iPhone/iPod touchゲームレビュー集 将棋アプリ編
アマ二段がCPU対戦可能な3タイトルを徹底比較!



 多数のiPhone/iPod touch用のアプリが日々登場する中で、日本向けの将棋アプリもちらほらと出始めている。盤面を直接触るように操作できる将棋アプリは、iPhone/iPod touchのインターフェイスともマッチしており、気軽に遊ぶのに適したゲームジャンルの1つといえるだろう。

 本稿ではその中から、CPU対戦が可能なタイトルをレビューする。執筆時点で確認できたのは、株式会社マグノリアの「IT将棋」、株式会社タイトーの「森田将棋」、柿木義一氏の「柿木将棋」の3本。

 手前味噌ながら、アマチュア二段位を持つ筆者なりに、それぞれの特徴を比較・分析していくという(多分)本邦初の企画である。各タイトルごとに、ゲームモード、操作性、CPUの棋力および総評の4つのテーマに分けて紹介していくので、これから将棋ソフトの購入を考えている方はもちろん、将棋ソフトで遊んだことがないという人もぜひご一読いただきたい。




■ IT将棋

発売元・開発元:マグノリア

価格:350円

配信日:7月31日(配信中)



・ゲームモード

 手合いは先手・後手の選択と、CPUの強さを「初級」、「中級」、「上級」の3つのランクを選択してプレイできる。平手以外にも、「香落ち」から「飛角香落ち」までの5種類の駒落ち戦を、上手・下手のどちらを持っても楽しめる。また対局中はいつでも棋譜を保存でき、保存した盤面からいつでも対局を再開できる。その他、駒の文字数を変えたり(※「金」と「金将」のように、1文字か2文字表記かを選べる)、王手がかかったときの警告音の有無を設定できるオプションもある。

・操作性

 画面をタッチすると、触れた位置の周辺部分が拡大表示される。この状態で、動かしたい駒にタッチすると駒を持った状態となり、同時に駒を動かせるマス目の色が変わる。さらに動かしたいマス目の部分をタッチすると駒が移動し、これで一手を指したことになる。指した後は画面サイズが元に戻り、CPUの指し手を待つこととなる。

 飛車や角などを遠くへ動かす際は、動かしたい場所が拡大画面内に表示されないことがたまに生じる。その際は指で画面をなぞり、動かしたい場所が画面内に表示されるまでスクロールさせる。その分、操作の手間はちょっとかかってしまうが、レスポンスは極めて良好だ。もし拡大表示をしたくないのであれば、「対局設定」でオフにもできる。

・CPUの棋力

 毎年行なわれているコンピューター将棋選手権において、上位に入賞しているエンジンを搭載しているのが本作品の1番のセールスポイント。事実、居飛車と振り飛車の両戦法を使いこなし、攻め、受けともに差し手が比較的しっかりしている。筆者が勝つのに苦労するほど強いというわけではないが、アマチュアの初段クラスでも十分楽しめるレベルだろう。思考時間も非常に短く、筆者が試した限りでは一手指すのに1分以上待たされることはまったくなかった。

・総評

 まずは350円という、とてもリーズナブルな値段設定が嬉しい。駒落ち戦ができたり、また対局中はいつでも「待った」ができるので、初心者でも気軽に楽しめるのも好印象だ。さらに対局後には、棋譜データを保存・再生できる機能もついている。

 唯一残念だったのは、プレーヤーが勝ったときに、「勝利」、「詰み」などと画面にまったく表示されず、その場で画面が停止状態のまま対局が静かに終了してしまうこと。画面に大きく「あなたの勝ち!」と表示したり、あるいはファンファーレを鳴らすなど、プレーヤーを祝福する演出をもっと盛り込んでほしかったところだ。

※ マグノリアによると、プレーヤー勝利時の演出が出ないのは仕様ではなくバグで、まもなく修正版を公開するとしている。


【スクリーンショット】
動かしたい駒のある場所をいったん拡大表示させてから、駒をタッチして動かすという独特の操作が特徴。画面内に指したい場所が表示されない場合は、指で画面をなぞってスクロールさせる必要がある
「待った」ができたり、棋譜の保存や再生ができるのは嬉しいが、CPUを詰ませて勝った局面での演出が何もないのはちょっと寂しかったかも?



