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産・学のVR先駆者たちが集結した「VRCカンファレンス2015」レポート

SCE、グリー、Unity、Epic Games、ゲーム業界人が語った国産VRの未来

11月7日開催

学会、産業界の両方からVRに関心をもつ人々が集まったVRCカンファレンス2015
代表理事の藤井直敬氏

 一般社団法人VRコンソーシアムは11月7日、初の年次カンファレンスとなる「VRCカンファレンス2015」を開催した。会場にはVRコンソーシアム代表理事の藤井直敬氏(理研脳科学研究所、ハコスコ代表取締役)をはじめ、産・学を代表するVR界のトップランナーたちが多数登壇し、VR産業全体にまつわる最新の知見を共有した。

 VRコンソーシアムは2015年4月に設立されたばかりの非営利団体で、デバイス/コンテンツ/メディア/プラットフォームの4つの領域でVRの認知活動、技術開発、恊働を促すための検討や交流活動を行なうことを主目的としている。上述の藤井氏を筆頭にアカデミック界を中心とした理事会によって運営されてはいるが、具体的な議論のフィールドでは、ゲーム産業界の存在感も非常に厚い。

 その傾向を反映して、VRCカンファレンスではSCEワールドワイドスタジオプレジデントの吉田修平氏とグリーの執行役員である荒木英士による対談や、ユニティ・テクノロジーズ・ジャパン合同会社エバンジェリストの伊藤 周氏、エピック・ゲームズ・ジャパン合同会社の下田純也氏によるゲームエンジン系ピッチ対決、という興味深い風景も見られた。

 本稿ではこれらゲーム産業関連各氏によるセッションを中心にレポートをお届けしよう。

VR専門スタジオを設立したグリー荒木氏、PSVRを推進するSCE吉田氏が対談

SCEWWS吉田修平氏、グリー荒木英士氏が揃って登壇
GREE VR Studioロゴ
「シドニーとあやつり王の墓」。スマホ用VRアクション・アドベンチャーだ
最終的に「脳直結」の世界を見越す荒木氏
プラットフォーマーとしてVRコンテンツ開発ノウハウの洗練・共有を進めたいという吉田氏

 本イベントに先立つ11月5日、グリーは新スタジオ「GREE VR Studio」の設立を発表し、第一弾タイトル「シドニーとあやつり王の墓」の配信を開始。ソーシャル・モバイルゲームの大手企業によるVR専門スタジオというのは、全世界を見回しても非常にユニークな試みだ。ゲームファンにとっても大きなニュースのひとつだと言えるだろう。

 「VRは新しいプラットフォーム。定期的に訪れる業界的なガラガラポンが起こると見ていて、まずは先んじて飛び込んでみようと」と語るのは、グリーのゲームコンテンツ担当執行役員の荒木英士氏だ。SCEWWSプレジデントの吉田修平氏とともに登壇した対談セッションで荒木氏は、かつてグリーが大きく成長できた成功の要因として「挑戦者として新しいプラットフォームでいちはやく勝負した」ことを挙げ、来るべきVR時代においてもまた挑戦者となる意気込みを語った。

 そんな荒木氏が心待ちにしているのは、PCやハイエンドの据え置き機を前提とする高品質なVRシステムが、より小型化して手軽なものになっていくタイミングだ。そして究極的には「はやく脳に直結したい」と語る。曰く「いまは手元の端末まで何十Mbpsという帯域が来ているにもかかわらず、指でするインプットは数bpsでしかありません。これは超もったいない話で、手元まで来ている帯域を直接脳につなげるようじゃないと使いこなせないと思っています。はやくそこまで行きたい!」。

 そう語る荒木氏は間違いなくシンギュラリティアン(シンギュラリティ=レイ・カーツワイル提唱の技術的特異点の到来を信じる人)だ。最終的に人類はVRの世界と直結し、リアルとデジタルの境界も溶けていく‥…そんな未来像を信じ、それを促進するために「GREE VR Studio」を設立、まずはゲームコンテンツを中心に開発していくという意気込みだ。

 その荒木氏に対してプラットフォーマー側となるのが吉田修平氏。PlayStation VRを強力に推進中の吉田氏は、VRならではの中心的な魅力として「キャラクターの存在感」を挙げた。

 「ゲームの中のキャラクターが、自分のこと、プレーヤーのことを見てるんですよね。そうするとデジタルのキャラクターなのに、存在感がハンパないですよ。『London Heist』で立てと言われたときに立たなかったら、“立てって言っただろう!”と怒鳴られたり、それはもうVRじゃないとできない体験ですね。」(吉田氏)

