海洋堂、カプセルトイ「カプセルQミュージアム」発表会を開催
“チョコエッグ”のミニフィギュアが復活! 2013年1月より毎月リリース
海洋堂は11月20日、東京お台場の東京カルチャーカルチャーにて、カプセルトイ「カプセルQミュージアム」の発表会を行なった。「カプセルQミュージアム」は全国のコンビニエンスストアやスーパーマーケットなどに設置されるカプセル型自動販売機で2013年1月20日より展開を予定しているミニフィギュアシリーズ。価格は300~400円で、毎月20日に新商品の投入を予定している。
「カプセルQミュージアム」第1弾は「日本の動物コレクションI 東北/北限のサル」は1回300円、「恐竜発掘記ティラノサウルス」は1回300円、「岡本太郎 アートピース集~光の饗宴~」は1回400円となる。2月には「日本クワガタムシ大全」、「ベジコレ! ~野菜ストラップコレクション~」の2つの新規投入が予定されている。
発表会では海洋堂代表取締役の宮脇修一氏がこのシリーズにおける意気込みと、今後の展望を語った。さらに発表会の後半では作家の荒俣宏氏をゲストに招きトークショウが行なわれた。両者のフィギュア愛と共に、宮脇氏の業界に挑戦していくエネルギーが強く伝わってくるイベントとなった。
■ より精密に、多彩なテーマを。カプセルトイへの海洋堂の新たな挑戦
海洋堂代表取締役の宮脇修一氏 |
海洋堂企画部広報の白川重基氏 |
コンビニやスーパーに設置されるカプセルマシン |
1月に展開する3つのシリーズ |
発表会は海洋堂企画部広報の白川重基氏が商品の概要を説明し、代表取締役の宮脇氏が思い入れを語っていくという形で進行した。「カプセルQミュージアム」は海洋堂が新設するカプセルフィギュア向けの“ブランド”である。ロゴマークはカプセルからQの文字がのぞくような形になっており、Qには“究極”、“クオリティ”、“球体”といった意味を込めている。
宮脇氏は、「これまでカプセルトイは、様々なメーカーが出しているが、マークのついた明確なブランドというのはあまりなかった。海洋堂はこれから“カプセルQ”というブランドで、商品を展開していきます。今回は“ミュージアム”ということで、キャラクターものなどはまた別に展開していきます」と語った。
カプセルQシリーズは硬貨を入れハンドルを回す形の自動販売機(いわゆるガチャガチャ)で販売される。2013年1月20日より全国のスーパーマーケットやコンビニエンスストアなどカプセル型自動販売機が置いてあるスペースに、カプセルQの販売機も並ぶことになる。商品はカプセルに入っており、開けるまで何が入っているかわからないというブラインド形式で販売される。
海洋堂はかつてフルタ製菓の「チョコエッグ」で「日本の動物」シリーズなどを展開し、累計1億3千万個という大ヒットを記録した。また、「タイムスリップグリコ」、「チョコラザウルス」、「ワールドタンクミュージアム」など、“食玩”と呼ばれるジャンルで様々なヒット商品を生み出した実績がある。カプセルQではこういった人気のミニフィギュアシリーズを“復活”させていくという。
カプセルQシリーズ第1弾となる「日本の動物コレクションI 東北/北限のサル」は、チョコエッグでの大きなヒットとなった日本の動物をモチーフにしたものだ。海洋堂でもミニフィギュアへの取り組みは久しぶりになるという。「海洋堂が作りたいものを作る」、という想いで、様々なものを販売していく予定だと宮脇氏は語った。「日本の動物コレクション」シリーズは造形師の松村しのぶ氏1人が原型を受け持ち、松村氏のライフワークとして展開していく予定だ。
「日本の動物コレクションI 東北/北限のサル」はもちろん全て新造形だが、その中でもチョコエッグでの代表的な存在だったニホンザルの写真が宮脇氏は大のお気に入りで、「我ながらこんなすごいものを作って、松村すごいな、こんなスゴイものを世の中に出せる俺達はすごい、勝ったなと。また日本中席巻できるで、と思いました」と自画自賛した。
「恐竜発掘記ティラノサウルス」は、変わり続ける恐竜の解釈から、最新のものを立体化していくシリーズで、ティラノサウルスのみにフォーカスしたもの。恐竜としてのトップバッターは1番人気のティラノサウルスとなったが、中国での製作コストの高騰もあり、原型を少なくして、バリエーションを増やすという展開を行なっている。しかし海洋堂ならではのこだわりとして、羽毛の生やせ方などで様々な学説の姿を再現、頭の骨のみのものなども用意し、コレクション性を強調している。
