BBA、ゲーム&コミュニティカンファレンス「OGC 2012」を開催
話題はモバイルソーシャルゲームに集中。稲船敬二氏の基調講演も紹介
一般社団法人ブロードバンド推進協議会は3月16日、「OGC 2012」を外苑前のTEPIA(財団法人 機械産業記念事業財団)で開催した。
今年で8年目を迎える「OGC」。昨年は「Open Global Contents」としてゲームとはテーマが離れつつあることを感じさせる内容だったが、今年は改めて「Open “Game” Contents」と題され、“ゲーム”の名が復帰となった。その主な原因であり話題の中心となったのは、SNSなどのコミュニティサイトを基盤にしたモバイルソーシャルゲーム。ソーシャルゲームを主力とするゲーム企業からも講師が多く招かれ、グリー株式会社、株式会社ミクシィ、株式会社gumi、株式会社Aimingなど、ソーシャルゲーム市場の中でも先頭を率いる企業が名を連ねた。
このほかにも、ゲーミフィケーションに焦点を当てた講演も開催された。ゲーミフィケーションは、ゲームデザインをゲーム以外の問題解決に組み込む考え方のこと。実際の講演では、国際大学グローバル・コミュニケーション・センター研究員の井上明人氏がゲーミフィケーションの概要を説明した。また株式会社ループス・コミュニケーションズ コンサルタントの岡村健右氏はソーシャルゲームのゲームデザインを解体し、ゲーミフィケーションに活かそうという講演を行なった。
ソーシャルゲーム、そしてゲーム的なものといった、今まさに変貌しつつある“ゲーム”の最先端が各セッションでは考えられていた。テーマに復活した“ゲーム”の意味合いは以前とは違うものかもしれないが、それを正面から捉え直すことで、確実な未来への前進を感じさせるカンファレンスだった。
そういった時代の移り変わりが進む中で、基調講演には株式会社comcept CEO/コンセプターの稲船敬二氏が登壇し、「ゲーム製作の新たな“判断!”」というテーマで、ソーシャルゲーム業界に檄を飛ばす講演を行なった。本稿では、稲船氏の基調講演の内容も併せてお伝えする。また、別稿にてこの他の注目の講演をご紹介する。
【「OGC 2012」の講演の様子】 | ||
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コンソールゲームとソーシャルゲームの特徴を精査した上でリリースした「ドラゴンアーク」や、ゲーミフィケーション、また「打倒! Zynga!」と方針を強く打ち出したgumiなどの講演があった。ゲームの意味合いは変わりながらも、確実に前進し、活気を取り戻しつつある業界の未来を感じさせた |
■ 望む実績は「ソーシャルゲームの神様」。業界の切磋琢磨を刺激
株式会社comcept CEO/コンセプターの稲船敬二氏 |
基調講演に登壇した稲船氏は、スライドを一切使わずマイク1本で喋り立てた。稲船氏は先日アメリカのサンフランシスコで開催された「GDC 2012」で日本のゲーム市場に喝を入れたばかり。会場の注目が集まる中、今回はOGCのテーマに沿って、ソーシャルゲームに焦点を当てたものになった。
稲船氏は、まずコンソールゲーム制作における日本と海外の違いを述べた。稲船氏によれば、日本の経営は「引き算」であり、海外の経営は「足し算」だという。「引き算」の経営とは、企画が立ち上がると調査が始まる経営のこと。競合するゲームを調べ、市場調査をし、ある程度の目算が出てから予算を創出してプロジェクトが動き出す。「足し算」の経営とは、ゲームを面白くするために要素をどんどんと足していくやり方。50億の予算がかかろうが60億の予算がかかろうが、300億の売上があればいいという発想で臨む経営のこと。
稲船氏は「それがいいと言っているわけではないが」と留意しながら、「日本の経営にはその勇気はない。だから引き算をする。それは、それだけコンソールゲームで計算できる数字の母体が大きくなってしまったということ」と話した。
一方でソーシャルゲームは、ここまでの隆盛は「足し算」ビジネスがあったからこそだ稲船氏は述べた。「ソーシャルゲームはこれまでにはなかったので、ゼロからアイデアを足していったものだと思う。通常はいくら儲かるか基準というものがあるが、モバイルソーシャルゲームは実際にそれを試していくしかない。ソーシャルゲームは、足し算だからこそ大きくなった」と語った。
