セルバンテス文化センター、「スペイン:新時代のアーバンカルチャー2009」
岡本吉起氏、森下一喜氏が、「COMMANDOS」クリエイターゴンソ・スアレス氏と対談


12月10日 開催

会場:セルバンテス文化センター


 スペイン語の振興と教育を推進するスペイン国営の「セルバンテス文化センター東京」は、スペイン文化省アンヘレス・ゴンサレス・シンデ大臣の来日を記念しスペインの文化・アートを紹介するイベント「スペイン:新時代のアーバンカルチャー2009」を12月9日と10日の両日に渡りセルバンテス文化センターで開催した。イベントでは映画やアートの講演をはじめ、グラフィック・プロダクトデザイナーのハビエル・マリスカル氏のライブ・パフォーマンスなどが行なわれた。

 会期2日目にはテレビゲームに関する対談が行なわれ、スペインからはEidosのPyro Studiosで「COMMANDOS」の開発を手がけ現在では「The Lord of the creatures」代表を務めるゴンソ・スアレス氏と、iPhone用のアクションゲームとして各国で人気を博した「Kroll」を開発したDigital Legends EntertainmentのCEOを務めるXavier Carrillo Costa氏が参加。日本からはゲームリパブリックの岡本吉起氏とガンホー・オンライン・エンターテイメント代表取締役社長の森下一喜氏が招かれ、ゲーム業界の問題点などについての意見交換が行なわれた。

 冒頭、ゴンソ氏はゲームの現状について語り、ビデオゲームはすでにその範疇がデジタルコンテンツとして幅広く複雑なものとなっており、同時に大きな可能性を秘めていると分析。歴史の浅い若いメディアではあるがその変化は激しく、映画の手法などをそのまま流用できなかったり適応できていない面も多々あるとした。さらに消費の速度が速く、消費者が求めるものも多岐にわたっている。しかし現状、ゲームは大きな市場となっておりエンターテイメント市場を独占している状況だと語った。さらに、北米や欧州など他地域が大陸の単位で語られているのに対して「日本は1つの国だけで語られ、大きな1つの市場である」と日本市場についても触れた。

 一方で、年齢層が広がっている点についても触れ、「今では37歳の子供がゲームをプレイしているとともに、(それらのユーザーを対象とした) 商品も登場している」と語り、任天堂のWiiやニンテンドーDSにおける「60歳の人や女性などこれまでプレイしなかった人達に広げて成功を収めた」とする側面についても話題を広げた。ただ、「消費が若干冷え込んでいるのでは?」といった話題が出ていることについて「我々はきちんと見極める必要がある」とし、様々な現象を見落とさないようにしなければならないと指摘した。

 Digital Legends EntertainmentのCEOを務めるXavier Carrillo Costa氏は、ユーザーの指向や生活環境の変化からモバイル市場が広がったことと、携帯電話をはじめiPhoneなどのスマートフォンなどの技術革新でゲームプラットフォームとして大きく前進した点を解説。携帯という常に身近にある存在と常にネットワークに繋がっているデバイスにより、コミュニケーションがゲームにとって重要な要素になったと続けた。

 ここで日本市場について問われた岡本吉起氏は、日本市場について「ゲーム先進国だったのはファミコンやスーパーファミコンの時代。当時は世界の人口の2% (日本の人口) で50%の市場を形成していたが、今は世界の15%のシェアしかない」と厳しい味方を示した。さらに海外のデベロッパの話を引き合いに出し「(海外のソフトが) 日本で売れないと言われるが、趣味・趣向が日本は海外とは違う。かなり違う市場で、『Halo』や『GTA』が売れるべきだと思うが、日本では違う物が売れている」とコメント。オンラインゲームについても「カセットなどを購入してきたからそれ以上払いたくないと思うようだ。アイテム課金などをいやがっているというデータもある。個人的にはMMORPGは廃人を生み出しやすいので、あまりヒットして欲しくない」と語たり、「ではどんなオンラインゲームが良いのかと言われれば、MO型のゲームでヒットして欲しい」と意見を述べた。

 ガンホー・オンライン・エンターテイメント代表取締役社長の森下一喜氏は、「オンラインがキーワードとなる。我々はMMO、MOといった部分よりは最大のポイントはコミュニケーションがゲームに入ってくる点」と語り、同時にプラットフォームについてもPCからより身近な携帯などが重要になってくると分析した。

 この後、話題は「ゲームは人にとって悪影響を及ぼすものか」といった話題に移る。ゴンソ氏は「スペインではゲームは十分歴史を作ってきた。ゲームをして育った子供達が大人になり、生活の中に十分入ってきている」とコメントすれば、Xavier Carrillo Costa氏も「ゲームに恐怖感を憶えるのではなく、教育などに使われるといった点も注目すべき」と続き、「バルセロナの大学では物理の授業でゲームを使用している」と実例を挙げた。

 この点については森下氏も同調。ただし、「業界としてゲームで遊ぶと言うことのルールを啓蒙していく必要があるのではないか」と提案。「親として家庭で教育していく事が重要と認識している。難しいことではあるが、ゲーム会社が悪いとか社会が悪いとかではなく、全体で考えなければ」と続けた。さらに、「悪いことは取り上げられやすいが、いい話もある。お客様から『ゲームで知り合って結婚した。ゲームを作ってくれてありがとう』といった話が来た。引き籠もっていた人がゲームで会話することで外に出られるようになったという話もある。コミュニケーションを取ることで良い面もある」と語った。

 最後にスペインと日本とのゲーム業界における今後の繋がりについて問われた岡本氏は「難しい質問だなぁ(笑)。頑張ります」と語り、言語を超えて自信を持って発言できればパートナーシップを築けると思うとコメント。これに対してゴンソ氏は「私たちはこの業界で戦っている。ハードな世界だ。日本とスペインは違うが、遠ざける要因はない。国と国とも友好だ」と続けた。またXavier Carrillo Costa氏も「言語の違いは問題だが、アーティスト同士は理解しあえる」との見方を示した。この点については司会を担当したカサ・アシア、インターネット&テクノロジーディレクターのハビエル・カスタニェダ氏は「ぜひ、セルバンテス文化センターでスペイン語を覚えてください」とアピールし締めくくった。


基本的に各人がゲームに関する問題提起などを行ない、それに合わせる形で意見を述べ合うといった形となった「The Lord of the creatures」代表のゴンソ・スアレス氏。Pyro Studiosで「COMMANDOS」を作り上げたことで知られているゲームリパブリックの岡本吉起氏。カプコンで「ストリートファイターII」などの開発を統括し、退社後はPS3「GENJI」、PSP「ブレイブストーリー 新たなる旅人」などを制作
ガンホー・オンライン・エンターテイメント代表取締役社長の森下一喜氏。ゲームやインターネットの良い部分について業界としてアピールしなければならないと語ったDigital Legends EntertainmentのCEOを務めるXavier Carrillo Costa氏。iPhone用のアプリ「Kroll」などが取り上げられた司会を担当したハビエル・カスタニェダ氏。カサ・アシア、インターネット&テクノロジーディレクター

(2009年 12月 10日)

[Reported by 船津稔]