東京ゲームショウ 2011レポート
TGSフォーラム 2011 アジアゲームビジネスセッションレポート
日本ゲームメーカーは中国とアジアにどう進出するか!?
社団法人コンピューター エンターテイメント協会(CESA)と日経BPは幕張メッセ隣の国際会議場において「TGSフォーラム 2011」を開催した。本稿ではフォーラムの1つ「アジアゲームビジネスセッション」を取り上げたい。
アジアゲームビジネスセッションでは立命館大学映像学部教授の中村彰憲氏、サイバーステップ代表取締役社長の佐藤類氏、Rekoo Japanの代表取締役CEOパトリック・リュー氏が登壇し、それぞれの視点からアジアでのビジネスの展開を語った。
■ 健全に発展する中国ゲーム業界、携帯向けコンテンツにチャンスが。ネックとなるのは規制問題
立命館大学映像学部教授の中村彰憲氏 |
アジアゲームビジネスセッションで最初に登壇したのは立命館大学映像学部教授の中村彰憲氏。中村氏は特に中国市場にフォーカスした分析を行なった。中国をはじめとしたアジアはこれまでのゲームマ-ケットは非合法なものが大きかったが、オンラインゲーム産業が大きくなるにつれ合法的なマーケットが拡大していった。そして現在は中国みらオンラインゲーム市場は飽和状態であり、中国市場は参入が難しい状況にある。
オンラインゲーム市場は2004年の時点では韓国の作品が多く展開していたが、そこから一気に中国国内開発のタイトルが増えている。対する日本は数本にとどまっている。韓国のオンラインゲームは常に流行を先取りし、「アラド戦記」やオンラインFPSなど次々とムーブメントを作っているため、一定の市場を獲得しているが、中国国内のタイトルは2004年時点から比べると4倍以上に増え、なおも増加中である。
その中で中国では新しいクリエイターが生まれている。それまでは大きなメーカーが資本を武器にチームを丸ごと買い取るような方式でゲームを作っていたが、現在は実績を得たクリエイター自身が人材を集め会社を作りゲームを作り始めている。この動きは日本でも見られた流れであり、「健全な成長をしている」と中村氏は分析する。
一方、オンラインゲーム以上にブラウザゲームの市場の伸びは大きく、今後さらに増えていくと中村氏は語る。タイトルによってビジネスモデルが異なるのは中国でも変わらない。日本でいう「ブラウザ三国志」クラスの大型ブラウザゲームはソーシャルゲームに比べ課金率が高い傾向にあり、ソーシャルゲームは1カ月650円以下(1元=13円)のユーザーが80%近くなのに対し、ブラウザゲームは650円以上のユーザーが40%以上もいる。ブラウザゲームはじっくりプレイし、ユーザー間の競争に勝つために課金するユーザーが多い。このためビジネスモデルも競争をあおるのが有効だ。対するソーシャルゲームはより多くのユーザーを集めることが課題となる。
中村氏は好評なソーシャルゲームの例としてTAOMEIというメーカーを上げる。モグラのキャラクターが農場を経営する「モールの庄園」という作品が好評でテレビアニメ、劇場アニメ、玩具などメディアミックスで展開している。彼らはゲームだけでなく、キャラクターとコミュニティの場を提供している、というスタンスだ。他にも6Waves、5MinutesというメーカーがFacebookアプリで急成長を遂げた。ただし、外資系コンテンツが参入するためには審査が必要だ。ライセンスもパブリッシングする中国メーカーが申請しているという。
一方、中国だけでなく、ベトナムも携帯電話の普及は爆発的でここにチャンスがあると中村氏は指摘する。若いユーザーが携帯電話のゲームをプレイしている。男女比は男性が80%を越えている。ブラウザゲームに近い規模で成長している。携帯電話向けゲームサービスのポータルサイトからゲームを提供するチャンスではないか。ただし、きちんと審査し合法的な手順を踏まないと、制度が変わったときなどに対応できない。過去MMORPGではグレーなままサービスを開始したものの、制度でビジネスチャンスがなくなってしまうことがあった。いまがまさにチャンスであるが、これからの参入は合法を意識しなければならない。
その上で中村氏は、大学を出るくらいの若い制作者のベンチャー企業の活躍に期待したいと語る。中国では若い制作者がiOSやアンドロイドアプリに果敢に挑戦している。日本の制作者も今後増えていく市場に向けた挑戦をして欲しいとまとめた。
成長していく中国のオンラインゲーム市場。ソーシャルゲームはユーザー1人当たりの課金額が低い傾向にあり、多くのユーザーが求められる | ||
