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【GTMF2013】Unity大前氏が語る「これからのゲーム開発に投資すべき3つのこと」

トレンドはコアゲーム? VR?……もうひとつの“次世代”に向けた新たなチャレンジ

7月23日開催

会場:秋葉原UDX

受講料:無料

ユニティ・テクノロジーズ・ジャパンの大前広樹氏

 7月23日、秋葉原にて行なわれたミドルウェアカンファレンス「Game Tools & Middleware Forum 2013」では各プラットフォーマーやゲームエンジン企業による様々な講演が行なわれた中で、ユニティ・テクノロジーズ・ジャパンの大前広樹氏は、一風変わった視点での講演を行なっている。

 「Unity 4.2 アップデート & これからのゲーム開発に投資すべき3つのこと」と題するこのセッションでは、インディーズ開発者を中心に強い支持を受けるゲームエンジン「Unity」の最新アップデート情報を枕に、今後ゲーム開発者に求められる新たな3つの視点について大前氏の考えが披露された。

OpenGL ES 3.0もサポートしハイエンドモバイルゲーム開発も視野に

OpenGL ES 3.0に対応
「Unity 4.2」の全対応プラットフォーム
パーティクルの衝突イベント制御にも対応した

 まずは7月22日に公開されたばかりの「Unity 4.2」についての報告だ。DirectX 11への対応などハイエンドゲーム開発も視野に入れつつある「Unity 4」だが、このたび公開された「Unity 4.2」ではその幅をモバイルゲーム開発にも広げていく。

 その点で大きなトピックとなるのは、モバイルプラットフォーム向けの最新グラフィックスAPIであるOpenGL ES 3.0のサポートだ。これにより今世代の据え置きゲーム機(PS3、Xbox 360といったDirectX 9.x世代水準)に匹敵する映像表現を実装することが可能となる。

 Samusung Galaxy S 4「GT-I9506」などハードウェア面でOpenGL ES 3.0をサポートする端末はちらほら出始めているが、メジャーなゲームエンジンによるサポートはこれが始めて。これを受けてハイエンドのモバイルゲーム開発が今後スムーズに進められることになりそうだ。今年末から来年にかけて、またひとつ高水準なゲームの登場が期待される。

 これを軸に「Unity 4.2」ではグラフィックス機能が様々に強化されており、例えばiOS/Androidでデファードライティングをサポートするなど据え置き機水準のグラフィックス機能実装をを支援。

 新規対応プラットフォームとしてBlackBerry 10、Windows Phone 8、Windows Store Appsをサポートすることもトピックのひとつだ。これにて「Unity」は、PC、ゲーム機、モバイル、ブラウザを含め20以上のプラットフォーム対応を果たしたこととなり、大前氏の言に頼るなら「『Unity』がいかに真剣にマルチプラットフォーム対応を考えているか」が証明される格好となる。

 チーム開発者にとっては、メジャーなバージョン管理システム“Perforce”への対応が嬉しい。Perforceの無料版でも利用可能とのことだ。また、これから「Unity」に挑戦する人には無料版の機能強化が大きなニュース。リアルタイムシャドウ機能、NavMeshのベイク機能などこれまで無料版では制限されていた機能が解禁され、より見栄えのする、本格的なゲームを開発することができそうだ。

パーティクル衝突判定の例。水流のパーティクルが火に接触すると火が消えるという動作を、パーティクルのコリジョンイベントのシンプルなハンドラ実装で表現できる
Perfoce対応、アセット追跡機能の強化など、地味ながら重要な改善点が併せて350点以上も「Unity 4.2」に実装されているとのこと

“リソース2割の投資先”。「Oculus RIFT」祭りと化したブース出展と併せて語る

開発者の活動サイクルの中で2割を将来の為に使う、ではなにをするか?

 さてここからが本題だ。大前氏が今回のテーマとして持ちだしたのは、ゲーム開発者として活動する全労力のうち、将来のために割く2割の部分をどう使い、どのように自己の方向性を決定していくべきかという話題だ。

 まずそのひとつめは「ゲームの作り方」。時代背景として考えなければならないことは、最近の傾向として明らかだ。莫大なコストと何百人・何万時間もの人的リソースを投入して超大作を作る、いわゆるAAAゲームスタジオは激しく減少傾向にある。

 今ではせいぜい20〜30人程度の中小規模の開発スタジオやインディーズ開発者が明らかにメインストリームを構成するようになってきているとのことだが、その一方で、ゲーム開発環境はどんどんリッチになり、求められる製品のクオリティも高まり続けている。

 リッチなゲームを開発する上で障害となるのは、ステージデータを構成する膨大なアセットをどのように調達するかだ。この解決法は最近の個性的な事例を含めて3つある。かいつまむと「プロシージャル」、「アセットストア」、「コミュニティ開発」ということだ。

・プロシージャル

 従来、ゲームステージなどのデータはDCCツール上で作成した静的なデータを配置していくスタイルが主流だったが、そこにプロシージャル手法を取り入れてみる。例えば道路、街路樹、周辺の植物といった地形要素を、それを生成するための手続きに置き換える。それにより、少ない労力で柔軟にステージをデザインしていくことが可能となる。そのためのテクノロジーやアプリケーションも存在している。

プロシージャルなデータは柔軟に成果物の形を調整できる。テクスチャの生成には「Unity」組み込みのプロシージャルテクスチャシステム「Substance」や、AssetStoreから組み込めるツール「Bitmap2Material」などすぐに使えるテクノロジーが存在

