E3 2011レポート

「PlayStation Vita」5タイトル試遊レポート

タッチ、ジャイロ、カメラ……意外? な操作のこだわりを見る


6月7日~9日 開催(現地時間)

会場:Los Angeles Convention Center



日本での価格も発表された。為替レート的には北米版が割安な印象

 E3開幕前日となる6月6日(現地時間)に開催されたSony Computer Entertainment America(SCEA)のプレスカンファレンスにおいて、同社はこれまで「NGP(Next Generation Portable)」として発表していた新型携帯ゲーム機を「PlayStation Vita(プレイステーション ヴィータ/以下、Vita)」として販売することを発表した。

 発売時期は2011年のホリデーシーズン(11~12月)の予定。Wi-Fiのみのモデルと、Wi-Fiと3Gを搭載した2つのモデルが展開される。価格はWi-Fiのみのモデルが24,980円、249.99ドル、249ユーロ。3G搭載モデルは29,980円、299.99ドル、299ユーロ。携帯ゲーム機としては高価な部類に入るが、来場したメディアや開発者からは「思ったよりも安い」と好感する声が多く聞かれた。なお3Gモデルは携帯電話と同様、キャリアとの契約が必要になるが、日本でどのキャリアから発売されるかは発表されていない。

 会場ではカンファレンス終了後、初となるVitaの実機に触れる体験会も開かれた。プレイできたのは5タイトルで、各5分ずつ体験するツアー形式で行なわれた。短時間のプレイだったが、本稿ではその感触をできる限りお伝えしたい。


Vitaの試遊コーナーは大混雑。プレイ中はインカム付きのヘッドフォンが渡され、マンツーマンでガイドを受けながらプレイできた



■ タッチと傾きを使いアクションが広がった「LittleBigPlanet」

 最初にプレイできたのは、プレイステーション 3でもヒットを飛ばした「Little Big Planet」のVita版。フィールドに設置されたさまざまなオブジェクトを活用して進んでいくスクロールアクションである点には変わりないが、Vitaならではのインターフェイスを使ったギミックが取り入れられている。

 まず最初に、丸い惑星の上にあるマップを選ぶ。画面中央に浮かんでいる惑星にタッチして指を滑らせると、惑星がその方向にクルクル回転する。プレイしたいマップをタッチし、さらにもう1回タッチすると中に入れる。ゲームスタート時には画面に暗幕がかかっているので、画面にタッチして左右に引っ張るようにすると開く。ボタン操作でもできるようだが、あえてタッチパネルを使わせる辺り、ゲーム開始前からVitaならではの操作が積極的に取り入れられているのがわかる。

 ゲームでは、アナログスティックで移動、×ボタンでジャンプといった基本的な操作はボタンで行なう。その上で、傾きやタッチパネルを活用して進んでいく。例えば、水車のような丸い部品にRボタンを押しながらつかまり、そのまま左ボタンで丸い部品を回転させるように触ると、そのとおりに回転して上に登れる。また滑車の付いた乗り物がロープの向こう側にある際、本体を傾けてやると、滑車がこちらに転がってくる。

 他にも、画面内のちょっとしたパーツが触れるようになっており、タッチしてひっぱるとバネのように伸びたり、ピアノの鍵盤のオブジェクトに触れるとちゃんと音が出たりと、あちこちに仕掛けがある。クリアするのには必ずしも必要でないものもあるが、このオモチャの世界に触れて楽しむという感覚のおかげで、ある意味これまでのシリーズよりも「Little Big Planet」らしい作品になったと言えるだろう。


【スクリーンショット】
画面だけを見るとPS3版とあまり違いが見られないが、触ってみると随所にタッチパネルやジャイロを使った仕掛けが出てくる。ゲームの内容にもうまくマッチしている



■ 指1本で操作できる! アイデアが光る「パワースマッシュ 4」

 2本目はセガの「パワースマッシュ 4(Virtua Tennis 4)」。実名プロが登場するリアルなグラフィックスが特徴のシリーズ作品で、本作もその点は確実に踏襲している。コート全体が見えているプレイ中はそこまで繊細には見えないが、合間に選手のズームが出た時には、フェデラーやナダルといった一流選手の表情までもが見て取れるリアルさだ。

 そんな映像のリアルさとは相反して、ゲームプレイは極めてシンプルになっている。ボタン操作は不要、タッチパネルで、しかも指1本だけで操作できてしまう。

 まずサーブは、画面上のキャラクターの近くをタッチ。するとパワーゲージが出てくるので、最大になった瞬間を狙って再びタッチする。サーブは基本的にこれだけだ。

 そしてレシーブ以降は、ボールを打ち返す起動を指で描く。ストレートに返したいならまっすぐ下から上に、クロスに返したいなら、ボールを打つ位置から相手コートの反対側に向けて画面を指でなぞる。要するに、スイングする位置からボールを返したい方向に向けて、指で線を引くだけだ。

