SCE Asia、台湾経済部と共同で「新世代デジタルコンテンツ台日合作記者会」を開催
台湾政府の補助金でゲームクリエイター育成とゲーム制作支援を実施

6月29日開催(現地時間)

会場:台湾経済部


 ソニー・コンピュータエンタテインメント(SCE)のアジア部門SCE Asiaの台湾支部SCET(Taiwan)は、現地時間の6月29日、台湾経済部の大禮堂において、台湾経済部とその外郭団体の資訊工業策進会(資策会)と共同で台湾のゲームコンテンツの産業育成に関する発表会「新世代デジタルコンテンツ台日合作記者会」を開催した。

 会場には、TVメディアを含む、多くの台湾メディアに加え、XPECやInterServ、Soga Interactiveといった総計10社以上の台湾パートナーも来賓として招かれ、台湾政府主導による新たなゲーム産業育成プロジェクトの門出を祝った。本稿では取り急ぎ、発表会の模様をお伝えしたい。

【台湾経済部】
会場となった台湾経済部。日本の経済産業省に当たる組織で、民間組織が軸となる記者会見を行なうところがユニークである。SCE Asiaは台湾初のオリジナルタイトル「台湾高鉄」の記者会見以来2度目となる



■ 台湾政府の予算で実施されるゲームクリエイター育成プログラムとゲーム制作支援事業

祝辞を述べる台湾経済部の黄重球次長。「台湾は物作りが得意だが、今後はゲーム開発にも重点をおいて政府も全力サポートしていく」と支援を約束
SCE Asiaプレジデントの安田哲彦氏は、10数年前のアジア部門設立時を振り返り、「コピーソフトのあふれる大変な市場が、台湾政府の海賊版対策により、正規品を買える市場へと生まれ変わった」と評価し、「これから必要なのは努力と情熱です。多くの人を楽しませて参りましょう」とゲームクリエイター志望者に対して発破を掛けた

 今回台湾経済部が発表した内容は、基本的にSCETが2008年1月にTaipei Game Showで発表した「台湾クリエイター育成プログラム」の延長線上に位置するものとなる。1年半前の発表はどちらかというと試験的な趣が強かったが、今回はすでに予算も確保され、全体の枠組みもしっかりしており、それだけに台湾メディアの注目度も非常に高かった。

 具体的な発表内容としては、ゲームクリエイター志望者に対する「ゲームクリエイター育成プロジェクト」と、独立系メーカーに対する「デジタルコンテンツ補助事業」の2本柱で構成されている。いずれも事業の主体となるのは台湾政府であり、SCE Asiaは、アジア地域における人材育成プロジェクトのパートナーであるプレミアムエージェンシーと二人三脚で、ゲーム開発用のハードウェアやソフトウェア、それからクリエイターや講師の派遣を担当する。費用はすべて台湾政府から支出され、正確な数字は未発表ながら数十億円規模。日本から講師を招いてゲームクリエイターの卵を育成する一方で、アイデアや人材はあるが予算がない独立系のメーカーに対しては、制作経費の数十パーセントを国が補助を行なうという2段階ロケット方式の巨大プロジェクトだ。

 人材育成プロジェクトは、台北の大同大学と、高雄の義守大学の2カ所で実施し、育成期間は1年で、定員は合計190名。教育機材にはプレイステーション 3やPSPが使用され、基本的にはプレイステーションプラットフォームの人材が育成されることになる。驚くべきは、学費が一切掛からず、なおかつ職業訓練基金より手当も支給されるところだ。対象者は、ゲーム制作に興味のある社会人。8月に選考が行なわれ、9月より第1回目の講義が行なわれる予定となっている。このような好条件の育成プログラムはなかなかないため、応募が殺到するのは避けられないだろう。

 デジタルコンテンツ補助事業は、これまで台湾政府が行なってきたデジタルコンテンツ支援事業とはやや毛色が異なり、日本企業とのデジタルコンテンツ制作に関するコラボレーションに使い道を限定した支援事業となる。ユニークな点は、補助の対象はゲームに限っていないところであり、アニメーションやCG映画等も含まれるようだ。

 こちらもまたターゲットとなるハードはプレイステーションプラットフォームで、SCEはプラットフォーマーとしてプロジェクトマネジメントやメーカーのマッチングなどのサポートを行なう役回りとなる。アウトプットは、PS3やPSPのフルプライスのパッケージタイトルにこだわらず、PlayStation Network向けやPlayStation Home向けなど、カジュアル路線も視野に入れて柔軟に対応していく方針としている。

【デジタルコンテンツ制作支援】
今回新たに発表されたデジタルコンテンツ制作支援プログラムの概要を記したスライド。台湾政府の財政的な後押しを背景に、SCE Asiaの協力の下、台湾メーカーが日本を中心とした海外メーカーと協業し、台湾の全地域の産業育成を図りながら、最終的には全中華圏へと展開を果たしていくという雄大な計画。6月より数十億円の予算を投入し、3カ年計画で実績を挙げる予定となっている



■ 数年後には台湾からPS3/PSPタイトルが続々登場か!?

