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水口哲也氏が原点「Rez」の秘密と制作過程を振り返る
映像、音楽、身体までを一体化しようとする水口氏の考え方とは?
(2016/3/18 15:56)
「ルミネス」や「Child Of Eden」など、映像と音楽を融合させる作風で世界から人気を集めるクリエイター・ゲームデザイナーの水口哲也氏。GDC 2016では、水口氏が自身の出世作「Rez」を振り返るという講演が開催された。
「Rez」は、2001年にプレイステーション/ドリームキャスト用ソフトとして発売されたシューティングゲーム。画面に現われる敵をロックオンし撃破していくことで、映像と音楽が重なりあい、独自のトランス体験ができるタイトルだ。
PlayStation VRに詳しい方ならご存知の通り、「Rez」は「Rez: Infinite」として、PS4/PSVR向けにリメイクされることが発表されている。PSVR版はGDCの会場でも体験でき、そのレポートもお伝えしているが、本講演はその原点にあたる「Rez」をテーマとし、その原点や制作過程が述べられていった。本稿では水口氏が「15年前の記憶を掘り起こした」というその内容をご紹介したい。
「Synesthesia(共感覚)」の原点はスイスでのテクノ体験
「Rez」を振り返るにあたり、水口氏は自身に影響を与えたゲームを2つ挙げた。1つは、高校生のときに出会った「ゼビウス」と、大学生のときにプレイした「Xenon 2: Megablast」。
「ゼビウス」は、サウンドエフェクトが自分が奏でているように感じられ、「これがもし音楽になってったら……」という“妄想”を当時から持っていたという。
また「Xenon 2: Megablast」はその音楽を繰り返し聞いたというが、ヒップホップミュージシャンのBomb the Bassの音楽が採用されており、「クリエイターやアーティストがゲームを作ることがあるんだ」と驚いたという。本作の音楽はヒップホップであり、当時はアーティストがゲームを作る雰囲気ではなかったが、「では自分が作る音楽になっていたらどうなるのか、クリエイターが作る新しいメディアの形式はどのようなものだろう……」と考えるきっかけになったとした。
その後水口氏はセガに入社し、「セガラリー」などの制作を担当することとなる。ここで水口氏はゲームの作り方とゲームプレーヤーが世界に多くいることを知ったという。水口氏は「セガラリー」シリーズをいくつか手がけていくが、その間も「いつか音楽で新しい体験を」という思いは消えずにいた。
そんな水口氏の転機となったのは、氏が1997年に訪れたスイスのチューリッヒで開催されていたテクノイベント「ストリートパレード」に出くわしたことだという。水口氏はここで初めて「テクノ」を体験したが、一面を人々が埋め尽くし、音楽に合わせて照明と人々が一体となって変化していく様子を見て、相当の衝撃を受けたという。
その時水口氏の頭にふと湧いてきた言葉が、後にゲームを語る際に多く口にすることになる「Synesthesia(共感覚)」。もともと言葉は知っていたが、チューリッヒでの体験を経て頭のなかで「ぐっと繋がった」という。
また水口氏は、画家ワシリー・カンディンスキーの絵画「モスクワ」を例に挙げ、カンディンスキーにも影響を受けていることを明かした。「カンディンスキーは音楽を聴きながら絵を描き続けた画家。この絵はモスクワの街を歩いた光景を表現したものだと思うが、持っているものがキャンバスかコンピューターかだけで、感じ方は私たちと同じなのではないか。この感覚を100年後に体験としてクリエイトとするとどうなるのか、というインスピレーションがここから生まれ始めた」と語った。
そこからは、「ゲームと音楽の本当のマリアージュとは」、「敵を撃つことで音楽を作り出すこととは」、「ゲームの中でトランス状態を引き起こすには」といったテーマが次々に湧き上がってきた。水口氏は当時を振り返り、「ここから長い旅路が始まった」と述べた。
音楽の「気持ち良さ」はなぜ起こるのか?