 キャラクターは引いた線の始点に走りこんでいくようで、相手のボールの方向や種類を見極めて、スイングする地点から素早く線を引いてしまうのがポイント。またキャラクターは画面をタッチした場所に移動するので、サーブアンドボレーのような動きもできる。この2つの操作を覚えておくだけで、十分にリアルなテニスができてしまうのが本作の魅力だ。

 なおセガの発表によると、本体背面のタッチパッドを使ったプレイや、ジャイロセンサーとカメラを使ったテニスプレーヤー視点のモードも用意されているという。発売はVita本体と同時の予定で、価格は未定。


【スクリーンショット】
携帯ゲーム機で、このクオリティのフェデラーとナダルが! というだけでテニスファンには感動ものなのだが、指1本の操作はそれも吹っ飛ぶほどよくできたアイデア賞もの



■ Vitaのインターフェイス、全部使いましょう。「Little Deviants」

こちらはカンファレンスで使われたもので、4つ目に紹介する裏面のタッチパッドを使ったアクションゲーム。スクリーンショットがまだ公開されていないため、テキストのみの紹介になっている点はご了承いただきたい

 「Little Deviants」は、カジュアルなミニゲームが複数入ったバラエティソフト。会場では4種類のゲームをプレイできた。本作の見所は、シンプルな内容ながら、それぞれにVitaのインターフェイスを複合的にうまく活用しており、「Vitaで何ができるのか」をうまく見せている点だ。

 まず最初にプレイしたのは、カメラを使ったAR(拡張現実)シューティングゲーム。前後左右上下の全方位を飛び回る飛行機を、ジャイロセンサーを使って追い掛け回しながら倒す。プレーヤーは画面に表示されるガイドを頼りに、体を回し、手を上げ下げして画面外にいる飛行機を見つけて撃墜する。ゲームの背景は本体背面のカメラ映像になっており、周囲の空間に仮想の飛行機が飛び回っているという体になっている。ステージが進むとペイント弾のようなものを撃ってくる飛行機もおり、画面が汚されるので、指でこすって落とさねばならない。

 次にプレイしたのは、もぐら叩き風のゲーム。画面上の9つの扉が時々開き、中からモンスターが出てきたらその場所をタッチする。子供が出てきたらタッチしてはいけない。ここまではよくあるもぐら叩きだが、本作では後ろを向いて現われるモンスターもいる。この場合、背面のタッチパッドでその位置を叩くと得点になる。モンスターか子供かの見極めに加え、前か後ろかの判断が必要になるというのが新しい。背面のタッチパッドは、タッチする位置を間違えないか不安だったが、やってみると素早く操作しても、1度もタッチのミスはなかった。ゲームのチューニングの努力なのか、プレーヤーが意外と感覚的に掴めているのかはわからないが、とにかく集中してゲームを楽しめた。

 3つ目は、竹とんぼのようなものを頭に付けたキャラクターが、洞窟を降りながらコインを集めてゴールを目指すというアクション。操作はジャイロセンサーを用い、本体の傾きで左右の移動や、落下速度の調整(極端に上に傾けると浮き上がる)ができる。説明不要で直感的に操作できるのがウリだとは思うが、まじめに攻略しようとすると、1キャラクター分の繊細な操作がなかなか難しい。Vitaセンサーの敏感さを感じ取れるものだとは言えるだろう。

 4つ目は、ボールを転がしてゴールに導くゲーム。転がし方はジャイロセンサーでもアナログパッドでもなく、背面タッチパッドを使う。背面タッチパッドを触った位置の地面がボコッと山のように浮き上がり、それでできた坂でボールを転がしていく。裏面からゴムの膜を押し上げているようなつもり、とでも言えばいいだろうか。直感的ながら思い通りにいかないもどかしさも感じる、Vitaならではの秀逸なアクションゲームになっている。




■ アイテムを集めて音を奏でるスクロールアクション「Sound Shapes」

 次の「Sound Shapes」はこれまでの3本とは違い、オーソドックスにボタンで操作する現行機的なアクションゲーム。丸いキャラクターを左右に移動したりジャンプさせたりしながら、画面内にいるモンスターや仕掛けを避けつつ、フィールド上に散りばめられているコインのようなアイテムを集めていく。

 キャラクターを画面端まで移動させると、次の画面が現われるというスクロール方式を採用。途中にいる敵に触れたり、穴に落ちたり、何かしらの仕掛けに触れたりすると、1発で倒されてしまい、今いるマップの最初に戻される。序盤から割とシビアな操作が求められるが、その画面の最初からやり直せるので、トライ&エラーで少しずつは進んでいける。

 アイテムを取ると、一定間隔で音が再生されるようになり、複数のアイテムを取るほど音楽が重厚になっていく。ビジュアルは白や赤のメリハリのある色合いで、より音を楽しませようというスタイリッシュさを強調したデザインになっている。


