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圧倒的なリアリティを実現した「Forza Motorsport 6」の7.1chサウンドの秘密
限られたリソースでいかにリッチかつ明瞭なサウンドを実現するか
(2016/3/20 15:33)
Microsoftが誇るXbox向けハイエンドレーシングゲーム「Forza Motorsport」シリーズ。今春にはついにWindows 10にも「Forza Motorsport 6: Apex」としてデビューが予定されており、更なる広がりが期待されている。
「Forza Motorsport」シリーズは、そのレーシングシミュレーターとしての基本性能の高さに加えて、グラフィックスの美しさ、そして迫力のサウンドエフェクトもその魅力尾ひとつとなっている。今回はシリーズ最新作「Forza Motorsport 6」のサウンドエフェクトにフォーカスを当てたオーディオセッション「Simulating the Race Day Experience: Mixing Forza Motorsport 6」が行なわれたので、その模様をお伝えしたい。
セッションスピーカーを務めたのは、Turn 10 Studiosでオーディオディレクターを務めるNick Wiswell氏と、プロジェクトオーディオディレクターを務めるChase Combs氏。16年のキャリアがあり、Turn 10 Studiosに加入する前は、レースゲームの名門Bizarre Creationsで、傑作レーシングゲーム「Project Gotham Racing」の開発に携わり、ゲーム開発者のキャリアのすべてをレースゲームのサウンドに費やしてきたという、「Forza」シリーズを支える縁の下の力持ち的なスタッフだ。
「Forza Motorsport 6」のプロジェクトは、前作に「Forza Motorsport 5」の開発終了直後、2014年1月にスタートし、1年9カ月後の2015年9月にリリースされた。タイムラインは、コンセプト作成に3カ月、プリプロダクションに6カ月、プロダクションに9カ月、仕上げに3カ月。発売プラットフォームはXbox One独占、オーディオエンジンには前作同様FMOD Studioを採用している。
ナンバリングのシリーズ最新作ということもあり、コンテンツボリュームは前作よりさらに膨らみ、クルマは460種類、トラックは24、そしてマルチプレイで同時出走数は24台となった。ここは文字にすると何でもないことのように思えるが、ライバルカーの数が7台でも15台でもなく23台である。しかも、ナイトレースやレインレースといったコンディションの異なるレースも新規実装される中での24台同時レースである。この状況をサウンドチームはどう乗り切ったのかというのが本セッションのお題目となる。
サウンドチームのゴールは、7.1chサラウンドサウンド環境で、いかにレース中のクルマとタイヤの状況をプレーヤーにクリアに伝えるか。この際重要になるのは、レースを構成するサウンドエフェクトを、限られたリソースでどう鳴らし分けるか、どのようなポリシーで鳴らすかというルール決めである。ポリシーも何もなく鳴らしてしまうと、それはサウンドではなくノイズになってしまう。
そこでまず、シチュエーション別に鳴らすスピーカーを変える設定を行なった。これによりシチュエーションの変化を際立たせるわけだ。たとえば、ドライ環境の自車の場合、SL/SR(左サラウンドスピーカー/右サラウンドスピーカー)をオフにし、5.1chのみで鳴らす。サラウンドスピーカーをオフにすることで、自車の音をダイレクトにプレーヤーに伝えるわけだ。その一方で、ウェット環境の自車の場合は、センターとLFE(ウーファー)をオフにし、SL/SRを鳴らす。これにより、ドライ環境との状況の変化を際立たせ、ハイドロプレーニング現象をはじめとしたウェットコンディションならではの状況変化をサラウンドの形でプレーヤーに伝えるわけだ。
そのほかのサウンドエフェクトも紹介されたが、音楽はFL(フロント左)、FR(フロント右)、SBL(サラウンドバック左)、SBR(サラウンドバック右)の“四隅”からのみ音を出し、クアッドサウンドを生み出し、歓声やヘリの音などシーンを構成する「Track Life」は、センターとLFEをオフにし、サイドからのみ鳴らす形を取る。会場では、個々の音を個別に鳴らすデモが行なわれたが、それぞれ音の位置が違っていて、全体として広がりのある豊かな音場に繋がっていると感じられた。
レースゲームの主役はクルマであり、クルマの状況をもっとも伝える音はエンジン音とタイヤ音の2種類となる。プレーヤーにクルマの状況を伝えるためにもスロットルの状況をはじめ、正確にエンジンとタイヤの音を伝えることが重要となる。
