしてゲーム開発者に向けた細川氏のエールだ

(2010年 8月 31日)

[Reported by 勝田哲也 ]