【スクリーンショット】
トゲのついた丸い物体がプレーヤーキャラクター。赤いものに触れるとミスになるので、アイテムを集めながらもうまく避けて進んでいく



■ タッチパネルで多彩かつ簡単な操作を実現した「Uncharted: Golden Abyss」

 PS3で世界的な人気を誇るアクションアドベンチャー「Uncharted」シリーズのVita版。画面の美しさはPS3版譲りで、古びた遺跡や森林の中の小川などが、コントラストが強めのメリハリの効いた3Dグラフィックスで描かれている。

 しかしこちらも注目点は、どちらかといえば映像よりもインターフェイスだ。断崖絶壁を僅かな出っ張りに掴まって移動するといったアクションは本シリーズの特徴だが、本作ではその崖移動がタッチパネル操作によって簡略化。手で掴める部分黄色く表示されており、その部分を次から次へと指でなぞっていくことで、キャラクターがその線で引いた流れどおりに動いていく。ざっと先までなぞると、数秒は画面を見ているだけの時間ができてしまうが、アクロバティックな動きの主人公を見ているだけでも楽しいゲームなのでさほど気にならないし、少々操作しないからといって緊張感がなくなるわけでもない。

 平地では左のアナログスティックでキャラクターを操作できる。このアナログスティックをPSP-3000と比べると、動きの幅が大きくスムーズになっているのか、またパッドの形状が改善されたためか、かなり思い通りに安定した操作ができる。アナログスティックでの操作時にも本体のホールド感をPSP以上に保てるので、アナログスティック操作激しいアクションゲームの操作感はかなり改善されそうだ。

 さて、途中で敵に背後から近づくと、敵の背中に拳の様なマークが現われる。このとき、その敵をタッチすると、主人公が背後から襲いかかって1撃で倒せる。これ自体はボタン1つの操作でも構わないわけだが、画面にアイコンとして表示されるので、操作に慣れていないプレーヤーでも「これはタッチすれば何かが起こるのだろうか?」と想像させられ、直感的にゲームを進められる。

 画面脇には、武器を切り替えるアイコンが出ている。ほかにも画面をタッチしたところに移動するような操作方法もあるようだ。かなりの操作がタッチパネルだけでできてしまうので、「あまりやりすぎるとスマートフォンのアプリと競合しそうだ」と逆に心配してしまう。そこはもちろん、画質やボリュームといった点で追随を許さないクオリティに仕上げてもらいたいところだ。


【スクリーンショット】
こちらはカンファレンスで行なわれたデモの写真。黄色く表示された部分が掴まれる場所で、進みたい順番に従って黄色い部分をなぞると、それに従って勝手に進んでいく幅の広い場所を飛ぶ際、本体を傾けてからタッチするといったジャイロセンサーを使った要素もある



■ 性能ではなく遊び方でVitaを見せてきた

カンファレンスでも、ジャイロやタッチセンサーなどインターフェイス周りが真っ先に紹介された

 今回触れたVitaは開発機のようで、裏に太いケーブルが伸びているものだった。そのため重さまでは把握できないが、先述のように本体のホールド感はよく、PSPに慣れた人ならば、特に新ハードという感慨もなく(それもどうかとは思うが)スルッと手に馴染むだろう。特に右手で本体を持ち、左手でタッチパネルを操作するといった操作でも、本体の持ち手が気になるような感覚はなく、その辺りのデザインはPSPより考えられているのだろう。

 筆者が今回気になったのは、Vitaのタイトルの見せ方だ。今回は5本のゲームをプレイできたわけだが、多くのゲームユーザーが注目しているであろう映像の美しさや処理能力の高さを訴える「次世代感」とでも言うべきものを全面に出したゲームは少数派だった。もちろん映像は美しいしサクサクと動いてはいるのだが、それ以上にインターフェイス周りの違いを訴えるものが多かった。

 おそらく、初めて大々的に見せるVitaを、「『Uncharted』で綺麗な画面を見てください」というだけにしたくなかったのだろう。Vitaは一部では競合すると言われている高性能スマートフォンに対して、さらにその上を行く性能を実現しているのはわかる。しかしそれは現時点でのことで、年に数度モデルチェンジするスマートフォンに対して、5年以上のサイクルで刷新されるゲーム機が、処理能力でアドバンテージを持ち続けることは現実的ではない。

 であればこそ、SCEAはそういった性能競争ではなく、「ゲーム機としてできること」を重要視した結果、今回の5タイトルを見せたのだと思われる。果たしてそれがゲームユーザーに求められるものになるのか、また他のタイトルがそういった路線を選んでくるのかは、今のところは答えを出せない。

 ただ筆者は、「VitaはこれまでのPlayStationプラットフォームとは、狙いどころが違うな」という印象を強く受けた。Vitaには、今日紹介できたさまざまなインターフェイスの活用法だけでなく、3GやWi-Fiを前提にしたデザインという大きな違いもある。PSPがパワーアップした「Next Generation」という見方ではなく、携帯ゲーム機に誕生した「New Generation」として考えた方が、この先面白いものが見られるのではないだろうか。


(2011年 6月 7日)

[Reported by 石田賀津男]