Game Developers Conference(GDC) 2010現地レポート

独立系デベロッパーBackbone Entertainmentインタビュー
忠実な移植、マルチプラットフォーム、様々な要求にどう応えるか


3月12日 収録(現地時間)

会場:The St. Regis Hotel


 GDC会期中、会場に近いThe St. Regis Hotelにて、独立系ゲームデベロッパーのBackbone Entertainment(以下、Backbone)にインタビューを行なった。Backboneは独立系ゲームデベロッパーが集合体となっているFoundation 9の傘下企業の1つ。主に移植タイトルや、マルチプラットフォーム展開の携帯ゲーム機向けタイトルを開発するメーカーである。

 手掛けているタイトルはPS3/Xbox 360用対戦格闘ゲーム「MARVEL VS. CAPCOM 2」や「Super Puzzle Fighter II Turbo HD Remix」、PS3/Xbox 360シューティングゲーム「Space Invaders Extreme」、Xbox 360用「Bomberman Live」、PS3用「Everyday Shooter」、PSP版「Rock Band Unplugged」など実に多彩だ。主にダウンロード型のオンライン対応ゲームや、マルチプラットフォームのタイトルを手がけており、日本メーカーのタイトルも多い。ただの移植ではなく、大胆なアレンジを行なっていたり、快適な対戦環境を提示したり、技術の高さを感じさせてくれる。

 移植、携帯ゲーム機版の開発を行なうメーカーは、そのIPの前に名前が隠れがちだ。アーケード版の感触をどこまで忠実に再現し、さらにオンラインに対応させるのか? 社名をアピールしにくい環境に対するジレンマは? 性能、機能が全く違うハードに対してどうマルチプラットフォーム展開をしていくのか? 様々な疑問が浮かんでくる。今回は自身もライターであるカイオスの記野直子氏の通訳で、質問をぶつけてみた。




■ 強みはオンライン! IP側と密接に話し合い、自社の特別性をアピール

Backbone Entertainment Studio HeadのBachman-Wood氏
Studio Art DirectorのNorm Badillo氏
Creative DirectorのMicah Ruso氏
Backboneの公式ページでから見ることができる手掛けたタイトル。日本メーカーのものも多い。オリジナルタイトルも取り組んでおり、西部劇を舞台としたシューティング「HIGH NOON」、カラフルなアクションゲーム「Super Happy Fun Jump Land」といったタイトルを近日XBLA、PSNで配信予定。日本での配信は未定だ

 最初にBackboneのStudio Head Bachman-Wood氏が会社の歴史を説明してくれた。Backboneは1992年に設立され、GBAなどの携帯ゲーム機向けにタイトルを移植したり、マルチプラットフォーム展開を行なうタイトルの携帯版の開発を行なってきた。2年前にコンシューマに強い企業を買収したことで、DS、PSP、PS3、Xbox 360と幅広いハードのゲーム開発が可能になった。現在は70人ほどの社員がいるという。

 数年前からBackboneが積極的に取り組んでいるのが、「ネットワークを介したマルチプレイ」である。この研究により、「MARVEL VS. CAPCOM 2」や「Super Street Fighter II Turbo HD Remix」といったタイトルで快適な対戦を実現し、格闘ゲームファンからも高い評価を得た。

 また、BackboneはPlayStation Network(PSN)やXbox Live Arcade(XBLA)でのタイトルの展開も積極的に行なっており、1年で6~12のタイトルを手がけている。タイトルに関しては数人のものから、多くの人数をかけるものまで様々だ。2009年は9タイトルを制作した。移植作品、マルチプラットフォーム展開などIPにひもづけられた作品は、作品ごとに全く異なるカラーを要求される。この対応をどうしているか、と質問してみると、Wood氏はクライアントとの綿密な連携が必要だ、と応えた。

 「MARVEL VS. CAPCOM 2」などカプコン作品の移植を手がけるStudio Art DirectorのNorm Badillo氏は「特に日本のメーカーと仕事をする場合には、先方のことを考えた上で私達がしたいことを積極的に提示していきます。そこから先方のフィードバックがあって、さらにそれに応えていく、という形を取り、皆が納得できるコンセプトを作っていきます」と語った。Badillo氏は特に「コンセプトアート」で企画を提示するのが得意で、話し合いに大きな役に立つという。

 Wood氏は「作品ごとに要求されることは全く違います。カプコンの格闘ゲームはオリジナルに可能な限り忠実な事を求められる一方で、『Rock Band』では専用のギターコントローラーで演奏するPS3/Xbox 360版の感触をDSに移植しなくてはいけませんでした。各タイトルでアプローチが全く異なります」と語った。

