Taipei Game Show 2010現地レポート
SCE Asiaプレジデント安田哲彦氏特別インタビュー
海賊版に完全勝利宣言も「終わる戦いではない」、今後はベトナム、フィリピンへ
台湾現地レポートの〆は、やはりこの方だろう。ソニー・コンピュータエンタテインメントの中でも独自の存在感を放つ、SCEのアジア部門 SCE Asiaプレジデントの安田哲彦氏である。
安田氏率いるSCE Asiaは、2005年の初出展以来、最大規模のブース展開を続けTaipei Game Showを牽引してきている。今年は、「ファイナルファンタジー XIII」中文版の発表や、「スーパーストリートファイター4」の台湾先行発売の発表、そして近年もっとも力を注いでいるゲームクリエイター育成プログラムのメディア公開など、数々のアジア独自展開を披露し、ここ10年の努力の成果を見せてくれた。Taipei Game Show名物の即売コーナーでも、ようやく値頃感が出てきたためか、PS3が飛ぶように売れる姿が印象的だった。
今回のインタビューでは、Taipei Game Showでの発表の意図について確認すると共に、SCE Asiaが担当してきている台湾とアジア全体のゲーム市場の今後の展望について話を伺った。
■ 「ファイナルファンタジー XIII」中文版発売決定の経緯について
SCE Asiaプレジデント安田哲彦氏 |
安田氏の右腕であるSCE Asia営業統括部部長川内史郎氏 |
「ファイナルファンタジー XIII」中文版発表会の模様。安田氏の隣にいるのはスクウェア・エニックス コーポレート・エグゼクティブ橋本真司氏 |
SCET(Taiwan)ブースでは、目抜き通りに面する位置に「ファイナルファンタジー XIII」を出展。中文版は5月の発売が予定されている |
編集部: まずは、「ファイナルファンタジー XIII」中文版の発表おめでとうございます。これまで「FF」シリーズに中文版が存在しないのは知っていましたので、“1番大きな山が動いたな”という印象を受けました。
安田哲彦氏: 私どもがPS3にBlu-rayを採用したために、PS3にはコピーがありません。売ることに苦労はしますが、Blu-rayのソフトウェアと機械という組み合わせで堅実に階段を上っていました。以前私がやっていたPSやPS2の販売の感触に比べると爆発的な状況には遭遇してはいませんが、現にアジアのトレーダーさんの状況を見ていますと、流通しているのはBlu-rayだけで後はみんなコピーになってしまっている。他のプラットフォーマーさんはDVDでやられているのでコピーが非常に多く出回っている状況です。
昨年末頃から他のプラットフォーマーさんの足が急に止まったような印象を受けました。理由としてはコピーを遊ぶ人たちにだいたい行き渡る現象ができたのではないかなと。それに対してうちの場合は落ちることはまったくなく、微増ではあるけれどもずっと右肩上がりという状況です。ソフトの売り上げも我々が見込んだ数字が上がっている。それをご覧になってそろそろ出しても大丈夫なのではないかなという判断をし始めていただいている。今回はタイミングよくスクウェア・エニックスさんの「FF XIII」という話になったのですが、非常に我々はありがたく思っていて、ある一定の目標に対して、それ以上売れるように色々な手段で販売していきたいなと思っています。
編: 目標の販売本数はどれくらいを見込んでいますか。
川内史郎氏: 若干補足させていただくと、新型PS3を2009年9月に発売しましたが、アジアでも同時に発売できました。そこでPS3の販売の勢いがぐんと上がったことがまずベースにあります。第2四半期から大きなタイトルが出て、アジアで10万本を超えるソフトウェアが出てきています。年末にアジアゲームショウでスクウェア・エニックスの橋本さんとお話させていただいて、そのあたりの実績をご配慮いただいて今回の中文版発売の流れになっています。
私自身は8年前からお願いしていて、ようやくアジアという市場を1つの販売チャネルとご認識いただけまして、GOサインをいただけました。アジアでは12月17日に日本語版を発売しました。3月に英語版が出ます。ローカライズ版も加味して何万枚ということを申し上げてご理解頂いたという経緯です。これまでは20万枚に届いていないので、是非20万枚を超えて行きたい気持ちでいます。
編: アジアでこれまで最大のセールスは何万枚でしょうか。
川内氏: 主力メーカーさんの大型タイトルで10万枚を超えるものが数タイトル出てきています。20万枚の販売目標は日本語版、英語版、中文版合わせての目標ですので、今までも日本語版が出るときには日本語版、英語版が出るときには英語版と両方出してはいるのですが、ローカライズ版を入れて3本というのは今まであまりありませんし、大きなタイトルでこういった試みができたのは初めてで、20万枚かもっと大きなセールスを狙っていきたいです。