また稲船氏は24年間ゲーム業界に関わってきた自身の経験も重ね合わせながら、「僕もファミコンの頃から足し算で作られるゲームをたくさん見てきた。企画として面白いかどうかで出発するビジネス。だから、ソフトを出せば100万本、200万本売れていた。これは現在のソーシャルゲームのビジネスに近いかもしれない」と話した。
しかし稲船氏は、ソーシャルゲームもコンソールゲームのような歩みをするのではないかと危惧した。特に稲船氏は似たゲームが多く出続けるソーシャルゲームに対して、多少儲かることは否定しないが、その先がないと話した。「それは引き算ビジネスに似ている。だからすぐに廃れると周りから言われてしまう。それではすぐに飽きられる」と指摘した。
では稲船氏の考える次のソーシャルゲームとは何か。ここで稲船氏は再び“算数”を持ち出した。いわく、それは「掛け算」だという。
稲船氏は、「ゲームとリアルを掛け合わせる」と語った。ゲームは1人でやるところから始まって、対戦格闘で2人、「モンハン」で4人、MMOで何千人何万人と遊べるようになった。しかし、それはあくまでバーチャルの世界であって、本当の意味でのリアルではない。稲船氏は、今までゲームができなかったこの部分を最も求められているのがソーシャルゲームなのではと述べた。
なおその具体的な方法については、「具体論はお金になるので言えません(笑)」と明言を避けたが、大きなヒントとして「若い柔軟な力を使うこと」を提示した。
稲船氏は同年代の来場者に向けて、「アイデアを求めましょうよ」と語りかけた。「若い力は実に頼りない。考えが浅いし、奥深くない。でも、そこであなたたちが活躍できる。1人で考える必要はない。コンソールで積んできた経験は必ず活かせる。その経験は、若い力を引き出すために使えるはず」と、若い力と年配の経験者の「掛け算」があることも提示した。
また稲船氏は、ソーシャルゲーム事業は、アイデアを事業化するまでのスピードも重要だと話した。もしいいアイデアが思いついたとしても、大きな企業では承認会議などが重なりに重なって、プロジェクトとして始動するまで半年はかかってしまう。それではいいアイデアも他に先を越され、潰れてしまう。
そこで稲船氏は、面白いアイデアを即事業化できる形にすることをアドバイスとした。通常では1枚の企画書だけでは10億円は出せない。しかし、これからは1枚の企画書だけで判断できる人材が必要になるという。稲船氏は、「それは目利きができる人。その感覚は若い人たちにあると思う。そのためには、また新しい方程式を作っていかなくては。誰かの成功事例に乗っかるのは、甘い考え方だと思う」と話した。
稲船氏は自身の今後について、「厳しい言葉をストレートに言って業界を奮い立たせる」という意味を込めて、「今はソーシャルゲームの神様と呼ばれる席は空いている。そこにしか望む実績はない」と宣言をし、「その席を取り合って業界が切磋琢磨していくのが1番いいのでは」と語った。
また稲船氏は、広い意味での“ゲーム”全般に手を広げていく方針を示した。稲船氏は“ゲーム”の定義について、「“ゲーム”の意味は時代によって変わる。鬼ごっこもゲームだったが、任天堂の活躍によってゲームはテレビゲームになった。そして、今“ゲーム”にはソーシャルゲームも含まれている。例えば、ヨドバシカメラのポイントカードがあるが、あれもゲーム。ゲーム的な発想で、呼び込むための仕掛けをしているいい例。ゲーム的なものは楽しくて仕方がない」と話した。
稲船氏は、「縛られた頭では“ゲーム”は1個しかない。コンソールゲームを“ゲーム”と思い込んでいると、ソーシャルゲームはゲームじゃないと言ってしまう。ソーシャルゲームだってゲームでしょというのが普通。ヨドバシカメラの例もそう。そこにチャレンジしていく」と述べ、“ゲーム”の定義が変動しつつある状況に対してあくまで積極的に取り組んでいく姿勢を示した。
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(2012年 3月 16日)