 Creative directorのMicah Ruso氏は、「私達は、何かを加えて、オリジナリティーのあるものを作っていきます。例えばカプコンのシューティングゲーム『1942』では、『1942Joint Strike』という名前で協力プレイができるようにしました。オリジナルを活かしながら、新しいチャレンジもしているのです」と語った。Ruso氏は「Rock Band」をPSP版にアレンジした「Rock Band Unplugged」で、楽器型コントローラーを使うPS3/Xbox 360版の「Rock Band」のエッセンスをどう再現するかも努力したという。

 Badillo氏は「Wolf of the Battlefield: Commando 3(戦場の狼3)」というゲームで女性キャラクターを登場させるというので、思いっきりマッチョな女性を提案した。最初カプコンは「日本市場を意識してもっと細くかわいらしく」という提案があり、中間点を探る案も出したのだが、結局マッチョなデザインで決定した。説得力、面白さがあればこちらのセンスも理解してもらえると感じたとのこと。

 次にユーザーへのアピールについて質問してみた。有名なタイトルの移植や携帯版の開発は、オリジナルを作ったメーカーにくらべ、ユーザーに注目されにくい。移植した会社の名前をあまり意識されないということは、独立系デベロッパーとしてジレンマを感じるのではないだろうか。

 Wood氏は「大きなタイトルに関わること自体がうれしいことだ」と語る。委託を受けることは、どうタイトルにチャレンジするか、どうエッセンスを活かすかのチャンスだ。課題に向かって努力し、結果を出すこと自体が楽しいという。もちろん、年に数本のオリジナルタイトルの展開も行ない、自社の存在をアピールする努力もしている。会社として必ずオリジナルのタイトルを作るようにしているという。

 XBLAのイベントなど、北米では関わったタイトル、ゲームを作った会社として、ユーザーの前でアピールする場も与えられている。また、移植、ダウンロード販売の実績を積むことで日本の会社にもアピールできている実感はあるという。「今後はもっと必要とされると思う」とWood氏は語った。

 Backboneの最近のゲーム制作、という視点でWood氏が手応えを持っているのは「マルチプレイ」を実現する技術の蓄積だ。「Super Street Fighter II TURBO」などカプコンの格闘ゲームの移植を実現するとき、ネットワークによるマルチプレイは必須だと感じたが、いざチャレンジしてみるとその難しさに愕然としたという。MicrosoftやSCEのバックアップもあったが、Backboneは独立系企業の集合体であるFoundation9の傘下企業のため、世界中のFoundation 9の企業と協力し、ネットワークテストができた。

 また、XBLA、PSNの整備により、これまで以上にダウンロード系のゲームが販売しやすくなり、マルチプレイを得意とするBackboneの手がけるゲームは好評な売り上げを記録している。売り上げという単純な点から見れば、ネットワークが整備される以前から売り上げは2倍になったという。

 マルチプレイへのアプローチは格闘ゲームだけではない。ターン制のシミュレーションのマルチプレイには独自のアプローチを行なった、とRuso氏は語る。「ネクタリス」では一手に時間制限を加えるようにし、さらに対戦相手の思考中に戦いをシミュレーションすることで次の一手を考えられるシステムを追加した。このようにタイトルごとに様々なチャレンジを行なっているという。

 さらにRuso氏は「最近は、ソーシャルネットワークゲームが台頭していて、私達のゲーム業界が脅かされているんじゃないか、という声があるが、私はそう思わない。コンシューマーゲームのマルチプレイへのアプローチは独特のものがあり、方法論がある。私達はそれを考えていきたいと思う」と語り、今後もマルチプレイと、オンライン系の企画を出し続けていく方針だということだ。

 最後に、Wood氏は日本のユーザーへのメッセージとして「情熱的にゲームをプレイしている日本の皆様に、ゲーム開発者として感謝しています。もっともっと、アメリカのゲームに興味を持って欲しいと思います」と語った。

 Badillo氏は「私は日本と、日本のゲームが大好きで、娘の名前は『Street Fighter』シリーズから“キャミイ”と名付けました、娘は日本語を学んでおり、近々、日本に行きたいと思います」。Ruso氏は「私も日本のゲームが好きです。私達が手がけたゲームを遊んでいただいて、とても光栄に思っています」と語った。


【MARVEL VS. CAPCOM 2】
米マーヴルとカプコンの人気キャラクターが登場する2D対戦格闘ゲーム。オリジナルのアーケードゲームの感触を再現し、ネットワークを通じて快適な対戦環境を実現した


【Rock Band Unplugged】
楽器型コントローラーでプレイする「Rock Band」のエッセンスをPSPで再現、リードギター、ベース、ドラム、そしてボーカルをすべて1人でプレイできるというユニークなゲーム性を盛り込んだ


「MARVEL VS. CAPCOM 2: New Age of Heroes」
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「Rock Band Unplugged」
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(2010年 3月 17日)

[Reported by 勝田哲也]