 これに加えて荒木氏が挙げたのは、「リアルでやりたいけどできないことをゲームの中でやる」ということを、VRがさらに強化する点。従来のゲームでも同様の方向性は存在したが、VRで圧倒的に高まる存在感や、身体的インタラクションが可能になることで、よりシンプルな内容でも、従来のゲームでは実現が難しかった体験も濃密に実現できるようになる、という視点だ。

 「そういう意味では、VRのデモはゲームをやらない人でも自然にわかる、楽しめる」と吉田修平氏。例えば「London Heist」で、HMDをかぶってコントローラーを握れば、あとは何の説明もなしに引き出しを開けたり、銃を撃つといったアクションが、ゲーマーならずとも誰にでもできる。「これまでのゲーマーと呼ばれる人たちよりも、かなり幅広い方に楽しんでもらえる可能性を感じます」(吉田氏)。

 今後、VRが普及していくためのカギを握っているのはこの両者だ。プラットフォーマーである吉田氏は、2016年にはOculus Rift、HTC Vive、PSVRといった快適なVR体験を可能にする手頃なハードウェアが一気に揃うことを挙げ、「あとはコンテンツを作る側がいかに楽しいVR体験を作れるか」にフォーカスがあると語る。そのノウハウをコンテンツメーカーと一緒に高めていきたいという姿勢だ。

 これに応えて荒木氏は、裾野の広い、カジュアルなVRコンテンツを通じて市場を開拓していきたいとの方向性を語った。「僕らはAAAクラスのFPSとかレースゲームは作れませんので、そこは割りきって、より裾野広く楽しさを伝えていける、ノンゲーマーの方でも触ってみたいと思えるものを作っていきたい」(荒木氏)。その中でグリーらしいといえるのは、プレーヤー同士のコミュニケーションを主軸においたコンテンツデザインだ。

 「VR空間内で、ゲームなのかコミュニケーションなのか、それが渾然一体となったコンテンツというのが凄く大事になるのではないかと思っています。そういう発明をやっていきたい」(荒木氏)。

 かつてフィーチャーフォン、スマートフォンでゲーム産業を大いに成長させ、自らも巨人となったグリー。果たしてVRの時代に向けても、大きな役割を果たすことになるだろうか。今後とも注目だ。

TGSで初公開された「サラと毒蛇の王冠」を別室で披露。グリーが目指すソーシャルVRの実験作
同じ部屋ではPSVR「London Heist」のデモも。VRハードやコンテンツが幅広く集まっていた

国産VRコンテンツを推進したくてたまらないゲームエンジンのエバンジェリストたち

 ゲーム産業界からの登壇者はもう一組。ユニティ・テクノロジーズ・ジャパン合同会社エバンジェリストの伊藤 周氏、エピック・ゲームズ・ジャパン合同会社の下田純也氏だ。

 UnityとUnreal Engine、ゲームエンジン両雄による直接対決の様相を呈した連続セッション。そこで伊藤氏はUnityのユの字も出さずに持論を展開。これが実におもしろいので先に触れておこう。

「クレイジージャパン」で世界を驚かせよう!

ユニティ・テクノロジーズ・ジャパン合同会社エバンジェリストの伊藤 周氏
「やりたいからやっている」人が多いというVR界隈
セッション中、Unityらしいものとして唯一登場したユニティちゃんのVRコンサート

 2013年春のOculus Rift DK1の出荷以降、市井のクリエイターによる実験的VR作品の開発基盤として最も広く使われてきたのは間違いなくUnityだ。伊藤氏はUnityのエバンジェリストとして草の根のVRコンテンツに多数関わって来た立場からこう語る。

 「“アメリカのVRコンテンツが凄すぎる?”、“お金を入れて大きなものを作らないと置いて行かれる?”。そんなことはないんです、日本のVRコンテンツは凄いんです!」というのが議論の趣旨だ。

 伊藤氏は、自身がFacebook上で行なったアンケートの結果から、国内でVRコンテンツに関わっているクリエイターは「お金のためでなく、やりたいからやっている」人が大半を占めていることを指摘。そこから生まれてきた日本独自のVRコンテンツの数々……バーチャル・アイドルが踊ったり、乗馬マシンでVR乗馬をしたり、リアルの人物にVR映像のガワをかぶせて遠隔で抱き合ったり……は、海外に類例が全くなく、ものすごく「変」であるが独自性があって圧倒的に面白い、と評価。それこそが日本のVRクリエイションの強みだという伊藤氏だ。

