ニュース

JAGMO、バトルの名曲を集めた珠玉のフルオケ公演「伝説の戦闘組曲」開催

レベルアップしながら曲自体が成長していく「レベルアップ交響曲」を初披露!

7月11日、12日開催



会場:文京シビックホール

 面白法人カヤックが運営するゲーム音楽交響楽団JAGMOは7月11日、ゲームミュージックを扱ったフルオーケストラコンサート「JAGMO 伝説の戦闘組曲」を開催した。今回の公演は7月11日と12日の全3回で、初日のお昼の部に参加することができたのでレポートをお届けしたい。

指揮者の吉田誠氏(中央)とコンサートマスターの枝並千花氏
ソリストの三浦文彰氏

 「JAGMO 伝説の戦闘組曲」は、日本の著名なゲームタイトルのバトルミュージックを若手演奏家によるエネルギッシュな演奏で聞かせてくれるオーケストラコンサート。フルオケならではの迫力、緻密かつ多彩な演奏で、非常に贅沢な時間を過ごすことができる。2015年2月にJAGMOとして定期公演を開始してまだ半年足らずながら、すでに数多くの固定ファンが付いているようで、各回ともにチケット完売の人気ぶりとなっている。

 JAGMO のコンサートの特徴は、メーカー主導の特定の作曲家や人気シリーズを対象にしたコンサートに対して、タイトルやメーカーの垣根を越えて選曲が行なわれているところ。ゲームミュージックコンサートの定番である「ファイナルファンタジー」や「ロマンシング・サガ」のみならず、「MOTHER」、「キングダム ハーツ」、「クロノ・クロス」、「クロノ・トリガー」といった名曲揃いながら、タイトル単独ではなかなかお目にかかれないタイトルから楽曲が選ばれているため、ゲームミュージックファンには非常に価値のあるコンサートとなっている。

 さて、今回の定期コンサートは副題として「伝説の戦闘組曲」と付けられ、バトルミュージックを中心とした選曲となった。ただし、バトルミュージックばかりというわけでもなく、従来のようにオケに適したオープニングテーマやバトル以外の楽曲も採用され、伊藤賢治氏の「One Night Re:Birth」のように1曲目から総立ちになって、息つく暇もなくバトルミュージックが叩き込まれ、興奮のるつぼと化すというような激しい感じではなく、あくまでクラシックコンサートとして、ゆったりとした気分でバトルを中心としたゲームミュージックを楽しむことができた。

 すべての曲目はメドレーになっており、著名なアレンジャーによるここでしか聴けないオリジナルアレンジのメドレーが楽しめるところもウリのひとつ。今回選ばれた曲目は、これまでの公演で来場者から高い支持を受けた曲目を中心に11タイトル、38曲が演奏された。7月11日お昼の部のセットリストは以下の通り。7月11日夜の部、7月12日昼の部とはそれぞれ曲目の一部が異なる。


第一幕 7月11日 [昼]

【ロマンシングサ・ガ3】作曲:伊藤賢治 編曲:旭井翔一
・オープニングタイトル
・四魔貴族バトル1
・四魔貴族バトル2
・玄城バトル
・ラストバトル

【聖剣伝説2】作曲:菊池裕樹 編曲:旭井翔一
・天使の恐れ
・危機
・子午線の祀り

【クロノ・クロス】作曲:光田康典 編曲:青島圭祐
・疾風
・時の傷跡
・死線

【クロノ・トリガー】作曲:光田康典 編曲:松崎国生
・クロノ・トリガー
・風の憧憬
・戦い
・ボス・バトル1
・ボス・バトル
・カエルのテーマ
・魔王決戦
・世界変革の時
・ラストバトル

【レベルアップ交響曲】

【チェインクロニクル】作曲:SEGA 編曲:深澤恵梨香
・Beginning of The Chain
・March of The Braves II
・Battle for Justice II
・Beat The Master

【MOTHER】作曲:酒井省吾/鈴木慶一/田中宏和/坂本俊介 編曲:山本雄一
・愛のテーマ
・ポリアンナ
・摩天楼に抱かれて
・Bein' Friends
・and goes on
・SMILE and TEARS

【キングダムハーツ】作曲:下村陽子 編曲:深澤恵梨香
・Dearly Beloved
・Roxas
・Tension Rising
・The 13th struggle

【FINAL FANTASY V】作曲:植松伸夫 編曲:深澤恵梨香
・ビッグブリッヂの死闘

【FINAL FANTASY VIII】作曲:植松伸夫 編曲:深澤恵梨香
・Waltz for the Moon
・The Man with the Machine Gun
・Force Your Way