安田氏: 一般的に10万本売れた、20万本売れたという話があるのですが、ことアジアに関しては売れたというより売ったに近いのです。本間総経理を始め、皆さん店舗や媒体さんを回って記事を出してもらったりイベントを行なったり手間隙がかかるのですが、それをずっと着実にやってきて20万本売りましたという感覚です。なんとなく流通に流して売れました、出荷しましたということではないのです。広告代理店さん任せのスタンスではなく全員が役割を持って動いてくれています。
編: つまりアジアの人々にとってはPS3を買う行為はハードルの高い行為であり、だからこそ20万という数字は濃いというわけですね。
安田氏: そういうことです。他の地域でその3倍売るのと同じくらいの手間隙がかかると思います。ただそれは皆さんの話を聞いているとやれるなという気がしてきています。
編: ローカライズについてはどのような抱負をお持ちですか。
安田氏: ローカライズ作業はやっと出しておきながらお客様が満足いかないようなローカライズでは困るので念には念をいれてみんなで納得して出したいです。せっかく得たチャンスですのでしっかりしたものを出したい。今売らして頂いている日本語版と英語版をきっちり販売した上で、中文化したものを出します。「FF」ファンは熱心ですから、3枚ずつ買ってくれるかな(笑)。
編: 英語版が3月に出ることが決まっていますが、5月だと発売が近すぎて流通さんから怒られたりすることは無いのでしょうか。
安田氏: 何も問題ないです。こちらの地域は英語版よりは中文版を待つのではないでしょうか。香港台湾では意外と日本語版を買ってくれる人が多いですよね。南アジアの方は英語版をお待ちになる。
編: 私は今回の発表を、安田さんが長年取り組まれてきているハッカーとの戦いに対する完全勝利宣言という風に見ました。
安田氏: そんなご評価を頂くとしどろもどろですね。はははは。恐縮ですね。しかし終わる戦いではないのです。日本もそうですが依然として中古問題は残っていて、この頃になってしんどいってやっと気づいてきたのではないかな。必ず私はPSのビジネスに参入するときに、中古を許したらコピーを許すことと一緒だよと言ったのです。中古はだめよと言ったらお役所から呼び出されてしまいましたけどね(笑)。
ソフト産業というのは“モノ”というよりもコンテンツですので、それこそ2次使用を認めてしまうことについて私が言及したことは間違っていないと思っています。それこそその線引きをしておかないと、方や一生懸命コピー対策をしていて、方や中古は放置されていて、売れるはずの枚数が落ちるということはあってはいけない話です。日本のような先進国がそれを放置しているのは「あの国の人間は何も考えていねえな」と私は思うのです(笑)。
編: 「ファイナルファンタジー XIII」中文版の発売決定により、今後、サードパーティーのローカライズタイトルは増えそうですよね。
安田氏: 増えると思いますよ。ローカライズ作業は日本の川内さんのところで台湾から6~7人日本に住んでもらって作業をしているのだけれども、今後は台湾でもできるようにしていきます。教育プログラム等で環境は整っていますので、日本のソフトメーカーさんがゲームの一部をこちらで作ってもらっても良いと思います。新しいソフトメーカーさんが作りたいが場所もない、教えてくれる人もいない機材もないということでしたら、どうぞうちにきてやってくださいということを今後やれるように考えています。そこでローカライズ作業も自然とできるのではないでしょうか。ただ一足飛びにはできないので、まずはトライをしてどんな問題が起こってくるのかを見て、解決してと気の長い話なのですが、本当の意味での交流ができるのではないかと考えています。
■ クリエイター育成プログラムの進捗状況について
クリエイター育成プログラムについて語るSCET総経理の本間和彦氏 |
MOU調印式の模様。中央にいるのが高雄市長である陳菊氏。野党民進党の重鎮であり次期総統候補のひとりと目され、台湾メディアがざわつくほどの大物である |
編: 初日のオープニングセレモニーの中で高雄市長とMOU(覚え書き)が交わされましたが、その具体的な内容について教えてください。
安田氏: 今後、高雄市政府が弊社のクリエイター育成について高雄市としても協力をしていきますという包括的な合意になります。これまでは経済部を通じて台湾全土でやりますということでしたが、今回はそれに高雄市がプラスアルファの支援を頂くということでああいったMOUを発表しました。
編: 高雄でのミッションは何になるのでしょうか。
安田氏: ゲームクリエイターの育成です。現在台北と高雄の大学で、合計300名の学生さんの教育をさせていただいていますが、彼らが卒業したときに、ある方はゲーム会社に行くかもしれない。しかしある方は自分で作りたい物を持っているかもしれない。会社を起こすには資金が足りない。そこで変な投資家からお金を借りてしまうと作りたい物が作れないといった状況を目にしていきました。そうした問題を高雄市政府とお話させていただいた結果、SCEが開発環境を提供していただければ施設をすべて高雄市が提供しますといった内容です。
