G-Star 2011レポート

【G-Star 2011】G-Star 2011が閉幕 名実共にアジア最大のゲームショウに
世界が羨むオンラインゲームの祭典、日本メーカーの存在感は希薄に


11月10日~13日開催

会場:釜山国際展示場(BEXCO)

入場料:大人5,000ウォン
学生/子供2,000ウォン


 韓国文化体育観光部と釜山市が共同で開催している韓国最大のゲームショウG-Star 2011が11月13日を持って閉幕した。会場がソウル郊外のKINTEXから釜山のBEXCOに移って3年目の今年は、またしても昨年の開催規模を大幅に上回り、今年は広大なBEXCOのほぼ全域を使用し、会場が手狭に感じられるほどだった。入場者数は289,110人を数え、昨年より6,000人弱上回り、こちらも過去最高を更新した。

 ゲームファンを対象にしたBtoCゾーン、ビジネスミーティングを主体としたBtoCゾーンは、共に連日盛況を見せ、エンドユーザー向けのゲームショウとしては未曾有の成功を収めつつある。かたや日本を代表するゲームショウである東京ゲームショウは、週末の一般公開日は盛況で、BtoCイベントとしては一定のプレゼンスを維持しているが、ビジネスデイを中心としたBtoBイベントとしては寂しい限りで、両者の差は開く一方だ。BtoBを活発化させるには何をどうすべきなのか、国内外のオンラインゲームをどう扱うのか、東京ゲームショウの事務局は、G-Starの成功から学ぶことは非常に多いように思う。

 さて、本稿ではG-Starレポートのまとめとして、会期中の取材を通じて得られたいくつかの雑感を書き出してみたい。

【BtoC、BtoB】
BtoCは全ホールの全域を使用。BtoBも毎年倍々ゲームで広がり、バイヤーから数が多すぎて回りきれないと文句が出そうなほど途方もない広さになっている


・世界一のオンラインゲームの祭典

G-Starでは世界中のオンラインゲームを見ることができる。唯一日本勢だけが寂しい限り
 やはり一番最初に指摘したいのはこれだ。韓国政府や釜山市の強力な支援と後押しにより、韓国大手メーカーがそろい踏みし、競うように新作オンラインゲームを出展しているだけでなく、韓国はオンラインゲーム消費国として韓国国外の最新オンラインゲームも積極的に出展されている。

 一例を挙げると、「Diablo III」や「World of Warcraft」、「Starcraft II」を擁する米Blizzard Entertainmentを筆頭に、「Firefall」を出展した米Red 5 Studios、「World of Tank」の英Wargaming.netなど。「Guild Wars 2」もパブリッシャーはNCsoftだが、開発は米ArenaNetの担当だし、米Trion Worldsの「RIFT」はCJ Entertainment & Mediaの主力タイトル扱いだった。G-Starに行けば、韓国のみならず、世界の主要オンラインゲームが見られるというのは何にも増しての強みだ。

 彼らからよく聞かれる言葉には「韓国市場での成功が、世界での成功を確実なものにしてくれる」というもの。これはかつて日本市場に対してよく聞かれた言葉だけに寂しい部分がある。

 日本メーカーは、今年は唯一セガがBtoCとBtoBの両方に出展を行ない、新作オンラインゲームとして「ファンタシースターオンライン2」を韓国のオンラインゲームファンにアピールしていたほか、BtoBブースでは積極的に商談を行ない、G-Starに出展されているタイトルの獲得を狙っていた。今後、セガから、韓国の有力オンラインゲームのパブリッシングが行なわれる可能性は高い。

 その他の日本のメーカーは、オンラインゲームパブリッシャーの海外担当者が新規タイトルのファインディングに来ているケースはいくつか見られたが、魅力的な売り物を韓国に持ち込んでバンバン商談するという光景はほとんど見られなかった。もちろんG-Starに出展することだけがオンラインゲームビジネスではないし、実は別の場所で商談を行なっているということもありえるが、G-Star会場を見る限りでは日本企業は韓国市場からほぼ撤退気味という印象すらある。GREEやDeNAらによるソーシャルゲームのアジア展開で、韓国がどう反応するか注目したいところだ。


・“「TERA」ショック”におびえつつも、克服を目指す韓国ゲーム業界

NHNブース
Neowizの大作MMORPG「BLESS」と「EIN」は映像出展のみ
BIGSPOON「Red Blood」の家門システムにおけるエコシステム

 今年のG-Starで韓国メーカーを取材しながら強く感じたのは「TERA」ショックの影響である。“「TERA」ショック”とは私が勝手に付けた呼称だが、2011年1月に韓国で正式サービスを開始したNHNの「TERA」が、韓国内で思うような数字を挙げられず、顧客満足度を高めるためのアップデートに終始し、オンラインゲームとして後手後手に回っている一連の出来事を指している。

 正式サービス開始直後は17万人を記録した同時接続者数が、わずか数カ月後には7万人に低下し、7月には開発トップのパク・ヨンヒョン氏が開発元のBluehole Studioを退職。この間、逐次アップデートは行なわれているものの、ユーザー数の低下には歯止めが掛からず、現在のユーザー数は3万人~5万人程度と言われる。