 そういった「変」なコンテンツを生み出す土壌は、日本独自のコンテキスト、コミュニティ、アイディアにあると伊藤氏。そこから生まれる「クレイジー・ジャパン」なコンテンツ。「やりたいことをやれば絶対に世界にも通用する、むしろ世界を席巻する」と鼻息も荒い。

 それほどまで日本独自のVRコンテンツに高い競争力を見込んでいる伊藤氏だが、ひとつだけ懸念を示したのは「クオリティ」についてだ。現在までに国内から出てきた面いコンテンツは、そのほとんどがフラッシュアイディアを実現するところで満足しており、他所様に見せるものとしては作りこみが甘い。例えばグラフィックスの完成度、その完成度を実現するための各種アセットの作り込みなどだ。

 対して海外のVR作品では、学生によるものでもAAAクラスの素材を使用し、映像としてのクオリティが非常に高くなっていることを伊藤氏は指摘。ここさえ世界水準にしていいけば、「クレイジー・ジャパン」は来るべきVR時代に世界の度肝を抜かせることができる、だからぜひともクリエイターのみなさんは「やりたいことをやろう!」とエールを贈る伊藤氏だった。

乗馬マシン+VR
VRで抱き合う
アイディアが活きるVRでは、日本の独自性が武器になる。「クレイジー・ジャパン」で世界を席巻しようと鼻息荒く語った伊藤氏の議論だった

インディーから大手スタジオまで幅広い採用が進むUnreal Engine

こちらはわりとオーソドックスに展開したUnreal Engineセッション
Epic Gamesでは2013年のDK1登場直後より、非常に積極的にVRコンテンツ開発、エンジン開発を進めてきた
国内採用事例はゲーム・ノンゲームの双方にわたる
UE4ならではのハイエンドCG+トゥーンによるVR表現を提案

 エンジンのアピールを全くしなかったユニティジャパン伊藤氏に対し、エピック・ゲームズ・ジャパンの下田純也氏はわりとオーソドックスにプレゼンを行なった。

 現行で第4世代となるUnreal Engineは、当初よりVR対応を積極的に進め、いまではVRでのライブプレビューが可能なほどゲームエンジンとの統合が進んでいる。今年4月には完全無料化(ロイヤリティ制)を果たしたこともあって、いま、インディーから大手スタジオまで急激な普及が進んでいる状況だ。

 国内でもイベント系からゲーム系まで幅広いコンテンツでの採用が進んで言るという下田氏。お台場夢大陸「スーパーガジラ」・ガジラVRや、PEPSI STRONG ZERO「PEPSI STRONG BALL」・ONI-GOKKOといったアトラクション系コンテンツにも採用されていたというのは驚きだ。

 ゲーム系ではもちろん、業界の話題をさらった「サマーレッスン」では2014年に公開された初期バージョンから採用。また、「ダンガンロンパVR」ではUnreal Engine 4には不得意と見られているアニメ調レンダリングでのVR体験を実現している。

 そこで下田氏がイチオシしたのが、「ダンガンロンパVR」で実現されたようなトゥーン+VRという表現手法だ。VRとアニメ系コンテンツの相性は意外なほど良い(写実系だと少しの作りこみ不足で一気に不気味になることもある)一方、単にアニメが立体視できるだけでは弱いと下田氏。そこで、Unreal Engineならではの「ハイエンドCGのリアルタイムトゥーン化」のソリューション提供を通じ、国産VRコンテンツのさらなる加速を推進したいという考えだ。

 伊藤氏が語るように、日本のVRコンテンツは独自性が高く、海外ではとても作られそうにないものが次々に登場してくるだけの土壌がある。そこにUnreal Engineのような高品位グラフィックスを簡単に実現するテクノロジーが融合していくことで、日本のゲーム産業はVR時代に大いなる飛躍を果たすことになるかもしれない。

 ゲームプラットフォーマー、コンテンツクリエイター、そしてゲームエンジン。3者が出揃ったVRCカンファレンスならではの議論から、VR新時代に向けての新しい可能性が見えてきそうだ。

UE4の強みは、これを開発するEpic Games自体がコンテンツメーカーとしてもAAA級であるところに秘密がある。UE3で作られた「Rift Coaster」に始まり、UE4では「Couch Knight」、「Showdown」、「Bullet Train」と、高品質VRコンテンツの作例を自ら示してきた。そのフィードバックはもちろんエンジン自体にも生かされている

(佐藤カフジ)