意外と正義感にあふれている人たちがいるのです。我々はそういった人たちとはお付き合いします。一般的に投資家と呼ばれているような方々、困った方もいますね。そういった話があるとすぐ出てきますよ。たいした金でもないのに出してうまくいったら上前をはねよう、そんなようなタイプの人間がいるんですよね。ただ、そういった方ではない人たちを探さなければいけないというのを政府関係の方と話をしてきて、彼らも納得していますね。最初はコネだとか色々なことがあって様々な人が現われてきましたけど、結局うまくいかない。そういうのが脱落していくと純粋な気持ちでソフト産業を目指す人たちが残ってきている。これは1年、半年の話ではなく何年もやってきていて、現在にいたるわけです。ここは今から追いかけるメーカーさんがいても多分追いつかないです。
編: 韓国ではプサン市が近年デジタルコンテンツに対して投資を深め、一大デジタル都市のようになりつつありますが、高雄市の思惑も似たようなところがあるのでしょうか。
安田氏: 高雄はできれば地元にあったやりかた、台湾にあったやり方をして人を集めてもらいたいと思っていると思います。プサンの方も一生懸命やられているのでしょうけれども、多少色合いが違うと思います。
編: 今回スペシャルゲストとして高雄市長である民進党の大物を招きました。
安田氏: 招いたというよりそういった成り行きになっただけです。普段から知恵を貸して頂いている流れで来ていただきました。話をしても良いタイミングになりましたのでお越しいただきました。
編: SCE Asiaのゲームクリエイター育成プログラムは、今後、台湾政府と高雄市と両方の支援をもらってやっていくという認識でよろしいのでしょうか。
本間和彦氏: あくまで相手は台湾経済部なのです。経済部でも色々な場所に目を向けていますので、台北だけがうまくいけばいいというわけではなく地方都市のことも考えています。台湾の政策として、南北の経済格差の解消という課題があります。国の政策として北部で展開しているものは高雄市の協力を得ながら南部でも展開していこうというのが国の政策の筋になっています。
安田氏: 国民党だとか民進党だとかいう言い方をしてしまうと、変な話になってしまう。本間が話した通り経済部さんがこの国の経済を活性化するためにはソフト産業の育成なのだということをずいぶん前からおっしゃっていて、一緒にスタートして10年以上の月日がたちました。やっとそれが形になってきています。
■ アジア地域のPS3/PSP販売事情について
「覚えていないくらいに大変な年だった(笑)」とあっけらかんとした口調で話す安田氏 |
ゲームショップには、ハードソフト共に在庫が潤沢にあった。かつては正規品の割り当てが少なすぎてやむなく並行品をという負のスパイラルが確かに存在していたが、完全に過去の話になっている |
編: 2009年は薄型PSPをはじめPSP goなど話題性のあるコンテンツが揃いました。SCE Asiaにとって2009年はどんな年になりましたか。
安田氏: 覚えていないくらいに大変な年でしたね(笑)。我々のメインの仕事は販売活動ですから、販売活動を宣言した通りにやっていく。リージョンごとに新しいことをどんどんやらなくてはいけない。今までやり残してきた国での正式発売をやらなくてはならない。昨年はマレーシア、インドネシアでPS3を発売しました。年が明けて1月からはベトナムで発売しました。まもなく、フィリピンでも正式発売します。全部の国で言語も違うし国のシステムも違うし、関税も違うし色々な許可基準もバラバラで非常に苦労をするのです。それを1つ1つクリアして正式発売することをやってきています。非常に重たい作業でした。
その割に途上国なので所得は少ない。ベトナムではソニーの販売会社の大卒の新入社員の方の給料が1か月に100ドルです。月給9,000円くらい。その一方で8,500万人いる人口の半分が25歳以下の人たちです。将来を見据えてきちっとしたビジネスをしておかないと、海賊版に汚染をされて立て直すだけでもものすごく時間が掛かってしまいます。今の時期から正式にやり始めることを考えています。
編: いわば次の10年に向けての投資を始めたということでしょうか。
安田氏: そうともいえますし、私も年を取ってきたので、いつリタイアしても良いようにということもあります(笑)。サラリーマンというのは言われたことはやるのだけれども自分で新たにチャレンジするのはなかなかやりにくい部分がある。正式発売は採算と考えるとすごく時間とお金をかけてスタートしたけれども売り上げはどうかと言えば大して売れない。それでも良いと思ってやり始めています。一般的に良いとか悪いとかの議論抜きでみんなの合議制ではなく私の突っ走りで、まずはやっておいたほうが将来にとって良いのではないかいうことをやっています。