■ 森田将棋

発売元・開発元:タイトー

価格:900円

配信日:7月10日(配信中)



・ゲームモード

 CPU戦では、通常の対局以外にも「待った」なしで何連勝できるかを競う「勝ち抜き戦」モードがある。「勝ち抜き戦」は、勝ち進んでいくごとに持ち時間が減らされるなどして、難易度がどんどんアップする仕組みになっている。棋力は「練習」~「名人」までの全6段階から選べ、駒落ち戦は「香落ち」~「六枚落ち(※飛角桂香落ちのこと)」まで合計7種類の設定ができる。対局中の中断によるデータ保存や、終局後の棋譜の保存および再生も可能だ。

 対CPUではなく、2人のプレーヤー同士で対局ができる「対人戦」モードが搭載されているのも本作品のウリのひとつ。これはいわゆる通信対戦ではなく、一手指すごとに端末を2人で手渡ししながら遊ぶ仕組みだ。また、駒や盤面および背景のデザインを変更したり、特定の条件を満たすと「成績」メニュー内にあるさまざまな「実績」(通算対局数や勝利数など)が表示される機能もある。さらに「設定」メニューを開くと、将棋の基本ルールや駒の動かし方、あるいは専門用語集が読めたりするのも、本作品ならではの大きな特徴だ。

・操作性

 「タイプ1」と「タイプ2」の2種類の操作方法が用意されている。「タイプ1」は動かしたい駒に触れた後、そのまま指を滑らせて指したい場所に動かし、指を離すとその場に駒を置く。「タイプ2」は、駒をタッチしたら指をいったん画面から離し、動かしたい場所のマス目に再度触れることで駒を動かす仕組みになっている。

 初期設定では操作方法が「タイプ1」になっているが、筆者はこの操作にまったくなじめなかった。駒をきちんとマス目に置いたつもりが、なぜか入力がキャンセルされて駒を元の位置に戻されてしまい、初手を指すことすらできなかった。一方、「タイプ2」では何の支障もなくスムーズに駒を動かすことができた。筆者としては、「タイプ2」での操作がおすすめだ。

・CPUの棋力

 CPUは居飛車を使うことが多く、飛車を振るときは三間飛車が多いという印象。棋力レベルは「練習」でも「名人」でもあまり差がなく、今回試した3タイトルの中では最も弱いように思われた。特に駒同士がぶつかり合い、戦いが始まると応手に困ってしまうことが多く、序盤の十手目あたりから思考時間が30秒前後かかったり、あるいは疑問手を続けてしまうこともあった。アマ有段者クラスになると、こと棋力の面ではやや物足りないところがあるかもしれない。

・総評

 8ビットPC時代からのロングセラーソフトである「森田将棋」ということで、思考ルーチン構築の歴史が他の作品よりも多い分、棋力が相当に高いものと当初筆者は想像していた。だが、実際遊んでみると低めに抑えられており、個人的にはちょっと意外だった。これなら、アマ有段者ならずとも気軽に遊べることだろう。

 あとは2種類の操作方法、特に「タイプ1」にうまくなじめるかどうかが、ユーザーの評価を分けるポイントになると思われる。筆者の場合、駒およびマス目の表示サイズが小さいせいなのか、間違って動かしたい駒とは別の駒をタッチしたり、狙ったところとは違う場所に駒を置いてしまうこともしばしばあった(筆者の指が普通の人より太いせいもあるのだが……)。

 しかも、本作品では相手の駒もタッチできてしまうため、駒が密集しているところではミスする確率がどうしても増えてしまった。通常のCPU戦では、いつでも「待った」が使えるので操作を万が一間違えても大丈夫だが、「勝ち抜き戦」モードは「待った」ができないため、うっかり指し手を間違えてしまうと、どうしても途中でモチベーションが下がってしまう。

 ただ、保存した棋譜を自由に再生できる機能と、2人で対局できる「対人戦」モードを搭載している点は大いに評価できるポイント。会社での昼休み時間などを利用して、友人や同僚たちと遊ぶにはまさにもってこいである。


【スクリーンショット】
本作品は盤面が横画面で表示される。連勝数を競う「勝ち抜き戦」や、プレーヤー同士で対局できる「対人戦」モードもある
背景や駒のデザインを変更することも可能。「実績」の解除に挑戦するオプションや、駒の動かし方や用語集などが見られるメニューも用意されている



■ 柿木将棋

発売元・開発元:柿木義一氏

価格:450円

配信日:2008年12月29日(配信中)



・ゲームモード

 先手・後手の選択と、棋力を1~7の7段階(7が最高)の中から設定可能。手合いは平手のほかに「香落ち」から「六枚落ち」までの7種類の駒落ち戦が楽しめる。

 対局後は棋譜を保存したり、棋譜を再生中に途中の局面から対局を再開することも可能。また、棋譜データをメールで送信できるという、実にユニークな機能も用意されている。この棋譜データは他のユーザーに送信して見せられるほか、柿木氏が制作しているWindows用ソフトのデータ形式と互換性があり、PCで棋譜を管理・解析もできる。