とはいえ、当時は音楽ゲームというジャンルがなかったため、音楽をゲームに落としこむために様々な研究を重ねたという。「仕組みがわからなければプログラムに落とし込めない」というわけで、ケニヤの街中で自然発生的に音楽が生まれ、その場がグルーブしていく様子を収めたビデオを繰り返し見ることで「グルーブとは何か」をひたすら見つめていったという。
研究の中で水口氏が注目したのは、「コールアンドレスポンス」。リズムの掛け合いで場が盛りがっていく感覚とゲームにおけるインプットとアウトプットの応酬に類似があったため、ここをゲーム作りのきっかけにした。
またクラブミュージックにおける「DJ」にも注目。ドラム音からはじまり、1つずつトラックを重ねていって、トラックを遷移させながら何度も山場を作っていく。観客は山場のたびに盛り上がるが、DJの行動は「トラックを変えながら『気持ち良い』状態を維持させていく」ことではないかと分析。演奏中は同様にDJ自身も相当気持ち良いはずであり、このDJ的な「気持ち良さ」をどうしたらゲームに落としこめるか、もテーマとなっていった。
水口氏とスタッフはこうした音楽イベントに積極的に参加して人々の盛り上がりの様子を観察しつつ、ゲーム内の音楽やビジュアルがどういったものであれば「気持ち良いか」の議論を重ねていく。
そうして「Rez」のプロトタイプ版ができあがってくるが、決定的な発見だったのは、プレーヤーの入力が多少リズムとズレていても、ゲーム側で強制的にシンクロさせてしまう水口氏が「Quantization(量子化)」と呼ぶシステム。これによりプレイに「マジックが起こった」そうで、この仕組は「ルミネス」、「Child Of Eden」などにも受け継がれていくこととなる。
VR構想は2001年当時から。「Rez」裏テーマの秘密も
「Rez」のアバターが人型であり、最終形態が赤ちゃんであることについては、ハッカーがサイバー空間を守るというストーリーの裏に、「精子が卵子に出会うまでの長い旅路」を描くというテーマがあったからだとした。
タイトルの「Rez」にはResolve、Resolute、Resonateなどの意味があるが、その背景には音楽と映像とバイブレーション、さらには精子と卵子に至るまで、「個々のものが結合していく経験」という思いが込められている。ゲームと一体化してトランス状態を楽しむことこそが、「Rez」のゲームデザインの狙いだったというわけだ。
水口氏は「Rez」の開発経験を通して、ゲームとは「経験をリデザインするもの」との考えに至ったという。ゲームを作るために様々なものを観察し、分析し、そこで得られた経験をデザインしなおして共有する。それがゲーム作りの本質であり、「Rez」制作チームで学んだことは、それ自体が現在でも宝物のようになっているという。
また講演の最後に、水口氏は「Rez: Infinite」についても触れた。実は「Rez」のVR化は2001年当時から構想があったそうで、本来であれば見渡す限りのサイバー空間で「Rez」を体験させたかったが、当時の技術では叶わなかったそうだ。
そのフラストレーションが「Rez: Infinite」として花開くことになりそうだが、もう1つ、水口氏は当時から「トランスバイブレーター」を別売りで売り出すほどバイブレーションに強いこだわりがある。その究極系が、全身26カ所にバイブレーションを仕込み、全身から光を放つスーツ、その名も「Synesthesia Suit」だろう。
「Synesthesia Suit」は昨年末開催の「PlayStation Experience 2015」で披露されており、果たしてが実際に売り出されるかどうかは未知だが、映像と音楽の一体化に留まらず、ゲームと身体までを一体化しようとする水口氏らしいアイディアであることは良くわかる。
この日水口氏からは「Rez: Infinite」の新たなコンセプトアートが公開されたほか、PSVRのローンチタイトルを予定していることも明かされた。水口氏による原点にして究極の体験、その動向に要注目である。