最終的には普通の国と同じようにイベントをして、発売に向けて新聞に大きな露出が出る。ベトナムではイベントが終わって飛行機に乗る前に何時からのニュースに出そうだからというのでホテルでみんなで見ていたら、「おー出たー」みたいなことになりましたね(笑)。本当に疲れますけれども疲れも吹き飛ぶような作業をみんなで繰り返しているのです。やはりできそうも無いことをみんなでチャレンジしてできた時の喜びを是非知ってもらいたいですね。
編: しかし、中国やインド方面は足踏みが続いていますね。
安田氏: 中国は、法律が改定になれば良いなと思っています。万博もおやりになるし、著作権の放置もこれ以上は難しいのではないかと思います。検閲に掛かる時間をもう少し考えないと先進国の仲間入りにしづらいのではないかという印象をお持ちになっている方はたくさん出てきていると思います。やはりクリエイター育成の活動を台湾でやっていると当然情報は中国の皆さんにも伝わります。こういう作業を中国でもやってくれないかというリクエストは頂いています。
編: 最近でもGoogleで米中関係が問題になりましたが、中国の市民の中には「撤退しないで欲しい」という冷静な声もありますよね。
安田氏: やはり国境を越えて留学していたり、国境を越えて著作物をご覧になっていたり、皆さんのお書きになったものをネットで読んで見たり色々あるではないですか。皆さん愛国心はものすごく持っています。単純に盲目的な愛国心ではなく、こういうところはすばらしい、こういうところはこれから変えなくてはいけないという機運が少しずつ盛り上がってくるのではないかと思っています。
編: PS3やPSPを早く出してほしいという声もあると?
安田氏: それはユーザーさんが元々お持ちになっています。中国の方々がほしい商品は全部国境を越えて平行で入っています。そういう形ですから、保証責任をどうするのかということを話し合いをすることはあるのです。ただお願いをするというのは我々としては筋が違うような気がしています。お願いをされなくても黙ってアジアでビジネスをやっていれば中国の方が買いに来て持っていっているわけです。ですからわざわざお願いをするつもりは無い。ただ、もったいないなという気はものすごくします。そのもったいないという両方の気持ちが合されば解決は早いと思います。
編: その一方で、近年力を注いでいる東南アジア展開についてはいかがですか?
安田氏: 順調です。当然トラブルはあるのですがほとんどうまくクリアして、PS3を一生懸命売っています。価格もこなれているわけではないですし、コピーが無い商品を売るのは自然と売れる部分が無いので売るための作業を一生懸命やらなければいけなくて、その辺をメンバーは根気よくやってくれている。みんなはずいぶん慣れてきてくれたのではないかな。エアコンの部屋で待っていて売れましたというわけではない。みんな汗水流して駆けずり回って売っています。
編: 東南アジアの展開拠点はシンガポールになるわけですか?
安田氏: シンガポールは香港と同じフリーポートですよね。しかしその周辺に存在している国は非常に関税が高い。それは国が決めることですから外のものが高いとか安いとか言ってはいけないことだと思いますが、関税が高いと並行輸入業者が暗躍するわけです。そういう方たちがお持ちになる商品がPSPではないかなと。PSPは3か月待てばコピーが出るのであれば待ってしまう。
一方で給料は低いですので、9,000円の給料の中から2,000円ずつためて何か月かかるのと考えたら、皆さん買いたいなと思われてから1年、2年経ってからお買い上げいただくのが実情かと思います。ただ、所得が低いにしても毎年成長はしています。我々はそれを信じてやっています。投資という考え方よりもお付き合いを根気強くあきらめずにしていきたいと思っています。
編: 薄型PS3は日本や欧米で大ヒットしましたが、アジアではいかがでしょうか。
安田氏: 売れるペースは上がってきています。我々の売り方は、1つ1つの代理店さん、その下の販売店の顔が見えていますから、その人たちとのお付き合いをしながら売っていく。黙っていても売れるものではないので、毎月勉強会を開いてこうしようああしようということを続けながらやっています。
編: PSP goがアジアでも発売されました。日本ではあまり反応はよくありませんが、アジアではいかがですか。
安田氏: 日本で厳しいということになると、当然こちらも厳しいです。額面どおりのインフラは無いのが実態ですので、さらに苦戦していますけれども、新しいトライアルがうまくいかない場合は、なぜなのかという勉強も我々はしているわけです。そこで学習した上で、新しい一手を打っていきます。
編: 台湾ではPSPの3000番台とPSP goを並行して販売していますが、この体制は今後も続けますか?
