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日本が世界最大のモバイルゲーム市場に! 北米から見たアジア市場
「Opportunities Asia: Insights and Strategies for Western Mobile Developers」
(2015/3/3 16:15)
GDC初日は、同じテーマを1日あるいは2日間掛けて掘り下げるチュートリアルやサミットと呼ばれる長時間セッションが行なわれる。かつてこの2日間は、ゲーム開発において極めてコアな内容を取り扱うことから、あまり開発者に好まれず、基調講演や通常セッション、GDC Expoがスタートする3日目からが“本番”と言われたものだ。
しかし近年では、スマートフォンゲームの興隆や、Free to Playを始めとした新たなビジネスモデルの模索、UnityやOculusといった新興勢力の台頭といった新たな潮流を取り扱う内容が増えたため、初日と2日目も、3日目以降と同等か、勝るとも劣らない人気ぶりとなっている。本稿では人気サミットのひとつ「Smartphone & Tablet Games Summit」より、アジア市場をテーマにしたセッション「Opportunities Asia: Insights and Strategies for Western Mobile Developers」の模様をお届けしたい。
セッションスピーカーを務めたのは、元Electronic Artsのカジュアルゲーム部門Pogo.comや、FacebookやiOS/Android向けのゲーム開発を行なう6waveでプロダクトマネジメントを担当した経歴を持つJosh Burns氏。現在は独立し、欧米のゲームデベロッパーやパブリッシャーに対して、アジアを繋ぐ仕事を行なっているという。
この手のアジアセッションは、「そんなやり方だと10年経っても無理だよ」といういい加減なものから、成功体験を軸に各種データを示しながら説得力のある話を展開するものまでまさに玉石混淆だが、Burns氏は様々なアジアのマーケットデータを拾い集めながら、マーケット毎の展開戦略を練っていくアナリストタイプの内容だった。
Burns氏は「グローバルとは何か?」から語り始めた。多くのアメリカ人にとってのグローバルとは、実は西欧、せいぜいオーストラリアまでのことであり、アジアは含まれていない。しかし、実はアジア市場は、欧米市場を合算した数字より、遙かに大きなマーケットがすでにできており、これを見逃すべきではないという。
今回Burns氏が示した数字は2014年の見込みの数字で、若干のブレがあること踏まえておく必要があるが、北米59億ドル(約7,000億円)、西欧37億ドル(約4,400億円)に対して、アジアは135億ドル(約1兆6,200億円)。このうち、トップ3を占めるのが日本、韓国、そして中国だという。Burns氏は、この3つのキーマーケットについて細かく解説を加えていった。
まず日本は、日本単体で60億ドル(約7,200億円)の市場規模を擁し、北米をしのいで世界最大のモバイルマーケットになっている。そして2016年の期待値は81億ドル(9700億円)。これからまだ30%以上もの成功を見込んでいる。モバイルマーケットとビデオゲームマーケットは現在半々ぐらいのシェアで、国内メーカーがほとんどのシェアを確保している。スマートフォンについてはiPhoneの利用率が、iPhone単体で過半数を占める世界でもあまり類を見ないiPhone王国となっている。
とりわけユニークなデータだったのは、iTuneとGoogle Playそれぞれの北米と比較したデータ。iTuneに関しては北米が世界1位、日本が2位なのに対し、Google Playではそれが逆転する。しかも、ダブルスコアの勢いで日本が上回り、その数字は実はiTune市場を上回る。つまり、数字の上では、日本のAndroidユーザーは、世界で突出してお金を使っているというわけだ。
Burns氏は日本市場の特色として、KDDIのSmart Passに代表されるサブスクリプションサービスの存在に着目。このサブスクリプションフィーは利用率に応じて、デベロッパーに還元されるため、これが市場サイズの拡大、客単価の向上に結びついていると分析している。
プラットフォームとしてはLINEに着目。2011年にサービスが開始され、累計登録者数は5億6,000万人に達する。日本のほか、台湾やタイでもサービスを行ない、アクティブユーザーは9,100万人以上。米国にも250万人の登録者がいて、インドネシアやフィリピン、コロンビア、メキシコも視野に入れている。