若者に人気の携帯電話向けコンテンツ。今後は女性ユーザーの増加も見込まれる | ||
時間がなく紹介できなかったベトナム市場。こちらも携帯電話向けコンテンツにチャンスが |
■ 子会社による自社運営を目指すサイバーステップ。Rekooは中国と日本の融合からコンテンツを生み出す
サイバーステップ代表取締役社長の佐藤類氏 |
Rekoo Japan代表取締役CEOパトリック・リュー氏 |
サイバーステップ代表取締役社長の佐藤類氏は最初に「アジアで成功する鉄則は存在しない」と宣言する。その上で受講者達にアジアに進出する事を考えるきっかけになるべく、まずアジアに進出しているサイバーステップを説明し、他のメーカーの動きを見た上で、何をすべきか説明していきたいと語った。
サイバーステップは2000年に創業し、「ゲットアンプド」、「ゲットアンプド2」、「C21」、「コズミックブレイク」といったタイトルを開発・運営している。現在は韓国やアメリカにも子会社を作り自社タイトルを運営している。オランダや台湾、ドバイにも子会社を設立しているという。
佐藤氏は世界の人口分布のデーターを出し、アジアという地域の大きさ、そして東南アジアが大きく発展し中国に並ぶ市場となっていること、アラビア語圏の人々の多さと所得水準の高さを指摘する。市場というとインドや中国という話になりがちだが、それ以外の市場の大きさを説明した。
そして佐藤氏は世界で展開している日本のオンラインゲーム会社としてAeria Gamesの成績を紹介した。Aeria Gamesは主にアジアのゲームを欧米に展開して成功している。GALA Onlineも日本のメーカーだがグローバルにビジネスを展開しており、こちらも世界のタイトルを展開している。
一方でサイバーステップはAeriaやGALAとは異なり、子会社による自社運営で自社タイトルを展開する方針だ。グローバルサーバーで海外のプレーヤーと戦う楽しさもユーザーに感じて欲しいと佐藤氏は語った。北米のグローバルサーバーでも様々な国旗を付けたユーザーが集まり独特のコミュニティを形成しているという。
中国は参入すれば利益が大きいと言われているが、参入そのものが難しい。サイバーステップもライセンスを獲得してサービスが始まるのに3年かかった。それならば進出しやすく、所得水準が高いところに自社で子会社を作り運営しよう、というのがサイバーステップの結論だという。佐藤氏は最後に「海外に行くのか、国内にとどまるのか、早めに答えを出すべきだと思う。やってるところは考えるまでもなく政府の後押しすら受けてやっている。そうしなくて閉じこもってるのは日本くらいじゃないかと言いたくなります」と語った。
次に登壇したのはRekoo Japan代表取締役CEOパトリック・リュー氏はRekoo Japanは「サンシャイン牧場」を日本で展開するメーカーだ。親会社であるRekooは2008年に中国で創設、ソーシャルゲーム黎明期にゲームを作り、「サンシャイン牧場」で世界中に進出を果たした。中国国内でも拡大を続けている。
現在は7つのゲームを世界中で展開するようになったが、特に力を入れてるのがアジア日本地域だ。そして全てのタイトルがソーシャル要素を持っていて、友達と楽しめるようになっている。戦うのではなく、集中して1人で遊ぶのではなく、数分で楽しむ。「ソーシャルゲームはコンピューターゲームに革命をもたらしたと思うし、本当の意味でのエンターテイメントだと思う。そしてこれこそが私達の望むエンターテイメントです」とリュー氏は語る。
Rekooの競合他社に対する優位性としてはマルチプラットフォームや、海外展開、そしてソーシャルゲームに対する洞察と研究だとリュー氏は指摘する。中国での研究開発のコストはアメリカのメーカーと比べると半分程度、日本の80%に抑えられる。これは中国という人件費の安い国だからこそ実現できるからだ。
また、他のプラットフォームへの展開に関しては、Rekoo中国や日本で最初からマルチプラットフォームの展開を視野に入れている。そして中国や日本、アジアに集中する事で充分な市場を得ることが出来、かつユーザーのニーズや嗜好の変化に迅速に対応できるという。
ソーシャルゲームの理解に関しては日本のゲーム開発社、中国のオンラインゲーム運営者を併せ持つ強さを活かし、さらにモバイルなど新しい人材も積極的に取り入れている。この総合的な人材による強み、そして経験の蓄積が他社に対して大きな優位性になっているとリュー氏は語った。