安田氏: 続けます。割合としては日本と同じくらいではないかな。3000番台の方がメインです。
編: 昨年PS3のカラーバリエーションを出さないのですかという質問をしましたが、「新型が出て価格がこなれてきてから」というご回答でしたが、その意味では準備は整いましたね。
安田氏: カラーバリエーションというのは枝葉の施策であって、PS3自体を売ることが1番大事なのです。色が良いから買ってくれたのではなく、こんなすばらしい機能を持っているということを説明すべきです。機械を理解していただかないと「PS4はまだですか?」という話が出てきてしまうのです。ゲーム市場でPS3以上の機械というのはなかなか出ないと思っています。PS2までが10年だとしたら、PS3は15年くらいかけて多くの世帯に置かせて頂こうと考えています。
PS3を家庭に置いてもらうためのアイデアは色々出てきていますよ。セットトップボックスとして置くというアイデアもあって、香港の通信会社と提携をして、家庭でPS3から色々な番組を取り込んで観ていただくサービスもまもなくスタートします。この前個人的なところで持ってこられたのはカラオケです。当然映像の取り込みも早いし動きも早いし、色々な機能も何かをつければうまくいくと思うのです。ただ、カラオケが置けるところって日本全国に何軒あると思うって聞いたら、カラオケ業界に携わっているのに「わからねえ」って言うのです。カラオケは全国に50万軒しかないんです。少しゆとりがあるときに考えようということで今はペンディングさせていただいています。つまり、PS3はありとあらゆることが可能な機械なのです。
編: 日本では地デジレコーダーの「torne(トルネ)」が3月にリリースされますが、アジアでも発売するのですか?
川内氏: あれは放送関係の機材ですので、当然システムが違います。アジアでも導入の検討はしていきます。やれることは全部やります。環境が許せばです。すべてのことを前向きに考えて、検討の結果まだ力不足ということであればもう少し待たせてもらいます。
編: 日本でやっている映画や漫画の配信サービスはアジアではいかがでしょうか。
川内氏: 前向きには検討しているのですけれども、導入がいつかというところまではお話できる段階ではないです。
安田氏: 大事なのはユーザーですから、ユーザーにそういった希望があればやりますけれども、ユーザーが望まない物をおしつけても誰も喜んでくれません。そこらへんのものをアジア9か国で全部文化も違います。今すぐほしいものはゲームではなくおにぎりだったりもするわけです。現場に赴いてどんな人たちが来ているのか、この人たちが何を欲しているのか、それをずっと見ながら、壇上で私がスピーチしても、何を言ったら反応があるのか真剣に考えています。媒体の人も含めて、我々には興味があっても相手には無い場合もありますから。
編: それでは、リージョンによっては、ゲームはそこそこで良いからBlu-rayソフトをいっぱい出してくれよというところもあるのでしょうか。
安田氏: そういうところもありますけれども、我々はあくまでゲーム会社ですから。そんなことソニーの皆さんには頑張って頂きたい。俺たちには言わないでいいですよ(笑)。
編: そういう意味では多機能すぎるが故に売りにくさもありそうですね。
安田氏: 色々な方が色々な風に考えてもらえるのですが、我々はあくまでゲームを売りたい。映画は映画でソニーピクチャーズという専門の会社があるわけです。そういったところが売るのにPS3があった方が良いと考えれば、一緒に組んで全力でやらせていただきます。
編: アジア全体でPS3は何台くらい普及しているのでしょうか。
川内氏: アジア単体の台数は公表していませんが100万台です。PSPも同様に公表していないのですが600万台に届く勢いです。これは我々がオフィシャルで販売した数字です。
編: それでは並行輸入品も含めるととんでもない台数がアジアに普及しているわけですか。
安田氏: 台湾でビジネスをスタートさせて、4~5年は並行品にとても苦労したのですが、最近そんなに気にならなくなってきましたね。我々がやっているものはサービスもするし値段も妥当な値段をつけているし、我々の活動自体を皆さんは少しずつ知っていただいていますから、SCEが正式にやっているものを買うのだという機運が出てきていますので、あまり並行品を好んで買うという方も中にはいるでしょうけれども、少ない人数になってきています。
■ 台湾市場独自の施策はずばり「教育」
