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【特別企画】GDC Awardsノミネート記念、“尖った”インディーズゲームの数々を紹介

“ゲーム開発者の意図”に逆らうゲーム。矛盾した問いを投げかける「The Stanley Parable」

“ゲーム開発者の意図”に逆らうゲーム。矛盾した問いを投げかける「The Stanley Parable」

「Stanley」が神の声に抵抗するゲーム

 最後に紹介するのは「IGF Awards」で観客賞を受賞した「The Stanley Parable」。ここまでに紹介したタイトルとは違った、ゲームらしくないゲーム。1番近いジャンルはアドベンチャーだろうか。

 “指示されたキーを、指定された時間だけ押す”という仕事に従事している「Stanley」という男性が主人公。普通の感覚からすれば苦痛にしか思えない仕事だが、彼はその仕事に幸せを感じていた。だがある時突然何の指示も出なくなった。「Stanley」がオフィスの自室から出ると同僚たちも居なくなっている……というストーリーだ。

 ゲームは1人称視点でWASDキーで自由に動ける。ストーリーは基本的にナレーションベースで「彼は上司の部屋に向かった」、「2つあるドアのうち『Stanley』は左を選んだ」といった具合に進んでいく。

 だがプレーヤーはその指示に従っても従わなくても良い。従わなかった場合もナレーションはそれにあわせて進んでいく。例えば先ほどのドアの例でプレーヤーが右を選ぶと、「そうだ、彼は上司のオフィスではなく休憩室に行く。そうして休憩室を出た後左のドアに入る」となる。

 だがそれでも歯向かい続けると「私は敵ではない、どうしても歯向かうのか」とプレーヤーに向けてのメッセージを送ってきたり、シーンを巻き戻して無理矢理ナレーション通りに動くように誘導してきたりする。

 それでもプレーヤーがナレーションに歯向かい続けると、最初は冷静なナレーターも、「君が私の誘導に従わないから、まだテクスチャも貼っていない作りかけの場所に来てしまったじゃないか」と怒り出す始末だ。

 こうしてどのような選択を取るかでナレーション、ゲームの流れ、そしてエンディングが変化する……というゲームだ。

 例えばベタなRPGで「こうして勇者は魔王を倒す旅に出た」というナレーションがあったとする。基本的にはその指示に歯向かうことはできず、道中はともあれ、プレーヤーは“ナレーション”="開発者の意図”通りに魔王を倒しに行くしかない。

 だがもしこの開発者の意図に従わなかったらどうなるだろう。きっとこうなるんじゃないか――という想像を表現したかったのが本作の意図だと筆者は考える。

 こう書くと「『The Elder Scrolls』シリーズの様なゲームでは、開発者の意図を無視して泥棒稼業に明け暮れることもできるじゃないか」と思われる読者もいるだろう。だがそれすらも“ゲーム開発者が意図した行動”の範疇から出ていない。

 “ゲーム開発者の意図”に逆らったらどうなるかに対する答えを表現した作品だが、この作品の中でできるありとあらゆる反逆も「Stanley Parable」の開発者の意図の中にある(もっともバグを除いてだが)というループ構造になっている。

 自由な様で自由じゃないゲーム、という不思議な感覚に陥ったゲームだった。全編英語で文章量も多く日本人にとっては敷居が高いが、ナレーションのうろたえ具合だったり、逆ギレ具合が面白いので、気になったプレーヤーはプレイしてみて欲しい。なお価格は14.99ドル(約1,531円)となっている。

【スクリーンショット】
ナレーターは「『Stanley』は赤のドアを選んだ」と話すが、無視して青のドアを選ぶと何度もシーンをやり直させられ、最終的に目の前には赤のドアしかなくなる
こちらはナレーターの逆切れの末に、どこかで見たことのあるようなゲームの世界に飛ばされた状態

(八橋亜機)