CESA Developers Conference 2010(CEDEC 2010)レポート
ディー・エヌ・エー、南場社長が語るゲームプラットフォームの未来像
ガラパゴス化は実はとてつもないアドバンテージだった?
ガラパゴス化は実はとてつもないアドバンテージだった?
ソーシャルゲームに関するセッションが目立つ今回の「CEDEC2010」。1日目に行なわれた「モバゲータウン」を運営する株式会社ディー・エヌ・エー(DeNA)の代表取締役社長兼CEO 南場智子氏による講演は、非常に注目度の高いセッションとなった。
「ゲームプラットフォームの未来」と題されたこのセッションでは、南場氏が携帯ゲーム市場の現状と今後について「なぜガラパゴスと言われるのか?」、「ゲームプラットフォームのこれから」、「DeNAの事業ビジョン」という3つのトピックスに分けて語った。ネガティブな話が多くなりがちな昨今、未来志向で高揚感のある講演となった。
また講演に先だって、今回ディー・エヌ・エーだけが挑戦を受けたという「三日でゲームを作ってみる」という企画のテーマを選ぶ抽選を行なった。来場者から集めたテーマの中から南場社長が引いたのは、プラットフォーム3社がお金で社員を奪い合いながら売り上げをのばす「プラットフォームウォーズ(仮)」といういかにも業界人らしいユーモアが効いたネタ。このゲームが無事完成するかどうかは、別のレポートで報告したい。
■ 日本の携帯サービス事業者が海外市場に打って出ない本当の理由とは?
株式会社ディー・エヌ・エー代表取締役社長兼CEO 南場智子氏 |
1つめのトピックスは、日本の携帯電話市場がしばしば「ガラパゴス化した」と言われることについて、ガラパゴス化した本当の理由を分析するというものだ。日本の携帯電話市場は世界最大のページビューを持ち、さまざまなサービスを提供する会社が大きな市場を築いている。DeNAが独自に検証した調査報告によると、「これは世界的には相当珍しい市場環境です。ユーザーのモバイルへの没入ぶり、利用のインテンシブさが非常にユニークなモバイル大国を築いています」と南場氏は言う。
日本の携帯市場は1億人だが、世界には40億の市場がある。日本で成功した会社が、同じサービスを海外で展開しようと意気揚々と海外に進出していった。だがその試みはことごとく失敗している。その理由を南場氏は「40億だと思っていた世界の市場は、実際には1つ1つが極めて小さな市場だった」ことにある、と分析する。
世界にはたくさんの国があり、国によって言語と文化、法規制が違う。サービス事業者はそれぞれに対応したサービスを用意する必要がある。さらに日本よりもたくさんのキャリアが、サービス事業者とユーザーの間に入り、それぞれが独自に影響力を及ぼせるプラットフォーム作りに取り組んでいる。さらに日本との大きな違いとしてメーカーが、非常にアグレッシブにプラットフォームを提供しようとしているという部分を指摘した。
端末の世代差が日本よりも大きいのも課題となっている。「すべての大衆を補足しようとすると、スペックの低い端末を前提としたサービスしか展開できないという問題がありました」と南場氏。これらの問題は掛け算式に市場 を細分化させていき、1つのサービスで対象にできる市場が小さ過ぎるという事実が、海外を目指した事業者が 直面したボトルネックだった。つまりこれまでは「海外の市場が供給側がうまみを感じない市場構造だった」というのがサービス事業者から見た正直な本音だった。
だが2009年に大きな変化が起こる。iPhoneの登場が、そんな海外の市場構造にブレイクスルーを起こしたのだ。データを見ても、2008年から2009年にかけて携帯電話によるページビューが飛躍的に伸びている。「iPhoneは、国ごとの仕様の差をほとんど意識せずに事業展開をしています。キャリアの独自サービスを一切搭載せずに、すべてのサービスをコントロールするというスタンスでキャリアの差も感じさせません。オンラインでのOSアップデートで世代間の差も意識させないのです。これで細分化という問題を意識せずに、しっかりとしたサービスをするための土俵ができました」と南場氏はiPhoneの存在を歓迎する。
iPhoneに負けじと、GoogleのAndroidやNOKIAのovi、MicrosoftのWindows Marketplaceといったグローバルプレーヤーたちも同様のサービスを始めている。だがそれは、携帯電話時代の細分化とは違うと南場氏は語る。「グローバルプレーヤーの競争が、いずれはそれぞれが大きな存在感と規模を持つ3つか4つの市場を築いていくのではないか」と南場氏は考えている。スマートフォンの台頭が世界を「片手で数えられるくらいの巨大市場」にまとめ上げていく。そんな面白い時代が始まろうとしているというわけだ。
【スライド】 | ||
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携帯電話のページビューは日本が圧倒的 | 日本では、携帯電話からのインターネットアクセスは右肩上がり | だが、そんな日本のサービスは世界には通用しない |
理由は世界の市場が実はあまりにも細分化されていたため | 2009年にiPhoneがモバイル市場に革命を起こし、状況は変わりつつある | 携帯電話が抱えていた問題をiPhoneは独自のサービスで克服した |
■ 携帯サービス事業者から見た日本のゲーム市場の歪み
日本のゲーム市場では、プラットフォーマーとサードパーティーが目指す方向が違っている |
「私はゲーム開発をしたことがないし、ヘビーユーザーでもありませんでした。どちらかと言うと、ゲーム業界から距離をおいていた人間です」と言う南場氏。そんな氏の目からみたゲーム業界は、最も重要な担い手であるプラットフォーマーとサードパーティーが、真逆の方向を向いているように見えると言う。