・アセットストア
 足りないアセットは、「Unity」のビルトインマーケットである「Unity Asset Store」で買ってくれば良い。どこかの誰かが作ったものは自分のゲームのイメージに100%合うことは少ないが、そこまで魂を込めなければいけない部分というのは意外と少ない。

・コミュニティ開発
 自分たちだけの手に負えないボリュームは、みんなに作らせよう、というアイディアだ。「WASTELAND 2」というゲームの開発事例では、Asset Storeを通じて、その作品のためのアートワーク作成のためのキットを配信した。これを使えば作品で必要なアセットの項目、またその作り方がわかる。

 これをネット上の大勢の人が面白がって、あるいは小遣い稼ぎのため、あるいは純粋な貢献のつもりで膨大なアセットを制作してAsset Store上にフィードバックするという現象が実際に起きたのだという。これにて「WASTELAND 2」の開発者たちは、自分たちの労力をほとんど使うことなく、非常に安価に膨大な必要アセットを調達できたというわけだ。誰も損することなく、非常にうまい方法である。

「WASTELAND 2」というインディーズゲームの開発では、アート作成のためのキットをAsset Storeで公開したところコミュニティの色々な人達が色々な動機でアートアセットを作成、AssetStoreに大量のアセットが登録された。「WASTELAND 2」の開発者たちはよりどりみどりでこれらのアセットを利用できることに
ゲーム成功の条件

 さて、将来のための投資の2つ目は「新しいハイエンド世代のための本流でない研究」。大前氏に言わせれば、ゲームとは体験なので、質的に新しいゲーム体験を与えられるものこそが次世代なのである。そして、新しいものであるからには、今の時点では本流ではないものに目を向けなければならない。

 そこで大前氏が例として挙げたのは、米Oculus VRが現在開発中のVRヘッドセット「Oculus RIFT」だ。本誌でも度々ご紹介している本デバイスだが、「Unity」のスタッフも大注目中ということで、「Unity」ブースは「Oculus RIFT」体験ゾーンと化していた。

 大前氏もいろいろと試したということで、明確に新しい体験があると感じているという。新しいものだけに使いこなしも難しく、例えば、VRヘッドセットならではの世界の見せ方、効果的な演出の方法、入力装置のあり方など、従来とはまた違う、適切な手法を研究していく必要があるとも指摘している。

「Oculus RIFT」。かつてない没入感のあるVRゲーム体験を与えてくれる。これに合わせて入力デバイスの刷新にもニーズがあるが、例としてKINECTや「Razer Hydra」の活用に見込みがありそうな感触だという
コアゲームを作りたがる開発者
ゲームの主役たちがPCだった「ニコニコ超会議2」

 投資の3つ目は「デリバティブ(派生)としてのプラットフォーム対応」。「Unity」のようなゲームエンジンのおかげで色々なプラットフォームに向けて開発することが容易になったことだし、いつもとは違うプラットフォームで、実験的にでも異なるオーディエンスの反応を確かめてみようよ、ということのようだ。

 その背景には、いまライトな内容のソーシャルゲームがやたらととりあげられている中で、実は、なにか違う傾向が見えてきている、ということがある。

 例えばGDC 2013でゲーム開発者によって高く評価された数々のタイトルが明らかにゲームプレイそのものの質を誇るコアゲーム寄りの作品ばかりであったこと、あるいは4月に開催された「ニコニコ超会議2」に東京ゲームショウ2012より1万人多い人が集まり、そこで人気を集めたゲームが「東方プロジェクト」、「Minecraft」、「Ib」と、全てPCゲームであったことなどだ。

 これを確かめるために、じゃあコアなPCゲームを作ろう、というのは従来ならあまりにもリスキーな試みだったが、「Unity」のようなゲームエンジンを手にしつつ、すでに自分たちのメインプラットフォームで開発されたゲームやノウハウがあるなら、そこまで無理な話でもない。

 例えば必要な3DデータはAsset Storeで適当に調達しつつ、Oculus VRなどを使って奇妙なゲームを作り、ニコニコ動画のゲーム実況文化の渦中に投入してみる、という実験は、あるいはゲーム開発者にとって巨大な成功を導くきっかけになるかもしれない。そういったフットワークの軽いゲーム開発が、新しいゲーム体験の地平を広げていくならゲームユーザーとしても大いに歓迎・注目していきたいものだ。

マルチプラットフォーム開発の能力を生かして、現在のメインストリームに固執せず、異なるプラットフォーム・市場カテゴリー・オーディエンスに実験的な展開を試してみては、という提案だ

【「Unity」ブースの出展内容】
「Oculus RIFT」体験コーナーと化していた「Unity」ブース
IllusionによるRIFT対応デモアプリ「Yunalus」や、モーションコントローラーの開発企業sixenseによる実証アプリ「Tuscany VR Demo」でUnity+VRを体験
筆者もそれぞれのアプリを試してみた。「Tuscany VR Demo」は、Razer Hydraを使ったインタラクションで物を拾ったり投げたりという体感アクションに、自然な視野感が連動。操作はどうしても不器用になってしまうが没入感がものすごい。「Yunalus」は没入中の様子を周りから見るととても残念な感じになってしまうので、できればお家でひとりこっそりと試したい

(佐藤カフジ)