Electronic Entertainment Expo 2010現地レポート
PlayStation Move最新事情
PlayStation Moveと立体視が紡ぐ次世代モーションゲーミングの世界
ソニーは、PlayStation Move(PS Move)の最新事情を解説するセッションをE3会場内に特設されたミーティングルームにて披露した。
■ PS Moveの優位性。Kinectとの相違点。
SCEA,Senior Researcher,Richard Marks氏は「PS Moveは意外にシンプルです。PlayStation Eye(PS Eye)で捉えた映像で画面から、PS Moveコントローラーの三次元的な位置を検出し、PS Moveコントローラー内の3軸のジャイロセンサー、3軸の加速度センサー、地磁気センサーでユーザーの動きや姿勢を検出します」と語りだし、PS Moveの基本機能の解説を行なった。
「PS Moveコントローラーの上の発光ボールを、PS Eyeで捉えますが、その面積の大小を認識することで画面からの距離を捉えています。球体なのはどこから見ても真円として捉えられるからです。他の形では角度によって見え方が変わってしまい、正しい大小が捉えられません。古いモーションキャプチャー・システムがボディスーツにピンポン球のような反射球を付けていたのを覚えていますか。イメージはアレです」(Marks氏)。
PS Moveの拡張現実風デモ | PS Moveの遅延時間は約20ms。約1フレーム分強。SPE占有率は1機。システムメモリ占有は2MB程度。比較的システム負荷は軽い |
これを発展させると空中に絵や文字を描くような表現も可能に | ガンシューティングゲーム用にはこういったアタッチメントも出てくる予定 |
PS Eyeは顔面認識をするので、PS Moveコントローラーの位置や向きを認識することで人体の上半身の姿勢を、逆運動学(Inverse Kinematics)理論を応用することで推測する。これが、PS Moveコントローラーしか持っていないのに人体の姿勢を認識してしまう理屈だ。
ちなみに、IK理論とは、体のある一部の位置や向きがわかっていれば、常識的な人体構造であれば、人体の他の部分においても向きや位置が高精度に推測できるという理論だ。たとえば、膝が上がっていることが検出できた場合、足の位置が検出できていなくても、平均的な人体バランスであれば、足はこのくらいの位置に上がっているはず……という推測が立てられる。そういった理論がIK理論になる。
競合のMicrosoftのKinectでは、ユーザーの姿勢そのものを、イスラエルのPrimeSenseのデプスセンサーによって得られた深度マップから推測するため、全身の姿勢を取得できる。PS Moveでは、両手の位置はPS Moveコントローラーによって把握するが、下半身の動きはPS Eyeのイメージからしか推測ができないため、下半身の情報取得制度についてはかなりあいまいなものとなってしまう。
「我々の手法には、競合(筆者注:Kinectを指すと思ってもらっていいだろう)にはない利点があります。それはバーチャル空間に対して正確な方向入力とクリック/タッチする能力がある点です」(Marks氏)。
Kinectはたしかに全身の姿勢を取ることはできるが、手の向きや角度、または指の動きまでを取得することができない。ただし、KinectもIK理論を応用すれば、かなりの高確率で、腕や手の向きくらいまではとれる。
しかし、指の動きはもちろん、手の開閉状態まではKinectではとれない。PS Moveでは、ややローテクではあるが、PS Moveコントローラーを握らせることで、手の動きがわかる。たとえば卓球などにおける手首のスナップをきかせた打ち方などはKinectでは取得できないが、PS Moveでは取得できる。また、PS Moveのボタンをプレーヤーが押したとすると、指の動きが推測可能になり、さらには「ボタンを押した」という「意志の取得」をすることができる。Kinectは、人体の主要な骨組みの位置情報は取得できるが手を取得しておらず、「何も持たない」システムであるが故に「仮想空間へのインタラクトする意志」が取得できない。Marks氏はここがKinectの弱点であり、PS Moveの利点である……と間接的に言っているわけだ。
■ PS Moveと立体視のコラボで実現される新ユーザー体験とは?
