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【OGC 2013】gumi國光氏「アジアを制したものが世界を制する!」

「大予想!2013年モバイルゲーム業界はこうなる!」

3月15日開催

会場:ベルサール神田

 「モバイル(ソーシャル)ゲームは今後どうなるのか?」。ソーシャルゲーム業界界隈でよく語られる話題のひとつだろう。ここ数年、倍々ゲームで爆発的に成長したソーシャルゲーム業界だが、2012年に入って軒並み成長が鈍化し、成長期を過ぎ、成熟期に入ったとも言われる。果たしてこのまま少しずつしぼんでいくのか、それとも……?

 OGC2013では、この難題に、業界を代表する論客であるgumi代表取締役社長國光宏尚氏が挑んだ。タイトルは「大予想!2013年モバイルゲーム業界はこうなる!」。いかにも國光氏らしい“ふっかけ方”だと思ったら、実際には2013年どころか、10年先、20年先を見据えた大胆な内容で、國光氏独特の柔らかい語り口で多くの日本の関係者を勇気づける話が展開された。

早くも鈍化傾向の欧米ソーシャルゲーム市場。活路はアジア市場にあり!

gumi代表取締役社長國光宏尚氏
急成長が続く日本のソーシャルゲーム市場
衝撃的なスライド。北米の成長は、日本を下回る!
國光氏の目はアジアに注がれている

 國光氏のセッションは、自社の紹介に始まり、自社の紹介に終わる。最後に「我々と一緒に世界を獲りませんか?」と来場者に語りかけるという、広義でのリクルーティングになっている。にもかかわらず、毎度千客万来なのは、話が底抜けにおもしろいからだ。「打倒Zynga!」、「世界を獲る!」とキャッチーでわかりやすいキーワードで巧みに誘い込み、「クールジャパンは絶対失敗する」、「官僚はまったくわかってない」となかなか言えないセリフを言い切り、聞き手を飽きさせない。希代の論客である。

 國光氏が今回力説したのは、アジア市場の重要性と、ステージ毎の戦略転換、成熟期に向けての備えをすべきという3点だ。特段、新しい話はなかったが、やはり國光氏は視点がユニークだ。

 まず、アジア市場の重要性について、まず國光氏は日本のソーシャルゲーム市場から語り始めた。三菱UFJモルガン・スタンレー証券の市場規模見込みによれば、2013年度のソーシャルゲーム市場規模は5,766億円。これは3,000億円規模で足踏みを続ける家庭用ゲーム市場の倍に相当する。ゲームに次ぐエンターテインメント市場である映画が60年掛けて1,800億円市場なのに対し、ソーシャルゲームはわずか5年足らずで、5,766億円という途方もない成長が見込まれている。

 また、昨年、gumiを含め、多くのメーカーが力を注いだ海外展開についても、「本当に通用するのか?」という疑問に対してMobageの「神撃のバハムート」が成功したことで國光氏は「日本のカードバトルが意外に通用するよなというのが昨年夏頃に見えてきた」と語ったが、「それ以降は失速感がある」と、率直に成長の鈍化を報告した。

 その上で國光氏が次に提示したスライドは衝撃的なものだった。「北米のソーシャルゲーム市場は2015年までに55億ドルまで成長する(Transparency Market Research)」。つまり、日本の数倍の市場があると見込まれていた北米市場は、日本の成長規模に追いつかないどころか下回るというのだ。

 翻ってアジア全体では、なんとすでに188億ドルもの市場規模があるという。中でももっとも市場規模が大きいのが日本で、次点として、韓国が日本を追い抜く勢いで猛追してきており、この2カ国だけで“世界”の売上シェア50%を占めている。Google Playの売上でも、2012年、北米の売上を日本が抜いており、このトレンドは今後も続くと予測されている。國光氏によれば台湾、中国も大きな潜在需要が眠っているという。

 なぜここまで、アジアが伸び、欧米が停滞しているのか? 國光氏は、生活習慣の違いだという。具体的には、日本はフィーチャーフォンの時代からF2P(Free to Play)のビジネスモデルに慣れ、他のアジア圏でもアイテム課金制のオンラインゲームのおかげで、何の違和感もなくスマートフォンタイトルをプレイしているのに対し、欧米はいまでもパッケージビジネス、月額制のビジネスが基本であり、アイテム課金制のビジネスモデルになれていないからだという。

 國光氏はF2Pはアジアが先進であり、モバイルオンラインゲームは、「アジアを制したものが世界を制する」と言い切り、日本、中国、台湾、韓国の4地域が世界の主導的な立場を担うのではないかという。

【日本のソーシャルゲーム市場】
エンタメ産業と比較してもいかにソーシャルゲーム産業の成長率が突出しているかがわかる

【アジアのソーシャルゲーム市場】
華々しい数字が並ぶアジアのソーシャルゲーム市場。いつのまにか欧米を遙かに上回る成長率になっているというのがおもしろい

ソーシャルゲームの成長カーブ。「パズドラ」から始まった日本のネイティブソーシャルは2014年8月に成熟期へ!?