プラットフォーマーは、それぞれが他のプラットフォームとの差別化をしようという、それ自体は大いに健全な志向を持っている。サードパーティーは逆にできるだけ効率的にそれぞれのプラットフォームに対応していきたいと考えているように見える、と南場氏は言う。
ゲーム市場は2000年以来成長が頭打ちになっている。プラットフォーマーとサードパーティーの方向性が一致し辛かったことがその背景にあるではないかと、南場社長は感じていた。そんな状況を、現在大きく伸びているソーシャルゲーム市場と比べてみると、携帯電話の市場にもいくつかのキャリアというプラットフォーマーがいて、そこにサービスを提供するサードパーティーがいるという構造は変わらない。そこに「モバゲータウン」のような簡易基盤が登場したことで、どんな携帯会社の端末を使っていてもお互いにコミュニケーションが取れる基盤が確立した。「私たちは緩衝材としての役割を果たしていると意識してやってきています」と南場社長は言う。
そしてこれからは「日本も間違いなくその波にのまれ、波に乗っていきます」というスマートフォンの時代が来る。南場氏は、その新時代にもクロスデバイスのプラットフォームが活躍することになると考えている。将来スマートフォン市場はいくつかの巨大な市場へと集約されていくことになるだろうが、DeNAのような会社が、サードパーティーがその巨大なプ ラットフォーム群に対応していくための手助けをすることになるだろうと言う。
スタンドアロンのゲームから、大勢の人が助けあい、チームを作って遊ぶソーシャルゲームへの変化は不可逆であると南場氏は考えている。デバイスフリー、OSフリーの時代、ユーザーに対して環境の違いを意識させることない環境を提供できるプラットフォームが、将来あるべき姿となっていくだろう。
【スライド】 | ||
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日本のゲーム市場は2000年から横ばい状態が続いている | モバゲータウンが、プラットフォームの差を埋める緩衝材の役割を果たす | スマートフォン時代にも、同じようなクロスデバイスのプラットフォームが必要とされるだろうと予測する |
■ 世界のリーダーシップを取れる多国籍な企業を日本から生み出す
スマートフォンが生み出した市場のうねりは、日本にも大きなチャンスをもたらす |
アメリカ人の方が日本人よりも携帯小説を書く比率が高かった。この数字が、日米に対するステレオタイプを変えさせる |
これまでに説明した、2つの大きな時代のうねり。1つはスマートフォンの台頭によって、世界の携帯電話市場が巨大市場に向かって集約を始めたこと。もう1つはプラットフォームを意識せずに、誰とでも遊べるプラットフォームが求められていること。この2つから南場氏が導き出した答えは、「ハードのOSメーカーから、上位のクロスプラットフォームへのパワーシフトが起こるのではないか」ということだ。そしてDeNAはそこを新たな戦場にしようとしている。
南場氏は「8%:4%」という数字を提示して、意外な発見について話した。これはDeNAがアメリカでWAPという携帯電話に向けてモバゲータウンと同様の小規模なサービスを展開した際、アメリカ人の全ユーザーの中で携帯小説を親指で書いている人が8%もいたことに驚いたという逸話だ。携帯小説はいかにも日本的なサービスと思われがちだが、モバゲータウンの全ユーザーの中で携帯小説を書くのはピーク時でも4%だったが、意外にも北米ではその倍の数字を記録したというのだ。
「クリエイティビリティを発揮したい、それを多くの人に見てもらいたい、できればフィードバックをもらいたいという気持ちは日本だけではないので す」。そして、「世界に同じ志向があるなら、モバイル環境が進んだ日本のプレーヤーこそが、モバイルデバイスユーザーの根本的なニーズを引き出す方法を一番良く知っているのではないか」と南場氏。つまり日本のガラパゴス化は、実はアドバンテージなのだ。
今後、スマートフォンという黒船が日本の国境を大きく開き、日本の市場に目を付けた海外勢が続々と入ってくる。そんな時代に受け身になるのではなく、「私たちこそがモバイルで一歩進んだ経験を持っている。携帯電話とスマートフォンのテクノロジーの違いは、大きな差ではありません。それよりも、ハンドセットを持った時に、人間がいったい何をしたいと思うのかを我々は先んじて知っているはずなのです」と。
そして南場氏の夢は、この30年ほどに起業した若い会社のなかから、世界に対してリーダーシップを持つ企業を育てること。日本人は愚かではないが、シリコンバレーに追いついていない部分もある。最も大きな違いは、意思決定の迅速さだ。「日本の大企業が6カ月かけるところを、シリコンバレーでは6時間で決める。それがシリコンバレーのスタートアップです」と南場氏。
さらに、アメリカの企業であったとしても、スタートアップのメンバーが全員アメリカ人であることは極めて少なく、インド人や中国人、シンガポール人といったメンバーと当たり前のように多国籍なチームが作られるという。そしてDeNAが海外に出る時にも当然、同じように多国籍のチームが作る日本企業として挑むことになる。
「私はすごく愛国心が強いですが、閉じられた日の丸ではなく、オープンな日の丸を上げていきたいと思っています」と南場氏。そして、来場者へもぜひ一緒にグローバル市場への挑戦をして欲しいと、熱く呼びかけた。
http://www.cesa.or.jp/
□「CESA Developers Conference 2010(CEDEC 2010)」のホームページ
http://cedec.cesa.or.jp/
(2010年 9月 2日)