安田氏、黄次長の後ろに展示されているのが、SCEIの動画配信ソフトウェア「Broadcasting Engine」と、SCE Asiaと共に今回のプロジェクトに参画しているプレミアムエージェンシーの自社開発エンジン「千鳥引撃(千鳥エンジン)」
ケースに陳列されていた白いPS3の隣には、日本の音楽館と台湾のActainmentとがコラボレートして作り上げられた台湾初のオリジナルPS3タイトルである「台湾高鉄」が置かれていた。気鋭のクリエイターの発掘/育成に加えて、「台湾高鉄」に続く、第2弾、第3弾タイトルを生み出すのが、今回のプロジェクトの要諦だ

 今回取材していて興味深かったのは、台湾メディアの多さに加えて、来賓メーカーの多様さだ。今回来賓として招かれていたメーカーの多くは、すでにSCEとパブリッシング契約を結んでいるメーカーか、今回の支援事業を機に、新たにパブリッシング契約を結ぼうとしているメーカーのいずれかで、今回はXPEC、InterServ、Soga Interactive、Yeck Entertainmentといった独立系のデベロッパーが出席していた。

 アジア地域では、お付き合いで他社の発表会に参席するというケースはままあり、ビジネス的な意味はなかったりすることも多いが、今回は台湾政府の予算的な裏付けもあるため、今後、具体的な企画や契約の詰めを行ない、PS3やPSP向けの開発へ進展して行くものと見られる。明日30日にはSCE Asiaとメーカーの間でBtoBのミーティングが予定されているという。上記に挙げたメーカーは要注目と言えそうだ。

 また、第三勢力として、独自の存在感を放っていたのが、通信系のメーカーだ。今回は遠傳電信と大同電信の2社が招かれていたが、インターネットと携帯電話の双方に対してインフラを持つ両社とSCE Asiaの接点は、ずばりPlayStation Networkを通じたオンラインサービスの強化だ。

 ヒントとなるのは、今回、会場後方に参考出展されていた現在SCEIが開発している動画配信サービス用のソフトウェア「Broadcasting Engine」の存在である。「Broadcasting Engine」は、Cellプロセッサのパワーを活かしたPS3ならではの動画配信サービスを実現するためのソフトウェアだ。実は韓国で2008年からPS3を通じて配信が行なわれているIPTVサービス向けのソフトウェアがベースとなっており、開発も大部分が韓国のR&D部門で行なわれている。

 その仕様については現時点でも伏せられているが、いわゆるセットトップボックスの機能をすべてソフトウェアエミュレーションで実現しながら、動画のシェアリングやマルチモニタ的な表現など、有り余るプロセッサパワーを活かした動画鑑賞を可能にするという。実はプログラムはすでに完成しており、あとはコンテンツホルダーとの契約次第だという。そのために今回通信系のメーカーを呼び、まったくのゼロベースで、どのようなサービスなら契約が可能で、台湾のユーザーが視聴してくれるのか協議していくという。

 もうひとつのヒントは、今年のE3で発表されたPSPgoの存在だ。台湾での取り扱いは未発表だが、発売は確実視されており、すでにショップでは予約も取り始めているという。このPSPgoは、オンラインによるコンテンツダウンロードが大前提となっており、既存のプレイステーションプラットフォームとは、ビジネススキームが大幅に異なる。PSPはこれまでUMDを通じたコンテンツ販売が中心だったため、オンラインサービスが不十分でもサービスに支障が出ることはなかったが、PSPgo以降は、オンラインサービスが不十分では、プラットフォームビジネスそのものが成立しないことになる。

 それも日本や欧米からコンテンツを引っ張ってくるだけでなく、「台湾人による台湾人のための台湾ゲームコンテンツを!」というニーズは年々高まってきており、SCE Asiaでは、PSPgoの発売を控え、台湾独自のコンテンツをいかに準備していくかに苦心惨憺している様子が見て取れる。その種は、今回の発表で確実に蒔かれたが、数年後にどのような形で実を結ぶのか今から楽しみだ。


(2009年 6月 29日)

[Reported by 中村聖司 ]