國光氏のユニークな“成長期2.5年論”
各ステージによって採るべき戦略が異なる

 続いて國光氏は、ステージに合った戦略の重要性について話を進めた。國光氏によれば、あらゆる産業には、導入期、成長期、成熟期の3つのステージがあり、導入期から成長期へは何かのきっかけで一気に立ち上がり、成長期から成熟期はだいだいどの産業でも「2年半」という、“成長期2.5年論”を展開。

 國光氏はこの持論をグラフに当てはめ、Facebook上のソーシャルゲームは、2009年6月にスタートした「FarmVille」を持って成長期とし、2011年12月には成熟期に入ったとする。日本のWebソーシャルゲームは、2010年9月の「ドラゴンコレクション」を持って成長期とし、2013年3月で成熟期とする。つまり今である。

 そして、現在の主流である日本のネイティブソーシャルゲームは、2012年2月の「パズル&ドラゴンズ」を持って成長期とし、その終わりは2014年8月とする。つまり残り1年半しか成長期は残っていないというわけだ。

 國光氏は、この2.5年周期そのものにはあまりこだわらず、重要なのはステージ毎に、求められるコンテンツ、受けるコンテンツが異なるため、違った戦略を採る必要があるというところだ。

 たとえば導入期は、競争が激しくなく、強い会社もいない。「サンシャイン牧場」のような最低限のクオリティを備えているコンテンツならだいたい流行る。「日本でも“サンボク”が流行ったが、これは中国のメーカーが開発したタイトルで、デザインにしても翻訳にしてもヘンだった。だけど日本で流行した理由は、中国のオープン化が日本より半年早かったから」と國光氏は明快に解説した。

 成長期は、多くのメーカーが参入し、競争が厳しくなる。このステージでは、しっかりとしたローカライズ、カルチャライズを行なわないと苦しい。「僕らもバカじゃないので、サンボクの良いところ悪いところを研究した結果、中国だけでなく、Zyngaも日本市場から一掃された。これが成長期」とさりげなくZyngaを切って捨て、返す刀でMobageの「神撃のバハムート」についても、「“ガワネイティブ”で色々きつい、アメリカに最適化されているわけじゃない。要するにアメリカのサンボクみたいなもの」と暗に、北米が成長期に入ってくれば淘汰される程度のコンテンツであることをほのめかした。國光氏に掛かれば、Zyngaはおろか、「神撃のバハムート」ですらズタズタにされてしまう。

 さらに國光氏は、「ローカライズ/カルチャライズは必要なのか?」と問いかけ、その答えとして「したほうがいいに決まっているが、経済合理性を考える必要がある」と語り、「しないと勝てない国もあるが絶対じゃないし、だから流行るわけでもない」とケースバイケースだとした。

 それでは“しないと勝てない国とはどこか?”。國光氏は、アメリカ、日本、韓国、中国、ヨーロッパ、ロシアとし、「これはもうずっと変わらない。このエリアではちゃんとしないと勝てない」と言い切り、だからgumiもそれら地域に子会社を作り、成長期に勝ち抜くためのチーム作りを行なっていることを力説した。

【ローカライズ/カルチャライズは必要か?】
世界地図で色塗りされているエリアが、ローカライズ/カルチャライズが必要とされるエリア。gumiはこの基本方針に則り、子会社でローカライズ/カルチャライズを行なっているだけでなく、現地独自のコンテンツの開発も進められている

二極化する成熟期。高騰する制作費に対して採るべき戦略とは?