「岡本太郎 アートピース集~光の饗宴~」は芸術家の岡本太郎氏の芸術作品をミニフィギュア化したもので、海洋堂としては岡本氏の作品を立体化するのは今回が3度目になるという。これまでは岡本氏の芸術作品のみにフォーカスしていたが、1956年の特撮映画「宇宙人東京に現わる」で岡本氏がデザインした“パイラ人”や岡本氏本人もモチーフとなっている。またLEDを内蔵し、光るものもあり、カプセルトイとしてはかなりコストが掛かっているという。
今後の予定として、サナギなども入っている「日本クワガタムシ大全」、身近な野菜をモチーフとした「ベジコレ! ~野菜ストラップコレクション~」がある。野菜はカプセルマシンがスーパーなどにも置かれるため、子供だけでなく女性もターゲットに、食品サンプル的なアプローチで、“おいしそう”な商品となるという。
この他かわいらしい「ペット動物コレクション」、水木しげる氏の妖怪を立体化した「妖怪根付鬼太郎百鬼抄」、プルバック走行する「ワールドタンクデフォルメ」、イカにフォーカスしたユニークな「イカコレ! イカストラップコレクション」といったものが予定されている。
宮脇氏は、「自画自賛できる製品を出せるというのは、ホンマに素晴らしいと思います。世界最高だと言いきれる製品を売れる時はムチャクチャ調子が良くなります。よろしくお願いします」と語った。
■ おひな様に通じるフィギュア文化。宮脇氏と荒俣氏の濃厚トークショー
作家の荒俣宏氏 |
発表会前に宮脇氏が商品を紹介していた。宮脇氏は特にタンクに思い入れがあるようで、「もっと作りたい」と盛んに言っていた |
続いて、荒俣宏氏と宮脇氏のトークショウが行なわれた。荒俣氏は宮脇氏の父親である宮脇修氏とも知り合いであり、宮脇修氏を「坂本龍馬をもっとわけわからなくしたような、“磁力”のあるひと」と評した。海洋堂との繋がりもチョコエッグ以来であり、海洋堂のフィギュアを使った百科事典の企画などもあったという。
荒俣氏はフィギュア文化を「江戸時代のおひな様文化に通じるものがある」と語った。江戸時代初期、おひな様は貧しい家庭から裕福な家庭どこにでも有り、特に裕福な家庭はどんどん豪華にしていった。しかし幕府から華美な装飾を抑えるように通達があり、“大きいものにしてはならない”、“多くの数を揃えてはならない”、“多くの色を使ってはならない”といった制限がかかり、小さく、シンプルでありながら、隠されたところに色を使ったりした。「私は海洋堂は江戸時代でも成功すると思いますね」と荒俣氏は語った。
このセンスは戦前まで受け継がれ、“粋”な人の趣味となった。しかし高度成長時代には一旦途切れ、そして現代“低価格”をキーワードに復活した“安いなら集めてもいいじゃないか”という人がたくさんフィギュアを集め出した。もちろん、“コレクション”する気持をくすぐるクオリティがなくてはならない。そこに海洋堂は“仕掛け人”がいてただ好きなものを作るだけでなく、独特の戦略で商売を成功させていると荒俣氏は分析した。
荒俣氏は「ノアの方舟」すら“コレクション”だと語る。世界を滅ぼそうという神に対し、世界中の動物を1つがいずつコレクションし、大きな船の中に飾った。しかしノアは世界の「森羅万象」のうち、“森羅”のみをコレクションしたのに対し、海洋堂は“万象”までも含めた、人間が作ったものや、自然が偶然作り出したものもコレクション化しようとしているのだと、荒俣氏は指摘する。
そして海洋堂のモチーフの広さを荒俣氏は“売れない図鑑”と評した。蝶の図鑑は売れるが、蛾の図鑑は出版社も出したがらない。毒のあるものや、美しくないものは売れないため表現されない。しかし海洋堂はクワガタのサナギまでも立体化している。同じようなものでも解釈が違うものなども含めて様々なものを再現できるフィギュアは、これまで以上のものを表現できる“文化”となったのではないかと語った。
この指摘に対し、宮脇氏は細かいものを表現するためのビジネスとして、カプセル販売の利点を語った。ユーザーに選択をさせてしまうと売れ線だけしか作れない。しかしカプセル販売にしてラインナップからランダムで買ってもらえる形にすると、「悪役の2番目の子分」くらいのニッチなキャラクターも立体化できる。本当に作りたいものはもっともっと細かく、害虫や、細菌類といった色々なものもモチーフにしていきたいという。カプセル販売はこういった広がりも可能になる。
話は再び宮脇修氏の話となった。荒俣氏はコレクションするユーザーには「どう集めるか、どう飾るか」にメーカーの意図とは関係ない楽しみ方があると思っていた。しかし宮脇修氏の「海洋堂かっぱ館」を見たとき大きく考えを揺さぶられたという。「海洋堂かっぱ館」は、人もあまり通わぬ、マムシが出るような山奥に1,300体のカッパのフィギュアを展示しているのだ。「ユーザーが持っていた飾る楽しみすらこの人に奪われてしまった」と荒俣氏は思ったという。