台湾独自の施策は「教育」と言い切る安田氏。海賊版に加えて中古版についても独自の哲学を持つ安田氏は、根っこから正していきたい発想が前提として存在するようだ |
2年連続の出展を果たした3Dコーナー。ビジネスについて聞くと「関心の高さと買うかどうかは別」と非常に冷静な視点を持っている |
編: Taipei Game Showということで、台湾の市場についてお伺いします。台湾市場でPS3を販売するために行なっているユニークな試みはありますか。
安田氏: 教育でしょうか。教育プログラムについてもPS3は自然とメインにはなるでしょうけれどもPSPやPS2のソフトだって開発できるわけですし、PSだって別に良いわけです。PSフォーマットとして考えていますからね。人材育成も大事ですが、著作権ということを真剣に考えようよということもその役割の1つに入っています。自分たちが作った物をコピーが作られてしまっては仕事ができないでしょうと。作る気も起こらないでしょうということをずっと話をしています。
川内氏: Taipei Game Showで3D立体視を出させていただいていますが、昨年も出しましたが台湾以外ではできていないのです。香港でもできなくて、たまたまなのですが、アジアの中でタイミングが合ってしまったこともありましてお見せできています。
編: 今年のCESでは3Dの出展が目立っていましたし、Taipei Game Show 2010を見ても3Dのデモが多くありました。それを2009年の時点で出展したというのは先見の明がありましたよね(笑)。
安田氏: こりゃ面白いから「もっていけ」といっただけです(笑)。
編: それにしても台湾のユーザーは3Dに対する関心が高いですね。
安田氏: しかし、関心が高いのと買えるというのは別の問題なので、もっと商品価値を高めていかないと買いにはつながらないと思います。
編: 今後、3D対応液晶と提携して一緒にやっていくような計画はありますか。
安田氏: ソニーのBRAVIAなどについては何年か前から一緒にイベントもやるようにしています。問題なく一緒にやっていくつもりです。
川内氏: 先ほど安田から今期中のフィリピン展開の話がありましたが、ソニーがBRAVIAやVAIOを正規で売っているところをすべてカバーするのです。そういう意味でソニーのBRAVIAとのコラボレーションを行なっていきます。例えば「FF XIII」を店頭で公認画質、公認音質ということで日本で展開を行なっていますが、同じことをアジアでも始めています。これもお話ができていますが、「GT5」が3D対応しますと。これもコラボレーションの足固めができていると思います。地域拡張とソニーとのコラボレーションを着実にできるような形で押し進めていきます。
編: 台湾の公式サイトではPS Networkタイトル、PSPタイトルのバーゲンをやっていました。結構大胆な値付けで面白いですね。
川内氏: 欧米でも店頭に行くとわりと色々なことをやっているのです。ネットでも、例えば「GT」が出たとき、ネットワークダウンロードをしばらく無料にするといったことをヨーロッパでやったりしています。地域ごとに色々な施策は組んでやっています。我々はネットのアカウントを取っていただくことと、繋いでいただいたあとにお買い上げいただくところにどうやって繋げていくか考えています。新作で値引きは難しいのですが、あるタイミングでお買い求めいただきやすいような価格にしつつ、もっと親しんでいただきたいと思っています。
編: なるほど、つまりアジア圏ではPS3を買ってもPS Networkには繋がない方が多いということでしょうか。
川内氏: 現在ネット接続率でいきますと、世界平均で6割くらいがつながっていまして、アジアはそれより少し下回ります。決して接続率が悪いわけではないのですが、もっともっと繋げてもらいたいなと思っています。
安田氏: ただね、6割を少ないと見るのか多いと見るのかで言えば、決して少なくないと思いますし、パソコンではないので必ずネットに繋ぐものでもないと思うのです。ゲーム機として出してその機能の1つとしてのネットです。そこが少しぼけてしまうとある側面からすればゲームソフトってどうでも良いのという風に見られてしまうこともある。我々は終始一貫してゲームなのです。その中にBlu-rayが見れるとかネットが見れるとかがあって。あくまで8割方はゲーム機ですので、それをいかにお客さんに浸透させていくかです。
編: オンラインでゲームコンテンツをダウンロード配信するというビジネスは、アジアでは根付きそうですか?