しかし、筆者を含め、多くのレースゲームファンが見落としていることは、車種に応じてエンジン音のダイナミックレンジが全然違うということである。たとえば、フォルクスワーゲンの旧型ビートルと、レース仕様のNASCAR EngineやMazda 787 Bは音の大きさが全然違う。ビートルが最大で70dbほどで貨物列車ほどの音なのに対して、NASCAR Engineは130db、Mazda 787 Bは140dbと倍も違う。これはアサルトライフルの銃撃音(140db)や、ジェット機の離陸時の騒音(150db)に匹敵する音であり、これを正確に再現してしまうと、車種を変える度にTVのボリュームをいじる必要に迫られる。
そこで「Forza Motorsport 6」では、クラシックカーからレーシングカーまですべての車種、コクピットビューからリプレイ用の定点ビューまですべてのカメラ視点において音の大きさを単一のフォーマットに落とし込んでいる。これにより、すべての車種、すべてのシーンで、適度な音量でリアルなエンジン音を楽しむことが可能となっている。これは極めて妥当性のある調整と言える。
そしてレースのリアリティを生み出す上で重要なのが環境音だ。セッションでは、リフレクション、ディフューズ、リバーブの3種類について語られた。
初めに環境音の大前提として、すべてのオーディオオブジェクトは、最大12パターンの音を設定していることが紹介された。これはレース中の視点、リプレイ、マルチプレイなどによって、聴き手の位置とオーディオオブジェクトまでの位置関係が異なるからだ。その上で自車の状況に応じて環境音を動的に変化させていくのが上記3つの項目となる。
まずリフレクションについては、自車のエンジン音が壁に当たることで発生する反射音をシミュレーションしたものだが、今回のセッションで驚いたのは近くの壁だけでなく、反対の壁の反射音も生成して鳴らしていることが明らかにされた。つまり常に両方の壁から反射音を鳴らしているわけだ。
ディフューズは距離に応じた音の減衰処理、リバーブは残響音をそれぞれ示している。具体的には、ライバルカーの音の大きさを距離に応じて鳴らし分けるのがディフューズおよびリバーブ処理となるが「Forza Motorsport 6」では、マルチチャンネルごとの信号を独立して鳴らすディスクリート方式を採らず、いったんDSP側でステレオに落とし、改めてサラウンドにするという交通整理を行なっている。
次のテーマはラウドネス。全体的な音のボリュームをどうしたかという話題に移った。レースゲームとサウンドは切っても切り離せない関係で、カローラ単独で走るときは静かなのに、24台で走ったり、大きな客席があるコースで走るとうるさくて堪らないというのでは、一件リアルなようだが、実際はプレーヤーは常にボリュームを調整しなければならず面倒である。
そこで、ダイナミックレンジの異なるエンジン音を一定の範囲に収めたことと同じように、これもまた標準となるボリュームを決めていった。参考にしたのは映画で、本作にとって親和性の高いレース映画のラウドネスを調べ、比較的大人しめのタイトルの数字を採用した。人間は静かな音に対して、うるさい音ほどいらつきを感じないからだ。ラウドネスは小は大を兼ねる考え方が基本になるようだ。
ちなみにレース映画の金字塔である「ワイルドスピード」(-10LUFS)や、アストンマーティンが作品に溶け込んでいる「007 慰めの報酬」(-7LUFS)は個人的にうるさい印象を持っていたが、実際うるさい映画であり、「Forza 6」のレースシーンでは「Italian Job」(-16LUFS)や「デス・プルーフ」(-17LUFS)と同レベルの-16LUFSを採用。レンジ幅は9LUで、全体では-23LUFSほどと、かなり“静かな”レースゲームとなっている。
そして最後に仕上げのマスタリング。ここではオーディオエンジンのFMODの力を借り、リアルタイムでのマルチバンドコンプレッションが使われている。また、出力はホームシアターやTV、ヘッドフォンなどリスナーの環境に合わせて最適化され、常に広がりのあるサウンドでレースを楽しむことができる。
セッションの最後に24台でのレースの最終仕上げの状態、つまりゲームと同じ環境でサウンドエフェクトを聞くことができた。実際プレイしている時はもとから全幅の信頼を置いているだけにあまり意識していなかったが、自車やライバルカーのエンジン音やブレーキ音、反射音、ガヤ音、壁への衝突音、ディフューズ処理された先頭にいる車両特有の甲高いエンジン音などなど、個々のサウンドエフェクトが耳に突き刺さってくる。Xbox Oneユーザーはサウンドの側面から今一度「Forza Motorsport 6」を楽しんでみてはいかがだろうか?