ゲーム関連の数字では、ゲームの数は、2013年の50から、2014年は30から40程度に減ったものの、売上は3億3,800万ドル(約405億円)から、2014年は6億5,600万円(約787億円)に増大。この数字は、ゲームパブリッシャーのランキングとしては世界4位に相当するようだ。日本でのシェアはだいたい1割強を占める。
続いて韓国は、人口の8割がスマートフォンを持つ、スマホ大国。そのうち93%がAndroidというAndroid大国。ただし、2014年のスマートフォンのセールス割合はiPhoneが3割まで伸びており、Androidの割合は縮小傾向にあるようだ。
モバイルゲームの市場規模は16億ドル(約1,920億円)とアジアでは3番手の規模となるが、Androidマーケットは日本、アメリカに次ぐ3位で、巨大なAndroidマーケットが形成されている。ちなみにiTuneマーケットは10位以下で極めて小さい。この極端さは韓国ならではだ。
韓国のトッププラットフォームはKakao。2012年に誕生したゲームプラットフォームで、アクティブユーザーは2,000万人を超える。ランキングのトップはKakaoタイトルが独占しており、Kakaoに置かれるかどうかで集客数や寿命に決定的な差が出る。市場の占有率は、2014年でiTuneが60%、Google Playで75%占めていたが、2015年はそれぞれ55%、70%に減退する見込み。それでも凄まじい市場占有率だ。
最後の中国は、スマートフォンのユーザー数が2014年の時点で5億2,000万人に達し、2018年の予測では7億人まで伸びるなど、利用者数の多さが特徴的な市場となる。82%がAndroidユーザーであり、海外と比較して厳しい従量課金を敷くキャリアが多いため、月あたりのデータ利用量が200MB(世界平均800MB)と少ないことも特徴となる。市場規模は42億5,000万ドル(約5,100億円)と日本を猛追している。
中国市場の特徴は、Google Playが存在しないところだ。このため市場規模もゼロとなる。iTuneは正規市場が存在するものの、Tencentの独占状態にある。ただし、こうした状態でありながら、iTuneマーケットは世界で3位という凄まじいポテンシャルを秘めている。
紹介されたプラットフォームは、TencentのWeChat。こちらはあまり信頼できる情報がないためかあまり数字は示されなかったが、市場シェアは現在の20%強から2015年には50%にまで拡大すると推測している。
そしてBurns氏は、中国ならではのサードパーティーによるAndroidエコシステムについて紹介を行なった。中国独自の独自プラットフォームについては、「中国モバイルゲーム最新事情」で詳しく紹介しているのでここでは繰り返さないが、正規のGoogle Playが中国政府より閉め出されているため、Androidアプリの受け皿としてサードパーティー製の独自プラットフォームが幅を利かせている。
Burns氏によれば、それら独自プラットフォームは100以上存在し、市場全体を占める割合は7割から8割にも達する。各プラットフォーマーは、ユーザー数やサーチしやすさ、セキュリティなどで差別化した上でビジネスを行なっている。
Burns氏はまとめとして、ゲームのポテンシャルを活かすために、アジア展開ではローカライズを進めた。Burns氏はローカライズの段階を、App Storeのページのローカライズのレベルから、ローカルマーケットに即したカルチャライズを行なったカスタムバージョンのリリースまで8段階にわけ、これをすべて自社単独で行おうとすると非常に大変となるため、現地パートナーとのパートナーシップの締結を勧めた。
この辺りは、その繋ぎ込みをビジネスとするBurns氏のビジネストークが半分入っているが、実際、どの国でも現地パートナーがランキング上位をほぼ独占しており、発言に誇張はない。アプローチとしては、まず、自社のタイトルのアジア市場でのポテンシャルをリサーチし、次の段階として現地市場に足を運び、現地パートナーとコミュニケーションを取りながら、現地展開を模索していくやり方を勧めていた。
Burns氏のセッションを聞いていて、日本や中国などアジア市場がいかに“黄金の国”かというのがわかって非常に興味深かった。日本ではコンソールゲームはともかく、PCゲームは市場規模が小さかったため、ローカライズはおろか、発売そのものが見送られるということが少なくなかったが、モバイルゲームでは全世界が熱視線を送るホットな市場となっているのは素直に嬉しい話だ。今後も日本のモバイルゲーム市場は、海外からやってきた大型タイトルを交え、熱い市場になることは間違いなさそうだ。