「海洋堂かっぱ館」の面白さは、“自然と科学の融合だ”と宮脇修一氏は気がついたという。カッパのフィギュアはプラスチック製の、科学の産物だ。しかしそのフィギュアが自然の中にあると独特の化学変化を起こす。この楽しさは、チョコレートの中からリアルな動物や昆虫フィギュアが出てくるチョコエッグと同じものであり、おもちゃコーナーではない、スーパーなどでも入手できるカプセルQシリーズに可能性があると語った。
「海洋堂かっぱ館」は13万人の来場者があったという。この建物は宮脇修氏の資産で作られたという。公共物として国や地方から支援を受けるのではなく“自腹”を切ったのは展示物や内容に制限を加えられるのを避けたためだ。宮脇修氏がやろうとしたことを実現するために自分たちの力で実現させた。「親子で、お前らは何やってるんだと言うことをやる。海洋堂が日本を面白くする。“生きる希望を与える企みをやる会社”です」と荒俣氏は語った。
■ 今は下火だからあえて飛びこむ。宮脇氏「シークレットはシークレットのままです(笑)」
撮影用のフィギュアですら思わず解説してしまう宮脇氏と、聞き入ってしまう荒俣氏。フィギュアに対する愛が伝わってくる |
この後は、質疑応答が行なわれた。最初の質問は「今後作りたい“細かいもの”とは、どんなものか?」。荒俣氏は、「江戸時代にあった“腹の虫”のフィギュアを作りたい」と語った。江戸時代の医者が腹の虫辞典を作ったこともあり、荒俣氏自身“ぶっ飛んだ”という。
宮脇氏は「荒俣さんが作っている様々な辞典のものをフィギュア化したい。うちのメーカーの製品は真似されることが多いが、荒俣ワールドを立体化するメーカーはないやろ、と思っています。腹の虫フィギュアが出たら、“やりやがったな”と思ってください」と語った。
次の質問は「目標販売個数」。宮脇氏によれば、1999年くらいのカプセルフィギュア全盛期の目標販売数は30万個だったという。宮脇氏は今回発売する「カプセルQ」シリーズ1つの商品に対し、全盛期の目標だった30万個を設定している。中国の工場はここ10年で生産コストは向上し、しかも携帯電話の工場などに取られて人が足りない。このためカプセルトイ業界全体が下火になっている。しかしあえて海洋堂は30万個という数字を目標にし、こういった発表会なども企画して広く認知してもらい、もう1度カプセルトイを元気にしたいという。
何故この時期にカプセルトイに挑戦するかというのは、海洋堂の姿勢そのものが、現状の業界に対する挑戦からスタートしているからだ。かつては現状のプラモデルや、アクションフィギュアに対し、「うちならばもっと良い物を」という想いで、ガレージキットや、リボルテックシリーズを展開していった。カプセルQシリーズは現在のカプセルトイに対する挑戦だという。あえて難しくなったミニチュアフィギュア業界にもう1度活を入れたいという気持ちがあるとのことだ。一方、海外展開に関しては、今は考えていないとのことだ。
最後の質問は「シークレットはあるか?」。この質問に宮脇氏はニヤリと笑みを浮かべ「僕らがチョコエッグにツチノコをシークレットで入れたのがチョコエッグのブレークしたきっかけなんですが、バカなメーカーはね、というか他のメーカーは全てだったんですが、『シークレットがあります』って書いちゃったんですよ。それシークレットちゃうやろ、と。だからここでシークレットがあります、というのは、頭が悪いメーカーと一緒になってしまう。だから、シークレットはシークレットのままです」と答えた。海洋堂はあえて公開せず、それでいながら様々なものを仕掛けていくとのことだ。
海洋堂はカプセルQシリーズで、これまで自社で参入していなかったカプセルトイの分野で独自ブランドを立ち上げ、毎月数種類の精密なフィギュアを展開する。一見、かなりリスクのある冒険とも見えるが、海洋堂は「リボルテック」シリーズで、低価格で、精密で、幅広いモチーフの商品を毎月販売するという“離れ業”をすでに実現させている。今回もその成功を収めるのではないかという強い期待感を持った。
スーパーやコンビニなど、多く幅広い層の人が集まる場所に現われる、精密でマニアックなカプセル玩具。リアルな野菜や魚のストラップ、本格的でありながら低価格のミリタリー模型など、「つい集めたくなるフィギュア」が、ホビー業界とあまり縁が無い人々にどのような“化学変化”をもたらすのか、注目したい。
(C) KAIYODO
(C)TARO OKAMOTO
(C)1956角川映画
(2012年 11月 20日)