安田氏: オンラインでやれば“楽に展開ができる”という考えをしてしまいますよね。しかし、実際はオンラインで売った後の代金の回収がものすごく大変なのですよね。人数を雇わないと処理をすることができない。しかも単価として何万円のものを処理するのではなく、何百円から始まってせいぜい何千円でしょう。それを頂くのは結構大変な作業だということを皆さんやり始めてからわかったのではないでしょうか。台湾で30人いるものを50人に増やさなければならないとなるともうちょっと待った方が良いのではないかと。最終的にはやるのだけれども、もうちょっと本体のゲームというビジネスがきちっと定着して、著作権等を理解して、そこでネットも重要な要素として広げていくことが良いのではないでしょうか。1つのものを定着させるのに3~4年から10年くらいはかかるのではないでしょうか。
編: 台湾では昨年後半からしっかりローカライズしていこうという機運がゲームパブリッシャー間の中で高まっていると伺いました。SCE Asiaさんとしてはいかがですか。
安田氏: SCE Asiaとしてこの地域は中国系の人が多い地域ですよね。そして英語。この2つは押さえていきたい。
編: アジアのラインナップの中には、「中英韓文語版」というものがありますが、これは3言語に対応しているのでしょうか。
川内氏: そうです。中国語、英語、韓国語の3言語です。あれはSCEのWorldwide Studioで開発の最初から、ローカライズを意識して作られているものです。
編: 展開地域の拡大に伴い、今後はさらに多言語対応が進んでいくのでしょうか。
安田氏: どのくらいの人数が要るかなのです。アジアは中国語と英語と人数的には日本語だとかね。その他にメインになり得る言語はないはずですので、当分はそこでやっていくしかないのではないかな。もうちょっと体力がつけばタイ語のようなものを出すかもしれません。
編: しかし、SCE Asiaは他のプラットフォーマーさんと比べて、ゲーム制作の下支えの部分で優に数年は先行していますよね。
安田氏: 多分追いかけられないくらい先行していると思います。水面下で動いていてぽこっと動き出したばかりなのです。水面下が苦しかった。それを押さえてやっと人様にこんなことをやっていますよと言えるようになったのが今の現状です。今後、活動範囲を中国に広げるとしたら、そうした経験が物を言うと思います。それをどこかの会計事務所やコンサルタント会社を使って代行してくれるところがあるのですが、そういったところにお願いするほど体力は無いし、そういうお金があるくらいなら他に使いたい。
川内氏: これも見えないところなのですが、本間総経理を始め台湾に8年10年いるような人材がいますので、台湾に来る人へのアドバイスといいますか、ここに行けばなんとかなるとかそういったところで心強いところなんですよね。
■ 2010年のSCE Asiaのアジア戦略について
安田氏が“強み”だというSCE Asiaのスタッフ達。安田氏の「いいからおまえらも一緒に写れ」と家族写真のノリで撮影された1枚。むしろこのアットホームさこそがSCE Asiaの強みだろう |
ようやく姿を見せた台湾産タイトル「東方雀神(仮)」。PSPで遊べる台湾麻雀ゲーム。詳細な情報はまだ明かせないということで、発売にはまだしばらく時間がかかりそうだ |
編: 2010年のアジア展開戦略を教えてください。
安田氏: PS3の展開をスピードアップしていきたいです。そのためには今もやっていることですが、ソフトメーカーさんにアジアの成長をご理解いただいて、商品を出していただく活動を一生懸命していきたいです。
編: それはアジア展開に消極的なサードパーティーにしっかり働きかけをしていきたいという話ですか?
安田氏: お願いをするわけではないのですが、インフォメーションをきちっとできるような素材ができていますので、そういうものをご覧に入れて一緒にやりませんかというご提案をしていきたいなと思います。
編: SCE AsiaはSCEグループの中での売り上げのシェアはどのくらいですか。
安田氏: ランチェスターの法則からいくと、どうでも良い数字ではなくなりました。10%を挙げてやっているのだけれども、達成することもあれば、達成しないこともある。我々が行くと思っていても為替が変わって行かなかったり。悲しいですよ。
編: やはり、現在の1ドル90円はしんどいですか。
安田氏: いやー。もうね、しんどいわ(笑)。100円から110円くらいになってくれないと大変です。
川内氏: 一時期アジアの通貨がかなり弱くなった時期がありました。持ち直して来てはいるのですが、即ち市場が活性化していることとイコールにはならない。その意味では、安田が言っている10%というのは、一時届きそうなところにいたのですが、それがいったんちょっとがんばらなければというところにいます。タイミングだと思いますので、ずっと伸びている中で押し下げたのは為替が大きな比重を占めているということです。
安田氏: アジアの関係者の方々が言うことは、額面通りということはあんまりなくて、よく見てみると「あれ?」ということもありますので、だからアジアなのかなと愛おしく思いますね。それが無いとアジアではないかなって。話半分ではなくて半分もないと(笑)。