・操作性

 動かしたい駒にタッチすると移動できるマス目が示され、さらに動かしたい場所をタッチすると駒を動かせる。メニュー画面で「拡大操作」の項目をオンにすると、画面をダブルタップすることで盤面を拡大した状態で見られる。また「盤面回転」をオンにすると、盤面を上下逆に表示することもできる。

 これも筆者の体感だが、駒の表示サイズが小さいため持ちたい駒を持てず、すぐ隣りにある別の駒を間違えて持ったり、狙った場所とは違うマス目に指してしまうことがしばしばあった。うまく動かせないときは、「拡大操作」機能をオンにした状態でプレイするといいだろう。

・CPUの棋力

 こちらの攻めに対する応手も比較的しっかりしており、また十数手以上の長手順の詰み筋もきちんと読んでくるので、(形勢が互角の状態であれば)スリリングな終盤戦が楽しめる。終盤戦の強さに関しては、今回取り上げた3つの作品の中でもピカイチだろう。なぜか稀にCPUが1分近く考えることがあるが、思考時間は概ね短く、ストレスはまったく感じなかった。

 ただし、詰み筋の発見は上手だったものの、序盤~中盤戦にかけては手損を繰り返したり、うっかり駒損するケースが目立った。App Storeの製品ページにも書かれているように、アマ有段者クラスだと最高の難易度に設定しても少々物足りないかもしれない。

・総評

 PC用ゲームとして数多くのシリーズ作品を発売した実績があり、世界コンピュータ将棋選手権では決勝進出の常連となっている「柿木将棋」。だが、iPhone版に関しては棋力レベルは低めに抑えてあるようだ。

 筆者の中で最も評価できるポイントは、駒の書体や盤面などのグラフィックスの美しさと、CPUが負けを認めると詰みを待たずに「投了」を告げてくれること。特に後者は、無駄に粘らず素直に負けを認めてくれるのが、遊んでいて実に快感である。

 保存した棋譜の好きな局面から、新たに対局を続けることができるのも嬉しい機能。特に負けてしまったときは、どの指し手が疑問手だったのかを自分で振り返りつつ、CPUに勝つまでリターンマッチを繰り返していけば、棋力の向上にも大いに役立つだろう。

 画面を拡大表示すると、CPUが画面外の駒を動かした場合に指し手をすぐ確認できないのが唯一の難点。CPUが手を指したら、画面をいったん元のサイズに戻すか、あるいは棋譜を別途表示させるシステムを追加してもよかったかもしれない。


【スクリーンショット】
タッチした駒の動かせる場所を点で表示する。グラフィックスは、柿木氏開発のPC用の棋譜表示ソフト「Kifu」と同じデザインで、とてもきれいで見やすい
CPUは受けの手がないと判断すると「投了」するので、勝ったときは実に快感。局後の棋譜保存や、途中の盤面から対局を継続することも可能だ



■ まとめ

 筆者が平手で指した場合、遅れをとるほど強力なCPUは、今回は見当たらなかった。その点はまだまだ今後頑張って欲しいところだ。ただ記事を通して見えたのは、棋力よりも操作性における相違点のほうが顕著に出たことである。iPhone/iPod touchならではのインターフェイスをうまく利用し、なおかつユーザーがより快適に遊べる将棋ゲームのベストな操作方法は、各社ともまだ完成形が見えていない状態のようだ。

 もうひとつ、棋力について筆者が気づいたのは、いずれの作品ともCPUが王将をしっかり囲わずに攻めてくることが非常に多かったこと。このため、終盤戦になるとすぐに受け切れなくなったり、序盤戦で必要以上に金や銀を動かし、手損を繰り返して形勢を不利にしてしまう場面が目立った。

 たとえば、居飛車で戦うならば矢倉を、振り飛車なら美濃囲いを狙うなど、オーソドックスな囲い方を完成させるまでのルーチンをもっと組み込んでもよかったように思われる。思考レベルを低く設定した場合は別に囲わなくても構わないが、強めに変更したときは最低限の囲いを作るパターンが作動するようにしたほうがよかったかもしれない。囲いが完成すればプレーヤーも簡単には勝てなくなるし、同時に「オッ、このCPUは手強いぞ!」などというように、さらに棋力が高いというインパクトを与えられたように思われる。

 本記事においては、筆者自身が「このソフトが1番のおすすめ!」と断定はしないので、読者のみなさんがそれぞれの特徴を比較しながら、ソフトを購入する際の参考にしていただければと思う。微力ながらも、本記事が少しでもお役に立てれば幸いである。


[IT将棋](C)MAGNOLIA INC. all right reserved.
[森田将棋](C)2004,2009 Yuki Enterprise Inc. (C)森田和郎 (C)TAITO CORP. 2004,2009
[柿木将棋](C)2009, Yoshikazu Kakinoki

(2009年 9月 28日)

[Reported by 鴫原盛之]