成熟期は二極化する
採るべき戦略は2つ!
地域における人件費の違い。やはり北米は突出して高い
gumiが海外に発注したイラスト。クオリティは決して低くない

 成熟期は、國光氏の以前からの持論である「二極化」のフェイズになる。すなわち、「Call of Duty」のような「グローバルメガヒット作品」と、「アイドルマスター」のような普遍性は低いものの特定の地域で受ける「ローカル作品」となる。國光氏によれば、映画でもテレビでも起こっている現象で、「ゲームでも確実に起こりうる未来」だという。

 導入期、成長期と、成熟期の大きな違いは、制作費に対する考え方だという。前2期は「えいやっ」でいいところがあるが、成熟期に入ると、収益見込みに対して制作費を決めるという形になるため、この点で日本は欧米と比較して大きく負けているという。

 國光氏は具体的な例として、現在日本政府が進めている「クールジャパン」プロジェクトに対して言及した。國光氏によれば、「クールジャパンは100%こける、官僚はまったくわかってない。日本はいいものを作ったら売れると勘違いしてるがそうではない」と語気を強め、日本は作ってから売ることを考え始めるが、北米は作る前から売る環境を整えているという。ここの考え方を改めない限り、日本は世界で勝てないというわけだ。

 國光氏は例として、映画の全世界同時公開を挙げて説明した。「全世界同時公開は結構凄いこと。日本だけで同時公開しても、別々のオーナーがいて、休みも違っていて、それを全部揃えるのは大変。日本だけでも大変なのに、全世界で実現するのは凄い」と語り、日本はこうした点でスタート時点から勝負になっていないという。

 ソーシャルゲームも同じで、作ってから売ることを考えるのではなく、作る前から売れる体制を整えておくことが大事だという。自社のユーザーベースの上に、マーケティング、PR、タイアップを国別にしっかりとできる体制作りができるかどうか。それができれば、制作費の見込みが立つため、大作を作ることができるという。

 この2極化に合わせて、制作費も高騰していくが、そこでやるべきことは2つだという。
1つはトップラインを上げること。もう1つはボトムラインを下げること。トップラインとは、ビジネスの領域を広げることを意味し、具体的には出すプラットフォームを増やしたり、海外での展開先を増やすなどして、全体でしっかり稼げる体制を作ることが重要だとした。

 國光氏は、フィンランド大手のSAPであるSupercellを例に挙げ、北米の売上はわずか35%で、英国、オーストリア、その他の地域が残り65%を占め、全世界で稼げる状態が構築されているという。翻って、日本で単体で月1億円は難しい時代になりつつあるが、500万円×20カ国で1億円は十分可能であり、「グローバルで薄く広く稼げる体制を作って行くことが大事」と説明した。

 ボトムラインとは、制作費の効率化を意味する。國光氏は米Appleやサムスンなどを例にして、「グローバル企業は最適化がしっかりとできているのに対し、日本企業は日本だけでやろうとする」と苦言を呈し、外注先にアジア諸国などを加えながら、グローバルで最適化を図ることが大事だとした。

 國光氏は、日本を100とした場合の、海外の給与ベースを公開した。北米180、フランス100に対して、韓国、シンガポールは60、上海50、台湾40、インドネシア20となる。しかし、当然のことながら、アウトプットはこの比率と比例するわけではなく、むしろ海外でも良い仕事ができる人は多いという。

 國光氏によれば、ソーシャルカードゲームで使用するカードのイラストは、かつては1枚数万円で済んでいたが、今は20~30万円と値段が10倍近くまで跳ね上がっているということで、現在は制作費を抑えるために8~9割を海外で描いて貰っているという。

 國光氏はまとめとして、スマートフォン/タブレット向けのモバイルゲーム市場は、日本も含め、アジア中心にまだまだ伸びることが期待でき、日本は制作の面で経験の蓄積、人材の蓄積があるため、有利な立ち位置にいるという。

 今後日本で求められる人材像としては、魅力的なイラストのアイデアが出せる人や、オリジナルのゲームコンセプトを考えられる人など、第三国に外注することができないことをできる人だという。國光氏はそういう人材は「グローバルの最適化の中で、給与は確実に1億は超えてくるのではないか」と言い切り、聴講者を驚かせた。

 最後に國光氏は、「成長スピードが落ちているのでみんな暗くなってるところがあるが、モバイルゲーム市場は、日本でもまだまだのびるし、アジアではめちゃめちゃのびる! 競争力では日本は有利なところにいる。気合いを入れて攻めていけば勝ちきれるのではないかと思う。これからの成長にご期待を」とあくまで強気の姿勢を崩さず講演を終えた。國光氏の未来予測は当たるのか、gumiの未来はどうなるのか。國光氏ともども目が離せないところだ。

(中村聖司)