 G-Starでの影響は何かというと、すでに正式サービスを行なっている「TERA」が出展していないのは当然としても、その後に続くはずだった「Blade&Soul」(NCsoft)や「ArcheAge」(XLGames)といった大作MMORPGがサービス開始どころか、出展自体を見送り、今年のG-Starではスポンサーの1社として「BLESS」と「EIN」を大々的に押し出していたNeowizも、それらのリリースを早々に2013年と発表。そのほかにも「実はもう完成しているが、ユーザーからのフィードバックを待っている段階」といった今までになく慎重な意見もいくつか聞かれるなど、フルスペックのMMORPG市場に急ブレーキが掛かったかのような状態となっていることだ。

 「TERA」が韓国で成功できなかった要因として最も強く指摘されるのがコンテンツ不足だが、本質的に問題なのは量や質ではなく、ユーザーサイドが環境に応じて動的に自らの楽しみを見いだせるような循環型のエコシステムが存在しなかったことだと言われる。何人かの開発者の話を聞いた限りでは、現在韓国ではこの点については、かなり真剣に検討が進められており、今後韓国から、グラフィックスやアニメーションだけでなく、内容的にも新しい次元のMMORPGが生まれてくる可能性がある。つまり、「TERA」ショックは、韓国オンラインゲーム産業にプラスの効果をもたらしつつあるのかもしれない。


・iOS向けゲーム解禁によるスマホ市場の活性化

COM2USブース。子供達がiPadを使ってモバイルゲームを熱心にプレイする様子が見られた
UnityもBtoCにブースを展開。一般ユーザーにもアピールしていた

 こちらはほぼ予想通りの動きだが、G-Starの開催直前に韓国のApp Storeに「ゲーム」のカテゴリが新設され、G-Starに韓国モバイルゲーム大手のCOM2USが出展し、ハングル版のiOS向けゲームを出展するなど、不自然なほどタイミングが合いすぎてるのがおもしろい。そのほかにもNEXONやWemadeなどがスマートホン向けのゲームを出展し、来年辺りはもっと増えそうだ。

 これまで韓国では、スマートフォン向けにゲームを提供する際は、iOS向けにはゲームが提供できず、Android向けにしか提供できなかったが、今後は難しいことを考えずに、iOSとAndroidの両方にハングル版のゲームを提供できるようになる。これまではCOM2USやGAMEVILなど一部のモバイルゲームメーカーが、欧米展開の片手間でハングル版もAndroid向けにリリースするという感じだったが、今後はすべてのゲームメーカーから“本気”のモバイルゲームが増えてきそうだ。

 なお、日本で台風の目となっているゲームエンジンUnity 3D Engineについては、韓国ではもともとPCゲームがメインということもあり、日本よりグッと参入障壁は低かったようでごく普通に取り入れられていた。その上でどう使うこなすかに関心が移っている印象だ。


・大作とカジュアルの二極化が進む。日本メーカーの取るべき道は?

大作筆頭はXLGamesの「ArcheAge」。カジュアルはネクソンの「Cyphers」を推したい

 日本市場は昨年と今年で一気にソーシャルゲームに傾いた感があるが、韓国では少なくとも大手メーカーはそうはなっていない。これまでと同様に、しっかりコストを掛けて大作オンラインゲームを作りながら、それだけでは間が持たなかったりリスクが高すぎたりするため、子会社やパートナー、あるいは海外メーカーからライセンスして、カジュアルオンラインゲームも手がけていくという昔ながら二両面作戦を展開するメーカーがほどんどだ。

 それだけにソーシャルゲーム、特にスマートフォン向けのソーシャルゲームはかなり手薄な印象を受け、G-Star会場でもこれはと思えるソーシャルゲームには出会えなかった。この領域は日本のゲームメーカーにとっても大きなチャンスが眠っているのではないかという気がした。ただ、個人的にはクライアント型のオンラインゲームは、特にアジア市場ではまだまだ大きな潜在需要が眠っており、G-Starで正々堂々と世界のオンラインゲームと勝負して世界に打って出て欲しいと思う。

 国産で今後期待される大型のオンラインゲームとしては、スクウェア・エニックスの「ファイナルファンタジーXIV」、カプコンの「イクシオンサーガ」、セガの「ファンタシースターオンライン2」などが挙げられるが、コンテンツのクオリティ以前の問題として、操作性やインターフェイスの部分で、韓国産と比較して、世界標準に対する意識がまだまだ低いと感じられる部分が多い。

 2011年8月にカプコンの「モンスターハンター フロンティア オンライン」が韓国サービスを止めたのは残念なニュースだったが、理由はコンテンツの内容ではなく、インターフェイスの齟齬が大きかったと言われる。こうした部分を克服した上で、日本の強みであるオリジナリティや遊びやすさを活かしたオンラインコンテンツをひっさげて、ぜひ捲土重来を計って貰いたいと願っている。


(2011年 11月 14日)

[Reported by 中村聖司]