「立体視になると、PS Moveの価値がさらに高まります。PS Moveを使ってのユーザーの動きと、バーチャル世界内のオブジェクトの距離感がわかりやすくなり、実際に干渉するような感覚が味わえます」(Marks氏)。
そう言って見せたのは、片方のPS Moveコントローラーの位置に出現させたオブジェクトに対して、彫刻を施していったり、粘土細工のように引き延ばしたり推し縮めたりしていくデモだ。
立体視だと、バーチャル世界へのポインティングが正確に行なえ、さらに「ボタンを押す」ことで、そのままの姿勢状態から、そのバーチャル世界へ干渉することの意志表明が行なえる。たとえば、オブジェクトをポイントしてから対応ボタンを押す事で「削る」、「引っ張る」と言ったアクションが行なえるのだ。
Xbox 360も立体視に対応する予定だが、Kinectでは、立体視に対応したとして、バーチャル世界へ正確にポインティングできたとしても、そこから姿勢を変えずに意思表示を行なうことは困難となる。
「PS Moveはゲームコントローラーですが、立体視と組み合わされると、とたんにバーチャル世界へのナビゲーション・インターフェイスやインタラクティブ・インターフェイスとしての素養が高くなります。特に効果を発揮しそうなのは、ユーザー作成コンテンツのためのインターフェイスとして、ですね」(Marks氏)。
具体的に言えば、RPGなどにおけるキャラクターの顔メイキングだ。現状、目鼻、口、といったパーツをモンタージュ写真のように組み合わせていくのが主流だが、PS Move×立体視であれば、目の貼り付け位置を的確にポイントしてから目の角度を回転して指示できたりする。あるいは鼻をつまんで高くしたり、輪郭を伸縮することもできるだろう。
ゲームにおいても、ポイントした部分を削ったり、あるいは突き刺したり……といったこれまではキャラクターアニメーションが自動的に行なっていた部分をプレーヤー自身のアクションで行なえるようになるかもしれない。
「PS Moveコントローラーの振動機能と組み合わせることで、別の可能性も出てきます。たとえば、バーチャル世界内のオブジェクトをポイントしたときにPS Moveコントローラーが振動すれば、ユーザーはバーチャル世界のオブジェクトと衝突したことを錯覚できます」(Marks氏)。
これはいわゆる触覚学(HAPTICS)の分野の体験になる。
立体視眼鏡を掛けて、PS Moveコントローラーをもって、画面を見ながら体や腕を動かしている姿は、かなり、奇異な光景に見られそうだが、PS Moveと立体視のコラボレーションは、ゲームコントローラーの枠を超えた「新しいバーチャル世界とのインタラクションの仕方を切り開いてくれそうな気がする。
筆者としては、どちらかと言えば、PS Moveは、コントローラーを持たせるというコンセプトのために、Kinectよりもローテクなイメージを抱いていたのだが、コントローラーを持たせると言うことにこそ意義があること、また立体視と組み合わされることで、そのコントローラーがバーチャル世界への干渉するための道具のような役割を果たし、むしろわかりやすい部分もあることが理解できて、目から鱗が落ちた気分であった。
ただ、PS MoveとKinect、それぞれに長所と短所があることは間違いなく、ゲームメーカーとしては、あるゲームをPS MoveとKinectの両方に対応しようとする際には、両者の最大公約数的な仕様を見いだす必要も出てくるはずだ。そうなったときには、両者の短所だけが残ることにもなりかねない。
今後、この分野の展開には注目していく必要がある。
PS Moveコントローラーのバッテリー駆動時間は公称10時間前後 | バーチャル世界内のオブジェクトに触ってPS Moveが振動すれば触った疑似感覚が味わえる。こうしたインタラクティブテクニックはHAPTICS(触覚学)と呼ばれる |
キャラクターの画面を摘んだり伸ばしているしている様子。RPGのキャラクターメイキングはもちろん、ユーザーコンテンツの作成にもPS Move×立体視は威力を発揮しそう |
(2010年 6月 17日)