GDC 2011レポート

ゲーム業界への就職情報が詰まった「Game Career Seminar」レポート
アメリカでゲーム開発のプロになるためのコツをあの大物たちが伝授!


2月28日~3月4日開催(現地時間)

会場:サンフランシスコ Moscone Center



「Game Career Seminar」は、GDC最終日にまとめて実施された

 ゲームが好きなら、誰しも1度はゲーム業界で働いてみたいと思ったことがあるのではないだろうか。GDC最終日には、ゲーム業界を目指す学生やゲーム業界に興味を持っている人のためのセッションを集めた「Game Career Seminar」が開催された。

 GDCでは講演と同時に別に企業がブースを出すエキスポが開催されるが、Blizzard EntertainmentやUBIsoft、Sony Computer Entertainment Americaなどのゲームメーカーブースにいくと、リクルーターが行列を作っているのを目にする。彼らは、自分の作品や活動記録をファイリングしたポートフォリオを見てもらおうと、スケッチブックやノートPCを携えて担当者と面接をしていた。

 セミナーでは就職活動の方法やポートフォリオの上手な作り方をアドバイスするセッションや、ゲームデザイナーとのディスカッション、インディーズの活動報告など、プロの世界に足を踏み込むための方法が色々な角度から紹介された。このレポートでは終日行なわれたセミナーの中で得た、アメリカのゲーム業界就職方法を紹介したい。


GDCのエキスポブースで行なわれていた面談。ポートフォリオを抱えた学生が行列を作っていた



■ 就職への最初のステップは、名刺やレジュメを作って顔を売りこむこと

WB Gamesのデザインディレクター、Christian Allen氏

 「Tips for Networking with the Pros」ではWB Gamesのデザインディレクター、Christian Allen氏が大企業から小さなスタジオまで色々な会社で働いた経験を通して、ゲーム業界への就職活動へのヒントを語った。

 Allen氏によれば、ゲーム業界はタイトで狭く、人脈のネットワークが発達している。就職活動にはこのネットワークを上手く活用すべきだという。例えば多くの業界人が集まるGDCはもちろん、ゲーム開発者協会(IGDA)や、シアトルで行なわれている「Industry Night」というゲーム開発者が集まるパーティ、LinedIn、小さなイベントやエキスポの後に行なわれる集まりなどだ。格式ばった大きなパーティーではなく、小規模なパーティーできっかけを作り、次のステップにつなげていく。「ここで言うネットワークはXbox LIVEやFacebookの友達ネットワークとは違います」といかにも学生向けらしいアドバイスもあった。

 多くの志望者の中から抜きんでるために、というトピックスでは「やるべきこと」と「やってはいけないこと」が紹介された。やるべきことは次の5つ。

・自分を鍛えて、ズルくなれ
・名刺を作れ
・レジュメが重要
・ウェブサイトを持て
・相手を調べろ

 「名刺には連絡先を書いて、渡した後はちゃんと自分はどういう人間なのかを説明しましょう」、「話をしただけでは忘れてしまうのでレジュメを作って渡しましょう」といった、自分をアピールするための方法が主だ。相手を調べろという項目では、「面接で先方の作っているゲームの名前を間違えたら、その場でバイバイになりますよ」と注意していた。また「やってはいけないこと」では、のろのろしない、うるさがられるようなことはしてはいけない、面接などで他人や人のゲームについて話さないという3つを指摘した。

 就職活動で最も重要なのは、名刺やネットで相手とコンタクトを取ることに成功した後のフォローアップだ。せっかくコンタクトを取っても、フォローアップしなければ何も起こらない。質疑応答では「まだお酒もたばこもダメな年ですがどうすればいいですか?」といった質問も出ていた。ちなみに答えは「OKになってから頑張ってください(笑)」だった。「どこの募集にも5年以上の経験が必要と書いてあるのだが、どこで経験を積めばいいんですか?」という日本でも耳にするような質問もあった。この質問にはAllen氏も答えに困って「色々な経験を積んでそれをレジュメに書くといい」と答えていた。


【スライド】
ゲーム業界への就職活動のコツは、何よりも人脈作り



■ アーティスト志望向けポートフォリオ作成講座

左からGreg Foertsch氏(Firaxis Games)、Shawn Robertson氏(Irrational Games)、Justin Thavirat氏(Blizzard Entertainment)、Wyeth Johnson氏(Epic Games)、Jeremy Bennett氏(Valve)

 ポートフォリオについてのディスカッション「Killer Portfolio or Portfolio Killer: Advice from Industry Artists」はパネルディスカッションとワークショップの2部構成で行なわれた。Wyeth Johnson氏(Epic Games)、Shawn Robertson氏(Irrational Games)、Alison Kelly氏(Consultant)、Greg Foertsch氏(Firaxis Games)、Justin Thavirat氏(Blizzard Entertainment)、Jeremy Bennett氏(Valve)の5人がポートフォリオについて論じたあと、学生が持参したポートフォリオを見て意見を述べた。