そしてTencentの協力も大きかったという。Tencentの主なサービスはインスタントメッセンジャーだが、中国国内で広く普及し、ここでのアピールが他のSNSでの人気を後押しする。このモデルは中国固有の物であり、Tencentとのパートナーシップによって発展できたことが大きかったという。Rekooは中国での進出において、日本企業をフォローできると語った。
アジアは中国だけじゃないという佐藤氏。サイバーステップは子会社による自社運営を目標にしているという | ||
リュー氏はソーシャルゲームの可能性、日本と中国スタッフによる作品の優位性を語った | ||
中国国内ではTencentとのパートナーシップにより優れたプロモーションができたという |
■ よいよい人材によるパートナーシップを。若手開発者の登場にも期待
司会を務めた日経BP社日経トレンディ副編集長の降旗淳平氏 |
非常に興味深かったが、やはり時間が足りなかった。もっと長い尺で聞いてみたい |
次に行なわれたパネルディスカッションでは「アジアに進出するにはどのゲームジャンルに力を入れるか」ということが題材になった。中村氏は中国においてはパートーナーシップが必要であるがやはり審査が難しい。コンテンツではなくゲームエンジンなどの技術の輸出が比較的しやすい。GREEなどは技術提携という形で行なっている。一方で運営やタイトル展開という形では非常に難しいという。
佐藤氏はアジアという言葉が実質的に中国を現わしている傾向に反発。最近はトルコの発展がめざましいし、ヨーロッパではポーランドで、多くのメーカーは動いている。世界はもっと広く、ビジネスチャンスは多い。鉄則はないのだから、まずゲームを開発して、実際に世界に足を運んで展開することが必要じゃないかと語った。他の国は、もう日本を見ていないんじゃないかと世界を回ると感じるという。
リュー氏はソーシャルゲームが他のゲームマーケット以上に成長している。従来の市場のユーザーを取り込み発展している。中国では今後アンドロイドの市場が期待できる。iPhoneの市場もこれからだ。一方でPCでゲームをプレイするユーザーが大きい。PCゲームを無視すると言うことはアジア、中国では当てはまらない。まだまだ魅力的な市場だと語った。
次に話題に上がったのが佐藤氏が自社運営にこだわりたいという点だ。佐藤氏は最初はライセンスで展開し成功したが、やはりオンラインゲームはサービスではないかと考えた。佐藤氏の考えるサービスをするために子会社が必要だと感じたという。国によってはサービスを行なう事に対して規制があるが、できれば自分たちでサービスをしたいと語った。
リュー氏は現地企業と組みサービスをすることに関しては人材がもっとも大切で、中国でもきちんとパートナーを組めばきちんとしたサービスができる。中国でも適切な人材を見つけることでサービスできるのではないかと語った。Rekooが日本で展開するには一年間の期間がかかったという。中国は混沌としており、人材を見つけるのは時間がかかるかもしれないが、それでも現地に赴き、人と出会うのが大事なのではないかと語った。
中村氏は最後に、特に主張したいのはスマートフォン市場はいま若い人が活躍できる場になっている。中国の開発者で世界で活躍してる人がいて、日本の開発者ももっと世界を目に向けて、自分たちでゲームを作るのが必要なんじゃないかと会場に語りかけた。
アジアゲームビジネスセッションはここで時間終了となってしまったが、終わったあと少し佐藤氏と話すことができた。佐藤氏は人材が必要だからこそ、子会社にしたいという。提携の場合はいきなりこちらのタイトルの担当者が変わったりこちらで人事に干渉できない。会社の都合でサービスが終了してしまうこともある。現地のいい人材を確保するためにこそ子会社にしたいんだと語った。
ビジネス、パートナーシップ、若い人材の活躍と、アジアゲームビジネスセッションでは様々な話題が提起された。アジアは中国だけなのか、という疑問は現在ゲーム産業に限らず多くのメーカーが考えている問題だ。また、中国国内から生まれ世界に拡散するコンテンツも興味深い。今回のアジアゲームビジネスセッションでは中村氏や佐藤氏、そしてリュー氏も日本の開発者、メーカーに「海外に目を向けること、ゲームを作ることに、もっと積極的に取り組もう」と語りかけていることを確かに感じた。
□CESAのホームページ
http://www.cesa.or.jp/
□「東京ゲームショウ 2011」のホームページ
http://tgs.cesa.or.jp/index.html
(2011年 9月 19日)