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NVIDIAの高品質クラウドゲームサービス「GRID」を詳解
1080p/60fpsのハイエンド映像はホンモノ! 日本は理想的な環境になる?
(2015/3/7 20:51)
先日の記事「NVIDIA、Tegra X1搭載ゲームコンソール『SHIELD』を初披露」でお知らせしたとおり、NVIDIAはTegra X1ベースのAndroidゲームマシン「SHIELD」の発表に合わせ、独自のクラウドゲームサービス「NVIDIA GRID GAME-STREAMING SERVICE(以下『GRID』)」のローンチを表明した。
その後NVIDIAから伝えられた情報によれば、「GRID」は北米・欧州でのサービスを既に開始しており、日本国内でも3月12日から公式にサポートされるという。
ハイエンドPC向けのAAAタイトルを各種SHIELD端末で楽しめるという「GRID」。GDC 2015における複数のNVIDIA提供セッションにて、その技術仕様や、先だって行なわれたβテストからの報告などが行なわれている。また、GDC Expo会場でもGRIDゲームが多数展示されており、実際に触って試す事もできた。それらを総合して、GRIDがどのようなクラウドゲームサービスなのかを本稿で明らかにしよう。
GeForceパワーで1080p/60fps品質を実現するクラウドゲームサービス
「NVIDIA GRID」は、NVIDIAが開発したGeForceベースのクラウドサーバー用マルチGPUハードウェアの名称だ。GPU上で描画したグラフィックスデータをオンボードでハードウェアエンコードし、低負荷・低遅延でクライアントに送出できることがウリとされている。
ハードとしてのGRIDが初めて発表されたのは2012年5月のことなので、ハード自体は新しいものではない。新しいのは、そのハードを使ってNVIDIA自身がデータセンターを構築し、エンドユーザーに直接クラウドゲームサービスを提供するというビジネスの形である。
NVIDIAはクラウドゲームサービスとしてのGRIDについて、ローンチ時で50あまりのゲームを用意するとしており、実際、北米と欧州ではその提供が始まっている。ラインナップはPC用のグラフィックスリッチなアクション、FPS、レース、格闘ゲームなどが中心だ。
リアルタイム性の高いゲームを提供するということで映像の品質、滑らかさや、入力から表示の遅延がどれくらいになるかが気になるところだ。映像について言えば、GRIDでは1080p/60fpsをウリとしており、この点においてOnLiveやG-clusterといった他の既存のクラウドゲームサービスの追随を許さない品質となっている。
技術セッションのひとつでは、安定したフレームレートの実現を支えている要素の1つが、GRIDのハードウェアにビルトインされた「Bandwith Estimator」だと説明されている。これは実際にデータを送出する前に回線の帯域状況を推測する機能で、通信状況により帯域が変動するのに先んじて、データストリームのビットレートを直ちに調整するというものであるようだ。これにより帯域オーバーによるデータロスを避け、フレームレートの安定を図ることができるというコンセプトだ。
というわけで実際、カンファレンスでNVIDIAが行なったデモや、GDC Expo会場のNVIDIAブースで展示されていた各種ゲームデモは常時60fps、グリッチなどが全く見当たらないレベルで非常にスムーズに動作していた。
遅延はゲームの作りにもよる?インフラの整った日本は最高の環境に?
アクションゲームでは特に気になる遅延だが、NVIDIAでは入力から表示までのトータルで150msが目標値となっていることを明らかにしている。贔屓目に見ても、これはかなり保守的な値だ。遅延要素の内訳を示したグラフではネットワーク遅延を30msとしている一方、ゲームエンジン(ゲームループ)の動作による遅延を60msと非常に多く見積もっているのだが、その理由は明らかにされていない。
推測するに、60fps環境で3フレーム~4フレームに相当する数字なので、GPU稼働率を上げるためなどの理由で内部的にトリプルバッファリングを行なっている場合をワーストケースとして想定している可能性はある。それであれば、タイトルの実装によってはエンジン遅延は16msを下限に大きく変動するものなのかもしれないし、VSYNCの刻みとはある程度非同期にクライアントの入力に応答してグラフィックスを描画するようにすればそれ以下にもできそうではある。
とはいえ、150msという目標値は「これ以上遅延が大きくなってはいけない」という意味の値のようだ。少なくとも公式にサポートされる通信環境では、150ms以下の遅延で遊べる環境も珍しくないものになるはず。実際、ブースでいくつかのゲームを試したところ、体感では50~100ms程度の遅延に感じられた。
例えて言えば、ゲーム機の映像をキャプチャボードを通じてPCモニターに表示してプレイしているような程度の遅延感である。仮に映像が30fpsで表示されたとすれば、ほぼノーラグに近い感覚が得られたかもしれない。遅延の絶対値そのものは割りと低いが、フレームレートが常時60fpsと高いので、その背後にある遅れが掴みやすくなっているという印象だ。
もちろん、GIRDのサービスを理想的な環境で受けるためには、ユーザーのできるだけ近くに(ネットワーク的な近くに)GRIDのデータセンターが設置されている必要がある。NVIDIAは全世界各地に配置されたAWS(Amazon Web Services)と提携して各地にGRIDサーバーを設置しており、サービス範囲の拡大に力を入れている。その点で言うと、日本のユーザーはおそらく世界で1番恵まれている。何しろ東京にサーバーがあるのだ。
国土が狭い上に、極太のファイバー網が全国に張り巡らされ、NTTグループの「フレッツ光」を始めとする各種FTTHサービスの普及度も高い日本ならば、GRIDが主要マーケットとして想定しているであろう北米・欧州以上に優れた環境になることは間違いない。想像ばかりしていてもしかたがないので、これについては近いうちに実際のインプレッションもお届けしたいと考えている。
ユーザーにとっては“クラウド越しの高性能ゲームマシン”
その日本では、昨年10月に設立が発表された新たなクラウドゲーム企業、シンラ・テクノロジー・インクが独自サービスのテクニカルβテストを実施中である。当然、クラウドゲームサービスとして最初は比較の対象になるだろうが、その哲学には大きな違いがある。
NVIDIAによる技術セッションではGRID上でゲームを動作させるためのフレームワーク「GRID Link SDK」についての紹介も行なわれていたが、その構成を見る限り、少なくとも現在のところは、GRIDでは既存タイプのゲームをクラウド上で動かすことだけを考えている。シンラ・システムのように、サーバー全体をひとつの巨大なゲーム用スーパーコンピューターとして使うといった形は想定していないようである。
いわば、GRIDはクラウド越しにレンタルできる高性能ゲームマシン。既に家の中に高性能ゲームマシンがあるなら、そちらで遊んだほうが良い。哲学としては既存のクラウドゲームサービスの延長線上にある存在だ。
とはいえ確実に言えるのは、過去のクラウドゲームサービスに比して、グラフィックスとストリーミングの品質においてかつて無いレベルの高さを実現しているということだ。これはぜひ、日本でのサービスが開始されたらすぐに触ってみたいと思う。
最後に。サービスの品質については信頼しているが、ひとつ気がかりなのは、現在までに明らかになっているタイトルラインナップがあまりにも欧米寄りのチョイスになっていることだ。えらくハードコアというか、汗臭いゲームばかりである。日本には全く別のコンテンツ消費文化があるので、もっと毛色の違う国産タイトルの投入にも期待したい。
そういった点でのしっかりとした“サービスのローカライズ”は、現地法人であるエヌビディアジャパンにとって、GRIDを成功させるための重要なタスクになるのではないかと考えている。