「クロノ・トリガー」バイオリン協奏曲バージョンで、目にもとまらぬ超絶技巧を見せた三浦氏
アンコールを終え、万雷の拍手を受けるJAGMOの皆さん

 38曲というとゲームミュージックコンサートとしてはかなり多いが、すべてメドレーでテンポ良く演奏され、休憩を挟んであっという間の2時間だった。どのタイトルも楽器の選択、アレンジの仕方、曲の繋ぎなどが練りに練られており、どれも素晴らしかった。

 個人的には、好きなタイトルである「ロマサガ3」のボスメドレーが特に良かったし、“超絶技巧”で知られるソリスト三浦文彰氏を迎えてのバイオリン協奏曲バージョンで演奏された「クロノ・トリガー」全9曲は、アンコールを求めたいぐらい良かった。フィナーレとして使われた「FFVIII」も、植松伸夫氏のスケールの大きな曲の魅力をフルオーケストラで余すところなく表現していて良かった。

 ただ、どれかひとつということになるとやはり「MOTHER」ということになるだろう。ゲームミュージック界屈指の名曲である「ポリアンナ」や「Bein' Friends」そして「SMILES and TEARS」が流れてくると、懐かしさと切ない気持ちで胸が一杯になってしまった。「伝説の戦闘組曲」というテーマにはどれもまったくふさわしくないが、まったくぜんぜん善しとしたい。やはり「MOTHER」は圧倒的だ。

 なお、7月11日昼の部ではアンコールも行なわれた。こちらもふんだんに趣向を凝らしたメドレーになっており、言及したいポイントも多いのだが、これからコンサートを楽しみにしている人のためもネタバレを防ぐためにあえて言及しないでおきたい。

 そして忘れてはならないのが初演奏曲だ。今回初演奏曲が2曲あり、1曲は今回協賛メーカーとして参加したセガから、JAGMOとしては初のスマートフォンタイトルとなる「チェインクロニクル」。

 同作はスマホ向けタイトルとしては、屈指の名曲揃いのRPGとして知られるが、オープニングテーマ「Beginning of The Chain」から、新章のフィールド曲「March of The Braves II」、これまた新章のバトル曲「Battle for Justice II」、第1章のボスバトル曲「Beat The Master」という手堅いメドレーで、並み居る名作たちに勝るとも劣らない演奏を披露。「チェンクロ」ファンを大いに満足させると共に、ゲームミュージックファンをも唸らせていた。

 こうなってくると他の「チェンクロ」の名曲たちも是非聴いてみたいし、「ファンタシースターオンライン」、「戦場のヴァルキュリア」、「サクラ大戦」など、セガが誇る名曲のオーケストラバージョンも聴いてみたくなる。今更ながらJAGMOにはまだまだ大きな可能性が眠っていることを実感させてくれる。

 最後に、今回ゲームミュージックコンサートという枠を超えて大いに楽しませて貰ったのが、もうひとつの初演奏曲「レベルアップ交響曲」だ。事前にTwitterを通じて応募した「ユーザーが考えるレベルアップ時の効果音」の中からもっとも優秀な1つを、キーフレーズとしてたくみに織り交ぜながら1つの交響曲として演奏するというもの。

 ベースの曲として使われていたのは、ロッシーニの「ウィリアムテル序曲」。レベルアップのテーマを用いた前奏こそ華々しかったものの、いざ曲が始まると“とぼけた”音色のソロパートが繰り返され、ときおりキーもずれた演奏で、演奏の途中で奇音も発せられるなど、とても聴けたものではない代物。「何だコレは」と思ってしまった。

 しかし、一定間隔で唐突に挿入されるレベルアップテーマによりレベルアップを繰り返すことで徐々に演奏がうまくなり、音色が増え、ツヤ味が増し、ピッチも上がってくる。演奏も半ばにさしかかると、「ウィリアムテル序曲」らしい疾走感のあるメロディを取り戻し、さらに派手にアレンジされたレベルアップテーマで上限までレベルアップを果たすと、フルオーケストラによる演奏で圧巻のフィナーレを迎えた。

 正直な所、途中まで演奏の意図がよくわかっていなかったのだが、曲自体が“レベルアップをしながら成長する交響曲”であることに気づくと、そのアイデアとコンテンツとしてのクオリティの高さについつい最後まで聞き入ってしまった。凄いモノを目の当たりにしてしまったという印象である。

 フルオーケストラコンサート「伝説の戦闘組曲」は、単なるゲームミュージックコンサートという枠に留まらない奥の深さに感銘を受けた。すでに固定ファンが付いているのも頷ける話だと思った。次回公演は10月24日、25日の日程で、副題「勇者たちの饗宴」と発表された。興味を覚えた方は足を運んでみてはいかがだろうか。

(中村聖司)