彼らは先進国に追いついて追い越したい気持ちを持っているのです。プレスリーの映画を見ていて出てくると全員がプレスリーになって出てくるようなノリがあっても私は責められないなと思うのです。いいんじゃないですか、前向いてくれている間は。台湾でもバイクに2、3人乗ってますが、ベトナムなんてもっとすごいですよ。夫婦がそれぞれ前に子供をだっこして、後ろにおんぶして、まんなかに子供挟んで、合計5人くらい平気で乗っている。あれを見るともっともっと豊かになりたい、子供に良い教育をさせてあげたい、良いものを買ってあげたいという気持ちは強いのだなと。ですからまだまだアジアは伸びると思います。そういうのを見るとほっとしますね。現実に事務所に戻ってきて考えると、きついなーという気持ちになりますが、めげるわけにはいかないのです。
編: 今後10年も3歩進んで2歩戻るようなビジネスが続くということでしょうか。
安田氏: 良い表現ですね(笑)。そこからはしばらくは脱出できないと思います。それでもへたらないようにがんばってもらいたいから私は暴れているのです。じきにいなくなってしまいますから。57ですから。いなくなった時に顔を見合わせてやめようかという話ではなくて、あのおっちゃんでもできたんだから俺たちにはできるよとやってもらえたら良いなと思います。腹が減っていてもがんばるという気持ちがなければアジアではやっていけない。絶対やっていけない。
編: 現状で考えているSCE Asiaのゴールはなんでしょうか。
安田氏: ゴールは無い(笑)。私は日本の売り上げよりも大きくできると考えています。中国に展開できれば完全に超えられる。私は中国に日本がそっくりそのまま入っているような気がしています。14億人ではなく、1億4,000万人があそこにいると思うのです。我々のユーザーとして。ただ日本でも全世帯4,000万世帯に入っているわけではないですから、せいぜいその半分くらいとしても、そういうものが今の中国の等身大のターゲットになるのではないでしょうか。
14億人という話をされたときには、1億4,000万人が我々のビジネスの相手としているのではないかと考えています。これが即席ラーメンだと14億人を相手にする必要があるかもしれない。我々は単価的に考えてもそういったものではない。また、我々の商品は衣食住に関わるものがあって次にくる商品です。衣食住が足りて娯楽にいくわけです。その前に酒が入るかもしれませんが、いつかPSPの順番がやってくるでしょう。我々はそのチャンスを絶対逃したくない。
編: 欧米や日本で発売が決定しているモーションコントローラーですが、アジアではいかがですか。
安田氏: もちろんやりますよ。それもやはり説明がきっちりできないと、わからないまま導入するのはいやですから。私なんかが考えるよりも、ユーザーさんにどうやって説明すればよいか存じていらっしゃる。実は社内で若い人を集めてプロジェクトを作っています。周辺機器に関してはもっともっと色々なものが開発できるはずなので、検討してもらっています。
編: 今回、XPECさんと共同事業としてPSP向けの麻雀ゲームを参考出展されていましたが、こうしたアジア産のタイトルは、今後もどんどん出てくると考えていいですか?
安田氏: まだ発表はできませんが、走っていますのでじきにお見せできると思います。年内にこういったプロジェクトをやっていますということをお話できる機会はあると思います。起承転結すべてできてものが生まれていくと思うのですが、初めてってどこかがうまくいかないではないですか。そのうまくいかない部分を一生懸命サポートしていくのです。技術的に足りないだとか、金銭的な問題だとか、情緒的にこのままでは人の心を動かせないだとか色々な問題があると思います。それをサポートするのがSCETがやってくれている仕事です。難しい仕事です。
編: 時間がかかるプロジェクトになりそうだと。
安田氏: はい。今期の売り上げのためではなくてやっていますので、売り上げが大前提になっているとうまくいかないのです。通常の活動があって、これがちゃんとできて、プラスアルファの部分で、なかなか線引きが難しいです。もちろんわかっていると承知したうえですが、「何が本業だと思っているんだ!」というのは本間さんなどには口癖のように言っています。それができて初めて違うことをプラスアルファとしてできる。
編: アジアのユーザーに一言お願いします。
安田氏: 教育プログラムに興味がある人は、手を挙げていただいて結構です。香港やシンガポールでも同じようなことを始めている。他の地域でもお願いをされているところがある。そういったことを今後も広げていこうと思っています。
編: 数年後、いわば“安田チルドレン”がアジア中に誕生するわけですね。
安田氏: とんでもない。私なんかはたいしたこと無いのです。私の強みはスタッフです。私などがこういう風にしたいのになと思っていることをスタッフに実現してもらってるだけです。アジアだけでなく東京の方も人材が揃っています。すごい人材とすごい美人が増えてきまして、私は大ハッピーです(笑)。
我々としては大真面目にクリエイター育成プログラムをやっています。色々な意味合いがありますが、良いとか悪いとかそういう前に参加をしていただいて、我々もマイナーチェンジをしながら前に進めていくうちに何か糸口が見えていくのではないかと思っています。コンセプトは「粛々と」です。一足飛びにはできませんし、必ず副作用や弊害が出ますので、それを処理していく。とにかく1つ1つ階段を上ります。今年もがんばります。
編: ありがとうございました。頑張ってください。
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(2010年 2月 12日)