 ディスカッションでは主に各種アーティスト職志望について、実体験を踏まえてポートフォリオやホームページの作り方、面接での態度などについ選考する側からみた注意点を挙げた。ガムを噛みながら面接を受けてはいけないといったごく基本的な話や、父親を殺すシーンばかりの不気味なポートフォリオを持って来られて困ったという話などが出ていた。

 このディスカッションでは、ポートフォリオやウェブサイトを作る場合の注意事項をまとめた資料が配布された。この資料にも、例えば画像が出るまでに時間がかかったり、イライラさせるような音楽が流れるようなホームページを作ってはいけないとか、色々なブラウザで動くようにしよう、といったごく基本的なことがまとめられていた。フィルターではじかれるのでe-mailで50MBのzipデータを送ってはいけないなどちょっと笑える注意事項もあった。


【ポートフォリオの例】
ポートフォリオの例。ポートフォリオが必要な職には、コンセプトアーティスト、環境モデラー、キャラクターモデラー、レベルビルダー、アニメーター、FXアーティスト、ユーザーインターフェイスアーティスト、テクニカルアーティストなどがある




■ 大切なのはコミュニケーション能力とプレゼン能力

 基調講演の「From Student to Start Up: Case Studies」は学生のうちからゲームを作り始める活動をSchell GamesのJesse Schell氏がケーススタディとして紹介した。 Schell氏はカーネギーメロン大学エンターテイメントテクノロジーセンター(ETC)のスタッフでもある。ETCは1998年にカーネギーメロン大学のコンピュータサイエンス学部と芸術学部が共同で設立した研究施設。2008年に大阪市に誘致されて、日本にもサテライトオフィスを持っている。セッションではケーススタディとして、学生が始めたシリアスゲームの成功例や、シューティングゲームの失敗例などが紹介された。


ETCの学生が行なったプロジェクトの中で成功例や失敗例を取り上げて説明した

左から、Chris Charla氏(Microsoft Game Studios)、Cliff Bleszinski氏(Epic Games)、Brian Reynolds氏(Zynga)、Robin Hunicke氏(thatgamecompany)、Clint Hocking氏(LucasArts)

 「XBLIG Success Stories - How to Make the Best of Microsoft's Self-publishing Service」は、Xbox LIVE インディーズゲーム(XBLIG)でゲームを開発している5人のインディーズ開発者が開発の苦労などを話し合うパネルディスカッション。会社員や学校の先生をしながらゲームを開発する苦労を話し合った。

 「From College to Industry: 20 Lessons for Getting the Most out of Your Early Career」はFire Hose GamesのプログラマーJeff Ward氏が、独立系のスタジオを作るコツを話した。ゲームはゲームデザイナーと、プログラマー、グラフィックデザイナーの3人がいれば作れるが、スタジオを作るためにはビジネスを担当する人間を入れて最低5人は必要になる、といった実体験を踏まえた話が聞けた。

 「Breaking into AAA Game development: Ask the Pros」はClint Hocking氏(LucasArts)、Brian Reynolds(Zynga)、Chris Charla氏(Microsoft Game Studios)、Cliff Bleszinski氏(Epic Games)、Robin Hunicke氏(thatgamecompany)という大手ゲームメーカーのベテランが、学生からの質問に答えた。

 多くの講演で強調されたのは、人間関係を作ることが大事ということと、プレゼンテーションの能力を身につけろということの2つ。単純に面白いゲームを作りたいだけならインディーズでどんどんゲームを作ればいいわけで、会社に入るならばそこにプラスしてコミュニケーション能力が求められるというわけだ。Ward氏のセッションの際「ゲームデザイナーになりたい人は?」という質問には、会場の大部分が手を挙げたのに、「この中でゲームを1本でも完成させたことがある人?」と会場に問いかけたが、手が挙がったのはちらほらということがあった。いつか有名なゲームデザイナーになって大作ゲームを作りたいという夢を抱く姿は、日本もアメリカもあまり変わらない様子だ。


XNAでXbox360用インディーズゲームを開発している人たちのセッション。左からBrandon Sheffield氏(Game Developer Magazine)、Nathan Fouts氏 (Mommy's Best Games, Inc.)、Robert Boyd氏(Zeboyd Games)、Ian Stocker氏(MagicalTimeBean)、James Silva氏(Ska Studios)Fire Hose GamesのプログラマーJeff Ward氏


(2011年 3月 7日)

[Reported by 石井聡]